2009年10月30日金曜日

ケインジアンが操るフリードマン主義

最近保守派の論客の間で使われる言葉に「ケインジアン'sフリードマン」と言うモノがある。まずオバマ政権の発足と同時にケインジアンの復活が話題となった。そしてその通り財政が出動する一方、FEDの異常なマネタリー政策は拡大したままだった。それが金融危機対応という特例だったとしても、本来は瞬間的な流動性の過剰はソレが破裂し痛みを伴う事でリスクへの警戒が働く。そもそもソレがフリードマンの唱えた市場主義の原理だった。だがケインジアンの現政権がフリードマン主義が中途半端に残る市場に直接介入する事でそれぞれの規律が欠落しているのが今の状態。それを彼等は「ケインジアン'sフリードマン」と表現している。

この保守派の分析は正しい。ただ米国がなぜこんな出鱈目をしているかは言うまでもない。それはこの国が貯金を持たないキリギリス国家だからだ。ここでは「リフレ」を起こして資産価格を上げるしか手段が無い。だが資本主義のどちらのモデルの規律も存在しない今の状態が続くはずがなく、彼等はこのままでは大恐慌の再来は避けられないとしている。

個人的にはケインジアンでもフリードマンでもどちらでもよい。問題はそのモデルを使う人間の質である。その意味では米国の資本主義は共産主義という「敵」が存在した時までが米国人の質も高く一番機能したのではないか。だがその敵がいなくなると使う側の人間のモラルが低下した。簡単に言うと米国人が劣化したのだ。ところが共和党も民主党も米国人は自分たちが劣化したとは言わない。原因を他に探し、本質から目をそらしている。この米国の思考が実は厄介なのだ。

いずれにしても、事が起これば米国が主導した資本主義は一旦終焉すると昔から主張して来たのはご存じの通り。ただ米国も今はその修正を試みている。それが健康保険から金融規制まで、今こちらで話題となっている案件の本質である。だがケインジアンへの完全移行には保守派が反対を唱え、一方で格差の要因となったフリードマン主義は国民感情が許さない。結局は両方が混じり合った今の状態がまだまだ続くシナリオもあり得る。実はそれがオバマ政権と議会を支配し、「ケインジアン’Sフリードマン」の恩恵を最も受ける人々の狙いでもある。

この現状をみる限り、最後米国は大恐慌の再来でしか解決策がないという意見に同意せざるを得ない。だがその時はGREAT DEPRESSION(大恐慌)の再来ではない。恐らくは後世が「GREATER DEPRESSION」(大大恐慌) 或いは「THE GREATEST DEPRESSION」(究極の恐慌)と表現するモノになるだろう・・。











2009年10月29日木曜日

マクドナルドが去る国

一般の消費心理が冷えこむ中ですその野産業のマクドナルドを取り巻く環境にも変化が出ている。そもそも24時間営業も珍しくないマクドナルドで一番儲かる時間帯は朝。朝限定のメニューには低コストのモノが多くその利ザヤは利益全体の25%を占めてきた。ところが、最近はこれまで朝の出勤途中に立ち寄った労働者の足がパタリと止まったという(ロイター)。

労働者は朝マックに立ち寄るのを我慢し、ライバル各社が主戦場としてボリューム競争をしている昼以降に食いだめをしていると個人的には察するが、そんなマクドナルドにもう一つの変化が起こった。それは同社の歴史でも初となる一旦進出した外国からの撤退である。そしてその国はアイスランド。

同社はアイスランドに93年に進出。人口が少ない同国での店舗は首都のレイキャビック市内の3店舗に留めていたが、金融危機後後の同国経済のあまりの不振に今週末で完全撤退を決断した。

これまでマクドナルドと言えば世界経済が発展する中で自然と進出するだけの完全プラス思考の会社と考えてきた。だがそのマクドナルドでさえも撤退する事もある事を知った。ただアイスランド経済がそこまで深刻なのは個人的には朗報である。なぜなら没落するアメリカを脱出した後逃げ込む国として、寒さが気にならない自分としてはアイスランドは魅力的だ。温泉に入りながらオーロラを眺める究極の極楽がそこにはある・・。


2009年10月28日水曜日

仕事人の仕事

本日、全米銀行協会の会合があったシカゴでは反銀行のプラカードを持った2000人程度がデモ行進を行っていた。まだ大きな動きとは言えない。だが今週になって慌ただしくバーニーフランク議員が矢継ぎ早に銀行規制に傾いたところ見ると、中間選挙に向けての動きが既に始まったと見ていいだろう。実のところ昨年の金融危機ではどのようにウォール街の大手金融機関が助けられたかの詳細はまだ末端の市民はよくわかっていない。株が下がる中で民衆もパニックだった。そして金融機関の給料に対する民衆の不満が高まる中、具体的に政府と議会がドサクサの中でどのように金融機関を助けたかが映画や本などを通してこれから伝わって行く事になる。そんな中でさすがにバーニーだ。議員や政府が銀行だけを助けたとする民衆の怒りが自分に降りかかる危険を感じる本能は野生のタヌキ以上である・・。

ところで、時代劇好きの自分と違いこれまで時代劇をに興味を示さなかった妻が先週からこちらの日本語チャンネルで始まった時代劇を見始めた。何の番組を見ているかと思ったら「必殺仕事人2009」だった。彼女曰く「悪人が最後に殺されるとすっきりするという。」彼女はこれまで私の「今日の視点」に全く興味を示さなかった人。それどころかこちらが死にそうな時でもGAKTOの追っかけをしていた。しかし、学校やサッカーでの友人である周りの同世代の米国人には確実に変化が起きている。そして彼女にまで変化が起きた。終に我が家もそこまで追い込まれたか・・。

それはそれとして今日の別の話題はあのマードフと組んで悪事を働いていたと噂されるPICOWER氏がフロリダの豪邸の自宅のプールの底に沈んでいた事。彼は地元では慈善事業に精を出し昨年はマードフに預けた1000億円を失ってしまったと表明した。そして地元の人々からは大きな憐れみを受けていた。ところが調べが進む内に明らかになったのは、彼は娘の名前でもマードフに資金を預けていた事。そしてそちらのファンドではファンドが消滅する前に5000億の運用利益をマードフから受け取っていたのである。

テレビ朝日の脚本なら、この様な人物は最後に藤田まこと演じる中村主水にぶすっと刺される。地元警察は心臓マヒとして事故で片付けたようだが米国にも「仕事人」がいても不思議は無い・・。






2009年10月23日金曜日

大統領令の乱発

本日遂にオバマ政権は「大統領令」(EXECUTIVE ORDER)として、政府からの救済資金が入っている金融機関に対し、役員のサラリーカットを要求した。ただしこの大統領令の強制力は曖昧だ。他の法律との関連を含め、時間が立たないと結果は見えない。そんな中で判明したのはオバマは過去の大統領とは比較にならないペースでこの大統領令を発令をしている事。WIKIで調べると、ニクソンから親父ブッシュまでの大統領が任期中に発令した大統領令の数は概ね5以下。それがクリントンで10に増え、イラク戦争に突入したブッシュになって60と急増した。ところがオバマは政権は既に17の大統領令を発令していた。

恐らくこの事が語るのは米国社会の変化だろう。そもそも法律は完全ではない。そんな中で皆が何かを我慢した戦時中ならともかく、冷戦後の米国社会ではグレーをいかに突くかという感覚で多くの民事裁判が争わた事は言うまでもない。またその時代に生まれたおびただしい弁護士の数。近年は誰の為の裁判なのかが判らない時代になっていた。そして社会がここまで変化した後、民主主義のもとで大統領も法律に従う以上は簡単には社会は動かない。その結果、近年この様な大統領令が乱発されていると考えるのが自然ではないか。だがどんな命令も乱発すると権威が薄れる。このペースだと大統領の権威そのものに疑問符が付く可能性を感じる。

そしてそんな社会を反映しているのが今の政権構成である。丁度沖縄問題で来日中のゲーツ国防長官は例外として良いサンプルである。ブッシュ政権からの唯一閣僚として再指名された彼は良くも悪くも前政権の特徴を引きつぎ表情や言葉に裏を感じさせない人だ。その結果「日本が約束を守らないなら沖縄を返さない・・」と、国際法上は意味不明、ただ心情的には米国の本音である事を素直に表現していた。

米国に「沖縄を返さない」などと言われて騒ぎにならない今の日本に対して言葉もない。まあそれはさておき日米会議で長官の隣に座ったルース新大使は真にオバマ政権が送った大使らしい特徴を備えている。彼は着任早々に広島の原爆跡地を訪問した。そしてそれに同行したNHKの番組の中で原爆の悲惨さを語るシーンで涙を流していた。だがシリコンバレーという激戦区で弁護士として辣腕を振るった人としては個人的には違和感を感じる。

ところで、過去の大統領令で今の米国が最も卑下している命令はフランクリンルーズベルトが日系と独系の米国人を強制収容所に移動させた命令との記述を偶然発見した。この背景は人権もさることながら、現在の米国と日独との関係も考慮しての事だろう。そして今、オバマ政権が日独に派遣した大使は共に人間の感情や法律を巧みに操るビジネスで百戦錬磨の経歴を持つ人々だ。ルース氏については前述したが、独大使のマフィー氏はゴールドマンで世界中のインベストバンキングの案件に携わった経歴を持つ。そしてルース氏が歴代の民主党大統領候補に深く関わる一方、フィリップ氏はGSを退職し、先の大統領選では民主党の選挙資金対策総室長を務めている。

要するに大統領令が強欲な金融機関にこの様な命令を出したとしてもこの政権はそのウォール街の金融関係者や弁護士等のデイールメーカーで成り立っていると言っても過言ではない。そしてこの命令を出したオバマ本人は近々ニューヨークへ出向き、そこで中間選挙に向けた民主党の資金集めのデイナーパーティーに出席するとの予定が発表された。そして一人2500ドルというそのパーティーの出席者は殆どが金融機関の関係者になるらしい・・。





2009年10月21日水曜日

バッタの最終戦争

今日のニュースからは遂にバッタ同士の最終戦争が始まった事が窺える。まず全米からカナダにまたがる最大の労働組合AFL-CIOがANTI-BANK(反銀行)キャンペーンを打ち出した。AFL-CIOに加盟している労働者は900万人。キャンペーンとは「反銀行」のプラカードを掲げて大行進するという内容である。この行進にどれだけの人が参加するかは未定。だがそんな事に関係なく民主党の大統領指名選挙で常にカギを握る強大な政治力のこの団体が反銀行キャンペーンに遂に乗りだしたという事が重要なのである。
ではなぜAFL-CIOは反銀行キャンペーンに出たか。それは今回の決算で銀行が一般の預金者に対してチャージした「OVERDRAWING」(残高以上にお金を引き出す)の手数料が大手銀行の収益中$4B(4千億円)もあったという事実に噛みついたのだ。ただこれは銀行に落ち度のある話ではない。そもそも預金者が簡単に「OVERDRAWING」する実態は小切手の習慣のない日本人には不思議な話かもしれない。だが米国では千円単位の買い物にも小切手を使うのが一般的な中、預金口座には預金がある人も「小切手口座」の残高を超えて小切手を切ってしまう事はよくある。その度銀行はぺナルティーをチャージするのだが今回AFL-CIOが代弁する怒りとはどうやらそれだけではない様子だ。

彼等の真の怒りはウォール街の高給に対して抑えきれなくなった怒りである。「OVERDRAWING」はそれを代弁をしているにすぎない。そしてもう一つの話題は本日発売になった本。この本のタイトルは「TOO BIG TO FAIL(大会社は潰さない)」である。作者はNTIMESの金融記者。彼は昨年の5月から米国政府が断行した金融機関の救済劇の裏話を十分な取材ともに公開したのである。そしてその内容からイメージが上がった人とイメージが下がった人がいる。報道から察するにイメージが上がったのはモルガンスタンレーのジョンマック会長。そしてイメージが下がったのは危機の最中に財務長官だったポールソンだろう。理由は傍からは政府間の救済劇の様相だった三菱によるモルガンスタンレーへの出資はジョンマック会長が自力で切り開いた最後の賭けだった事が明らかになった事。最終局面では心配して電話を掛けていたポールソン財務長やガイトナーNYFED長官(当時)を一切無視し、会長は必死になって電話の向こうの三菱関係者を説得したという。

そしてイメージが下がったのはポールソンとその出身母体であるゴールドマンサックス。そもそもポールソンと財務省は金融危機を乗り切る為に設立された70兆円の税金を使った緊急支援(TARP)を5月の段階で財務省内ではなく証券会社に原案の立案を外注していた。そしてゴールドマンはその5月の段階で危機の際には素早く証券から銀行になる方が有利である事を認識。その為の会議を態々モスクワで開いていたという。そしてなんとその会議に財務長官という公職にあったポールソンが参加していた事実が本によって紹介されている。そもそもポールソンはバンカメとメリルの合併を巡る議会証言でも事実と違う証言した事が最近明らかになったばかりだ。聖書に手をついて宣誓をする議会証言では意図して嘘をつくと罪になるが、彼はバーナンケFED議長と共に税金による政府支援を受けたバンカメがメリル買収の際にメリルに高額のボーナスを支払う約束があった事は一切知らなかったと証言した。だが先週バンカメからNY司法局に提出された証拠書類で同社が財務省とFRBにボーナスを支払う予定である事を事前に報告していた事が明らかになったのである。そして「銀行」になった事でFEDから最低金利で資金を調達したゴールドマンは回復期に膨大な利益を享受、その利益からは今年のボーナスが史上最高を更新すると言われている。また同社は大量の税金が投入されたまま資金回収のメドが立たないAIGに関し、GSはAIGとの契約はヘッジをしていたのでAIG救済とGSは無関係であると主張してきた。だが本ではAIGが倒産した場合の連鎖倒産を避ける為、事前にAIGを買収する画策をした事が紹介されている・・。

ただ個人的にはこの本のタイトルとなった「TOO BIG TO FAIL (大会社は潰さない)」は有益と考える。だが問題は救われた人々のその後マナーだ。その点ではバブル崩壊をいち早く経験した日本人からすれば、ウォール街の強欲も信じがたいが、預金残高を超えて平気で買い物をする米国の一般労働者にも同調できない。結局金融危機後の米国経済は「デイズニー経済」であり、元々その住人である少数で頭の良いバッタ(ウォール街)と大多数の弱いバッタ(AFL-CIO等の労働者)という構図に変化はない。ただマイケルムーアの映画や本日紹介した本が刺激剤となる中、前者に対して後者の怒りが遂に爆発したという事だろう。そしてこのケンカの勃発は株式市場に必ず影響する。これが春先に触れた株が下がる三要因の一つ「政災」である。だがバッタの結末はどうでもよい。本当の懸念は弱いバッタから選挙で絶大な支持を受けた一方で強いバッタから大口献金を受けたオバマとその政権がどうするかだ。来年にも中間選挙を控えた多くの議員はこれで反銀行政策に舵を切らざるを得ない。だが最後に政権が動かなければ何も変わらない。個人的にオバマの信義が試されるので注目しているが、その前に彼等が日本と言うアリに無心に来る事は明らかである・・。






2009年10月20日火曜日

若い力

昨年イリノイ州知事だったブラゴヤビッチ氏はオバマの後任の上院議員の指名に絡む賄賂の嫌疑で刑事被告人になった。警察に捕まり、刑務所で一日過ごした後で保釈金を払って出所、今は裁判を待つ身である。だがその逆風をアザケ笑う様に彼はその後も精力的にTV出演や講演会を続けている。そして、トランプが司会を務めるAPARENTICEシリーズへの出演が決まっていた。だがさすがにあまりにも調子に乗りすぎたのかもしれない。ILの司法当局は彼等の行動に対して遂に規制に動き始めた・・。

そもそも米国ではこの様な話は日常茶飯事。極悪人がその非道を本にして金儲けを図る事は多々ある。そんな風潮の中では先週コロラドで起こった6歳の子供が気球に乗ったまま飛ばされたという大騒ぎは、ソレが俳優の経験がある両親が画策した一家の売名行為だったとしても全く大した話ではない。逆にいえばそれだけこの国では人前でのパフォーマンスが要求されるという事だ。

そして人前でのパフォーマンスには演説などの真剣勝負もあれば、プロスポーツ選手が試合後にこたえるインタビューもその人間の価値(例えばCM契約)を決める重要な要素となる。その観点から米国の3大ネットワークに最近登場した二人の若い日本人が英語は未熟ながら通訳なしで堂々と質問に答えていたのは新鮮な印象を受けた。その二人とはゴルフのプレジデントカップの最終日に個人戦でベテランのケニーペリーに競り勝った石川君とフィギアスケートのグランプリシリーズで逆転優勝した織田選手である。

米国では日本人のスポーツ選手の知名度ではイチローや松井が突出している。だがこの二人が試合に絡んでの公式インタビューに英語で臨んでいる姿をいまだに見た事が無い。繰り返すが石川選手や小田選手の英語力は同世代の日本の若者と比べて特別に優れたものではなかった。だがそれにもかかわらずモノおじしなくなった日本の若者には素直に可能性を感じる。

しかし最後には日本人の良さとのバランスも重要だ。ブラゴヤビッチ前州知事や子供をだしに売名行為に興じるこちらの親と、そのような風潮がはびこる社会まで日本が真似をする必要は無い。



2009年10月16日金曜日

資本主義の士官学校

数年前、欧米金融機関が展開した法律のグレーの部分での攻防を見て、性善説で無防備な日本人が彼等に対抗するには既存の邦銀ではなく、経済ヤクザに変貌した山口組を合法化して彼等に立ち向かわせるしかないと考えた。そして本日録画しておいた先週のNHKクローズアップ現代「パテントトロール」を見て同じ感覚に襲われた。

番組を見逃がした人の為に簡単に概略を紹介すると、米国のALCACIAという会社は投資ファンド形態を持ち、数十人の規模の社員には法律の専門家から心理学者、更に俳優までも揃えている。そしてビジネスの形態は投資家から資金を集め、その資金で将来ヒットしそうな商品の特許に「似ている」特許を予め買っておく。そして実際にその商品が市場でヒットした頃を見計らい製造元に特許侵害の告訴上を送る。ただ「似ている」特許を根拠に「言いがかり」をしている事は承知しており、彼ら自身も資金にコストがかかる中で長期に渡る裁判を本気でする気は殆ど無い。狙いは製造元に心理的な負担を掛け、ぎりぎりのところで裁判費用よりもやや高い和解金を提示する。俳優や心理学者は示談に持ち込む道具の一つである。そして日本企業を狙う場合、周到にも一般から選ばれる陪審員が全米で最も「保守的」とされるテキサス州で裁判を起こすという。日本企業にとっては言いがかりと判っていても、不利なテキサスでの裁判には最低4年の準備と外国での裁判の特別費用が重い。番組ではセイコーエプソンがこの手口で10億円を苦々しくALCACIA社に払ってしまった経緯を取り上げていた・・。

この様なビジネスは80年代中旬に米国で発想が生まれ、2000年ごろから「金融ビジネス」として組織化されたという。まあ言ってみればこれも新しい資本主義の形態だ。面白い事にこの様な会社は米国だけでなく中国でも生まれ始めているという。ならば消費をする力を持った国が常にエッジを持っているという事だ。そしてそのエッジを持った国が法律を自由に操る事で収益が得られるという新時代の資本主義の本質が生きている事になる。ところでその資本主義に絡み一つ言葉を紹介する。

それは「WESTPOINT OF CAPITALISM」。WESTPOINTは言うまでもなく数々の大統領やマッカーサーを輩出した士官学校。ここは高校までの成績が優秀である事は当然で、国会議員の推薦が無ければ入試が受けられない。そして毎年1300人の精鋭が入学するものの卒業するのは1000人程度という真にIVリーグと同格か、それ以上に名誉を約束された名門中の名門である。そして「WESTPOINT OF CAPITALISM」を意訳するなら「資本主義の士官学校」となる。実は米国でこの称号が付けられているのがハーバードのMBAである。ただ「資本主義の士官学校」と言うのはあまりにも格好が良すぎる。なぜならここの卒業生が多数集まるWSは昨年大敗北を経験した。そして本来なら全員がそこで戦死するところを世界の金融システムの救済という名目で彼等は政府に助けられた。そして助けられた後に莫大な利益が生まれると今はその報酬の権利という保身に走っている。これが士官の姿か。

ところで日本の防衛大学は授業料を返還すれば自衛隊に行かなくてもよいと聞いた。だがWESTPOINTは卒業後に兵役の義務がありイラクでも若い卒業生が何人か戦死した。いずれにしても、グレーの部分を含めた法律の範囲でどうやって自分が利するか、或いはどうやって自分だけ助かるかを教えるのがハーバードのMBAとするなら、其処とWESTPOINTを同列にするのはあまりにも卒業生の戦死者に対して失礼ではないか。だが冒頭のパテントロールのビジネスがレーガン政権後に生まれた事からも然り、冷戦後の世界の戦場は金融のフィールドに移った事も事実だ。いずれマルクスに屈服するにせよ今は其処でどう戦うか。新政権下で「技術立国日本」の戦略が試されるだろう。




2009年10月15日木曜日

悪は善よりも正しい

前項の続きとして6012年という世界史感はオバマの理想の実現性を否定する。なぜなら歴史ではオバマ以上の立派な人もいただろう。だがその人々の存在で世界が変わったかは定かでない。寧ろ歴史の転換点では善よりも悪が強く正しかった例が多々ある。その事例の中でも金融に関わりながら現代を生きる我々に最も関係するのがJAMES USSERが英国に渡る前、英国がヨーロッパの2流だった頃現れた「ヘンリー8世と言う悪」が英国を変えた事ではないか。

彼については以前も述べた。6人の妻の内、二人を断頭台に送り、性欲の果てに梅毒で死んだとされるこの狂王は純粋なカトリックだった。だが、ローマ教皇を頂点とするカトリック支配の欧州の序列で英国はフランスやスペインより格下。そんな現状に不満を感じる中で彼は若い妻を欲した。そして彼はカトリックで禁止された離婚を断行。また国民を納得させる為にローマンカトリックに代わる独自の教会を樹立。それが今の英国国教会に繋がる。結果彼は同時代やや遅れて比叡山を焼き討ちした織田信長と同じく、政治を宗教から切り離し国王として宗教の上に立った。またスペインやフランスの国王が教会を保護する中、トマスクロムウェルを使いカトリック教会の財産を没収させ、それ英国王室の私財とした。結果高まった不満はクロムウェルに押し付け、彼を断頭台に送るとその潤沢な資金でフランスやスペインとの戦争を支えた。そして王の死後、当時はまだ大海を支配していたスペインが海賊を取締らない英国に怒り海軍を送ると、娘のエリザベスはその海賊を使ってスペインを迎え撃った。海賊に貴族のルールは無用。「赤壁」を彷彿させる船ごとの火責めという手段にスペインの無敵艦隊はあっけなく負けてしまった。

この様にヘンリー8世後の英国は異端や悪者を用いてローマンカトリックの権威という「旧態の善」を超えた。そして英国自身が新しい善(スタンダード)になり、いつの間にか英国紳士などという言葉が生まれた。ただここで興味深いのは「紳士」という言葉のイメージと英国の歴史との違いだ。「紳士」には約束やマナーを破らないというイメージがある。だが英国の歴史が示唆すのは英国は当時としてはルール違反だった「長篠の戦い」が最も得意だったという事になる。

余談だが、マナーという点で多くの日本人のイメージを直しておく。16世紀にメディチ家で生まれ、その後優雅を極めたブルボン王朝で完成したとされるテーブルマナー(ナイフとフォークの使い方)が英国に伝わったのはヨーロッパでもずっと後だ。従って史実に沿った映画やドキュメンタリーを見ると、その時代(チューダー王朝時代)まで英国では国王や貴族はテーブルで肉を手で千切って食べるシーンが多い。尚日本の高給ホテルなどが押し付けるテーブルマナーやナイフフォークのルールは実はこのフランスでの最後の姿を模倣した古典。こんなモノは英国から更に独立した野蛮な米国ではどんな高級レストランでも全く見ない。

そして英国が受け入れた「悪」で最も重要だった悪は言うまでもなく「金融」である。これはヘンリー8世後に宗教が多様化した事で、啓蒙に芽生えた新宗教やユダヤ人が知識と共に英国に集まった事が大きいと考える。JAMES USSERはまさにこの時代を生きた事になるが、ユダヤ人を追い出してしまったラテンの強国と、シェークスピアを輩出しながらユダヤ人の能力を利用する懐の深さを持った英国の違いは大きかった。

最後にヘンリー8世のもう一人の娘メアリー(長女でブラディーメアリーの語源)が行った弾圧(カソリック以外の宗教の弾圧)によってこのアメリカが産声を上げた事を触れておく。彼女は父ヘンリー8世がスペイン王室の母を裏切った事が許せず、父の死後(長男の死を経て)自分が女王になるや方針を旧態へと戻した。結果、父の時代に芽生えた新宗教の多くが弾圧され、その一部がメイフラワー号に乗って米国大陸を目指した。そしてこの精神が今の「共和党保守派」の理念に引き継がれた。しかし金融の支配が強まった英国の支配を嫌い独立を成し遂げた「建国の精神」は今や米国でマイナーな存在になりつつある。ただ米国がこのまま英国化したとしても6012年という「世界の年齢」から考えれば自然なのかもしれない・・。



2009年10月14日水曜日

6012歳の誕生日

一部の欧米人の間で長らく待ち望まれたラテン語の大作が近々英語として英国で出版されるという。本の題名は「ANNALS OF THE WORLD」。1600ページの大作らしいが作者は1650年代の英国国教会司教のJAMES USSERと言う人である。本の題名は直訳では「世界年史」とでも言うのが正しいかもしれない。そしてこの本を取り上げた理由はJAMES USSERが本の中で世界には誕生日があるとした点に注目したからである。その誕生日は紀元前4004年の10月23日。ならば今年の10月23日で世界は6012年の誕生日を迎える事になる。そこで明らかになっている内容の一部を紹介すると、聖書に軸を置きながらエデンの園やローマによるエルサレム支配など、聖書と関わりが深い話から、海賊によるジュリアスシーザー捕縛事件やアレキサンダー大王の海中探検など多岐に渡る模様。ウィキペディアのJAMES USSER記述には彼はアイルランド人司教でありながら母国から英国に渡ったとされ、その後述からは当時英国で起こっていた宗教の多様化による変動の過程でその知性を磨いた事が窺える。

では改めて6012歳を迎えた今の世界を米国から眺めてみると、まず本日の共和党広告には米国の国土の地図に安売りのタグが付いた記事がある。これはオバマ政権の政策への批判だ。共和党保守派にとってはドル安政策から中国との貿易協定に加え、アフガン問題、また核の無い世界への呼びかけまでもが「米国の安売り」にされてしまう。そんな中でオバマは来月日本に行く。だがその一方でホワイトハウスは11月にインドのシン首相を招いてオバマ政権としては初となる「STATE DINNER」を計画している。そもそも「STATE DINNER」は日本語では「公式晩餐会」と訳される事もあるが、米国には格下の「OFFICIAL DINNER」もあり、日本語での理解は難しい。小泉総理がブッシュに招かれた際の記事を見直すと「STATE DINNER」との表現もあれば「OFFICAIL DINNER」との表現もある。ただ写真や記事から判断すると、国力に関係なく、米国側が招いた国賓が対象である事が窺われる。そして政権発足後多くの国賓クラスが既に米国を訪れた中、インドのシン首相がこの名誉を授かるのはオバマ政権がいかにバランス重視かが判る。米中が接近する中、中国をライバルと考えるインド。またインドとパキスタンとの緊張は過去の話としてもアフガニスタンを抱えてパキスタンをより重視しなければならない米国にとってインドとの友好関係は重要な課題だ。だがあまりにもバランスばかりに気を取られると傍からはただの「八方美人」に見える事もある。

そして米国が平和への「八方美人」を演出する中、もし米国が「京都議定書」を見直すならば、減収が確実となるサウジは資金提供を要求すると言いだした。この発言は米国が協調での問題解決を試みる中「もたれ合い」に便乗する国の登場を感じさせる。そもそも今世界はブッシュの米国が終わった安堵の中だ。ただ結果的にその反動でオバマへの期待も大き過ぎる。だが現実との乖離をこのままにしてはオバマ政権も前に進む事は難しい事が早晩明らかになるだろう。そしてその強調ムードが終わる時が次に相場が大きく動く時である事に疑いはない・・。





2009年10月8日木曜日

心の強さ

昨晩こちらの日本語放送ではあるドキュメンタリー(NHKBS)が放送された。それはベトナム戦争で米軍が蒔いた枯葉剤(ダイオキシン)が親子三代に渡りベトナム人を苦しめている現状をリポートした番組だった。まず、枯葉剤が原因と思われる先天的異常の子供はこれまでに300万人になるという。そして300万という数字は太平洋戦争での日本人の総死者に匹敵する。だが原爆に関してはソレが戦争終結を早めたとの米国の見解に日本人でさえ一部は同意する中、ベトナムに関しては枯葉剤と同国の300万人の身体異常者の因果関係を米国は今だに公式見解として認めていない。

結局あのマイケルムーアでさえこの問題を取り上げるにはベトナムは遠くなりすぎたのかもしれない。ただ所詮「米国の正義」などはこんなものだ。障害を抱え今を生きる300万人のベトナム人に対し、米国は自らが世界にが掲げる人権のスタンダードすら提供できない。実はこの限界がアフガニスタンにも通じるこの国の限界である。だがそんな中でベトナム人はたくましい。朝鮮戦争の結果、敗戦直後から米国の加護の下に入り発展を遂げた日本と違い、戦争を仕掛けたわけでもないベトナムは一方的に攻撃された後は米国から特別な加護を受けないまま永らく貧しさに耐える時代が続いた。それでもベトナム人はイスラムのテロ行為の様な直情的反米行為に組織だって出る事は無かった。ここがベトナム(人)の凄さである。

このドキュメンタリーが伝えたものは、消えない米国への恨みをじっとこらえ、貧しさと戦いながらそれでも前向きに生きようとするベトナム人の「心の強さ」だ。先進国の金融機関はこれから発展するであろう国を統計学でしか計らない。だが第一次インドシナ戦争でフランスを撃退し、またベトナム戦争で米国に負けなかったべトナム人の強さは恨みはあっても安直なテロに走らないこの「心の強さ」からも窺える。自分なら国家として資源には乏しくとも、このベトナム人の「心の強さ」に投資したい。

そしてベトナムから40年、再びアフガニスタンで悲しい目をした男達の「心の力」を読み間違えた米国。今日でアフガン戦争は8年目の節目を迎える。2年前の視点でこの地区を魔峡とし、ビンラデインを大石内蔵助に見立てて米国という徳川幕府は赤穂浪士に勝てないだろうと予想した。どうやらその時が近づいている・・。






2009年10月7日水曜日

両刀使いの演出

長年夜のトークショーを続けているデービットレターマンという人がいる。彼は丁度「タモリ」の様な存在だ。その彼が先週自分の番組で不倫を告白した。彼は番組の女性スタッフと性的関係を持った事を番組の途中唐突に話し始めたのである。いつもの軽妙な口調。表情はまるで他人の話をしているかのようだった。そして懺悔なのか、話術なのか判らないままあまりにもさらりと話し切られたので会場を埋めた観客もどう反応していいか判らない。そんな不思議な雰囲気がテレビからも伝わった・・。

この一件の裏には脅迫があった。女性の男友達が彼女との関係をばらすと彼を脅したのだ。そしてレターマンは番組で自ら先に秘密を暴露する裏技に出た。結果その男はすんなりと告発された。その後の米国の反応を見るとレターマンを非難する声はそれ程でもない。謹慎後に新聞に家族への謝罪文を掲載したレターマン氏を褒める人はさすがにいない。だが今のところ番組を降板させられる程の責任問題にはなっていない・・。

これを見て思い出したのは研修生との不適切行為を国民に告白したクリントン大統領のテレビスピーチ。あの演出は見事だった。厳粛な大統領執務室の雰囲気の中で彼は顔を強張らせながらもしっかりとした口調で反省の弁を述べた。この時のクリントンの演出はその完璧さにおいてオバマの演説に完全に匹敵する。そしてコメデイアンという職業からの天性の話術。更にテレビと言う媒介の効果を知り尽くしたレターマンの演出も今のところ彼を守っている。

さてそもそも真実をどう見せるか。或いはその事実をどう国民に感じさせるかは演出だ。そしてこの国では裁判から大統領選挙まで全てが演出で決まると言ってもよい。そんな中でテロを題材にした歪んだ剛直さを売りモノにしたブッシュ共和党の演出に振り回された米国民は今のところこの種のスキャンダルの釈明(演出)には寛容だ。そしてこの種の演出が得意な人が今は圧倒的な実力者である。

まずビルクリントンは完全に復活した。復活どころか恐らく水面下での影響力は今はオバマより上だろう。そして民主党優勢の議会でもその演出力で異彩を放っている「男」がいる。それはバーニーフランク議員。彼を「男」としたのは彼が同性愛者である事を半ば公表しているからである。オバマ政権の発足時に「宦官政治の予感」というテーマで視点書いたがそれは彼をイメージしたモノだった。そしてどうやらその予感は当たった。

そしてここまで下院の金融委員会議長として圧倒的存在感を誇ってきた彼は、本日、回収したTARP資金を今度はフォークロジャーの危機に瀕し失業中という国民の救済に使う法案の提出を示唆した。まさにこの演出は亀井大臣のソレに近いかもしれない。だが亀井氏と決定的に違うのはバーニーは「両刀使い」である点だ。彼は下院の金融委員長として金融機関の報酬規制等の金融改革法案の推進者の立場。従ってここまで彼は庶民を代表して金融の非常識な高給への非案を展開していた。だが彼はその金融機関から最も献金を受けている3人の議員の一人である。要するに彼は庶民の味方を演出しつつ実は金融機関の味方でもあるという「両刀使い」である。

ただそれは彼が金融が地盤のマサチューセッツ出身なら当然。しかし同色のコネチカット出身のクリスドット上院金融委員長が次期選挙で落選の危機にある中、バーニーは国が救済をリードしたファニーメイの重役と同性愛関係にあるとのスキャンダルにさえもビクともしない(エコノミスト誌)。そして下院の共和党勢力の反発は上手くナンシーに押し付け、また議会証言では議長としてロンポールの糾弾からバーナンナンケやガイトナーを守りながら今日も彼はTARP資金の新たな使い道で庶民の味方として自分を演出する事に成功した。

前置きが長くなったが、結局デービットレターマンやビルクリントン、更には同性愛者の有力政治家が象徴するのは冷戦後の平和である。逆に言うと冷戦が終わり出番の無くなった共和党とその信義(正義)はあまりにも単純だったブッシュと共に葬り去られた。恐らくブッシュはローラ夫人との間で浮気もせず、またキリスト教の教義を守り良い意味では純粋だったのかもしれない。だがその純粋さはネオコンに支配されると無力だった。結果今の米国には新たに刷られた大量のドルとそこからのドル安を全く気にしない真に冷戦後の平和を象徴する市場の空気だけが残された。それも然り。なぜなら今の金融市場の参加者の半分以上は恐らく冷戦後の世代。だが相場にはMAJORITY(大勢)は必ず間違うという鉄則がある。ならばいつその平和の前提も終わる。ただそれでもドル安が続いた場合一体この国はどうなるのだろう・・。