2012年7月26日木曜日

金融帝国を築いた男(マネー原理プロから)




いろいろな意味で、アメリカに来て一番テーマにした人は、サンデイワイル元CITIグループ会長だった。この人を直接観ることは無かったが、彼の側近が直接の上司だったこともあり、この人のことは詳しいつもりだった。だが今日は青天の霹靂。既に金融界に対する影響力はないとは言え、CNBCで「米国はグラススチィーガル法を復活させるべき・・」と語るワイル元会長からは、あのギラギラした迫力は完全に消え去っていた。まるで別人だった。そして90年代からの米国金融の大きな潮流が変ろうとしていることが、改めて...感じられた・・。

これにはCNBCの二人のホストも目が点だった。彼らはジャーナリストとして会長の豪腕を見てきた立場だ。映画にもなったメールボーイ(ベアスターン)からの大出世。90年代途中からGS買収を試み、それが無理だと判ると矛先をソロモンに変えた。既にその頃からグラススティーガル法の廃止に向け、議会工作を金融界を代表して推し進めた。そして正式にはまだ法律が廃止されていないにもかかわらず、リード会長を説き伏せてのCITIバンクとの大合併。この豪腕を前に、グラスステイーガル廃止を最終的にサインする立場だった当時のクリントン大統領、そして議会から見解を求められたグリーンスパン議長も異論を挟む余地はなかった・・。

この頃の会長にとって、金融大帝国構築(CITIグループ)に向かってゴロゴロと巨大が塊が突き進む過程で道端の石ころだったのが日興証券の買収だった。彼の桁違い野望の迫力は、チマチマとした日本のビジネス慣習しかしらない自分には衝撃だった。しかし実際にその組織を内面から眺めると、会長の野望のスピードに末端組織は全く追いついていない現状を目の当たりにした。恐らく、アレキサンダー大王やチンギスハーンの大行軍の末尾の兵隊も同じ心境だったのではないか・・。

ルービン元財務長官を抱き込み、単独会長就任にむけ、社外取締役工作の鍵を握るアームストロングATT会長を味方につけるため、自社のソロモンのアナリストにATT社の評価を水増しするように命令したとされるのはこの頃だ。ワイル会長の「一緒に引退し、後継者は社外から用いる」との約束を信じたCITIバンクのリード会長は、社外取締役会の決議で敗北した。ここ至る過程では、ジェイミーダイモンの人気を恐れる旧CITIバンクの役員をなだめるため、かわいがったジェイミーを切るという非情な決断。ワイル会長のCITIグループ単独会長の野望はここに完成した・・。

しかし帝国の崩壊は早かった。メリルリンチに端を発したアナリストの不正疑惑が、自社のソロモンまで波及した。同社通信アナリストのグラブマンは元ATT社員。ATTに冷遇されたことを根に持ち、ソロモンのアナリストに転職してからは、ライバルだったワールドコムを常に過剰評価していた実態が、同社の倒産で明らかになってしまった。彼は自分の罪を軽くしようと、ワイル会長からATT評価でプレッシャーを受けたことを、証拠を含めてNY司法長官のスパイザーに渡した。スパイザーはワイル会長に引退を迫った・・。

会長が引退してCITIは大きく変ったといわれる。ちょうどその直前に自分もCITIを辞めていたが、ワイル会長が健在のころは、同社は自己ポジションを膨らませる事は無かった。外からみれば、2004年からのサブプライムブームの中では、たとえワイル会長でもトレンドに巻き込まれただろうという観かたもある。だが自分はソレを信じない。なぜなら上司を通し、部下がワイル会長をどれほど恐れていたかを実感しているからだ。

後を受けた社内弁護士出身のプリンス会長は、現場にすべてを任してしまった。結果的にこの人選が、潮流変化での巨艦の舵取りで手遅れを招いたのだろう。

リーマンショックの直前、市場でのCITI株崩落の引き金を引いたのはメレディスウイットニー。今CNBCではワイル会長とメレデイスは二人並んで座っている。良くも悪くもこれがアメリカである。一方で、米国の金融は逆戻りするとの予想は正しい事に確信をもった・・


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