2010年7月30日金曜日

堀の中の天国

現在米国では大人の100に一人が刑務所の中で過ごしているらしいが、この数字は統計を取り始めて以来一度も下落傾向になった事がない珍しい数値だという・・。(エコノミスト誌から。因みその比率は英国が600人に一人、ドイツが900人に一人、先進国で最も低い日本は1200人一人・・)。

そんな米国を嘆いていたら、NHKのニュースでは日本でも中高年の受刑者が刑期を終えても直ぐに刑務所に戻ってしまう実態を伝えていた。ただでさえ不景気で仕事がない巷。そこに中高年で刑務所帰りでは厳しいだろう。そんな社会に戻るより、食事が出て寝るところある刑務所は天国。つまり今の日本は、行き場を失った中高年にとっては「堀の中」が天国で、「堀の外」が地獄になってしまったと言う事なのかもしれない。

この様に、社会からモラルが減退していく様は成長がとまった先進国の共通の現象だ。通常この延長にある政策は何かのショックで国民全体を統率するか、そのまま救済主義国家として競争力を失うかのどちらか。いずれにしても日本は国民に貯金がある。だから追いつめられるのに時間がかかるだろう。

個人的にはその時間を使い、優秀な指導者がどちらでもない道筋を説くべきだと考えている。だが今のまま米国のヘッジに甘んじていれば、最後は神のご加護に頼るしかない・・。


http://research.stlouisfed.org/econ/bullard/pdf/SevenFacesFinalJul28.pdf



2010年7月28日水曜日

新目安箱の時代

今の時代どうやら「目安箱」は儲かる。先の金融改革法案には、SEC(証券取引委員会)に不正を密告した者が儲かる法案が盛り込まれた。これまでも不正の密告者には、SECはぺナルティーとして徴収した罰金の一部を報奨金として支払う事があったが、新法案は更に踏みん込んだ内容。

まず報奨金額が最大でぺナルティーの3割まで引き上げられた。そして驚くべき変化は、その密告者が不正に与していた場合でも、密告すれば報奨金は支払われる事になったのである。(減刑なるかどうかは別)

そして不正に与した例ではないが、新法案の事例は既にある。さるピーコットファンドのインサイダー取引では、告発された二人の内、マイクロソフトの社員でありながら別の被告のファンドマネージャーに会社の機密情報を漏らした被告の妻が、自宅の前夫のパソコンから証拠を盗み出してSECに提出した。

この妻は、親権を巡ってもめた離婚訴訟に勝った上に、見事1億円の報奨金を手にしたという・・。

欲持って欲を制す・・。目的に為には手段を選ばない米国。儒教国家の日本ではあり得ない新しいカネ儲けの手法である・・。






2010年7月27日火曜日

米国の衝撃 (顧客向けレターから)

先週バーナンケが本音を吐いた後、政府関係者は一生懸命にフォローをしている。昨日はガイトナーがあちこちに登場し、「米国は大丈夫だと」国民を鼓舞していた。バーナンケが勝つか、ガイトナーが勝つか。金曜日の引けには答えは出ているだろう。

ところで、米国がこのまま座してデフレ待つ事など絶対にないと言っているが、恐らく日本の投資家には伝わらないだろう。まあ実際に債券が売られ始めれば、なんとか民間の銀行は立ちまわれるとしても、外資系にはREAL MONEYとおだてられる日本の投資家のうろたえる姿が目に浮かぶ。

まあそれはそれで中間層がいなくなった米国で、その役割を日本に担わせるというのがこの国の基本政策である以上は仕方がないのかもしれない。そして丁度そこにある日本のデフレ信仰も米国にとっても都合のいい話。だがその顛末の最終責任は誰にあるのだろう。その時は残りの人生をかけてその責任を追及したい。

さて以下は先週のTHE BUSINESS INSIDERに掲載された内容だ。そこには米国の中間層がいかに空洞化したか、その実態を伝えている。エディターはMichael Snyder という人。大半は他でも書かれている内容と一致し、多くが自分の認識にも近い。そして、ここで描かれた金持ち層が、今はあの手この手で税金の負担から逃れる画策をしている。そんななかでもこの国の国債が最後まで盤石だと思う人には、最早このレターは役に立たないだろう・・。

• 83 percent of all U.S. stocks are in the hands of 1 percent of the people. (全体の83%の米国の株式は、1%の人に保有されている)
• 61 percent of Americans "always or usually" live paycheck to paycheck, which was up from 49 percent in 2008 and 43 percent in 2007.(60%のアメリカ人は普通預金に十分な貯金がなく、隔週の給料で生活費のほとんどを賄っている)
• 66 percent of the income growth between 2001 and 2007 went to the top 1% of all Americans.(2001年から2007年までの米国の所得伸びの総額の66%は人口の1%の人に集中した)
• 36 percent of Americans say that they don't contribute anything to retirement savings.(国民の3割は老後へ貯えをする余裕がない)
• A staggering 43 percent of Americans have less than $10,000 saved up for retirement.(そして貯えがある人でも、43%は100万円以下である)
• 24 percent of American workers say that they have postponed their planned retirement age in the past year.(労働者の24%はリタイアの時期を延期した)
• Over 1.4 million Americans filed for personal bankruptcy in 2009, which represented a 32 percent increase over 2008.(2009年は140万人が破産宣告を受け、それは2008年に比べて32%増である)
• Only the top 5 percent of U.S. households have earned enough additional income to match the rise in housing costs since 1975.(75年からの住宅ブームでは、価格の値上がりに準じて上がったローンや家賃に、労働賃金の上昇が追いついた人は全体の5%。つまり残りは信用レバレッジの拡大だった)
• For the first time in U.S. history, banks own a greater share of residential housing net worth in the United States than all individual Americans put together.(米国史上で初めて、ローンの支払いが滞り、競売などに向けて銀行が保有する住宅(価値)が、それ以外の住宅の総数(価値)を上回った)
• In 1950, the ratio of the average executive's paycheck to the average worker's paycheck was about 30 to 1. Since the year 2000, that ratio has exploded to between 300 to 500 to one.(1950年代に30対1だった経営者と労働者の賃金格差は、2000年以降300~500対1に拡大した)
• As of 2007, the bottom 80 percent of American households held about 7% of the liquid financial assets.(2007年の時点では、全米の流動資産全体の7%を全体の80%の米国の一般家庭が占めていた。つまり一旦危機に陥ると、一般家庭のキャッシュフローは急速に悪化する)
• The bottom 50 percent of income earners in the United States now collectively own less than 1 percent of the nation’s wealth.(米国民を上層下層に分けた場合、下層の50%が持つ富は、全体の1%にも満たない)
• Average Wall Street bonuses for 2009 were up 17 percent when compared with 2008.(金融危機直後の2009年ウォール街のボーナスは、2008年から2割弱も上がっていた)
• In the United States, the average federal worker now earns 60% MORE than the average worker in the private sector.(今米国では公務員の給料は民間の給料を6割も上回る)
• The top 1 percent of U.S. households own nearly twice as much of America's corporate wealth as they did just 15 years ago.(15年前に比べ、上位1%が持つ企業の総資産は2倍になった)
• In America today, the average time needed to find a job has risen to a record 35.2 weeks.(今米国で仕事を得るためにかかる職探しの期間は平均35週間である)
• More than 40 percent of Americans who actually are employed are now working in service jobs, which are often very low paying.(米国の就業者の4割は第3次産業である)
• or the first time in U.S. history, more than 40 million Americans are on food stamps, and the U.S. Department of Agriculture projects that number will go up to 43 million Americans in 2011.(米国の歴史で初めて4000万人の人が、食費券と呼ばれる貧困層を対象にした食料品援助サービスを受けている)
• This is what American workers now must compete against: in China a garment worker makes approximately 86 cents an hour and in Cambodia a garment worker makes approximately 22 cents an hour.(米国の繊維産業は、自給80円の中国、自給20円のカンボジアと競争をしなければならない)
• Approximately 21 percent of all children in the United States are living below the poverty line in 2010 - the highest rate in 20 years.(2010年、全体2割の子供は貧困層に属している)
• Despite the financial crisis, the number of millionaires in the United States rose a whopping 16 percent to 7.8 million in 2009.(金融危機があったにもかかわらず、2009年、米国の億万長者は16%も増加。780万人になった)
• The top 10 percent of Americans now earn around 50 percent of our national income.(上位10%が米国全体の所得50%を持っていく)




2010年7月24日土曜日

先送りの代償と目的優先の代償

本日金融市場にはいろんな話題があった。そして、結果として本日ほど米国と他の国の違いが鮮明になった日も珍しい。まず、5月のギリシャ発の欧州危機の際、悪影響を恐れた財務長官のガイトナーは、欧州の銀行にも米国が断行した「ストレステスト」と言われる金融機関の耐久力検査を行う事を各国に求めた。

そして要請を受けた欧州は、各国がそれぞれの国の銀行の体力検査を実施、本日がその結果発表の日だった。ところが、結果はテストそのものが米国からは物笑いものになってしまった。なぜなら、本来はストレスへの耐久力を図るべきこのテストで、敢えてそのストレスをかけなかったのである。

具体的には、そもそもギリシャ危機で話題になったのはソブリンと言われる欧州各国の国債の信用リスク。欧州の銀行はこの国債を大量に持ち合っている。だがこのテストでは、その商品に関しての厳密な評価は免除されたのである。つまりこれは、重い膵臓癌の患者の開腹手術をしたものの、膵臓には手をつけず、胃と腸を検査してそのまま閉じてしまった様なもの。そして胃腸は健康でした・・とのお墨付きをもらったに等しい。

これに比べると、米国のストレステストは患部を直接触ったとは言える。だが米国とてブラックジャックの様な手術はできなかった。そして輸血として大量の資金を注入した。それがFEDによる数々の救済とTARPと言われる70兆円の銀行への公的資金注入である。そして本日ニューヨークタイムスが報道したCITIなどのTARPを受けた金融機関の報酬のデタラメさは想像を絶する。何と救済を受けた銀行で、総額で2000億の不正な報酬が救済の最中に支払われたというのだ。

つまり米国はストレステストを敢行したものの、セットのはずの救済の細部では正義のかけらもなかった。それに比べれば、まだ欧州の方が個々の金融関係者に対して後の対応は厳しかった。

整理すると、状況に応じ、素早く目的を達成するためには何を優先させるか。その判断にも合理性を優先する米国と、社会の調和を尊重し、米国型の合理性だけの判断基準は受け入れられない欧州との文化の違いだろう。だがどう考えてもこの国の救済された金融関係者の巨額報酬はおかしい。

まあこの国では犯罪者でも、より大きな犯罪者を捕まえる目的で許される事がある。ソレは金賢姫元死刑囚を不快に感じる日本人には理解しがたい現状だろう。いずれにしてもこの国は目的を達成するためには何でもする。つまり、経済も、座してデフレを待つ・・という事は無い。




2010年7月23日金曜日

三種の神器 (顧客レターから)

昔から米国が超大国であり続ける最低条件は次の三つを考えてきた。①軍事力②食糧生産力③ゴールド・・。①と②は当然の事、ゴールドは万が一にもドルが基軸通貨としての価値を失った場合でも、混沌の中でゴールドを持っている国が勝つと考えたからだ。そして今のところこの3条件で米国は盤石だ。宇宙開発に停滞感があるものの、通常兵器の優位性の解説不要、食糧はグレートプレーンズがある。そしてゴールドは以前ファイナンシャルタイムス誌が紹介したように、埋蔵量まで含めると、世界のゴールドの70%は米国にある。(因みに原油等のエネルギーも、米国は無いわけではない)

だがこのままこのゴールドが高値を維持しているのは米国にとって厄介になった。それを確信したのは昨日のバーナンケの証言だ。正直者の彼は、米国経済が「これまでにない不透明感の中にある」という表現をした。そして、再び危機が襲ったら、FEDにはどんな手段が残されているのかと迫る議員に対し、バーナンケは言葉を濁した。その時の彼の顔は暗く、昨年の頂点と比べて別人だった。

端的に言うと、だからゴールドがここまで上がったのだ。救済で大量のマネーが再び生みだされが、実態経済は思う様に回復しない。だが、大量のマネーが生みだされた事と、FED自身の信義に対する評価でゴールドはここまで上がってしまった。そしてゴールドが上がると不安は増幅され、せっかくの大量のマネーも効果を発揮しない悪循環になった。言わばゴールドは悪循環の象徴なのだ。ならその象徴をやっつければ良い。つまりゴールドの値段を下げる。まずは其処からだ。

先週のエコノミスト誌にゴールドのバブル論が掲載れた。その時は違和感を感じたが、昨日のバーナンケを観て確信に変わった。これから米国はゴールドの価値を下げる方向で動く。まずはゴールドの値段を正当化している不安には根拠がない事をあちらこちらで訴える。では昨日のバーナンケはなんだ。逆の効果ではないか。その通り。だがだからゴールドは逆に反落する可能性が高い。それはダウの1000ドル説が出た途端に株が反転した事と同じ理屈だ。

またバーナンケ自身が暗かった事に日本の債券投資家が更に自信を深めているなら、一つだけ忠告しておく。バーナンケだけがこの国を動かしているのではない。この国は国家として何を端的にすべきか、毎日優秀な人間が策を練っている。その米国の対し、日本と同じ事が必ず起こると考えるのは、預金量云々の前に、日本の政治家とオバマが同じ能力だと考えているに等しい。(因みに日銀とFEDの個々は大差ないと考えているが)

ただ最後に、だからと言って個人的にこの国に持っている悲観論は全く変わらない事も指摘しておく。なぜなら三種の神器を持つこの国を倒す者は他国ではないからだ。つまりこの国を倒すのはこの国である。

これまでも紹介してきたように、誕生から250年を掛けて構築されたU.S.A.までのこの国の人間のエネルギーは、今、D.S.A.に向かって逆回転を始めた。ティーパーティー等は選挙に向けた演出にすぎず、本質はもっと醜い。ただ優秀なオバマ政権が世界中を掛け回って体裁を整えているのでまだ目立たないだけだ。そしてその実態が出た時が、再びゴールドが買われる時だろう・・。  (D.S.A. Disunited States of America)

2010年7月22日木曜日

タイクーンの憂い

今この国ではuncertainty(不透明感)と言う表現がブーム。ただ本日バーナンケまで言うとは思わなかった。そして何がどうuncertaintyなのか。答えはそれが非成長下の民主主義と言う事だ。(因みに日本は平和主義であって、ソレを民主主義と勘違いしているだけなので対象外)

まず政府関係者は米国経済が昔の様な自律回復力を持っていない事を知っている。何もしなければ住宅は底割れだ。だから国が力づくで経済を浮上させたい。ただ今この政権には敵が二人いる。一人は共和党。彼等は政府の救済政策をことごとくじゃまをする。そしてもう一人は緊縮に向かい始めた世界の風潮だ。

この状況の中、本来は国が纏まらなければない。ところが、中間層が衰えたこの国では、1%の富裕者層が80%の富を握り、一方で55%の国民は所得税を払わない。そして、金融危機で肝を冷やした金持ちは貧乏人のために税金を負担する事を嫌い、一方その金持ちの救済を目の当たりした庶民は、政府から更に救済を受けても何が悪いと開き直る。

いずれにしても、中間選挙は愛国心を忘れた者同士のぶつかり合い。これが65年前に日本を負かしたあのアメリカか。この国の歴史を日本人として眺めてきた立場から信じられない思い。そしてこの状況にも関わらず、これまで通り楽観論だけは健在である。

そんな中でこの状況を危惧するのは「普通の金持ちではない金持」だ。1%のこの国の金持ち層も、84年前後からこの国が金融国家としてGDPが急拡大する過程で生まれた金持ち層と、ビルゲイツやバフェットの様なタイクーン(TYCOON)とは分けて考える必要がある。

前者はウォール街の高給取りや、実業では株式オプションで潤った人々。恐らく彼等の資産は100億円~1000億円の層だろう。そしてこの層は一昨年の金融危機で影響を受けたはず。だがビルゲイツやバフェットが生活を切り詰めたという話は聞かない。つまり、普通の金持ちではない金持ちとは、ビルゲイツやバフェット、そして先週総額1兆円を超える全財産の寄付を約束したポールアレンなどを指す。

彼らが今になって他の金持ちに寄付を呼び掛けはじめたのは、この国がそれ相応の危機に瀕していると感じているからだろう。だがその危機感は普通の金持ちには伝わらない・・。

その昔この国はカーネギーいた。だがカーネギーの真似は簡単には出来ない。ならば明治の日本人の言葉を米国に送ろう。「金を残すのは下、事業を残すのは中、人を残すのは上・・後藤新平」






2010年7月21日水曜日

ブログの力 (顧客向けレター)

ブログの力は恐ろしい。昨日、先週BPが発表した海底写真は実写とは言えない証拠があると、John Aravosisと言う人がAMERICABLOGというサイトで告発した。するとあっという間にその話は広まり、BPは写真が「オリジナルではない」事を認めるハメになった。

BPは「オリジナルではない」と認める一方、FAKE(偽物)とは認めていない。だがBPは先週GSのニュースと歩調を合わせるように漏れが止まったと発表。株高を演出した。ところが昨日午後になってはまだ漏れがあると見解が後退した。

この後退とブログの告発の関連は未定、ただその顛末はワシントンポストも取り上げた(以下)。まあ本当に原油の流出が止まっているかは誰にも判らない。だがキャメロン首相とオバマの初会合もあり、「ソノ」方向で相場を盛り上げるのが国策なら、相場として逆らうのはまだ早いと言う事である・・。

<AMERICABLOG>

http://www.americablog.com/2010/07/bp-photoshops-fake-photo-of-command.html

<ワシントンポスト>

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/07/19/AR2010071905256.html






2010年7月20日火曜日

止まり木の倒壊

もうずいぶん前になるが、テレビ東京のモーニングサテライトで、週に一回程度、数分で米国金利の動向をコメントしていた事がある。当時はシカゴの取引所で日本人会員は私だけだった事もあり、興味本位で引き受けた。ただ数分で語れる内容は限られており、しばらくして事前収録の場合はテレビ映りの良い女性アシスタントにお願いし、私自身はFOMC当日などの「即答」を必要とするライブだけ出演した。

そして2006年ぐらいだっただろうか、短期金利は上昇を続け、FOMCでも景気の先行きに対する見方はインフレ警戒モードだった。だが既に株式市場は肌で感じる勢いはピークを過ぎ、そして触角をフルに使って感じる住宅市場は来るべき崩壊に向かって静かに準備をしていた。そんな中で株式市場関係者は短期金利を上げ続けるバーナンケの中央銀行に対して批判を始めた。

そんな最中、FOMCでの追加利上げを受けて、「一体どこまで短期金利は上がるのか」という質問が女性キャスターから飛んできた。「生」だったので、「7%ぐらいは行くだろう(実際は6%で打ち止め)」と言った後で、「今度この国が金利を引き下げる時は住宅市場の崩壊が始まっているはず。その時は利下げでは最早対応しきれず、市場原理は終わるかもしれない。だから、苦しくても、金利は少しずつ上げる必要がある」と本音を言ってしまった・・。

だが市場専門番組で言うにはあまりにも突拍子もないコメントだった。私の後には当時リーマンで金利アナリストとしては人気ナンバーワンだった米国人が控えていたが、おそらくは彼の順当な発言と比べても私のコメントは異常に感じられたのだろう。その後出演依頼は途絶えた。ただ、最後に付け加えたのは、日本は「債券の国」だが米国は「株の国」。つまり米国でお金が債券に流れる時は、お金が休んでいるに等しく、米国債市場は鳥が休憩するための「止まり木」であると補足しておいた。

それから5年、誰が正しかったかはもうどうでもよい。だが本日ブルーンバーグが伝えた最新の米債の入札動向は衝撃的だ。政府が統計を開始してから初めて2010年は入札に直接参加する人(DIRECT BID)の入札額がディーラーの入札額を上回っているという。

これは伝統的な日本の金融機関を含めた海外勢(INDIRECT BID)に加え、ミューチャルファンド(投資信託)米国内の投資家の株から債券への資金流入の地殻変動を意味する。そして先週は、ニューヨークタイムスが、企業年金の401プランは仕方がないとしても、2009年に傷ついたベービーブーマー世代は、他の資金をもう「絶対に株に戻さない・・」と言っている実例を紹介していた。

これらの話は「株の国」だった米国としては初めての現象だ。また5月のフラッシュクラッシュ(1000ドルの瞬間的な急落)は更にその硬直さに拍車を掛けている。結果、今の株式市場は空洞化が進み、PPPO(price plunge protect operationの略。 市場で噂の株式市場への介入)にせよ、システムトレードにせよ、人工的にに保ったインデックスの脆弱さはかえって浮き彫りになる展開が続いている。

この事からも当面は話題の日本勢による米国債投資は更に正当化されるだろう。だが、彼らがその前提とする「米国は日本と同じ運命になる・・」という考えは最後に必ず間違う。この主張はこの仕事を17年やっている自分のライフワークに等しい。そして、あのニコラスナシーブの予言である「ブラックスワン」が米国債市に現れた時、止まり木としての米債市場は倒壊する。(彼はブラックスワンは株式では無く米国債市場に突然現れると主張)

そして、ソレが現実となる前に、日本が自分の意思で米国との一蓮托生を選つもりかどうかをはっきりさせる必要がある。日本は米国のおかげでここまできたのは事実だ。よって政治的にその決断をするならそれはそれで仕方ない。だがもし金融機関が米国に対して無知のまま、最後その投資の失敗を国民に負担させるなら、それは許されない過ちである。

2010年7月16日金曜日

輸出の優等生

報道からは日本の梅雨は最早ジメジメなど言う代物ではなく、大型台風に匹敵するすざましい脅威であること感じる。それが温暖化によるものかの議論はどうでもよく、日本は日本列島大改造に匹敵する根本的な対応を迫られているのではないか。

ところで、NHKが流した濁流で横転した大型トラックと同じ光景が今日のシカゴにあった。「ミシガン通り」とよばれる目抜き通りはミシガン湖から1ブロック内側を南北に突き抜ける。そこにジョンハンコックなどの新旧の名だたる建物を従え、その美しさはシカゴ一だ。だが今朝のミシガン通りには、タクシーやトラックがひっくり返り、瓦礫の山はあちらこちらの状態。一体何があったのかというと、それは「トランスフォーマー3」の撮影の準備だった。

90年代の前半、ミシガン通り沿いの高層アパートに住んでいた頃、自分の部屋からブルースウイリス(マーキュリーライジング)やキアヌリーブス(チェーンリアクション)が真下で撮影をしているのを眺めた。そして最近は「バットマン」や「ウォンテッド」の大型のアクション映画の撮影でシカゴは舞台となった。その都度交通は遮断され、市民はそれなりの不便を強いられる。だがこの不便から得られる収益は大きい。

例えば撮影が長期に及んだバットマンや、冒頭で紹介したトランスフォーマー3の場合はわずか3日の撮影でシカゴ市は30億円の収益を得る。30億円と言えば文芸作品なら1作の製作費が丸々賄える金額。その金額を制作会社は市に支払う。ソレでも儲かるのがハリウッドの超娯楽大作映画である。

超娯楽大作と言えば、製作費が最低でも100億以上の作品を言う。近年はそんな作品が毎年10作前後制作され、その内数本は配給収益がメガヒットとなる500億を超える。そしてメイドインUSAの全ての「商品」で、海外でも確実に売れると計算できるモノ、は実はこのハリウッド映画しかないというのがエコノミスト誌の皮肉だ。つまりハリウッド映画は米国の輸出の優等生なのである。

そんな中で今の米国の金融市場は、政権の掲げる輸出型経済への転換を囃し、ドル安は株高につながると思われている。だが、ハリウッド映画のほかに、他国の消費者が他にどんなメイドインUSAを欲しがるのか。私にはせいぜいアップルの商品しか思いつかない。そして、エクソンやGEなど、米国を代表するグローバル企業はドル安の恩恵を受けると言われる一方、彼らは自身はできるだけ米国には税金を落とさないスキームにご執心。ならばドル安がもたらす恩恵とは本当はいか程のものだろうか。


愛国心のないゲーム

デューク大学とCFOマガジンが共同で行った調査によると、現在170兆円という膨大な手元流動性資金を持つ米国の大企業(金融を除く)は、その資金を使って雇用が拡大する新規事業に消極的であることが判明した。同調査では、では、いつになったら雇用を増やすのか質問したところ、事業が順調に推移したとしても、2012年からでないと雇用を増やさないという答えが圧倒的だったという。(ワシントンポスト)

順調でも2012年までは雇用を増やさない・・。この返答を聞いて、まずその理由を想像してほしい。ヒントはこのブログ。過去このブログでには、金融危機で真っ先に政府に救済された米国の大企業は、今その政府を足蹴にしていると紹介してきた。その根拠として、政府の掲げる新しい規制や増税案を大企業はロビーイスト使ってことごとく邪魔してきたからだ。そしてその究極的な反抗がこの返答である。

感のいい人は判るはず。つまり、大企業は2012年でこの政権は終わりにしたいのだ。だからその前に雇用を増やし、次の選挙て現政権を援護する事などはしないという意志表示がこの答えである。この実態を庶民を対象にした報道番組のMSNBCのキャスターは「経済的愛国心の欠如」と言ういう方で激怒している。

その怒りはオバマ政権の幹部も同じだろう。だがその政権は本日スキャンダルの渦中にあったゴールドマンサックスを、少しばかりの罰金で放免した。ここにこの政権の悩みがある。本当は金融をもっと叩き、大企業には税金をもっと負担させたい。だがソレそれをすれば株が下がる。何度言うが、この国は株価が全てだ。特に今は米国にとって死を意味するデフレの瀬戸際。だから彼らを責め立てて株を殺すわけにはいかない。そしてその政権のジレンマをいいことに、自分だけは高給をむさぼる人々・・。

結局この状況が新たな支持率の下落につながる悪循環だ。ただ大企業にも言い分はある。これまで政権は矢継ぎ早に様々な法案を出し、病み上がりの彼らを混乱させたのは事実。だがそれも本日で一段落した。金融改革法案が成立したのだ。まあこれで仕切り直しである。

いずれにしても米国庶民の苦境は今の株価が現わす水準よりもはるかに深刻。そう、今のこの国の株価は実体経済の鏡ではなく、ゲームの途中経過。そんな中でゴールドマンを潰している余裕はない。ゲームにプレーヤーを早く戻す方が大事である・・。



2010年7月15日木曜日

C.C.O (チーフ コンフィデンス オフィサー)

日本で民主党政権が誕生してそろそろ1年。いろんなゴタゴタがあったにせよ、参議院選の結果から感じるのは日本人の余裕の限界。50年続いた自民党政権が倒れた直後の民主党に日本国民は時間を与えなかった。まあ消費税への言及が決め手というならそれだけ庶民生活が苦しい表れだろう。

ただ「貧すれば鈍する」という言葉がある。その意味で真の日本のリーダーは、国内に同じ悩みを抱える米国の要望に振り回されて自滅するのではなく、日本人が相対的に幸せになるためにこれからは何が必要か。小泉政権後は国民自身がその価値感に迷いが見られる中?リーダーは確固たるアイディアで国民を導く必要がある。

ところが、消費税の税率にせよ、財政や金融の在り方にせよ、優秀と言われる民主党の中堅が出した提言はあまりにも欧米を意識したモノ。つまり周りの目を意識したモノだ。これは実際には本国の米国にさえ存在しなかった市場原理という幽霊に脅かされた結果であり、「導き」ではない。

まあチャべス大統領になれとは言わない。だがこの期に及んで欧米のスタンダードをそのまま総理が国民に投げては消化不良は起こる。

そして国民に余裕がないのは先進国と呼ばれた国々に共通の現象だ。そんな中で国と個人に預金がない米国では、政府は手っ取り早く株を上げようとしている。だが昨年来の規制強化と反金融、反大企業の風潮の中で、政府は国民の矛盾した要望に答えを見いだせない。

そこで米国を代表する大企業のGE社のイメルト会長は大統領のオバマに提言をした。彼は米国では大統領の仕事はC.C.O.「チーフ コンフィデンス オフィサー」であるとアドバイスしたのである。直訳するなら国民に自信を与える責任者・・。いかにもイメルト会長らしい表現だ。

そして昨日ワシントンポストはそのオバマへの最新の国民評価を載せた。オバマ個人への批判は少ない。だが国民の政権への失望感は大きく、この結果からこちらでも中間選挙で民主党の敗北は確定的だ。特に今回はオバマの名前が投票用紙にはない。即ち、失望はしたものの、まだカリズマ性があり、民主党の候補者には無党派層を投票所まで動員するに足るオバマ効果が期待できないのだ。こうなると固い組織票が見込める共和党が断然有利である。

この情勢を受けて早くもウォールストリートは共和党待望論を掲げた。共和党が議会を制すれば、減税が継続され、また株価の足かせになっている規制が再び緩むはずだという根拠だ。だがそれは先日ここで紹介したイリノイの運命と同じ事を米国がたどる事に直結する。オバマはその危険性をわかっている。だから本日、彼は何があっても規制強化は断行すると宣言した。

その正論とC.C.O.の役割の両立。最後はオバマが国民を導けるかどうかであろう。




2010年7月14日水曜日

相応しい最後

ニューヨークヤンキースのオーナーのスタインブレナー氏が本日亡くなった。心臓発作だという。7月4日に80歳の誕生を盛大に祝ったとのことなので、本人に「その気」は全くなかったと思われる。ただ彼のイメージには合う。理由は簡単だ。彼と、このままでは必ずくるであろうこの国の最後のイメージがダブるからだ。

そもそも彼がヤンキースを買収したのは1973年。当時の金で10億円に届かなかったという。それが今は1600億円。ざっと200倍の価値なった。ヤンキースの収益は盤石。だがスタインブレナー氏の給料も200億円を超えた。全てにおいてケタ違いである。それは、歴史の長さとファンの熱狂という意味ではヤンキースにそれほど劣らないカブスの昨年の買収が僅か300億円台だった事と比較しても異常な値段である。そこでこのヤンキースの価値の正当性を考えた。

1973年のダウ平均は850~900。米国のGDPは$430兆円だった。ならばダウは平均はざっと10倍。GDPは4倍弱になった。その中で価値が200倍になったものはウォール街の給料がある。つまり、ヤンキースの価値の膨張は、ニューヨークを中心とした米国の金融市場の膨張と同じ。いや、寧ろスタインブレナー氏はウォール街より早かったといえる。

そしてウォール街の給料がヘッドハンテイングで膨張する時代、ヤンキースは次に次に有力選手を獲得した。その際に使われた金額はMLBの給料を今の水準に引き上げた。だが人々を熱狂させる為、価値を維持する為に使われたのはステロイドだった・・。

そしてステロイドの運命がどうなるか。彼は最後にそのメッセージを残してくれたのではないかと考えている・・。



2010年7月13日火曜日

姥捨山

今日から米国は企業の第二四半期の決算発表のシーズンに入った。この期間は約一カ月半続くが、直近の2回のシリーズでは株は結果としては下落してしまった。1月期も4月期も、皮切りとなるアルミ大手のアルコアから金融の決算が出る前半株価は好調を維持した。ところが、1月はマサチューセッツの上院選挙で民主党候補が負けた事と、バーナンケの再任が危ぶまれて2月に急落。そして4月は突然GSの不祥事が発生して急落した。そんな中で今日のアルコアの結果はまずまず。だが同じパターンも十分ある。

さて、メリルで長く会長を務めたコマンスキー氏がCNBCに出ていた。2003年、不祥事で当時のスパイザーNY司法長官から、CITIのワイル会長、AIGのグリーンバーグ会長と同じく、唐突に引退の引導を渡された氏は、2008年「旧金融界の人」が中心となって立ち上げたプライベートバンクの発起人の一人という事で、実はまだ現役だった・・。

グリーンバーグ氏が80歳半ば、ワイル氏も80前後。その二人のより多少若いとはいえ、引退したはずの70歳のコマンスキー氏がまだ現役であると知り驚いた。そして改めて感じるのは人間の引き際である。

寿命が延び、健康ならば働いて何が悪い。その通りだ。だが政治やビジネスでは時に「姥捨山」も必要だ。その一方で、先進国の多くが成長路線への回帰を叫ぶ一方、殆どの国で高齢者の増加という現実を抱えている。その中で米国はまだ人口動態は若い。だがコマンスキー氏が現役の一方、有名大学を出ても仕事がない米国の若者の増加は、この国も同じ課題を抱えている事を示唆する。

そもそも成長の本質は新陳代謝と考えている。人間社会も同じはずだ。西部を開拓したこの国の発展では途中で大勢が死んだ。また最近の日本の2流政治家が口にする明治維新の英雄は大半が横死している。つまり、政治もビジネスでも、成長という言葉を盛んに言う人ほど、犠牲になる事も含め、実は自分だけはその本質から逃れているケースが多く見られる。

ところで、有名な「姥捨山」は信州の実家から眺める事ができる。そこに年老いた両親を残す立場からしても「姥捨山」は非現実的。ならば成長と福祉の両立などといった矛盾した約束より、カネとモノだけでは測れない、新しい成長のアイディアを模索したいと感じている・・。






2010年7月10日土曜日

責任感と国家の信用 (顧客向けレターから)

以前、映画一本の出演で優に10億を稼げるニコラスケイジがフォークロージャー(住宅の競売)をする話を紹介した。今日のNYTIMESの記事。「金持ち程、住宅ローンを投げ捨てる。」は、そんな金持ちが最も住宅ローンに対して無責任である実態が紹介されている。

彼等からすればフォークロジャーは「損切り」の感覚。自己破産とは違い、支払い能力がまだあるにもかかわらず、将来のインベストの為に資金を確保しておくことも可能だ。まあ昨日グリーンスパンも認めたように、今の米国の住宅市場は政府のサポートの上に存在する。そこではずるい奴が勝つ。よって真面目な人はこの国にもう住むべきではないということだろう。

ところでそんな米国をしり目にカナダの経済は強い。いくら米国の一人負けの様相とはいえ、地続きのカナダがそこまで活況なら、多少は米国も恩恵を受けるかもしれない。つまり米国の株式市場もドル安とのコンビで上昇相場を演出できるかもしれないと言う事だ。そのサンプルが昨年の復活劇。2009年3月、まずオバマ政権が方針を変え、5月には中国が復調した。

その中国とドル安を材料に米国の株式が上昇を開始したのはこの7月からだった。そんな中で本日はカナダとオーストラリアの経済の堅調さ、そして最悪期を脱した?欧州に、韓国の利上げの話まで聞こえてきた。これは昨年のシナリオの再現を画策していると思えなくもない。

この他力本願のシナリオが今年も上手くいくかどうかは判らない。ただもし自分が債券プレーヤーなら、米債の金利は絶対に上がらないと安心するより、この国の本質を知るがゆえ、寧ろ、自分で金利を上げられなくなった今の米債にしがみつく危険性をそろそろ感じるだろう。

現実的にみれば米国債の優位性は過去の栄光による流動性だけ。ただそれよりも、前述の金持ちの無責任な態度が最後はこの国の信用に与える影響は大きいだろう。その逆説的な例は身近にある。

成長論では否定されるが、見方を変えれば国民の責任感と、国家の信用が機能した結果が日本の国債市場だと考える。日本人の預金量が多いのは経済学だけの結果ではない。普通の日本人なら借金を踏み倒して平気な人はいない。だから皆で預金をした。ただこの国も昔はそうだった、だから米債は王者になったのだ。だが今ソレを言う人は誰もいない・・。





2010年7月9日金曜日

「老若男女」のドラッカー

エコノミスト誌は最新号で日本の新たなドラッカーブームを紹介している。目標に向かって皆で努力する環境をどう創るか。今回のブームでは、このドラッカーの定番を女子高生の「ミナミ」が甲子園を目指す球児の世話をするマネージャーの視点で描いた本が、日本の若い女性にバカ受けである現象を同誌は奇異な目で捉えている。

ざっくり言うと、老若男女を問わず、日本では皆がドラッカーを崇拝する事が、恐らくはデフレの一因だろう。そして、米国流のエコノミストとの意見とは違い、個人的にはソレはそれで良いと考えている。

ところで、今更ドラッカーの解説はしないが、彼の本質を語るに最も相応しい逸話が英文ウィキペディアの中で紹介されている。1934年、ケンブリッジ大学で、あのケインズの講義を聞いていた若き日のドラッカーは次の言葉を残した。「授業を聞くうちに、(ケインズ)教授を始め他の優秀な学生の全員が、経済学で重要なのは「モノとカネの動向」であると考えている事が判った。だが、当時から私は「人の動向」が一番大事だと確信していた・・。(“I suddenly realized that Keynes and all the brilliant economic students in the room were interested in the behavior of commodities,” Drucker wrote, “while I was interested in the behavior of people.”)

ドラッカーがGMやコカコーラなどの米国の大企業の顧問を務めていた頃、米国はモノを作っていた。だが、米国がモノ作りから金融国家に変貌する過程で、彼はこの国では徐々に過去の人となっていたのかもしれない。ソレを確信したのはまだ彼が健在だった2003年頃、彼が余生を過ごしていたクレアモント大学の職員で、学生を集めの営業を担当していた日系人の若者と知り合った時だ。彼は「ドラッカーの名前で学生が集まるのは日本だけです・・」と漏らしていた。

確かにその頃はハーバードを先頭にMBAが頂点を極めた時代。米国ではドラッカーが過去の人になっていたのは自然の成り行きだったのだろう。そして金融危機が関係しているかもしれない。日本では再びドラッカーのブーム、だが米国にその気配は全くない。そんな中でニューヨークタイムスが取り上げた、一流大学を出ても就職が出来ない米国の若者の惨状は深刻である。

この状況は全く大恐慌後と同じ。だが個人的には今の方が深刻だと考える、なぜなら当時の米国にはドラッカーが移民し、モノとカネだけではなく、企業はヒトとのバランスも重視し、世界経済を今日まで導いた時代が控えていた。ところが今はどうだ。この国は金をジャブジャブしてのギャンブル経済にしか最早活路がみいだせないではないか。

米国がこの問題を解決しようとすれば、恐らく「モノとカネ」だけで図る経済は縮小するだろう。結果、借金まみれの国とベービーブーマーは悲鳴を上げる。だが人は滅んでも国は残る。その方が未来の米国人には夢は残るだろう。




2010年7月7日水曜日

米国の未来像、イリノイ州

今年は財政難から独立記念日の花火をキャンセルする自治体が続出する中、シカゴ市内の大花大会はどうにか開催にこぎ着けた。だがシカゴの喧騒はそのまま。昨晩から今朝にかけてシカゴ市内では11件の発砲事件があり、二人が死んだ。そんな荒廃の市内西地区から30キロ程北に登ったところに私が住むPARK RIDGEはある。30キロと言えばせいぜい車で30分の距離だ。

ヒラリーの生家もあるこの街は平和、イリノイ州は、そんな平和な郊外の街と、全米でも最も危ない地区がそれほど離れていない地帯に隣接している。そして今、そのイリノイの郊外の平和な暮らしを守ってきた警察官や消防士、そして公立学校の教師らが今年に入ってバタバタとクビになっている。そのペースがあまりにも異常だと感じていたが、その原因がはっきりした。ズバリ、ここ数年の間にイリノイは米国の中で最もギリシャに近い存在になっていた。ここでは米国の欧州化の話をしてきたが、実は地元のイリノイが一番酷かったのは不覚だった。

では州の一人当りの財政規模はカリフォルニアやニューヨークよりはるかに小さいイリノイの州財政がここまで悪化した背景はなぜか。イリノイにはニューヨークの派手さやカリフォルニアの寛大さもないはずだ。それは国のほぼ中央に位置し、米国の縮図とも言える政治的バランスの上に発展したイリノイの運命だった。

そもそもイリノイは前述の風景の様に、民主党の基盤である大都市シカゴ市を共和党の地盤である保守的な郊外の街々が取り囲む、全米でもここだけしかない特徴を持っている。その構造はここから情報を発信する私には恵みだった。だがこの構造が今はこの州の弱点である。

具体的に見ると、2004年からの反ブッシュの動きの中、イリノイにもオバマに代表される民主党ブームが起こった。そこに登場したお騒がせ男のブラゴヤビッチ知事。彼は民主党が優位になった議会を背景に財政を悪化させた。特に赤信号が出ていた地方公務員の年金を、緊縮議論なしに金融ブームに乗じての大規模な起債の連発で先延ばししてしまった。

そこに金融の崩壊。結果、工作機械産業などの回復が遅れる中、ここはニューヨークの様に金融の復活で事態が好転する事はなかった。そして根底で影響したのが元々この州は共和党と民主党が拮抗していた事。つまり民主党が財政拡大政策を取り、その民主党に陰りが見えると、増税反対の共和党原理主義が復活してしまった。こうなうると、民主主義の結果が州財政には最悪の結果を招く。そしてコレが米国という国家が中間選挙後に迎えるであろうシナリオでもあるのだ。

そんなイリノイを横目に減税を叫ぶワシントンの共和党。彼等の頭の中には80年代に、財政赤字が急拡大する中敢えて減税に踏み切ったレーガノミックスの成功体験がある。だが今は80年代ではない。結果的に国民に自制を促し金融の膨張を制御していた冷戦構造も終わった。今はその後のクリントン・ブッシュ時代のユーフォリアと金融狂乱時代が崩壊したドサクサの時代である。ドサクサの時代、民主主義は機能しない。

一方で政府と一般庶民が困窮する中、ケインズ政策とFRBの低金利政策で手元の流動性が回復した大企業はその権益の防衛に必死だ。そこで増税を掲げる政府民主党への献金を止め、減税と規制緩和しか言わない共和党に鞍替えである。

みんな気付いていないが、(特に米国を客観的に分析していない日本は注意)、ここまで纏まりを欠く先進国家は実は米国だけではないか。その負担をいつまでも海外勢が黙って引き受けるとは思えない。

そういえば7月2日のニューヨークタイムスには、エリオットウェーブを駆使して市場の動きを予想する米国人スペシャリストが、5年後、米国のダウは1000を割っているだろうとの衝撃的予想を出した。ここでは2年前に可能性としてダウの1600を触れたが、彼の予想はそれさえも超える衝撃。彼によれば米国株式のエリオットウェーブでは300年に一回の大変化が起こっているという・・。




2010年7月3日土曜日

GREED IS "NO" GOOD 強欲は正しいの終焉

何を意図しているのか判らないが、今晩CNBCは1987年のアカデミー賞映画、ウォールストリートを流す。この映画ではマイケルダグラス本人も主演男優賞を決めた"GREED IS GOOD"のシーンは圧巻だ。そしてその続編は9月に封切される。オリバーストーン監督のコメントからは、新作ではかなりのウォールストリートへの批判が予想される。ただ今から振り返ると、この映画ほどタイムリーだった映画は珍しい。なぜなら、その後米国は、GREED IS GOOD (強欲は正しい)の時代を突走したからだ。

そんな中で金融危機原因究明委員会はどんな結論を出すのだろう。冷戦後という新時代、人間そのものの規律が緩む中、法制も同じ方向に進んだ。昨日はAIGのカッサーノ氏の言い分を紹介したが、そういえばコロンビア大学教授でノーベル経済学も受賞したボブマンデル教授は、2008年の金融危機の元凶として次の5人を挙げている。ビル クリントン、ベン バーナンケ、ヘンリー ポールソン ハンク グリーンバーグ、それと、ルイス ラニエリである。(元大統領、FRB議長、前財務長官、元AIG会長、元ソロモンブラザース重役)

未確認ながら教授がこの5人を選んだ理由は察しがつく。ポールソンとバーナンケは統治者、グリーンバーグはAIGを何でも飲み込むお化けに変えた独裁者。だがクリントンと最後のラニエリ氏に関してはイメージ湧かないかもしれない。恐らくクリントンは彼の時代にグラスステイーガル法を廃案にした事を言いたいのだろう。だが最後のラニエリ氏を選んだのは理由が判らない。彼は、言わずとしれたあのソロモンのモーゲージを立ち上げた張本人だ。そういえばNHKも金融危機の特集でソロモンのモーゲージ部門を取り上げていたが、個人的には彼の元凶論には同意できない。

ラニエリ氏は高卒でありながら相場観と並はずれた営業力であのソロモンの副会長までなった立志伝中の人。その時代のソロモンを紹介した有名なライアーズポーカーでの印象が強烈だった為か、評判は良くないが、所詮はAIGのカッサーノ氏と同じ立場である。それでもマンデル教授が彼を入れたのは教授がカナダ人である事も関係しているはず。現在カナダの住宅市場はリーマンショック以前の水準を更新している。元々カナダ人は堅実らしいが、カナダでは米国がサブプライムに浸っていた時も最低頭金の40%の条件は変えなかった。このカナダ人の目かすれば、住宅は「商品」にしてはならぬという信念が感じられる。それからすれば、そのモーゲージで画期的な証券を生み出した事は、実は幸福のへの近道では無かったという判断なのであろう。

一方「ライアーズポーカー」の著者であるマイケルルイス氏は、金融危機の検証で別の見方をしている。ルイス氏は、「ウォールストリート」の87年「ライアーズポーカー」の89年の頃に金融に入った我々の世代は皆が知っている一人。だがもう一度触れておくと、本来プリンストンで歴史を学び、芸術の世界を目指した彼は、純粋に金儲けの世界に興味を持ち当時のソロモンに入る。そしてロンドン大学のMBAで経済を学び直した際、王室主催のパーティーで同席したソロモン社員の夫妻の横柄な印象をその後も持ち続けながら、彼はそのソロモンでそこそこ成功した。その後ジャーナリストへ転出し、金融以外にも一昨年のアカデミー賞では複数の受賞を受けたBLIND SIDEなどを書いている。その彼が金融危機の本質に挙げたのは「パートナーシップの終焉」である。

実は銀行と証券が別れていた80年代前半まで、米国の証券会社(投資銀行)はパートナーシップ制度を引いていた。それを最初に「上場会社」に変えたのはソロモンブラザースである。ルイス氏はこの時からそれまでは従業員と一部の投資家の裁量の枠だけで勝負をしていた投資銀行が、TOO BIG TO FAILへの道を歩みだしたとしている。そういえば当時のソロモンの社長のグレンへンド氏はNHK特集にも出ていたが、番組では「我は知らん」という顔かをしていたのが印象深い。

いずれにしてもマイケルダグラスが俳優としてポリシーを曲げてまで続編の主役を引き受けた「ウォールストリートⅡ」の公開が楽しみだ。冒頭のシーンは既に紹介され、主役の彼が刑期を終えて刑務所を出る際、15年前に預けた初期の巨大な携帯電話を受け取るシーンはスートン流。株屋の息子として育ち、自分自身イエール大に入るまでは資本主義の道へ進むのが当然と考えていたというストーン監督がその資本主義の末路どう描くか、今から興味深い。今のこの国の雰囲気からは、その影響が前作以上になる可能性を感じる・・。




2010年7月2日金曜日

カッサーノ氏の悪事

昨日ワシントンではAIGの重役だったカッサーノ氏が、金融危機原因究明委員会の証人として呼ばれた。彼は有名なCDSという商品を買いまくり、300億円のボーナスとともに会社を去った。そしてリーンマンが倒産すると、AIGは彼が大量購入したCDSが致命傷となり崩壊した。

だがAIGへの債券(CDS)がそのまま債務不履行になると、第二、第三のリーマンが避けられないと言われた。そこで20兆円の血税出資と、FEDの救済パッケージでトータルでは70兆円という米国史上、いや世界史上でも恐らく最大の救済が行われたのである。だが張本人の彼は当局が「個人の責任は問わない」という判断をしたために雲がくれ。イギリスの片田舎でサイクリング三昧の後、2年を経て、終にワシントンに出廷した。

当然そこでは彼個人の責任を改めて追及する「つるしあげ」が予想された。だがそれは起きなかった。彼の反論に誰も反論しなかったのだ。彼は「私が最後まで会社に残っていれば、こんな膨大な金額をAIGが必要とする事は無かった」と反論したのである。

それはそうだ。どさくさの中、GS等のAIGの債権者の言いなりになったのは、ポールソン、バーナンケ、そしてガイトナーである。その結果が史上最大の雪だるま式AIGへの救済金額。この金額の全てをカッサーノの悪事の結果にされては彼も納得いかないだろう。つまり、金融危機でこの国は金融機関を焼け太りさせた。これが今のこの国の本質である。そしてそれがアメリカは昔の様なアメリカではなくなったという証拠なのだ。

そんな中で注目は、あの「大統領の陰謀」を暴露したワシントンポストでさえ、米国メディアの本流としての信義より、政権の片棒を担ぐだけの存在になる中、この国では「ローンリングストーン」等の新しいメディアが影響力を持ち始めた事。そしてマイケルムーアやオリバーストーンなど映画を通し、民衆が金融の実態を知る様になった。これは、この国が民主主義である以上、議員が金融救済とポピュリズムの折衷案を模索しても、先延ばししたツケはいずれは払わされると言う事である。それが資本主義の終わりであっても仕方が無い。今の相場のその重苦しい未来像を予兆している・・。