2008年12月27日土曜日

年末特集<今日の視点>文系人材の欠乏

今オバマ次期大統領はハワイで休暇中である、その彼の見事な裸体(上半身)をいわゆるパパラッチが盗み撮りした。一方私自身はクリスマス休暇中に怠惰にもネットでTVドラマを探していた。そしてネットに掲載されたオバマの上半身を偶然見てしまった。ショックだった。私もそれなりに運動はしている。だが引き締まった彼の体は4歳年下の自分を蔑むに十分だった。

オバマは忙しい立場でも6キロのジョギングを欠かさないという。だが48歳にしてあのカッコよさは黒人というDNAを差し引いても、彼自身の努力の程が窺われる。実はオバマは幼少時代どちらかというと小太り気味だった。以前オバマ伝を書いた時、彼の母は小学生のオバマに出勤前の朝4時から3時間勉強をさせたという話を紹介したが、勉学同様今の彼の無駄のない体躯は恐らくその後の努力の賜物だろう。一方で永田町を牛耳る日本の政治家は赤坂界隈で身に纏った脂の量が貫録を現す時代がまだ続いている。

言うまでもなく日米は今歴史的苦境の真只中。経済の復活は政治家の英断の範疇にある。そんな中無論オバマはこちらでも特別な存在である。だから皆が期待している。一方の日本はこの局面にあってもこれまで同様の「脂的政局」を見せられているだけで新しい英雄による新しい国づくりの躍動には程遠い現状である。そしてこの差を考える上で幾つかの逸話を思いだした。それは幕末に咸臨丸で米国に渡った二人の英傑が初めて目の当たりにした米国について奇しくもその本質を突いた言葉を残した事だ。

勝海舟は日米のシステムの違いを端的に「我が国とは逆で、米国では上に立つ人はそれ相応に優秀である」との言葉を残し、また福沢諭吉は初代大統領ワシントンの子孫の行方を米国民が知らず、興味さえ持っていない事に米国躍進の本質を掴み取っているのである。即ち「政治家に本当の実力が備わっている事」そして「優れた政治家を選ぶ力が結果的に国家のシステムに存在する事」という現代に通じる二つの要素をこの二人は見抜いているのである。相場の世界にも通じるが、物事の本質を瞬時に掴み取る事と、改善を目指して一流を模倣する事は別の才能だと考える。この二人の英雄はまさに前者かもしれない。そして日本の戦後はこの二人のような資質が徐々に欠乏していった時代ではなかったか。

この疑問にスッキリとした意見を提供してくれたのが「国家の品格」の著者の藤原正彦氏だ。彼は最近雑誌の対談で面白い分析を披露した。戦後の名著の一つ、かの「きけ、わだつみの声」を紹介する過程で、彼は特攻で死んでいった学生には東大や慶応の高学歴者が多く、その遺書群の中に漢詩から西欧文学、また哲学やマルクス等の幅広い教養の跡を感じるというのである。そしてここからが藤原氏の分析だが、当時の特攻隊は文系学生が主体で理系の学生は即戦力として温存された為に戦後まで生き残った人が多く、それが日本の産業力復活の原動力になったとしていた。(文芸春秋より)なるほど。私の義理の父も戦後の日本の技術力を支えたエンジニアだが、以前に同様の話を聞いた覚えがある。だがこの話からも日本の文系学生のレベルの絶頂は実は戦前だったのではないかという疑念がよぎる。

そう言えば中曽根元総理は自身が徳富蘇峰で日本史の外郭を確立した事と、小泉元総理が司馬遼太郎の小説をよく持ち出した事を皮肉っていた。そして最近は麻生総理お気に入りの「ゴルゴ13」を読んで「麻生君は馬鹿だね」と雑誌で語っていた(週刊誌の新聞広告から)。この判断はやや老人の偏見の可能性も残しながら日本人として笑えない部分もある。

いずれにしても急速に景気が悪化した直後に日本政府が出した初案は総額2兆円のばら撒きだった。ただ米国からみるとこの策はこちらで殆ど効果がなかった春先の還付金の二番煎じにしか見えない。だとするとなぜ2兆円も出して効果がなかった還付金をマネをするのか。日本の技術はノーベル賞や昨日の宇宙ロケット技術の話題からも独自の力は維持されている様子。だがその技術力を活かすための総合力としての政治力、そしてその根幹となるべき文化(系)の力はいつのまにか偏差値上の案記力や米国のモノマネのスピードが尺度になってしまったと感じるのは私だけだろうか。

ところで金融の世界でも相場を理系の人に任せる事が流行りだして久しい。ただそれが100点満点の回答ではなかった事は既に証明された。やはり総合力では文系と理系の両方の資質が不可欠という事だろう。ただ一人の人間が二つの資質を身につけるのはやはり難しい。現実的には双方を兼ね備えた人を探し育てるより、マネジメント上は双方の人材を適度に整備する方が簡単である。ただこれまでの常識に反して日本の社会(実業)に欠乏しているのは実は文系の人材ではないだろうか。標準化された「文系」は溢れている中で本物の文系の人材が実はいない。そうだ。あの特攻で散っていった学生のような・・。そんな事を感じる年の瀬である。

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