2010年3月9日火曜日

PAWN スター:「質流れ」は米国の伝統

興行的に成功したといってもアカデミー賞では最早「人間の演技力」は関係ない「アバター」を選ぶのは流石にはばかられたのだろう。結局作品賞は戦争映画に決まった。ただ今年の作品賞のレベルは低い。受賞作も秀作が多い歴代の戦争映画の中で主観では70点程度の作品だ。恐らくはイルカ漁を批判した作品が選ばれた様に、アカデミーの会員が好むテーマがあったかどうかの問題だろう。

今回は作品そのものより史上初めて女性監督としてオスカーを受賞したキャサリンビジローの人生の方が興味深い。彼女は早くから才能を評価された人。だが2000年代に入って後にキャリアータンカー(キャリアーを潰す)と評される失敗作を作ってしまう。その作品では主演のハリソンフォードもそれ以降出演料が暴落したと言われるが、彼女はその失敗から監督業に復帰するの7年の歳月を要した。

この話は我々の世界ではファンドマネージャーの悲哀にも通じる。そして一回の失敗からあきらめなかった事、それがオスカーに繋がった事が重要である・・。

ところで米国で昨年から始まったテレビ番組の 「PAWN スター」は今は知る人ぞ知る存在。主役はリッチハリソンという出っ腹でスキンヘッドのおやじだ。彼は昨日アカデミー賞の会場を埋めたスターとは似ても似つかぬ風貌。だが彼が私の中では今一番ホットなスターである。

そもそも米国では街中でPAWN SHOPという看板をみる。その意味は質屋。つまりPAWN スターとは「質屋のおじさん」を意味する。そしてこの番組はラスベガスの老舗質屋GOLD & SILVERの一日を追うREALITY SHOWだ。それをなぜヒストリーチャンネルで放送するのか意味深だが、日本人にとってこの番組に最も近いのはテレビ東京の「お宝鑑定団」だろう。だが鑑定団とPAWN スターは似ている様で全く違う。そしてその違いは市場がしばし直面する価値の本質である。

その本質を簡単にいうなら、「鑑定団」はムーディーズの格付け担当者だ。鑑定団ではちょび髭のおじさんが焼き物を鑑定している。だが彼はソレを自分で買う事を前提に評価しているわけではない。一方PAWNスターはいわばNY証券取引所のスペシャリスト(値付け業者)やシカゴのオプション業者の様な存在である。彼等は2008年11月にVIX(波乱指数)が90を超え、売り買いの値段が開きすぎて顧客には不満があった中でそれでも株やオプションの値段を出し続けた。そして実際に注文があれば彼等はそのリスクを個人で取った。

個人でリスクを取る・・。実はこれが開拓時代からの本来のこの国の伝統だ。だがその伝統も今は中西部からカリフォルニアまでの地域でしかあまり感じない。まあその意味でもこの番組はその古き良きアメリカを感じ指させる貴重な存在でもある。そして米国が個人でリスクを取らなくなる時はこの国が欧州化する時。即ちそれは「成長国家」米国としての終焉である・・。





0 件のコメント: