2010年3月30日火曜日

休暇をする能力

金融危機後に自分の論評が掲載された事もあり、新潮社の「フォーサイト」の最終号を興味深く読んだ。そして最終号の記念にふさわしく、冒頭の記事は秀逸だった。タイトルは「待ち受ける二つの未来」。オックスフォードからドイツの留学。そして今はハーバードの教授のニーアルファーガソンが寄稿している。彼の記事は過去も読んだがどれもその分析力は秀逸。金融と世界情勢を歴史家の観点で分析する能力において今彼以上の人を知らない。ここではその記事ついては触れないが、フォーサイトを購入した事がない人もこの記事は読んだ方がよいだろう。英国人にしか書けない米国の記事がそこにはある。

ところで、ジャーナリズムを志して英国への留学を希望する長女がハイスクールを卒業する。その最後の記念として春休みにフロリダまで旅をした。フロリダまでの車の旅は2度目だ。そして往復4000キロのこの旅を支えるのはワーゲンのユーロバン。天井がポップアップしていつでも寝台になり、また後部座席が走行中でも御座敷に変えられるこの新車を購入したのが2001年。既に10年が経過し走行距離が10万キロを超えた今も全く問題がない。04年にワーゲンが輸出を止めてからは米国内にも流通がなく、今も2万ドル弱の買値がつくこの自慢の名車での旅は意外に楽しいものだ。

そして片道2000キロの道程が苦にならないのはアパラチア山脈のおかげである。アパラチア山脈は中西部と東海岸を分ける。つまりこの山脈は米国の発展の歴史や現代の米国人の政治的な心情の境界線の意味でも重要である。そもそも平たんすぎるシカゴでの暮らしの中ではドライブは楽しいものではないが、インディアナを過ぎてケンタッキーからテネシーのこの山脈の山道は故郷を思い出す。そして雪のシカゴから15時間程過ぎ、サウスキャロライナのなだらかな傾斜を下り、アトランタを抜けるとそこにはサンシャインフロリダが広がる。この間の高速料金は0である。

そしてフロリダではシカゴでの近所の家族に出くわすのも常だ。なぜなら、3月の休みは中産階級と言われる家ならどこの家でも家族旅行をするものだが、その階層に属し長い冬を我慢したこの町の人々は皆がフロリダを目指す。だが最近はそんな家の親達もベービーブーマーとして複雑な時期を迎えている。今回も浜辺ではそんな話題になった。彼らにとって金融危機の後遺症は大きく、失業したまま子供のために旅行に出かける事もめずらしくない。子供には出費の痛みはみせたくないが、恐らく彼らは内面はフロリダの空のようにどんよりとした晴れだ。(3月のフロリダは晴れてもどこかどんよりとしているのが特徴)

ただそんな同世代の彼らとの会話では時よりこんな会話が出る 「HOW LIFE TREAT YOU?」直訳するなら、今あなたの人生はどんな局面ですか・・。私はこの表現が好きだ。なぜなら社会の不条理を一瞬忘れさせてくれる効果があるからだ。簡単にいうと解脱感か。現世の憂さとそこでもがく自分を人生を主語にして乖離した場所から眺める事での心の安定。そしてそんなものを「解脱」とするなら、その難問をさらりと表現する器用さが日本語にはあるだろうか。あるとしても自分の経験では普段の会話でそんな言葉の効果を感じた事はない。そもそも日本人は休暇が下手だが、言葉での休暇も自分は貧困だったと思う瞬間だ。

そしてフロリダではベテラン女性調教師がショーの最中にシャチに殺された事故があった水族館を訪ねてみた。そこでは新しい女性が笑顔でショーを仕切り、観客は人間とシャチの戯れを楽しんでいた。事故への言及や女性への哀悼の儀式などは全く無かった。日本なら観客の子供の目の前でシャチが人を殺せば大変だろう。責任の所在やシャチをどうするかを巡って大騒ぎになるはず。結果少なくとも水族館は一旦休館しなければ世間が許さないのではないか。だが米国は停滞を嫌う。不幸があってもいつまでも引きずらない。ここに米国の楽天主義をただのノー天気ではかたずけられない日米の違いがある。そして停滞せず前に進むにはやはり「休暇の力」は大きいのかもしれない。日本人は「休暇の力」を身につける時が来たのではないだろうか・・。





2010年3月20日土曜日

心のバブルの顛末

先週も触れたが米国では日本株の推奨が増えている。中には日本株買い/中国株売りの裁定の推奨まで出た。理由を聞いて判ったのは、西洋先進国が日本と同じ「非成長」を密かに受け入れ始めた中、ここまで上がってしまった米株を今後も買い上がるためには遅れている日本株の水準をも引き上げる必要があるという事。3月末の日本株特有の動きに便乗している可能性もあるが、本質はそういう理由だった。

そして一方中国を売りたい理由も別にある。それは政治スケジュールが関係している。こちらでは健康保険法案の審議が終われば次は金融改革法案、また国際問題では中国との貿易摩擦(通貨問題)が焦点になる。そう、共に選挙戦の材料だ。11月の中間選挙に向け、議員は大手金融機関の暴利と中国の輸出が米国人から仕事を奪っていると叫ぶ事になるだろう。

この様に、市場関係者は中国との貿易摩擦を意識し先に中国株を売りたいのだ。ただその中に中国の市場経済は人類史上最大のバブルに入ったなどと解説する輩がいる。これには賛同できない。確かに中国の資産価格の高騰は危うい水準だ。だが中国当局は既に警戒して利上げを始めているではないか。むしろ米国人市場関係者がこんな事を言うのは自分はバブルとは思っていないという証拠。確かに米国では金融資産以外に価格の上昇はない。だが米国は他国のバブルを心配している場合ではない。なぜなら実体経済が比成長に陥る中、利上げする覚悟がないバーナンケFEDに甘やかされた金融市場は有頂天になっている。その彼らの心(マインド)こそが最大のバブルである。

そしてその様な流動性過多の市場は必ず感覚が麻痺する。今の市場は政治の異常事態への警戒心が希薄である。異常事態とは健康保険法案が山場を迎え、共和党の反撃が常軌を逸したオバマ攻撃になっている事。オバマはハワイ生まれだがハワイでは出生記録の不備が珍しくないという。そのハワイに付け込み、実はオバマはアフリカで生まで大統領になる資格を有しないなどする狂信的な共和党過激派の主張をバージニア州の司法長官までが取り上げている。彼は共和党が反対する健康保険法案が成立した場合を想定してか、仮にオバマが米国生まれでないなら、オバマが署名した法案は正当な国家の法案ではないなどと言い始めた。

世界がオバマ大統領の誕生を歓迎して既に1年。あまりにも馬鹿げている。またこんな争いを晒すのは国家としても本来は恥だ。ただそれだけ健康保険法案の成立がこの国の政治模様に及ぼす影響が大きいという事でもある。そして他方の民主党も非常事態。法案に反対する民主党議員には、民主党本部から11月の中間選挙で別の候補を立てるとの脅しまで出ている。こちらはこちらで法案を通すためは手段を選ばない。その一端がオバマのアジア歴訪の中止。予定日から1週間を切っての歴訪中止は通常の外交儀礼ではありえない。これは米国がいくら超大国でも、相手国の感情からすればかなりのダメージ。民主党本部とオバマ政権はその代償として同僚の民主党議員に法案への賛成を求めている。

この様に今米国では健康保険法案を巡り大変な事態が起こっている。だが心がバブルに犯された金融市場は反応がなく、またその金融市場か反応しないためか日本のメディアでこの法案審議の重要性を正確に報道しているところもない様子。まあ恐らくは日曜日に法案が成立、月曜が87年のブラックマンデイの再現になればやっとその時に気付くという事だろう。

そして忘れていたがいずれにしても今の米国で普天間が話題になる可能性はゼロ。だから日本政府は米国を意識して普天間問題に拙速な判断を下す必要はない。むしろこの米国の混乱を利用して交渉を優位に進めるべきである・・。


2010年3月19日金曜日

VALUE RESET(価値の再生)

北朝鮮でデノミを断行した責任者がその失敗の責任を取らされて銃殺になったというニュースが流れている。事実なら現代人の感覚からは信じられない話だ。国政に反旗を翻したならともかく、良かれと思ったデノミの失敗で銃殺。だがこれを北朝鮮だけの現象と捉えるのはどうか。歴史では人間は民主化が進んだあとでも独裁体制に自らの意思で戻った例がある。また民衆の怒りは恐ろしいものだ。フランス革命ではルイ16世がギロチンになっただけでなく、革命を主導したロベスピエールやダルトンが次々に民衆の餌食としてギロチンになった。

また英国発展の起点としてここで何度も紹介するヘンリー8世の側近トーマスクロムウェルは、結果的に英国がローマ教皇による支配を断ち切る事に繋がったバチカン傘下の教会の資産没収などの責任者として残酷な最後を迎えた。(ギロチンの無い英国での断頭処刑は斧を振り下ろす執行者の腕次第。だが敵の多かったクロムウェルは処刑の前日に政敵によって二日酔いにさせられた執行者によって無残な殺され方をしたとされる) 

要するに、彼等は正しくとも、また国を発展させた立役者でも民衆の怒りの矛先として死んだ。そんな中で昨日MSNBCにマイケルムーアが出演。前日のクリスドットの金融改革法案は改革になっていないと憤慨していた。そして最新作「資本主義」で一旦映画製作を休止すると宣言していた彼は興味深い発言をした。「1%の人間が95%の金融資産を握るこの国でも、選挙では金持ちも貧乏も1票は同じ。これからこの国は変わる・・。」

別にマイケルムーアの味方をするつもりはない。だが救済で手元資金が再び潤沢になった今の金融市場関係者がその油断から民主主義の恐ろしさを勘違いしている事は確信する。そしてそれは健康保険や金融改革法案とは関係ない話。法案に関係なく、また権力の側にある彼等が政治的な技を使って時間を稼いでも、いずれは必ず追いつめられる。そのケースとしては米国人自身による国内テロも気をつけなければならないだろう。

そんな事が起こる前にこの国ももう少しそれぞれが謙虚になる事を勧めたい。その理想は身近にある。それが日本だ。日本は成長は止まったかもしれないが、資本主義と社会主義が調和した人間社会としては実は進化した姿だと考えている。この姿を守りながら更に豊かになる進化を探すのか。或いは踊らされて単純に相手のルールに嵌るのか。VALUE RESET(価値の再生) その知恵が問われるだろう・・。





2010年3月18日木曜日

歴史的瞬間迫る。株は暴落か。

そういえば11月にHBOが放映したオバマ政権誕生までのドキュメンタリーは秀逸だった。カメラはヒラリー優位の予想に反してIOWAの予備選を制した数日前からオバマにに密着。その後の激戦を内側から紹介した。そしてその中に絶対に日本人に観てほしい場面がある、それはヒラリー マケインとの激戦の中、彼等とのTV討論を前にした練習風景。そこにはこれぞアメリカのエリート誕生のプロセスがある。まずスタッフが会場に集まりシミレーションを繰り返す。司会者を研究しどんな質問が飛び出すかを予想、敵の答えも想定してその答えに対しての有効な答弁を準備する。オバマもスタッフも徹夜である。こんなプロセスは日本の政治では絶対に見れないシーンだ。そしてマケインとの決戦前夜祖母を失った彼は涙を堪えながら最後の演説をする。恐らくこのシーンに感動しない日本人はいないだろう。だがこの国にはいる。彼等からすれば民主党とオバマ政権がの政策は全て反対。どれだけオバマが有能で尊敬されても、彼を絶対に受け入れられない人々がこの国にはいるのだ・・。

そもそも米国の歴史で健康保険法案は民主党だけのテーマではない。政府主導の国民皆保険を最初に提唱したのはルーズベルトだが、その法制化はトルーマンケネデイーと引き継がれ、ジョンソンが一部達成(MDEICADE MEICARE)した。そしてその後皆保険実現に真剣に取り組んだのは共和党のニクソンである。しかし彼が辞任で機運は消滅。国家に余裕が無かったカーター政権を飛ばしクリントンまで手がつけられることは無かった。だがクリントンも議会の優位性があった最初の2年で結果を出せず挫折。その反動で中間選挙で民主党は大敗した。そしてその後下院はギングリッチ率いる共和党が長く支配する時代に突入した。だが紆余曲折を経てその健康保険法案をオバマはここまで持ってきた。だから今は米国にとって歴史的場面である。それだけ双方は必死。オバマが嫌いで健康保険法案を潰したい共和党支持者は、「時の女」ミッシェルバックマン等に誘導されデモ行進をしている。中には法案を支持して座り込みをする労働者を見つけ10ドル札を投げつけるという醜い行為まで飛び出した・・(MSNBC)。

前述のキュメンタリーの感動からしても、予想された事とはいえ日本人の自分からみて残念なのは金融危機後のオバマ政権のプロセスである。その点で興味深い資料が今日のLA TIMESにある。それはこちらではdeliberative process exemption とよばれる政府機関の議事録公開の拒否権だ。記事によると、オバマ政権は政治の透明性を掲げながらこの発動回数はブッシュ政権最後の年の2倍(70779回)である。これはあの金融危機救済プロセスが尾を引いているのは間違いない。

この政権には 選挙戦を一緒に戦った新鮮な血もそれなりにいる。だがあの様な金融危機ではクリントン政権を母体とする経験者を頼るしかない。その象徴がサマーズでありガイトナーである。そして助けてもらった金融機関が彼等を高く評価するとそれはこの状況下で逆に支持率を下げることになる。要するにオバマがガイトナーやバーナンケを褒めると、一番重要な保険法案が逆に通りににくくなるという矛盾が生じていたのだ。そしてそれが共和党のこれまでの戦略だった。だがこの戦いにもついに決着がつく時が来た。健康保険法案が通ると、バーナンケの再任が達成されて下がっていた株が戻したあの場面の逆が起こるだろう。それが87年型の暴落であっても個人的には驚かない。




2010年3月16日火曜日

メディア繚乱 反日感情の誘惑

この日曜日から米国では新しいTV番組が始まった。そもそも日曜日の夜8時は日本なら大河ドラマの時間帯。実は米国でもこの時間帯は各局の主力作品が並ぶ。中でもHBOチャンネルは過去ここにあのソプラノスやSEX&CITYを持ってきては3大ネットワークを凌駕した。そして今回HBOが鳴り物入りでに持ってきたのが「パシフィック」である。

名前から想像できるかもしれない。この番組は太平洋戦争のドキュメンタリーを脚色したスピルバーグとトムハンクス共作のミニシリーズだ。そう、大成功だった2001年のバンドオブブラザースの続編である。そして前作がノルマンデイー上陸からナチス降伏までを実名で描いたのに対し、今回は真珠湾攻撃を受け、志願して海兵隊に入り、ガダルカナルから硫黄島、そして沖縄占領までを経験する若い米国兵の愛国詩である。そして初回の印象では作風は前作と同じ。だが違う点が一つ。それはバンドオフブラザースが徴兵されて嫌々欧州戦線に出ていく若者の苦悩をどこかに含ませたの対し、パシフィックは真珠湾を攻撃されて愛国心に火がついた米国の若者が「ジャップめ、皆殺しにしてやる」と志願して雄叫びをあげるシーンが冒頭に用意された事だ。

ところで、実はこのドラマの前に和歌山の太地町のイルカ漁を取り上げてアカデミー賞を受賞したTHE COVEを家族で鑑賞した。理由は昨今のトヨタ問題からマグロの禁漁まで、渡米以来初めてどこかで反日気運を感じ始めた自分としては、米国で育った子供達がどうこの映画をみるか反応を知りたかったからだ。そして内容はイルカ虐待を材料しているものの実態は反日映画そのもの。クジラからマグロまで、海洋資源を食い漁る日本人を今の内に何とかしなければならない・・最終的には肉食系の白人が将来の海洋資源確保を前提に、動物愛護を材料に水面下での利害を感じさせる内容だった。また事実ではない誇張もあり、ドキュメンタリーとしては?だが、絶対に取られてはならない虐殺シーンを見事に撮影されてしまった以上この映画によって太地町と日本政府の敗北は決定的となっただろう。

ご参考までにCOVEが鑑賞できるサイトを以下に紹介します。但しウイルスのリスクも含め、試聴は自己責任でお願いします。

http://www.movies-links.tv/movies/the_cove/ 


最後にこの映画とテレビで日米関係の今後に暗澹たるムードを感じながら日本語放送をつけると今度はNHKの討論番組をやっていた。議題は日米同盟。参加者がそれぞれの立場で議論をしていた。日曜美術館の東大教授が唯一賛同できる視点を披露していたが、それ以外は皆が「自分が知っている米国」を前提に議論していた。だがここで紹介した「反日への誘惑」然り、米国は日々変化している。それを知らないで日米同盟を議論しても全く無意味である・・。




2010年3月12日金曜日

JPからCITIへ

ここでは本業である米国金融市場の具体的な話、即ち相場の現象面については殆ど触れない。それは無料で公開するブログと、マックのコーヒーが無料というデフレ社会日本においても、米国の政治経済と金融市場との具体的な関連をえぐる私の情報に手数料を払う顧客への情報と差別化をはかるためだ。だが先日、うかつにもここで「ソフトな老獪」とのタイトルで、米国政府が様々な理由で近々保有するCITI株を上げようとしていると紹介してしまった。そしてその3/5日から今日で5日目。今週に入ってCITI株は高騰。なんと昨日と本日はニューヨーク証券取引所の全取引の25%がCITI株の出来高だった。そこでせっかくなのでその背景の一つをブログの読者にも紹介する。

まず2008年の金融危機発生から今日まで、四半期ベースで一度も赤字を出さなかったウォール街の大手金融機関が一つだけある。それはJPモルガンだ。そのトップのダイモン会長の名声は最早説明する必要はない。だが実は先週からCNBC(金融市場専門番組)では名声の主役がそのダイモン氏からCITIのパンデイット会長に代わったのである。その現象はニューヨークタイムズ紙でも同様。同紙はここにきてダイモン氏の手腕を「地味すぎる」と批判的な記事を掲載し (9日版) 、逆にCITIのスリム化にメドを付けたパンデイット会長を異常なまでに評価していた。これは金融危機当時、メディアはパンデイット会長を無能者扱いした事実からすれば豹変である。ただメディアとは所詮こんなもの。そして今週に入ってのCITI株の沸騰が示す通りソレがそのまま出るのが株式市場である。しかしデフレ懸念が米国でも漂う中、銀行経営の本番はこれから。ならば危機の最中もJPモルガンを赤字にしなかったダイモン会長が更に評価されてもよいはず。ところが実際は逆の現象が起こったのだ。それはなぜか。

そもそもこの国ではデフレは受け入れられない構造がある(借金だけで現預金がない)。だから今はあの金融危機は何かのアクシデントで、構造的、普遍的な原因があったわけではないという結論に片付けようとしている。実はこの成長前提主義が今回の金融銘柄の高騰の地盤だが、中でも危機の象徴だったCITI株を復活させる事で政府はCITI救済の正当性を国民に訴える事ができる、そしてその勢いをそのまま3月18日をめどに山場を迎えた最大のテーマである健康保険法案の成立に結び付ける意図があったのだ。だがそのCITI株も16日で転換日を迎える。(政府がそのあとは自由に優先株を売れる)ではそのあとCITI株を買い上げた流動性はどこに向かうのか。おまけ情報だが、どうやら次のターゲットは日本である。その理由はあえて触れない。ただ昨日からCNBCでは盛んに日本株の推奨が始まっている事を紹介しておく。

この様にFEDのスタンス変化や欧州情勢などのマクロ経済の限界を超えられない中では次々に新しいテーマを探すしかないのが株の宿命。またそれがインデックスが伸びない中での出遅れ循環物色相場の特徴である。そして循環が一巡したあと回復が本物ならインデックスは再び上がるだろう。だが偽物ならそこから下落が始まる。いずれしても物色の標的がデフレ国家の日本株まで来たなら、それは循環の最終段階である・・。

(ご参考)なお、この情報は値上がり保証するものではありません。



2010年3月10日水曜日

西軍の崩壊

今日のNHKニュースは30年前の日米関係の話をずっとやっていた。30年前の密約と今の緊急事態、どちらが大事かは言うまでもない。だが世界情勢の優先順位と国内の話題の落差が激しい日本では、何が緊急事態でどう重要なのか。まずそれさえもわかっていない可能性がある。

そんな中で過激な表現をすると、昨日のワシントンポストのコラムは米国の日本に対する宣戦布告か或いは関ヶ原における徳川家康の小早川軍への砲撃の意味がある。つまり苦境の米国への協力を中国との狭間で天秤にかける鳩山政権に対し、米国が先制攻撃をしかけたという事だ。(小早川はその砲撃にビビって石田三成を裏切り徳川についた。ソレが関ヶ原での決定打になったのは有名)

記事によると民主党の藤田議員は9/11のテロはアルカイーダではない別の力が裏にあったというアンダーグウンドの話を最近になっても同新聞記者に話したとの事。この様な話はそれが事実かどうかは重要ではない。問題は民主党が野党ならともかく、与党となった今でも日本の与党議員がこんな発言をした事を米国が野放しにするはずがないという事である。そして米国に対するこれ程の挑発を政府が管理した様子が見えないということは、外交において日本は国家として機能していない事を指す。

そもそも鳩山政権発足後に米国から感じたのは、政権の閣僚がバラバラな発言をする事で、対米関係に対しては当初奇妙な「めくらまし」効果があった事。なぜなら米国では政権内で意見が違う場合でもそれを国の舵取りをする政権が表に晒す事はない。この国は常に戦争をしている国。そんな事をしてはマネジメントの失態になる。その証拠にあの熾烈な戦をしたオバマとヒラリーでさえ政権発足後は一糸乱れず表面的にはヒラリーはオバマを支えている。

そんな中で米国は日本で起こった世紀の政変に慎重になった。そして日本の出方を窺った。すると閣僚が言いたい放題だ。当初米国はこれは鳩山総理が想像を超える大物なのか、或いは何かの作戦なのか判断しかねたはず。だがここに至り米国は悟った。このバラバラは鳩山政権の「めくらまし作戦」ではない。ただ単に日本の政治には何の戦略もなく、また対外政策において誰もグリップを握っていないだけの話なのだ。

そこにこの発言だ。あのテロが米国の自作自演であるという噂は当時からこの国にもあった。だがそれを属国日本の議員が公言する事を一般の米国人はどう思うか。この話を伝えたのがワシントンポストの社説でまだよかった。多くの日本人は金銭的に疲弊した今の一般の米国人の危うさを理解していない。一つ間違えば一般の米国人の日本への感情は一気に悪化する話である。

ここで警鐘した様にトヨタ問題は序章。恐らく米国政府は対日感情の悪化をちらつかせながら日本政府を更に脅すだろう。だが日本が中国に傾いたら元も子もない。ただこの様な機会を見ては家康が小心者の小早川秀秋を砲撃で脅した様に米国は日本をたたみかける。もしかしたら藤田議員もその罠にはまったのかもしれない。いずれにしてもこのままでは日本は米国に完全にむしり取られる予感・・。

2010年3月9日火曜日

PAWN スター:「質流れ」は米国の伝統

興行的に成功したといってもアカデミー賞では最早「人間の演技力」は関係ない「アバター」を選ぶのは流石にはばかられたのだろう。結局作品賞は戦争映画に決まった。ただ今年の作品賞のレベルは低い。受賞作も秀作が多い歴代の戦争映画の中で主観では70点程度の作品だ。恐らくはイルカ漁を批判した作品が選ばれた様に、アカデミーの会員が好むテーマがあったかどうかの問題だろう。

今回は作品そのものより史上初めて女性監督としてオスカーを受賞したキャサリンビジローの人生の方が興味深い。彼女は早くから才能を評価された人。だが2000年代に入って後にキャリアータンカー(キャリアーを潰す)と評される失敗作を作ってしまう。その作品では主演のハリソンフォードもそれ以降出演料が暴落したと言われるが、彼女はその失敗から監督業に復帰するの7年の歳月を要した。

この話は我々の世界ではファンドマネージャーの悲哀にも通じる。そして一回の失敗からあきらめなかった事、それがオスカーに繋がった事が重要である・・。

ところで米国で昨年から始まったテレビ番組の 「PAWN スター」は今は知る人ぞ知る存在。主役はリッチハリソンという出っ腹でスキンヘッドのおやじだ。彼は昨日アカデミー賞の会場を埋めたスターとは似ても似つかぬ風貌。だが彼が私の中では今一番ホットなスターである。

そもそも米国では街中でPAWN SHOPという看板をみる。その意味は質屋。つまりPAWN スターとは「質屋のおじさん」を意味する。そしてこの番組はラスベガスの老舗質屋GOLD & SILVERの一日を追うREALITY SHOWだ。それをなぜヒストリーチャンネルで放送するのか意味深だが、日本人にとってこの番組に最も近いのはテレビ東京の「お宝鑑定団」だろう。だが鑑定団とPAWN スターは似ている様で全く違う。そしてその違いは市場がしばし直面する価値の本質である。

その本質を簡単にいうなら、「鑑定団」はムーディーズの格付け担当者だ。鑑定団ではちょび髭のおじさんが焼き物を鑑定している。だが彼はソレを自分で買う事を前提に評価しているわけではない。一方PAWNスターはいわばNY証券取引所のスペシャリスト(値付け業者)やシカゴのオプション業者の様な存在である。彼等は2008年11月にVIX(波乱指数)が90を超え、売り買いの値段が開きすぎて顧客には不満があった中でそれでも株やオプションの値段を出し続けた。そして実際に注文があれば彼等はそのリスクを個人で取った。

個人でリスクを取る・・。実はこれが開拓時代からの本来のこの国の伝統だ。だがその伝統も今は中西部からカリフォルニアまでの地域でしかあまり感じない。まあその意味でもこの番組はその古き良きアメリカを感じ指させる貴重な存在でもある。そして米国が個人でリスクを取らなくなる時はこの国が欧州化する時。即ちそれは「成長国家」米国としての終焉である・・。





2010年3月5日金曜日

ソフトな老獪

盲目ながら前任のスパイザーの辞任で副知事からNY州知事に昇格したパターンソン氏と、同じNY州の大物下院議員のラグーン氏はともに民主党の黒人政治家。この二人は大金ではない賄賂(パターソンはヤンキースのチケット、ラグーン氏はカリブ旅行)が発覚して政治生命を終えようとしている。肌の色が関係しているか判らないが、彼等は州民の審判を受ける前に選挙で苦戦が予想される党中枢から引導を渡された。

ただ同じ民主党でも前イリノイ州知事のブラゴヤビッチは異常な執念で我々の前に留まっている。保釈中とはいえ、起訴された身でありながらあちこちメディアに出ては自己の正当性と復活を芸能人としてアピールをしている。この様にも民主党の政治家には黒人もいれば白人もいるが、黒人はマイノリティーの悲哀をまだ引きずるケースもある中で白人は老獪なイメージが付きまとう。

これに比べれば共和党の政治家は明快だ。ブッシュにサラペイリン、見るからに単純で融通がきないイメージ。そんな共和党の政治家でも最も哀れなのがブラゴヤビッチの前任の共和党州知事だろう。彼は70歳を超え引退してからその悲哀を味わった。なぜなら引退後に知事になる前の軽犯罪が露見したのだ。彼は交通局長時代に知人から頼まれて複数の運転免許取り消しを免除する便宜を図った。大罪の認識はなかっただろう、謝礼は小額だったが、悪い事にその中の運転手が後日死亡事故を起こしてしまった。そして遡って免許の一件が発覚したのだ。前州知事の彼は70歳半ばで犯罪者として刑務所に収監され、2年が経った現在も恩赦が出ない中で先週イリノイ当局は残された家族への公務員恩給の月額50万円を違法として打ち切った。

犯罪者が罰を受けるのは当然。そして罰に不公平感があるのは世の常だと認識している。だが経済面での救済に不公平感が漂う中、刑事罰までも差があるのは辟易する。そもそも民主党のカラーとは人当たりの良さの下の老獪。例外はカーターぐらいか。日本はクリントン政権でソレを痛いほど経験したが、オバマ政権も終にトヨタ問題を日米の貿易問題へと意図的に拡大しようと画策を始めた。日本は何を突き付けられるのか。まあこれも予想通りだ。

米国政府はGM株の売却では手段を選ばないだろうが、そこに新たに判ったのは同じく政府が優先株を所有するCITIについて。そもそもCITIには学者からは分割案が根強い。だが政権はその前に、またGMより先にこのCITIへの投資を引き上げたい意向だ。それが今日のパンデイット会長の議会証言ではっきりした。ならばCITI株が売れるまではその環境を維持するのか国策になる。相場関係者はソレを前提にすべし。またこの環境でも金融株を推奨する非常識の裏には、その政権の意向に便乗する意味もあるのかもしれない・・。





2010年3月3日水曜日

トヨタを支える裏メディアの実力

米国では月初に前月の自動車売上が発表される。メーカー別に、前年同月比とその月の販売実績が発表されるのだ。考えてみれば自動車だけをくくり出して毎月発表するのはやはり自動車という商品が近代経済においていかに重要な消費財であるか、その証明でもある。そしてその2月の自動車売り上げにおいて、トヨタはこれだけ叩かれた後で全体で13%のシェアを維持し、前年同月比のマイナス幅を10%以内に収めた。これは他社からみればこれは脅威だ。そして面白いのはテレビや新聞等の表メディアがトヨタを叩きまくったにもかかわらず、現代の特徴であるブログやFACEBOOK、またTWEETERという「裏メディア」においてむしろトヨタの評価は上がっているという実態である。(ご参考、http://adage.com/article?article_id=142335)

そもそも「裏メディア」を馬鹿にしてはいけない。その具体例が日本でも垣間見えた。先の小沢幹事長の献金疑惑で検察が一旦は引いた背景には、「読売」や「毎日」という「表メディア」が小沢を叩いたのに対し、「裏メディア」の人々は実態はともかく米国の陰謀説などを唱えながら大々的に小沢擁護と検察批判を展開した。そしてこの様なブログの主が今では政治家に意見する事もあれば講演会でも人気だという。

それはそれとして、米国の2010年の自動車売り上げの見通しは1300万台である。これはCASH FOR CLUNKという起爆剤があった2009年の実績が1100台である事からしてもとんでもない数字だ。一体誰が買うのか。この予想然り。強気の米国人のエコノミストの現実はこのレベルである。そしてそうこうしている間にも米国では長年自動車売り上げを支えたベービーブーマー層が引退する。この結果、2013年には60歳以上のドライバーの数が、59歳以下のドライバーの数を逆転するとの見通しがある。

要するに、GMやクライスラーに愛着を感じる旧世代が引退し、かわりにブログやTWEETERで情報を交換する若い世代が車を買う。米国政府が横やりを入れないかぎり、この国の自動車戦争は既に終わっているのかもしれない・・。





2010年3月2日火曜日

チャングムがいた国

バフェットがCNBCでしゃべっている。その中で日本について「自分の中では日本は常にミステリー(財政赤字と低金利の関係)。そしてこのミステリーをもう考えるのは止めた・・、とまで発言していた。そもそも彼は米国の繁栄と自分の人生の歩調がぴたりと合った人だった。持論では先を見通す力というより、凡人が嵌る周りに影響されて余計な事をする失敗を殆どしなかった。そこが彼の天才たるゆえんである。逆にいえば余計な事をしなければ誰でもがそこそこの金持ちになれた。過去100年の米国とはそういう国だった。

だがバフェットもいつまでも現役ではない。そんな彼に現状に対する意見をすがる米国。まるで黄門様のようだ。そんな中で本日一番面白いニュースは米国上院で「観光省」という観光促進を目的とした政府機関ができるかどうかの話。10人の上院議員が提案したらしい。ならば米国は今苦境のギリシャやイタリアを馬鹿にしてはいけない。隆盛を誇った帝国もやがてはその遺跡の観光で生きる時代が来る。上院が可決したら米国もその宿命を認めると言う事だ。そしてこの老人の話ばかり聞きたがるCNBCとその視聴者の相場関係者は、そろそろ歴史を勉強をする時が来たという事だろう。

さて、そんな中でバンクーバーオリンピックが終わった。真央が銀メダルに終わった事もあり、どこかさびしい。ただ あの「チャングムの誓い」のパワーに圧倒されてから6年、いつかこんな日が来るだろうと思っていた。韓国にスピード種目で底力の差を見せつけられた最後、真央とヨナの対決は現在の日韓勢いを象徴していた。そしてそこにはじっとヨナを見守るお母さんの視線。この視線はこちらでよく見かけるものだ。休日ゴルフレンジに出かけると、娘のゴルフに願いを掛ける同世代の韓国人両親を見かける。彼等は同じ視線を娘に送っている。この視線の意味するものは、親から子へと引き継がれるハングリー精神だろう。そういえば日本でも昔「おしん」というパワフルなドラマがあった。だが私はこのドラマを見ていない。なぜなら消費世代のはしりに生まれた自分には遠い世界だったからだ。

いずれにしても日本選手と韓国の選手との末脚の差は技術云々ではない。日韓の金メダルの数の差は、選手の能力の前に、彼等の親が育った環境が決め手になっているのではないか。石川遼のお父さんの様な情熱家でもないかぎり、我々の世代から金メダリストの子供を輩出する事は困難な時代になったと実感する。石原慎太郎ではないが(昨日彼は日本を銅メダルで大騒ぎするこんなバカな国は無いと発言)、スポーツ力の差は米国か傘下で草食国家に浸りきっている日本の土壌の問題となった。

ところで韓国の北、北朝鮮が不気味だ。過去は誰も北朝鮮の話をしなくなると、金正日が仕掛けてきた。だが最新号のフォーサイトによれば、今北朝鮮を襲っている飢饉はかなり深刻な状態だという。特に失敗に終わった「デノミ」はこれまで飢饉の影響が少なかった所得層まで巻き込んでしまったらしい。

世界が北朝鮮の話をしなくなった頃、実はその政情は最も混沌としているのではないか。万が一今金正日政権が倒れたどうなる。核拡散を防ぐための主導権を握るのは中国か或いは米国か。ここでもそれなりに米中の衝突があるだろう。今はその騒動はいらない。皮肉だが今は金正日に頑張ってもらうしかない。


2010年3月1日月曜日

ハマーのお土産?

豊田章男社長の苦難の旅は終わった。きっと疲れたはず。返りの飛行機では快眠できるだろう。そういえば昔日本への出張の際、当時の奥田社長(2代前のトヨタ社長)と同じJALに乗り合わせた。当然ながら奥田社長はファーストクラスだったと察する。こちらが急いで税関まで到達すると、目の前に大柄な奥田社長が一人で順番を待っていた。ただ今から思えば不思議だ。ファーストクラスとはいえ、日本を代表するトヨタのトップがお供もなく民間機に一人で乗っていた。こんな事は米国企業ではありえない。いかにもトヨタらしい一面だ。

ところで章男社長はどんなお土産を持って帰るのか。その点で今日は気になるニュースがあった。それはGMから「ハマー」を買い取る事を決めていた中国企業が突然DEALを破棄してきた事。理由はハマーは環境対応が不十分との事で、中国政府はこの段になって買収を許可しなかったという事である(NYTIMES)。

対象的なのが日本。政府はトヨタ問題が発覚してから米国の圧力?でハマーを環境対応車として日本版CASH FOR CLUNKの対象車に加えた。これは面白い。ハマー買収を計画した中国企業は完全な民間企業。よって表向き破談の背景に中国政府はいない。だが資金調達を予定していたが外資系金融機関が引いたという理由なら、それは恐らく彼等が中国政府の意向に従ったのだろう。ここにも米中関係の現状が見える。

いずれにしてもハマーはGMが2年がかりで売却先を探してきたブランド。簡単には解体できない。またGMの株主の米国政府は何としてもハマーを金にしたいはずだ。そんな時丁度章男社長が米国にいる。私がオバマなら章男社長に「このお土産」を渡すだろう。米国のお荷物を中国から肩代わり? ハマーと米国債は同じ匂いがする・・。