2010年7月20日火曜日

止まり木の倒壊

もうずいぶん前になるが、テレビ東京のモーニングサテライトで、週に一回程度、数分で米国金利の動向をコメントしていた事がある。当時はシカゴの取引所で日本人会員は私だけだった事もあり、興味本位で引き受けた。ただ数分で語れる内容は限られており、しばらくして事前収録の場合はテレビ映りの良い女性アシスタントにお願いし、私自身はFOMC当日などの「即答」を必要とするライブだけ出演した。

そして2006年ぐらいだっただろうか、短期金利は上昇を続け、FOMCでも景気の先行きに対する見方はインフレ警戒モードだった。だが既に株式市場は肌で感じる勢いはピークを過ぎ、そして触角をフルに使って感じる住宅市場は来るべき崩壊に向かって静かに準備をしていた。そんな中で株式市場関係者は短期金利を上げ続けるバーナンケの中央銀行に対して批判を始めた。

そんな最中、FOMCでの追加利上げを受けて、「一体どこまで短期金利は上がるのか」という質問が女性キャスターから飛んできた。「生」だったので、「7%ぐらいは行くだろう(実際は6%で打ち止め)」と言った後で、「今度この国が金利を引き下げる時は住宅市場の崩壊が始まっているはず。その時は利下げでは最早対応しきれず、市場原理は終わるかもしれない。だから、苦しくても、金利は少しずつ上げる必要がある」と本音を言ってしまった・・。

だが市場専門番組で言うにはあまりにも突拍子もないコメントだった。私の後には当時リーマンで金利アナリストとしては人気ナンバーワンだった米国人が控えていたが、おそらくは彼の順当な発言と比べても私のコメントは異常に感じられたのだろう。その後出演依頼は途絶えた。ただ、最後に付け加えたのは、日本は「債券の国」だが米国は「株の国」。つまり米国でお金が債券に流れる時は、お金が休んでいるに等しく、米国債市場は鳥が休憩するための「止まり木」であると補足しておいた。

それから5年、誰が正しかったかはもうどうでもよい。だが本日ブルーンバーグが伝えた最新の米債の入札動向は衝撃的だ。政府が統計を開始してから初めて2010年は入札に直接参加する人(DIRECT BID)の入札額がディーラーの入札額を上回っているという。

これは伝統的な日本の金融機関を含めた海外勢(INDIRECT BID)に加え、ミューチャルファンド(投資信託)米国内の投資家の株から債券への資金流入の地殻変動を意味する。そして先週は、ニューヨークタイムスが、企業年金の401プランは仕方がないとしても、2009年に傷ついたベービーブーマー世代は、他の資金をもう「絶対に株に戻さない・・」と言っている実例を紹介していた。

これらの話は「株の国」だった米国としては初めての現象だ。また5月のフラッシュクラッシュ(1000ドルの瞬間的な急落)は更にその硬直さに拍車を掛けている。結果、今の株式市場は空洞化が進み、PPPO(price plunge protect operationの略。 市場で噂の株式市場への介入)にせよ、システムトレードにせよ、人工的にに保ったインデックスの脆弱さはかえって浮き彫りになる展開が続いている。

この事からも当面は話題の日本勢による米国債投資は更に正当化されるだろう。だが、彼らがその前提とする「米国は日本と同じ運命になる・・」という考えは最後に必ず間違う。この主張はこの仕事を17年やっている自分のライフワークに等しい。そして、あのニコラスナシーブの予言である「ブラックスワン」が米国債市に現れた時、止まり木としての米債市場は倒壊する。(彼はブラックスワンは株式では無く米国債市場に突然現れると主張)

そして、ソレが現実となる前に、日本が自分の意思で米国との一蓮托生を選つもりかどうかをはっきりさせる必要がある。日本は米国のおかげでここまできたのは事実だ。よって政治的にその決断をするならそれはそれで仕方ない。だがもし金融機関が米国に対して無知のまま、最後その投資の失敗を国民に負担させるなら、それは許されない過ちである。

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