2012年12月6日木曜日

バナナ共和国ファンド




25年以上前、テレビで初めて中村勘九郎という人を観た。歌舞伎中継ではなく、一家の特集だったのだろう、初舞台を前にした長男と次男を厳しく指導しているシーンだった。

当時は体罰さえも今ほど悪だった時代ではなく、また体罰シーンがあったか覚えていないが、基本的に体罰容認派の自分でさえ衝撃を受けた厳しさだった。

変な言い訳だが、後に自分の息子に厳しくあたった時、どこかで「星一徹」とこの時の勘九郎を思い浮かべて正当化していたと思う。

その時の彼の言葉は今も心の中にある。「自分が受けた厳しさを子供に伝えるだけでは不十分。時代が変化する中、時に自分の経験よりも更に厳しく接してやっと歌舞伎の伝承がかなう」

確かそんな事を言っていたはずだ。これは自分が親になっていかに難しいこと実感した。まず妻が許さなかった。

一方歌舞伎の世界は厳しい。先代の市川猿之助が、数十年ぶりに訪ねて来た息子の香川照之(市川中車)に、「僕の人生はあんたを捨てた時から始まっている。だからもう訪ねてこないで」と言い放った話を、香川照之が松田優作の追悼番組で語っていた。

今はその二人も歌舞伎では再び親子に戻ったらしいが、ジャブジャブマネーに溺れそうな米国人が興味本位にカブキダンスを語る時代、日本は歌舞伎の裏にはこのような世界が継承されていることを米国に紹介する必要がある。

さもないと、米国は日本よりも先にバナナリパブリックになるかも知れない。フィスカルクリフはその試金石だろう。ではその時米債をしこたま持っている日本はどうなるか。自民党が掲げ始めた「外債ファンド政策」を聞いて身を乗り出した。

20年近く、米国債市場の主戦場でもあるシカゴの先物市場で相場を見た立場でいうなら、緊急的ストラテジーとしての円安誘導はいいとしても、外債をファンドには絶対反対だ。

なぜなら、貯金のある日本とは違い、インフレでしか生きられず、だからインフレを起こそうとする米国や、さもなくばドイツ以外はいつでも「ごめんなさい」をしそうな欧州の外債を買うのは、よほど外交で見返りがない限りありえない選択だと確信するからだ。

今のグローバルマクロの状態で国益を考えるなら、日本は作り出した円で欧米の優良株か、資源など実物資産か、或は戦闘機などの武器を購入するが妥当。嫌なら外国が通貨を低く誘導するの止めるはずだ。

そんな中で日本が権限の低い外債を買うなど言い出したのは、日本が余程のお人良しか、外国の傀儡か、或は実学に乏しい官僚出身者に頼っているからだろう。今は国策の参謀にするなら商社マンの方がいい。

外債は必ず暴落する。それはよいインフレのケースもあれば(成長復活)悪いインフレのケースもある(デフォルト)。最初は円安で為替の差益も出よう。だが暴落のスピードは早い。その瞬間には円高に戻っているだろう。

そよりもなぜ国内に円をばら撒いてインフレを加速しないのか。この後の及んでモラルやインフレの悪性か良性かの議論をしたいのだろうか。

庶民は「ばら撒き=悪」と思わされている。勿論理想的ではない。だが現実では今の欧米の資本主義でモラルは優先されていない。

元々資本主義は格差ゲームだが、レーガン主義が崩壊したリーマンショックの後は、米国は誰が最初に救済されるのがマクロで一番効果があるかに観点に移った。

つまり結果優先。それゆえ金融を罰せず、FEDも株価を買い支えるといより、積極的に買いあがる仕組みを優先している。(自分で買っているのではなく、上手くウォールSTを使っている)

日銀は株にそこまでは踏み込んでいるようにみえないが、米国はストラテジーで金融などの1%のモラルに目をつぶった。今オバマ政権はソレを再び調整しようとしている。ただ全体の効果を損なうつもりはない。

一方で日本は元来欧米ほどの格差主義ではない。また日本の金融には欧米の強欲さはない。ただそれゆえ資金が死んでしまうことも考慮すべきだ。

庶民に平等に紙幣をばら撒くのと、金融に巨額なボーナスを稼がせる仕組みを残すのは、どちらが経済効果があるか。日本での効果は明確。いずれにしても、今は哲学ではなく、戦略の話をする時だと思う。

そういえば本日12月5日は、1996年にグリーンズパンがまだ6000ドル台だったダウ平均をみて「根拠なき熱狂」と戒めた記念日である。人も、国も、世界も変るものだ。今はバナナ共和国が心地よい。

(注、バナナリパブリックとは、気候に恵まれた中米ではバナナがいつも成っていることから、怠惰な生活が可能である例え・・)

もしこんな偽りの資本主義を止めて、まともな世界にに戻りたかったなら、米国は大統領にロンポールを選んだはず。でも選ばなかった。いずれ人類に神の裁断が下るとして、それまでは日本は日本のストレテジーが必要。

世界は遠慮なくストラテジー優先になっている(つまりモラルより結果)。そういう世界に覚悟なく中途半端に接するのは危ないし、バナナ共和国の外債よりも、他に買うべきものいっぱいある

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