2007年6月29日金曜日

宮沢氏の残した戒め

宮沢喜一氏が亡くなって思いだす事がある。彼は政治家としてのピーク時(80年代後半から首相になるころか)既にどちらかと言うとサッチャリズムやレーガノミックスが先進国の主流になりかけた頃も、自身はケインジアンであると言い続けていた。

この15年の米国の変遷を見ても、ここまで浸透したフリードマン主義の背景には冷戦終結と言う政治的大転換が大きかった事が判る。逆にいうと、少なくとも冷戦時代という緊張関係の社会の中ではフリードマン主義にはまだ縛りがあったという事。その後世界がフラットになり、緊張感が無くなると、新しく始まったゲーム感覚社会ではケインズは骨董扱いとなった。そして更に実体経済から金融経済に移行する過程でフリードマンは世界のバイブルとなったが、ご承知の様に彼は昨年亡くなった。

ただ今、ある意味でフリードマン主義の象徴といえるクレジットの世界のシステム上の不安に、市場が始めて直面している。本質として、この「桃源郷」を支えた環境は、ケインズだフリードマンだのと言う理論の優劣ではなく、地球環境と政治模様だった事が窺える。逆に言えば、仮に世界に緊張が戻ると、個人的にはフリードマン主義は再び縛りを受けると考える。

平和なゲーム社会の中で養った感覚の優劣だけで歴史や宇宙物理の原理までも測ろうとする人が世の中のたし多数を占めた時、恐らく「其の事」は起こる。宮沢氏の死はそのタイミングを測る上で私自身には戒めとなった・・。

2007年6月28日木曜日

独立記念日

以前NHKで吉田茂と日本の戦後を決めたサンフランシスコ講和条約を特集した番組があった。今でもこの特集はNHKの最高傑作だったと確信しているが、今一度ここで内容を紹介しておきたい。吉田茂が舵を取った当時の日本は、最悪、連合国群による6分割占領の可能性を米国に恭順を示す事で回避、一方で新憲法制定などの新国家としての骨組は全て米国が決める単独占領を受け入れた。

ただその米国が台頭する共産主義の中でトルーマンドクトリンに傾斜。その結果、日本統治の綱領にも混乱が発生する。混乱とは予定通り日本を非武装にしたい勢力と、朝鮮戦争が発生する中でその基本線を大転換して再び米国の意向として軍事国家に戻したい勢力との間で足並みが乱れたのである。

吉田茂はその米国の足並みに乱れを上手く利用した。再軍事化案は警察予備隊で留め、一方で米国の盾の後ろに立ちながら日本が国際政治の一員として復帰する為の禊ぎである「サンフランシスコ講和条約」の締結を急いだのである。

米国は国内の意見は割れながらも日本を出来るだけそのままにし、ソ連 中国の共産主義の防波堤と、朝鮮戦争への軍事拠点として活用する案を優先した。サンフランシスコ講和条約では旧連合国側の大半が「倍賞金と本土割譲なし」の寛大な処置に異を唱えたが、米国がこの不満を強引に説き伏せたのである。

一方当事国でありながら米国の意向で開催地であるサンフランシスコに招待されなかった中国とソ連は米国に反発。ソ連は強引に会場にグロムイコ外相を送り込むが、日本に占領されていたフィリピンが米国案に妥協した事を切欠に。大勢は米国/吉田連合の平和国家宣言を承認する方向に傾いた。

そしてついにサンフランシスコ講和条約が宣言され、日本の独立と戦後が正式にスタートした・・。以上NHKから

考えてみればドイツは大戦に負ける度に領土割譲と巨額な倍賞金支払いをしてきたが、日本は中国と朝鮮に倍賞金を払っていない。 日本はユーラシアと中国での共産勢力台頭と言う神風の中で、米国の庇護の元奇跡と言われた戦後の復興を果たした。では敗戦時にドイツの様な巨額賠償金を払っていたらこの奇跡は起きただろうか。

少なくとも朝鮮民族はそう考えていないだろう。そして中国も・・。実はサンフランシスコ講和条約こそが現在のアジア外交障壁の遠因であり、また日本が米国から真の意味で独立する機会を失った去勢記念日でもあったのである・・。

個人的にこの歴史的背景からの日本の脱却、日米関係の前向きな転換の機会を願ってきたが、昨日遂にその機会はやってきた。マイク本田と言う日系議員が中国系米国人の旗頭として慰安婦問題を取り上げたのである。

民主党はやはり愚かだ。こんなバカげた法案をこの米国自身が大変な時に通すなど、全く利害計算が働いていない。日本はさっさと謝ってしまえばよい。そして場合によっては倍賞金でもなんでも払ってやれ。、戦後直後の倍賞金は辛いが、日本が豊かになり、また現在の流動性過多の時代今ほどお金が安い時代はない。そして中国と韓国がこれ以上この問題に入る隙を閉じると同時に、米国の利益に便乗する事で得た繁栄の代償、即ち失われた日本人のプライドと魂を取り戻せばよいのである。

ただ共和党が盤石ならこんな法案は通らない。なぜなら共和党は合理的に去勢された日本を使う方法を心得ているからだ。日本はブッシュ親父からクリントンの民主党に政権が変わった90年代に色んな事を学んだはずだが、2008年ブッシュ政権が終わるからといって恐れる必要はない。ナチュラルな成長が終焉した米国はヘッジファンド国家として生きていくためにも以前に増して日本を必要としている。

もしそれを無視してこんな法案に勢力を注ぐ民主党主導の米国に変わるなら、まずは日銀は金利を上げて米国金利へのキャリートレードを止めればよい。或は会計制度は変えても実質で3角持ち合いを防げばよい。米国は干上がる。ただそれには日本自身がモラトリアムから脱却する覚悟がいる。この覚悟があればインフレ(成長)は日本国内で必ず起こるだろう。

最早他国はその時代に向けて動き始めている。今金融市場で見える値動きは極論すればEX-BUSH時代への対応に過ぎない。今クレジットモノの饗宴が終わる理由はないが、他国の主導でこの国の金利も上がった。

またそもそもプライベートエクイテイーは故あって“プライベート”と言っていたにもかかわらず急いで上場した。ここに答えがある・・。いずれにしても、米国は独立記念日を迎えるが、日本も本当意味で真の独立記念日を迎える事が出来るだろうか・・。

2007年6月26日火曜日

始点か終点か。バーナンケの真価

ブラックストーンの上場は、一昨年のGOOGLEの上場をはるかに凌ぐ注目度で皆が見守った。年初、GSのアナリストが、「米国は最早ヘッジファンド国家になった」との表現を用いたのが、米国がこれから「ヘッジファンド国家」として驀進するのであれば、このブラックストーンの上場は終点ではなく始点。いずれにしても今日の雰囲気は、個人的経験では80年代のNTT上場時の様なエネルギーを米国の関係者の熱気からは感じる。

このエネルギーがプラスになるのかマイナスになるのか。答えはまだ解らない。ただ共和党政権の時間切れも見据え、ここでは終点の危険性を絶えず意識してきたが、始点になる可能性が無くなったわけではない。今は流動性を背景に膨張した第三の世界、「クレジット」が初めての揺さぶりを経験している。実はこの案件に対する国家としてハンドリングが、ここが終点なるか、或いは新時代の始点なのかの分かれ目ではないか。

もし新時代にしたいなら、「フェアリー」バリューを維持する事である。この場合フェアリーは「FAIR」ではない。「FAIRY VALUE」と書く。この場合の「FFAIRY」は、日本書紀や古事記に書かれている神話や寓話、或いは「迷信」の意味。つまりそこではFAIR VALUEではなく、桃源郷としてのFAIRY VALUEが重要という皮肉である。ただそれは本来その価値を精査すべき格付け機関も参加者全体が与している仮想の世界だ。ならばそんな紳士協定の第三世界がいつまでも続くだろうか。

ベアスターンのヘッジファンド失敗を切欠に焙りだされたこの世界では、この先バーナンケの真価が問われる

2007年6月18日月曜日

市況ファイナルから

地球人口の60%のアジアが豊かになると最初に起きる事は食糧不足。そんな事は誰でも分かっている。従って食糧インフレは可能性の問題でなく、時間の問題。そんな中で未だにインフレのコアがどうのこうのというFEDのセリフに振り回されている人は最早愚かだ。なぜならFEDが世界を救うわけではない。そんな時代自らを救うのは自分自身。どうすれば良いかというと、理論的にはインフレを上回るキャッシュフローを生めばよい。だから株を買うのである。

株は金利全体が上昇しても、FEDが利下げポーズを取直すか(その場合は200日線割れ程度の下げが誘因)、或いは長期が十分売られカーブSTEEPしたら必ず買い戻されると言ってきた。だがこんなに早くPLAYERが動くのは、皆がインフレ時代対応するために必死だからだろう。住宅の下落が止まらない中(これは最早止まらないだろう)株を上げるのは絶対的国策。そもそもこの本質を見極め、ぶれない事が米国におけるインベストの基本だが、少なくとも共和党が元気な中は大丈夫である。一方でデイトレは映画マトリックス3で人間を襲う電子虫と格闘するようなもの。でもこれはこれでスリリング。自信があれば止める必要はない。ただ両方を混同して考えない事・・。

2007年6月9日土曜日

ダブルスタンダードの勧善懲悪

米国在住14年の後半の7年間、憩いだったソプラノス(TV番組)が今週末で終わる。以前、この番組の事をここで紹介した。日本ではまだやらないこの番組の事を、確か、コッポラの「ゴットファーザー」と、橋田須賀子の「渡る世間に鬼はない」を足して2で割った様な番組と評した。要するに主役は悪人である。ニュージャージーのイタリアンマフィアの親分が主役である。彼はそのダーティービジネスで敵対者は殺し、裏切者は躊躇せず抹殺する。だが家庭では恐妻家、出来の悪い息子に悩む父親の姿は所謂橋田番組が始まる・・。

ドラマでは、先週までに対立するマフィアに仲間の大半を殺された。家族を避難させた彼が今週末の最終回でどうなるのか。死ぬのか生き残るのか。WSでも人気のこの番組の結末に対して既に全米ではNYを中心に賭けが始まった。その話題は今日CNBCでも特集になっており、今のところ2:1で生き残る確立が優勢のようだ。いずれにしても番組の結末は来週報告する。

ところで、本日はパリスヒルトンが健康を理由に刑務所を5日で出所した事も話題。そういえばサミットが締めくくられたドイツでは、最終日にブッシュが重要な会議を欠席したが、ともに好き勝手に生きている印象を周りに与える。パリスヒルトンにはヒルトン財閥の金があり、ブッシュには米国の大統領としての権力がある。

米国が世界平和を牽引する指導者としての立場を捨て、利益重視、実利主義に転換した頃からTV番組だった「SOPRANOS」は社会現象になった。そもそも米国は大岡越前の様な清廉潔白のキャラは好まず、弱い人間が敬虔なクリスチャンなる事や、隠れて精神科に通院しながら大統領やギャングの親分という特殊な職務を全うする姿に親しみを感じる。

だが言い換えればこれらは人間の甘さを逆手に取ったダブルスタンダードである。米国は法律の適用ではダブルスタンダードを嫌うが、人間のモラルにおいてのダブルスタンダードには寛容である。それも特に金と権力の保持者にそ傾向が強くなった。そんな風潮の中で自分も含めて視聴者はソプラノスに親しみを感じるようになった・・。

ところで、米国が大統領のモラルの低さを容認し始めた起点はどこだったのか。知られていないが米国が超大国になる以前は、男色家もいれば女癖が手に負えない人もいた。だが転換点はクリントンだった。

彼はワシントンやリンカーン、ルーズベルトといったMtラシュモアの顔の主役が築き上げた米国大統領の執務室の権威の象徴の中で破廉恥行為に及び、そしてバレてしまうと開き直った。しかしここで重要な事は彼個人のモラルではなく、繁栄のピークを迎える過程で米国人はそのクリントンを許してしまった事だ。

個人的にはバブルの本当の定義はここにあるとみる。裏を返せば、マネーの過剰流動性も時代が変われば過剰が取れている可能性があるが(バブル崩壊)、本当のバブルは人間のモラルの低下の中にあるのではないか。

その意味で最終回のトニーソプラノスはどんな運命が待っているか。やはり彼は悪人、死ななければいけない。それがこの国の底に流れる清流と信じる。

マネーと酸素

科学の知識はないのだが、個人的に心配になる事の一つに将来この地球で“M”と“O”の量が逆転してしまうのではないかという思いがある。言うまでもなく、Mはマネー、そしてOは酸素である・・。この話題に絡んで、昨日の出来事からの二つの話題に触れておきたい・・。

昨日決算発表した会社にあのランパートが君臨するシアーズがある。シアーズの株価は現在180ドル。最早シアーズは小売の体はなしていないと指摘したが、やはり小売りとしての売り上げは惨憺たる現状である。それでも株価が下がらないのは、第二のバフェットとして期待されるランパート個人に対する投資家の期待があげられる。

一方で売上金額だけをとれば米国のGDPの3%を1社でたたき出すウォルマート。グローバル経済の最終消費地としての米国消費に支えられ、数年前まではある意味で世界最強の会社だった。しかしマネジメントの内紛から労働争議に対する対処に綻びが発生。会社のイメージが悪化する中で更に悪い事が起きつつある。

その悪い事とは何か。これも以前触れているが同社では原材料から完成品までその70%が中国生まれである。ここにきての中国製品に対する消費者の困惑は、同社の全商品にまで拡がる恐れがある。「安かろう、悪かろう」笑いごとでは済まない。

今地球では昔の様な世界大戦がない。よって消費力がパワーである。そして有り余るお金がそのゲームを囲む。本題に入ると、昨日ブッシュは恥も外聞もなく、ポリシーを変えてしまった。それは地球温暖化への米国の主導権宣言である。これでは地道この問題に取り組んできたゴアは腹が立つだろう。また、京都議定書を承認した国々も本来は米国の身勝手さを怒らなければならない。彼は2012年に期限が来る議定書の「次」において、今度は米国主導で地球温暖化への取り組みするつもりなのである・・。

まじめにこの問題を考えてきた人々にとっては「ブッシュよ、ふざけるな」であろう。強引にイラクへ進攻し、石油の利権にまみれた彼らと共和党がそんな事を言うのは、先週「仮にイラクが望むなら撤退してもいい」などと漏らして歴史的無責任を露呈したい恥の上塗り。

それでも誰も米国を糾弾できない。ドルが基軸である以上、主要国は米国が主導する天下布金政策に迎合しているからだ。そしてこの米国の大転換の先に見えるのはクリーンエネルギーに向けて新たな覇権主義。

中国もインドも議定書を批准していない。米国が豹変して環境保全のリーダーになれば、人口を背景に消費と生産に万進しているはずのインド中国の両国に対してエッジを握れる。また年内に世界最大の石油産出国となるロシアのペトロ経済にも影響を持てるのである。

いずれにしても、ランパート氏等のヘッジファンドはゲームの先取りをし、地球に膨張した資金(M)をつぎ込む。しかし酸素とマネーが逆転した地球環境でいったいどんな人が生きていけるというのか・・。個人的には素朴な疑問が残る。

2007年6月6日水曜日

殺人狂時代

“YOU CAUSED ME TO DO THIS・・(お前たちが悪い)”恐ろしい話だが、自分の中にも4月に殺人鬼となっしまった韓国人青年が感じていた米国社会に対する怒りを感じる事がある。彼は10歳前後の頃に米国に来た。撃たれた人は全員が複数の弾傷を抱えていたという事から、最後の瞬間まで彼の心を支配した深い闇がこれまでのどの事件とも異質の残酷さを残す・・。

慣れない英語圏での生活の中、懸命に近所づきあいを通して米国に溶け込もうとした親の苦労を見ながら彼は育ったはず。同時に「裕福な子供に対する怒り」、「不作法な米国文化に対する怒り」をその心の内面に育てていったのだろう(CNN)。精神科に通院した経歴を持つ彼が残した怒りのメモは、冒頭の言葉とともに辛辣な長文の批判で埋められていたという(ABC)。切欠は女性関係かもしれないが、彼はいつか必ず爆発するタイプだったはず。周りがもう少し注意を払う事で事件が防げる可能性はなかったのだろうか。

ところで、自分の場合は米国社会に対して怒り感じた時は、ダウ先物を売り向かう事で怒りを解消してきた。結果その瞬間怒りは解消できたが、見返りにバランスシートは常に深い傷を負った。彼の様にいつか爆発して大量の米株の空売りをしけたい心境は消える事はない。だがそれはまだもうすこし先の事としよう・・。

最後に有名な映画の有名なシーンを一つ紹介したい。全く普通だった人間が突然金の為に平気で次々に恋人を殺す鬼畜に変身する。しかし破産と共に彼は我に返る。そしてその時に自分を駆り立てたモノが本当は金への欲望ではなく、欺瞞に満ちた社会に対する怒りだった事に気づく。そして絞首刑になる直前、神へ捧げる言葉はあるかと聞かれた彼はこう答える。“これまでも神とは仲良くやってきた、仲良くできなかったのは人間社会に対してだ・・。私は確かに死刑に値するだろう。だが欺瞞の中で大勢人を殺した人間は時に英雄あつかいされるている・・ばかばかしい世の中だ・・。(チャップリンの殺人狂時代から)

チャップリン映画を見る人が少なくなった今、彼を紹介した次の様な面白い記述があったからだ。著名なドイツ人の舞台監督曰く、「チャップリンが今の時代にいないのは芸術家としては残念だ。だが、チャップリンの映画が頻繁に見られるような時代(必要な時代)が再び来る事はもっと残念である・・」

2007年6月4日月曜日

美人投票

日本人が優勝したミスユニバース。はからずしもケインズが言った「株式投資とは美人投票の結果を当てるようなモノ・・」という有名なセリフは今年は特別な意味を持つ。以下のWEBサイトでは各国の美女達を拝見できるが、興味深いのは今年は特にアジア系の黒髪と東洋系の顔立ちの美女が多いという事。優勝した日本人女性も化粧した表情は和風と言うよりアジア系だが、米国代表を筆頭に、北欧のノルウェー代表までアジア系の顔立ちである。20~25年程前JALのキャッチフレーズに確かLOOK EASTというのがあった。今風に言うならばプレストウィッツの「東西逆転」だろうが、今世の中は全てアジアを向いている。その意味では今回のミスユニバース選考は既定路線だったのかもしれない・・。
http://www.missuniverse.com/index2.html

2007年6月1日金曜日

今日の視点追記 哀れなタンポポ

本日もWSJの一面トップは長文の力作。内容はデトロイト地区の住宅市場の惨憺たる状況の詳細である。だが絶対に読まなければならない程の内容ではない。従ってここではその記事の内容はテーマにしない。ただ注目したいのはこの地区に永年住んでいるという記事に登場する市行政職の女性の視点である。この女性は嘗ては白人の中間層が住んでいて、その後黒人を含めた上昇志向の強い移民が徐々に支配していった街の一角の庭のタンポポが最近は一番気になるという・・なぜか。

庭のタンポポが目立つという事は何を意味するか。彼女の眼にはズバリそれは中間層の崩壊とアメリカンドリームの消滅である。自分の経験も踏まえると、こちらで夢にまで見た一戸建てを購入した家族が先ずする事は何か。それはHOME DEPOTに行き、必要な物をそろえる事である。女性なら室内をより豪華に見せる様々な小物。男性なら庭の芝生の手入れと大工道具が中心だろう。以前シカゴへの出張者をHOMEDEPOTに案内した事を紹介した。確かに其処には資材を物色するプロのBUILDERに混じって、アメリカンドリームを体感しているそんな庶民の幸せの断片が垣間見えたのである・・。

しかしこの地区のHOME DEPOTには最早そんなささやかな幸せの色は残っていないだろう。ここでは2003年から2007年までの住宅ローン全体の60%がサブプライム。庶民のアメリカンドリームの橋渡しをしたそのサブプライムは今逆襲を開始した。WSJによると、現在全米では240万世帯がFORECLOSURE(ローン支配の不履行による強制立ち退き)この危機らしいが、この地区のブロカーの言葉を借りれば、「デトロイトには最早通常の住宅の市場はなく、FORE CLOSUREの市場」という状況らし。結局サブプライムは持ち家の比率を一時的には引き上げたが、今は周りの資産価格までも押し下げ、それ以上を剥ぎ取り始めたという・・。(WSJから)

いずれにしてもアメリカンドリームの崩壊した家の庭は哀れだ。住人はまだ住んでいても既に庭の手入れにかけるお金も気力もない。そして其処の芝生には無惨にタンポポが咲き誇る・・。今デトロイトにはこのタンポポが咲き誇っているのだろう。ただ今日のテーマこの女性の視点。相場でも一歩先を感じる為にも重要な感覚である。