2013年6月15日土曜日

 未曾有のテールリスクはコピーの失敗から・・  6・13日マネー原理プロより


日本でプロ野球のボールが話題だ。協会は悪意でファンや選手をだましたわけではないと思う。だが結果は協会にとって最悪になりそうだ。

2010年ごろ、このブログでは発足して2年足らずのオバマ政権が、ブッシュ政権の8年間を超える件数の憲法で認められた政権が情報を公開しない大統領令を発動したことを紹介した。

イラクとアフガン戦争と未曾有の金融危機を引き継いだオバマ政権。オバマ政権はいろんなところで国民に黙って管理と操作をしてきた。多くが国益を考えた相対的な判断で、私利私欲だとは思わない。

だが二大政党制の米国では、日本人にはわからないマグマが動きだしている。そして真の敵を国内に抱える米国では、オバマ政権の綻びは予想外のテールリスクを抱えている。軽度なら、せいぜい次の金融危機。深刻なら、シリアから始まるアルマゲドン。これはやめてほしい・・。


< シカゴの夜に稼動する巨大コンピューター >

さて乱高下する金融市場を取り上げたNHKのクローズアップ現代にシカゴのINFINIUM社が出ていた。NHKは番組では社名は公表しなかった。だがまがりなりにも筆者はシカゴ在住のプロだ。読者に紹介しておく必要がある・・

日経には申し訳ないが、日々WEBでチェックする同誌の相場解説は時代遅れ。情報元のどこぞの解説者の時代はとっくに終わっているので仕方がないが、そんな中、NHKは時よりオヤッと思わせる報道をする。今回もよく有名でないINFINIUMにたどり着いた・・。

このINFINIUM社やGETCOのシカゴ勢、それにNYのハドソンなどの米系とGSAなどの英系。この様なあまり有名でないHFT系マーケットメーカー兼中型ファンドは、今回日経平均の乱高下の主役だった可能性が高い・・。

これは、米系システム系のヘッジファンドではCITADELと並ぶ最大手のルネッサンスが、5月は大きく損失を出した事と対照的だ・・。

恐らくトレンドフォローのCTAもやられている。ボストンレッドソックスのオーナーのジョンヘンリーは昔はCTAの権化だったが今はどうしているだろうか。いずれにしても彼らはトレンドメーカーではない。よって本当に警戒すべきは彼らではない・・。

< ゴールマンサックスを上回る収益力 >

何の因果か今世話になっているKNIGHT社が今月でGETCOと合併する。シカゴのPITローカルが始めたGETCOは、冒頭で紹介したINFINIUM同様に、HFT系マーケットメーカーでは先駆者だ。

ただ昨年までは彼らの実態はよくわからなかった。しかし最大手のGETCOは、上場会社であるKNIGHTとの合併で過去のバランスシートを公開した。すると判ったのは、金融危機の2008年から一昨年まで、同社は一人当たりの収益で、ウォール街最強のゴールドマンサックスを上回っていた・・。
給料もしかり。今GETCOで債券を担当している中国系アメリカ人は、GSでMDだった人だ。この様な転職はGETCOの報酬がよほどでなければありえない。そんなところが今の日経平均の乱高下にかかわっている・・。

ただ彼らのモデルは相場が乱高下しないと収益チャンスは減る。また乱高下しても、投資家の注文がないと儲からない。米国では金融緩和相場が成熟した去年からはまさにそのジリ貧状態だった。そんな時、とてつもないボリュームで復活したのが日本市場だった・・。

GETCOも人員整理をしたが、NHKが取り上げたINFINIUMは、本業のミニSPの電子マーケットのマーケットメークも止め、EQUITY業務の免許を返上していた。そこに日本からの神風・・。

シカゴの夜、暗く閑散なトレーディングルームで、巨大なコンピューターが静かに稼動するクローズアップ現代の演出は面白ろかった。ただし100人~200人程度の人員で、資本力からしても、彼らはプログラムで相場の行き過ぎを狙うが精一だ。日本市場の本当の火種は別である・・。

 
< 本当の火種 >

クリントン政権の94年から97年にかけて、米国の短期金利は2倍に引き上がった。そして為替はドル安からドル高へ大転換がおこった。その途中で発生したのがアジア危機からロシア危機だ。最後はLTCMの崩壊があった。ではクリントン政権のコピーのオバマ政権では、これがどういう形になるのか・・。

クリントン政権の最初の2年、財務長官だったのは民主党保守系の重鎮ベンツェン氏だった。彼は民主党では珍しい自由貿易推進派だった。そこにパパブッシュ政権からの不景気。クリントン政権はドル安を引き継いだ。しかし2年が過ぎたころから財務長官はルービン氏に交代。政策はドル高に大転換していた・・。

転換は景気回復の兆しをみて、FFレートを93年の3%から2年間で一気に6%まで引き上げたグリーンスパンFEDと歩調を併せたものだ。ただ冷戦集結を機に米国の一極支配が強まる中、世界のマネーを米国に引き寄せるという、ゴールドマン出身のルービン財務長官の金融マンらしい狙いもあったことは今では常識である・・。

その過程で起こったのがアジア危機とロシア危機。アジア危機は、ドル安からドル高へ大転換した米国の政策に鈍感だったアジアの通貨がヘッジファンドに狙われたものだった。そして翌年のロシア危機。テールリスクを見誤った頭脳集団のLTCMが崩壊した・・。

この間米国の株もそれなりに下落したが、大事には至らなかった。ここは今の雰囲気と同じだ。グリーンスパン率いるFEDは、6%まで引き上げたFF金利を今度は4.75%まで下げ、柔軟に対応した・・。

その結果、クリントン政権最後の2年間、米国は順調にGDPを拡大、財政の単年ベースの黒字化とインフレ率ゼロパーセントというトリプルクラウンを達成した。こう考えると、米国が2000年のピークを迎える前のアジア危機やロシア危機は、丁度いいアクセントだったということだ。

そんななか、クリントン政権のコピーのオバマ政権も、2012年までは国是だったドル安をパタッと言わなくなった。オバマ政権がアベノミクスに反対しない理由はこのあたりにヒントがありそうだ。

90年代はデフレになった日本以外、冷戦集結の効果もあり、欧州は積極的に米国の金融商品や実物資産を買った。一方日本はバブル時代に買った米国内の資産を次々に売った。

しかし今は様相が逆転している。欧州には米国にマネーを向ける余力もその意向も見られない。あるとすればアベノミクスによる日本のマネーだ。

このようにして日銀はFEDにかわりマネーを供給する手はずだが、先回りしたヘッジファンドにもやや予想外な事が起きた。ここで俄かに円高に戻りそうな気配が生まれている。

ブラジルなどのエマージングが暴落しているのは、90年代のアジア危機のミニチュア版の再来と考えれば米国に大した影響は無い。しかし予定外の円高は、日米の現政権にとっても想定外だろう・・。

きっかけはバーナンキ議長の議会発言とされている。だが本当の理由は米国内の政治情勢だ。

議会証言の3週間前から、米国ではベンガジやIRS問題などが最大の関心事になっていた。これらはオバマ政権を攻めあぐねてた共和党が仕掛けたものだ。そしてWSジャーナルのヒルセンラス氏による一方的な金融緩和終焉の可能性の記事。これも共和党のビッグビジネスの意向が強く働いているとみるべきだろう。

ライバルでオバマ政権を擁護するニューヨークタイムス紙は、WEB盤を入れると圧倒的な読者数を誇る。しかし平均的読者層の世帯収入は7万ドル前後。一方でWSジャーナルの購買読者層の平均世帯収入は27万ドルである。彼らは共和党支持層と考えるべき・・。

金融関係者を含め、この層はオバマ政権による救済策と株高の恩恵を一番受けた。だが更なる増税の可能性も含め、民主党政権はもういらない。次は減税と規制緩和を打ち出す共和党政権を望んでいる・・。

そこに共和党下院が仕切る公聴会でのバーナンキ議長の発言。ビデオを見れば一目瞭然だが、議長は自発的に金融緩和終焉の可能性に触れたのではない。期限を迫る共和党議員の強引な要求で可能性として言わされたのだ。

ただFRBの中にもここで株が調整になっても、一旦クレジット商品のバブルの芽を摘んでおく意図があることは否定しない。それは金融緩和をやめるためでなく、緩和を続けるためのものだ。結果として相場では多少の下落を容認しながら、健康的に金利を上げられる日まで時間を稼ぐ必要がある。

そこで問題。まず90年代のグリーンスパン時代のような下げる金利がない。だから量的緩和をやめるかどうかという危ない橋を渡るしかない。しかしゼロ金利になれた米国に国家として嘗ての活力があるかどうか。

そして金融緩和によって生み出された天文学的な過剰流動性のマネーの動向は、最終的な市場の結果において、学者の集団であるFRBのイマジネーションを超えている可能性だ。ブラックスワンの著者のタレブ氏はいつもここを指摘する・・。

確かにアジア危機をマネジしたLTCMは、翌年のロシア危機でのテールリスクを読み間違えた。そこでは二人のノーベル賞学者は役に立たなかった。ならばあまりにも長い低金利と低いボラに慣れてしまった今の世界の金融市場はどうなるのか。

この5年間は、市場原理の尊厳が後退し、政権や中央銀行による管理市場がその安心感を生み出している。そこに冷戦も知らなければ、90年代の経験もない20~30代の金融マンが大きな相場を張っている。

このテールリスクは、LTCMが読み間違えたロシア危機の規模をはるかに超えているだろう。とてもバーナンキ議長の手に負えるとは思えない・・。






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