2008年8月30日土曜日

市況から

さて米国について、日本人が知っている様で実は全く誤解している事の一つが「自由で平等」というこの国の国是の年輪だ。私も含めて戦後生まれの大半の日本人がイメージする米国は実はまだ44年の歴史しかない。昨日米国はオバマの歴史的演説で盛り上がった。しかし64年にジョンソン大統領が公民権法に署名するまでは黒人の政治家どころか多くの州で黒人は投票権すらなかったのだ。それに比べれば、映画「ALWAYS3丁目の夕日」でも紹介された40年前の日本、昭和の30年代がいかに平和で民主的な情緒にあふれていたかが再認識される。

その公民権法施行は63年のマーチンルーサーキングの有名な「I HAVE A DREAM・・」の演説で確定的になったわけだが、民主党はキング牧師が其の演説をした8月28を態々選んで昨日オバマを登場させた。そしてそのオバマの演説は個人的には攻撃的な印象を受けた。これまでのような夢を語る総論ではなく、各論において共和党とマケインを直接攻撃するスタイルに変わっていた。これはこれまでのオバマにない積極的な対決姿勢である。

一方の共和党は本日副大統領候補を正式に発表する。CNBCは昨日まで本命視されていたロムニーなどではなく、アラスカ州知事のサラパリンを選んだと言うNEWSをすっぱ抜いた。彼女は43歳。米国で初めての女性州知事である事と、風貌がどことなく若い頃のヒラリーに似た華やかさを持つ事から、この選択はヒラリーを応援し、失望したままの女性票の取り込みを明らかに狙っていると思われる。

やはり共和党は民主党よりも戦略の切り替えが早い。クリントン夫妻の応援で融和を完成させたい民主党だが実際は簡単ではない。共和党はそこをすかさず突いてきた。ただこれで経済的、特に株式市場は一旦ロムニーへの期待が剥がれるだろう・・。

(本日の午後)

共和党の副大統領候補はサラパリンに決定した事が公式になった。彼女はビューテイーコンテストで優勝した経験を持ち、小さな町の町長からトントン拍子でアラスカ州知事になった女性らしい。その意味ではオバマも「シンデレラ」なら、彼女も「シンデレラ」的な要素を持つ。しかし言うまでもなく副大統領は大統領が不測の事態に墜ちた時には自動的に大統領になる。特に今回の大統領選は常に暗殺のリスクが伴うオバマと高齢のマケインの戦いだ。よって投票者に母国を憂う気持ちがあれば、心の何処かに不測の事態を想定し、其の際に副大統領が大統領にふさわしいかどうかも判断の基準となろう。もしパリン女史の実力がヒラリーと比べて見劣りするなら、共和党のこの選択は失敗となる。

2008年8月28日木曜日

<今日の視点> 不正義の国の始まり

パキスタンの証券市場で決まった「下落禁止」を笑ってはいけない。米国の市場原理なども元々は幻影だったのだ。それはGSEの存在が証明している。そしてそのインチキが間違っていると思う事も歴史的には間違っている。なぜなら世界の経済史は徳政令やデノミなど、市場原理からすればインチキの裏技を繰り返してここまで成長してきた。世論は変えられる。要するに必要なのはそれらの超法規的処置を断行するための環境である。その必然の中で超ハイパーインフレや戦争が起きた。そして今またその環境は整いつつある。そしてソレを裏付ける出来事が昨日この米国でもあった・・。

昨日、LPGAが2009年から施行する予定としている新ルールがリークされた。それは「PASSABLE」の英語を話さないプレーヤー はLPGAの競技に参加できないというとんでもない原案であった。NYTIEMSで指摘されているように、この原案がLPGAに参加できる45人の韓国人(場合によっては日本人も)を対象とした明らかな差別ルールである事を疑う人はいない。

LPGAは現在視聴率の低下で収益が厳しい。PGAですらタイガーの欠場で慌てているというのに、期待されたミッシェル ウィーも不発に終わっている現在、殆どの大会の上位選手に韓国人選手ばかりが居並ぶ状況は耐え難いのは想像できる。そういえば冬季五輪のジャンプで日本がメダルを独占した後にルールが変わった例はあるが、ただこの国の歴史や成り立ち、そしてこれまでの国是からして、この様なあからさまな嫌がらせが起こるのは驚いた。時代と米国の信義も変わったのである・・。

いずれにしてもスポーツ競技は平和の象徴。ただ世情の変化はいつもこんなところから始まる・・。

2008年8月26日火曜日

<今日の視点>新グローバルスタンダード

サブプライムが崩壊した直後からここでは桃源郷と揶揄されたクレジット市場は冷戦終結が齎した平和の産物の一つだと断言してきた。なぜなら、冷戦中までは人々のリターンへの欲望には常識的な限度額があったからだ。しかし平和が当然になると、リターンの常識的限度が消滅した。ゲームの時代が始まったのである。すると、生きるか死ぬかの緊張が金儲けの緊張に代わり、そこにステロイドが加わった。そしてこのスキームで駆動力となったのが米国のGSEと証券化経済における格付け機関だ。人はいつしかこのスキームをグローバルスタンダードと呼ぶようになった。しかし実際には本来人間が持っていたスタンダードが崩壊した時代だったのかもしれない。皮肉なのは米国のファンドには建国の父のベンジャミンフランクリンやリンカーンから名前を頂戴してるファンドが多い事だ。だがベンジャミンフランクリンの13か条をどれだけの人が覚えているのか。皆が覚えていたらサブプライムは防げたのではないか。

ところでサブプライム以降の米国は、転げ落ちる自国の現状認識において、自己反省のアプローチはしない。サブプライムの崩壊は経済学上のスキームの失敗であり、モラルも含めた人間としての根源的なミスであるという認知を極力避けている。そして日本の失われた10年を悲観主義民族の落ちた失政として自らの楽天主義の優位性をどこまでも押し通す意気込みである。ただ超大国だった米国が反省の前に力で事態の打開を図ろうとすればどうなるか。言うまでもない。冷戦が逆戻りし、そしてその後は本当の流動化の時代を再び迎える可能性がある。時代の逆流である。

さて日本でNGOという言葉が認知され始めたのは90年代の中頃と記憶しているが、NGO活動は冷戦が終わり、先進国に余裕が生まれた頃から注目されるようになった。そもそも冷戦が終結しても南北問題は残り、またソマリア等、アフリカでの飢饉や大虐殺を併発した内戦は冷戦が終結した事によって逆に引き起こされた側面もあった。そして冷戦後という新しい枠組みの中で、民間の非営利団体が政府に変わって活動する事は必然だったとも言える。その意味で、NGO活動は桃源郷だったクレジット市場の親戚である。しかし時代は変わった。時代の逆戻りが始まった以上は今必要なのはNGOでなく特殊部隊だ。実は金融市場もゲームから存亡をかけたイクサに変わっている。しかしまだ多くのプレイヤーにはその認識がなくモードはゲームのままだ。彼らは絶対に助からないだろう。ただ所詮金儲けで助からないの自業自得。NGO活動で命を落とすのはソレではすまない。

平和主義は尊い。だが現実を認知する知性も必要だ。最早ソレは新しいグローバルスタンダードである。

2008年8月22日金曜日

<今日の視点>筋書きのあるドラマとないドラマ

歳をとるとオーバーワークからの筋肉痛は時間を置いてからやってくる。だが400球以上を投げても疲労を感じないと言っていた上野選手はまだ20代。やはり彼女は特別な体力の持ち主だ。さて、その末梢神経の伝達力という意味で老体だったのは今週のOIL市場だ。2週間前に起こったグルジアを材料に週明けから反発していたが、ただやはりそれには無理がある。昨日のOILの5ドル高を境に商品のショートカバー劇は一旦は終焉するだろう。

ところで、オバマは副大統領の発表を予定より遅らした。これは明らかに何の修正が行われている証拠である。既に何人かには話したが、オバマ陣営は予定にはなかった「ヒラリーカード」を切らなければならない状況になってきたとみている。理由は以前より浸透していたバカバカしいほど単純な予想が一つ一つ実現しているからだ。

まず「バカバカしい単純な予想」とは何だったか。ソレは元々誰が候補者になっても苦戦が予想された共和党の選挙戦略として、懸念された国内経済の悪化によるドル安と更に苦しくなっている一般消費者の怒りの矛先をかわす為、選挙戦が本番になる8月前後、北京オリンピック前後からブッシュ政権は水面下で態と世界情勢を不安にする様な行動に出るだろうとの予想だった。

今週はブッシュ政権の東欧戦略担当者が、「グルジアのサーカシビリに軽挙は慎むようにと注意していたが、彼は言うことを聞かなかった・・。」などと発言をした。だがそんな話を信じている専門家はまずいないだろう。要するにここまで起こっている事は全て筋書きがあったドラマだ。先を考えてきた人にはそんな単純な展開が実際に起こってしまう今の世の中があまりにもばかばかしいのである。

問題はこの共和党のゲームにはロシアのプーチンにもメリットがあり、実は彼もブッシュに協力している事だ。危ないゲームだが、個人的にはブッシュとプーチンとの間で更にもう一段の緊張悪化、場合によっては通常兵器による直接交戦の程度までは握られている可能性は十分ある。なぜか。ロシアのプーチンが抱える悩みは資源高騰という追い風の中でいかに資本の原理の活用と旧来の特徴である統制力の復活を実現させるか。その意味で一旦は西側世界の温風で溶けてしまったロシア国内の緊張感を戻したいと考えている。要するに北京でも不振のロシアには国威向上への別の誘引が必要なのだ・・。

そしてこの事態はオバマも十分承知している。よってここからの共和党への対抗策の選択も二つ。同じ土俵で勝負するか。しないかである。同じ土俵で勝負する場合、オバマにとって必要なのは2004年の大統領候補でもだったクラーク長官の様な軍事と内政の両面で補完が成立する人。そして同じ土俵の勝負は避け、窮地の労働者に直接的な支援を行うキッチン&シンク或いはブレッド&バターの戦略に出る場合は絶対にヒラリーの存在は欠かせない・・。

さて個人的に今回の北京五輪にのめり込んだ最大の理由は、この2週間のドラマには筋書きがなかったからだ。この仕事を始めてから6年が過ぎたが、この間に没頭したのは国際政治と経済の筋書きの先読みばかり。そして用意された幾つかのパターンの中でも単純で最悪の展開が次々に実現して行く様を目の当たりする事に少々疲れた。ただその意味では自分ではBIG PICTUREと考えていた事は、実は誰もが見ていた目先の小事だったのかもしれない。

いずれにしても策謀渦巻くこの世の中では、考える人とそうでない人。その結果として知る者と知らない者。そして最後に生き残る人と死ぬ人の格差は広がる・・。

<今日の視点>奇跡の裏側

中国の劉翔ほどではないにせよ、ソフトボールで金メダルを逃した米国民の失望はコーチに向かうかもしれない。なぜなら日本との決勝で国民的な人気を誇る絶対的エースのジェニファーフィンチ選手を出さなかったからだ。ジェニファーは前回のアテネから米国のエースになり、アテネで米国の全試合の得失点差が51対1という次元の違う圧倒の原動力となった。

その後はその美貌から多方面で活躍。ESPNの「最も魅力的な女性アスリート」に選ばれると、そのままスポーツイラストレートの水着のモデルとしても登場した。更にプレイボーイ誌が大金を積んでヌード掲載のオファーを出したが断り続け、一昨年にMLBのスター選手結婚して女児をもうけた。そして今回の北京でもエースとして期待され、開会式当日に行われた大統領と米国選手団との会食会ではブッシュの隣に座り華を添えたのである。

しかしその絶対的エースのジェニファーをコーチは決勝で出さなかった。ただそれは前日の試合での日本の非力をみて油断したわけではない。なぜなら仮に日本を侮ったなら、米国民にとってマイケルフェルプスに次ぐ大会の華だったジェニファーを注目の集まる決勝に出さない訳にはいかなかったはず。恐らく左バッターが並ぶ日本にも強気で彼女を登板させただろう。しかしコーチは慎重だった。日本戦には二人の左のエースぶつけてきたのである。

準決勝で先発したアボットは大学でジェニファーの奪三振記録を更新した未来のエース。そして決勝で先発した黒髪のアスターマンはNCAA時代に20回のノーヒットノーランと10回の完全試合を達成した左の第一人者である。二人とも決してジェニファーより格下というわけではない。しかし世紀の番狂わせとはあの80年の「ミラクル」も然り、いろんな人間の判断が様々な形で折り重なって偶然引き起こされるモノである。スターであるジェニファーが金メダルを取る瞬間を見たいという国民の期待を裏切ってまで磐石に磐石を重ね臨んだはずの決勝。その決勝で米国はまさかの敗戦を喫した。敗戦後、詰め寄る記者に対して「ジェニファーは右投手だったので出さなかった」と監督は答えたという。ジェニファーは今どんな思いでいるだろうか・・。

2008年8月21日木曜日

<今日の視点>奇跡の金メダル

正直涙が止まらない。2日で400球を超える玉数を一人で投げぬいた上野選手に「神」が動かされたのだろう。上野を援護する打者に米国から3点も得点する力を与えた試合だった。いずれにしても、次からは正式競技でなくなる1競技のソフトボールの金メダルは、個人的には地球より重い意味を持つ。

大げさでなくこの勝利は日本にとって戦後米国から押し込められた呪縛からの解放にむけた勇気の象徴として、過去の鬱積が晴れる勝利と言っていい。一方米国にとっては表面的には「取りこぼした金メダル」の一つに過ぎないかもしれない。しかし敗戦後に奇しくも米国人解説者が日本の勝利を「奇跡」という言葉で表現したが、日頃は奇跡を前提しない米国が自ら一スポーツイベントに過ぎなかった80年のレークプラシッドでのアイスホッケーの対ソ連勝利を、どん底にあえいでいた国威の向上への奇跡の転換点として今は評価している事をもう一度触れておきたい。そして私には、その絶対性において米国ソフトボールの代表チームは80年のソ連アイスホッケーの代表チームにも匹敵する。80年、奇跡を超したのは米国の若者だ。そして今回、その米国に対して奇跡を起こしたのは日本の女性である。

80年のミラクルの後、米国はレーガン政権を経て頂点を極める。逆にソ連は直前のアフガニスタン侵攻が結果的に国力を弱め、崩壊へと向かって行った。はたして国威と奇跡のスポーツイベントとの因果の歴史は繰り返すだろうか。繰り返すとしたら、やはりこの金メダルの意味は重い。「ウエノ」は米国人の記憶と日本の近代史に残る女性となろう・・。

2008年8月20日水曜日

<今日の視点>資本主義という競技

マイケルジョーダンとタイガーウッズとデビットベッカムとロジャーフェデラーを足した男・・。世界にそんな男がいるのなら、ぜひ会ってみたいものだが、この表現は中国に莫大な投資をした、NIKE, コカコーラ、マクドナルド、VISAというグローバル企業の「劉翔」への「商品評価」である・・。

本日のNYTIMESはスポーツ面とビジネス面の両方で劉翔がレースを棄権した事のインパクトを取り上げた。記事を読むと、まず先日の「今日の視点」で彼を安易に取り上げてしまった自分の認識が恥ずかしい。私の認識は完全に間違っていた。なぜなら、中国選手の金メダルラッシュに加え、開会式への評価等、今のところはこの米国内の視聴率も含めて中国当局が意図した事は大成功と思えた。だが一般の中国国民の感情面では、其の全ての賛美が一瞬にして台無しになるほどのインパクトを持って劉翔の棄権は受け止められている事が記事からは判ったのである。

そこまでのエネルギーの蓄積と中国人12億の劉翔への期待のはどう表現したらよいのか。強いて言えばアテネ五輪直後はまだ40ドル弱だったOIL市場に世界の流動性が殺到し、その後の4年で150ドルまで到達してしまった様なモノだろうか。そして奇しくもOILの200ドル到達が現実的になった瞬間に市場が崩落した時節と呼応し、劉翔も崩落してしまった。ただOILも劉翔も其の価値を決めたのは本人ではない。勝手に周りの人間が盛り上がったのだ。 そしてそれを演出したのはWストリートであり、また前述のグローバル企業である。

しかしこれが資本主義の駆動力の原理だ。従って現時点で批判してもはじまらない。ただこの資本主義のゲームで勝つためにはそのゲームにおいて潮目のタイミングを計る冷静な感覚が必要だ。そして其れはWストリートやグローバル企業は提供してくれない。なぜなら彼らもこのゲームへの参加者だからである・・。

<今日の視点>五輪候補地、東京辞退の勧め。

前回北京五輪はナチスドイツが威信をかけて開催した36年のベルリン大会に時代背景が似ている事を紹介した。ちなみにベルリン後、40年の開催地に決まっていたのはロンドン。そして44年に決定していたのは東京であった。しかしこの2大会がどうなったかはご存知の通りである。(延期)

グルジアのサーカシビリはコロンビアで学位を取得した後、NYの弁護士事務所で働いた男。よってこのタイプの人間が母国で政治家として実権を握った場合、其の国がどういう状態になるかは日本人にも馴染み深いだろう。結論からするとグルジアと米国の関係上、五輪開催日当日にグルジアによるオセチア侵攻を米国が知らされていないはずがない。また其の関係をロシアが意識していないはずはない。よってここまでは想定された劇である。ただ問題はこの後だ。

そんな中でパキスタンのムシャラフがいなくなる。仮にブッシュ政権に時間が残されていれば、米国はムシャラフ退陣を全力で阻止しただろう。日本のNEWSでは米国は国内で人気のないムシャラフを既に見切っていた様な解説もあった。だがそんな事は断じてない。毒には毒もって制するではないが、あんな国を曲がりなりにもコントロールできる毒はムシャラフしかいない。それは米国が一番知っている。ただ現政権には時間がないのだ。

想定されるパターンの続きを言うと、いずれイスラエルとイランで何か起こり、イランと親密な関係を築いているロシアがそれに絡む。するとグルジアからコソボにかけてのバルカンでも何かあるだろう。ただそれでもそこまでは知略戦略のゲームとしてスマートマネーは準備しているはずだ。ただ問題はパキスタンがアフガニスタンのような魔境になってしまう事。其れは影で世の中を動かす悪いやつらでさえも望んでいない。なぜならアフガンの奥地には金も地位も名誉もいらない赤穂浪士のような恐ろしい連中がいる。そんな世界がパキスタンに広がり、五輪後、緊張から流動化へと向かうはずの中国までも足を取られたらどうなるか。 さすがにそんな事態を最早ゲームとは呼べないだろう。

いずれにしても縁起が悪いので、東京の五輪立候補は辞退する事を石原知事には進言したい。なぜなら北京の後、ロンドンから東京への五輪のバトンは不吉だ。この北京を平和な時代の最後のオリンピックにしない為にも・・。

2008年8月19日火曜日

<今日の視点>美しい引退と哀れな引退

CNBCによれば、中国の劉翔選手はこのまま引退する可能性が高いという。既に十分金は得た。金は得たが生活は国家に管理され、恋人も禁止だったという。要するにアテネからの4年間、彼は北京五輪の成功と、飛躍する中国の象徴として国家による国策のロボットだったといってもよい。そして北京での中国の飛躍が確認された今、彼らの役割は終わったのだろう。いずれにしても彼が円谷選手の様な悲劇に陥る必要はない。

さてその意味で日本のマラソン選手の今後はどうなるのか。言うまでもなく、日本人にとってマラソンや駅伝は特別な競技だ。国技のような人気があり、金メダル選手は国民栄誉賞候補になる一方で期待を裏切ると中国ほどではないがマスコミも冷たい。ところで、日本人がマラソンや駅伝を競技として好きな理由は、競技の特徴である「忍耐」と「自己犠牲」が日本の国民性の中でも重要な価値観であるからなのは言うまでもない。そして其の国民性が支えてきたのが日本の戦後の会社組織だ。

先週のエコノミスト誌は其の日本の国民性が市場原理が台頭する中で古臭い時代遅れのような扱いを受け、国民が自信を失った90年代に架空の世界でガス抜きの様な役割で人気を得た漫画の主人公の「島耕作」が終に社長になった事を紹介している。ただ記事の内容は一部報道で紹介された現実の日本の経営者も「島耕作」を見習うべきという内容にはなっていない。弘兼氏が描く「島耕作」が現実の日本ではあり得ない事はエコノミスト誌も十分承知している。

現実の日本では、王や長島が活躍したプロ野球を見ながら、五輪では柔道の結果に一喜一憂していた頃が実は会社組織の生産性では一番活力があったのではないかと最近感じている。そして90年代からはグローバルスタンダードに従って市場原理のシステムを取り入る時代に突入したが、日本人の駅伝やマラソン競技に対する趣向は変わらなかった。其処にある意味での矛盾が存在する。

その意味では日本の社会が世界と競合する上で目指すのは「島耕作」ではなく「北島コウスケ」型ではないか。北島はマイケルフェルプス一色の米国NBCが、100Mの後、星条旗が全く掲げられない表彰式で(銅メダルまで米国人がいない)君が代を伴奏にメダル授与のシーンを最後まで放映した希少な選手だ。そしてその北島は日本人が得意な「美しい泳ぎ」で「速さ」というグローバルスタンダードを制したのである。また、体操ニッポンもその意地と片鱗を見せたが、メダルは筋力だけで争うものではない。実は実業も含めて日本の目指す姿はここにヒントがあるのではないか。

そんな中あの清原の引退表明は物悲しい。彼はグローバルスタンダードを目指して米国に渡米。その後体型が明らかに変わった。その変化はトロントで活躍した頃の痩身マクガイヤーが、サミーソーサとホームラン競争した頃は全く違う体型になっていた変化と全く同じ変化だった。しかし清原の晩年、其の体はボロボロで哀れだった。何が原因だったかは想像に容易い・・。

2008年8月16日土曜日

<今日の視点>五輪CMの正しい見方

五輪報道を独占するNBCは放映権に860M、そして系列のCNBCとMSNBCまで含めた大船団を派遣して番組を中継する制作費に100M、合計1Bの投資をしている。安くはない。ただそのかいあってここまでの視聴率はアトランタ以来で最高である。そしてその中心が言うまでもなくマイケルフェルプスだ。ただ彼も後二日で競技を終える。その後も視聴率を稼げるかどうか、陸上やバスケットなど、米国人が興味を持つ競技での活躍が鍵になるだろう。

さてそのオリンピックが始まってからNBCでは朝夕の看板番組の「TODAY」「NIGHTLY NEWS]のスタッフも全員北京入りし、そこから毎日のレギュラー番組を放映している。また日曜はあの「MEET THE PRESS」でさえも、急死したTラサートの後を受けたトムブロコー氏が北京から国内政治の討論をしている。ここまで来るとさすがGEとでも言うしかない。

NBCの親会社はGEだ。そしてGEは米国企業として中国の根幹に脈々と楔を打ち始めているのは言うまでもない。更にここでNBCが米国内へ中国文化の宣伝を大々的に担当する事で、今後の米政権がだれであっても、また新しい議会がどこまで反中国になっても、GEが米国企業として中国に多大な協力をした事実は残る。個人的に中国はこの種の恩には報いると見ている。従ってNBCの1Bの投資はGEの世界戦略には安い投資だったのかもしれない。

ただそうは言っても今回NBCがチャージするCM枠は高額だ。よってその枠の購入者はコカコーラなどの優良企業が多い。しかし1社だけ格付け機関からサブプライムと同格のジャンクの格付けを承った会社がある。言うまでもないGMだ。そのGMのCMは美しく、演出としては見事。そしてその美しいGMの象徴として演出の中心に据えたモデル車はGMが今年コンセプトカーとして発表したクリーンエネルギー車だ。

このCMを見るとGMは直ぐにもエコ車を大量生産できる最先端のメーカーの様な錯覚に陥る。しかしそれは錯覚。だからGMは今ジャンク扱いである。私自身トヨタのハイブリットにのっているので今の米国のハイブリット車の環境を知っている。その意味ではこのGMのCMは詐欺だ。なぜならGMはBIG3 の中で最もエコ対応が遅れ、CMの演出と事実がかけ離れている。フォードはプライドを捨ててトヨタから重役を引き抜き、エンジンは真似て取り敢えず4車種にのっけて走り出した。しかし評価は惨憺。まず生産が追いつかない。そして、どこのショーウインドにも実際はハイブリット車がない。これも詐欺だ。そして一番の問題は、BIG3はハイブリットに問題が出た場合、それを直すメカニックを十分確保できていないまま走り出してしまった事だろう。

そもそも米国ではハイブリットで先行したトヨタですらまだ専門技術者の養成は不十分。トヨタはハイブリットを直せる技術者をデイーラー間で巡回させている状態である。フォードはトヨタの現地経営陣を何人も高額で引き抜いたが、高度な技術を持ったメカニックまでは手が回っていない。そんな中でトヨタを脅かすのはホンダである。ホンダは先月からカリフォルニアで200台の水素カーのリース販売を開始した。昨日CNBCではその試乗リポートを中継したが、シカゴでBIG3も担当するリポーターは実車してその性能に驚嘆していた。

さてGMはCMの主役の未来カーを2010年からの販売予定と態々CMで流している。しかしホンダが「水素カー」を600ドルで貸し出した今、いつ生産ラインにのるかも判らない「コンセプトカー」をCMの主役にすえなければならない現実がGMの苦境を物語る。ただその一方でGMは中国で結果を残している。またGEと並んでGMも米国の国益を代表する会社である事は間違いない。

いずれにしても優秀な技術者の血脈が生きるトヨタとホンダは今後も商品開発力では負けないだろう。ただこの北京オリンピックを政治も含めた壮大なビジネスチャンスとしてポンと1000億円を出すような米国企業の度量が日本のメーカーにはあるだろうか。残念ながら技術力だけで世界を制覇した歴史はない。GMの詐欺的CMを見ながらも実はこれも採算が合うのかもしれないと感じている。

2008年8月14日木曜日

<今日の視点>平和の祭典の意義

北京オリンピックが始まり、私も含め皆の関心はイランよりも金メダルの行方になった。しかし突如グルジアが始まったと思ったら、本日にはブッシュは米軍のグルジア派遣を発表した。ただこの状況にもかかわらず、自分を含め、世の中は今起こっている事と、映画やTVのゲームの世界との区別ができていない様子である。

無理もない。平和が続いた為、先進国の「戦後生まれ」が知る国威の衝突といえば、精々平和の祭典としてのワールドカップかオリンピック程度。従って「北京」に熱中している今は尚更平和の象徴である五輪と現実に起こりつつある悲劇への入り口の危機との区別がつかなくなってもしかたがない。そしてそれを一番象徴しているのは金融市場の動きだ。

そもそもサブプライムがあっても「金余り」に変化はない。その中でどうやって更に金を儲けるかが市場参加者にとっては現実問題。それはそれで真剣勝負だ。従って自分のポジションリスクと人類の悲劇のリスクが交錯していても、其の違いを認識するのはDNA的にも難しくなっている。言い換えれば、勝てば儲け、負ければ損の世界と、勝てば生、負ければ死の世界の違いが実感できないのだ。そうでなければグルジアも相場の材料でしかないかの様にCNBCに出演している米国の市場関係者があんな笑顔でいられるはずはない。この顛末を市場が本当に織り込み始めた時に市場はどんなパニックになるか。実はそれもゲームとしての刺激程度にしか感じられない己自身の終末も近いかもしれない。

だが最後に一つだけ言っておこう。冷戦が冷戦で終わった一番の理由は何か。それは冷戦時代の国家のリーダー達は第二次世界大戦を経験したからだ。だから最後に悲劇を避ける人間としての感覚が抑止力なった。果たして今の指導者にその感覚があるだろうか・・。

2008年8月12日火曜日

<今日の視点>オリンピックの正しい見方。其の3

米国が今回その威信をかけて絶対に金メダルを取る意気込みで送り込んできたのはバスケットボールの代表チームだ。このチームと比べれば、野球の米国代表チームは学生レベルといってもよい。そのバスケットボールの初日、会場にはブッシュ親子がいた。彼等は中国を相手に前半は緊張気味の自国のドリームチームを不機嫌そうに見ていた。ただカメラは同時にブッシュ親子の真後で目を半開きにして明らかに寝ている老人の姿もとらえた。その老人はキッシンジャーだった。

キッシンジャーが現政権の政策に口を挟んでいるとは思えない。だが考えてみれば彼が政権中枢にいたニクソン以後も世界はこの老人の影響を受けてきた。その彼が今も関係が深いと言われているのが「ネオコン」である。そしてそのネオコンとグルジアのサーカシビリ大統領はソ連崩壊から親密な関係である事は言うまでもない。

そもそもネオコンの主張の全てが濁っていると言うつもりはない。なぜなら民族の分離独立と自由自決主義は民主主義の大枠に入る。ただこの純粋な思想がキッシンジャーに代表される純粋から最も離れた国益策謀の中心グループと交わると、米国の行動パターンは世界に様々な副作用を及ぼす。

振り返ればブッシュ親子は大統領としてのエネルギーの大半がイラクと中東に注がれていた。だが、彼らに纏わりついたネオコンにとってはその理想が世界に拡大する順序において中東もバルカンも大差はないはずだ。そして大統領が交代していっても米国の国益、或いは米国という傘を通して自己利益の増殖を図る人々にとっては、大陸各地で発生する民族自決による摩擦は常にチャンスの芽も含んでいるのである。今回もその絶好の機会が突然やってきた。そして、もしかしたらこれはブッシュの次に政権の重大なテーマとして働く可能性さえある。

ところで、視点では何年も前から次に米国経済が悪化した場合、FEDによる金利調整は効果がなく、予想されるドル安の過程で米国はむしろ世界の混乱を望むだろうと主張してきた。ただそれは一つのパターンを紹介したに過ぎず、私自身も実際にそうなると確信した訳ではない。ただ今回の程度で簡単に弱点を露呈するユーロと、その結果手に負えなかったOILがいとも簡単に鎮火していく市場の本質には改めて驚嘆する。ただ株が上がるのは金余り中で皆がスプレッドのポジションを持っていたからである。基本的にはOILが下がっても住宅の価格は戻らない。よってスプレッド解消のショートカバーが終了すれば、株は自ずと調整過程に戻るだろう。

そういえば80年代にまだ矍鑠としていたキッシンジャーをホテルオークラで何回か見かけた事がある。もしかしたら一昨日、心配そうに母国のチームを見ていた単純なブッシュ親子の後ろで恍惚の様で寝ていた彼は、実は現代の妖怪としての面目躍如の姿だったのかもしれない・・。

オリンピックの正しい見方、其の2

こちらでは野球が山場を迎えつつあり、そんな中でアメフトのプレシーズンもスタートした。従って他に見るべきスポーツが沢山ある米国人にとっては、オリンピックへの注目度は日本人の1/3程度だろう。

ただそれでも今年は北京と言う事もあり、また独占中継するNBC並々ならぬ力の入れ様でそれなりの視聴者を呼んでいるはずだ。そんな平均的米国人もあの開会式には驚いた。それは現代のスポーツ中継の第一人者であるボブコスタ氏の開会式中継での驚嘆ぶり(組織力と見事な演出に対して)素直に物語っている・・。

そういえば、ここで何度も紹介したテレビ番組「ソプラノス」の食事のシーンで、主人公のバカ息子が、スパゲッテイーを食べながら、「パスタは中国人が発明したって本当?」と聞くシーンがある。

トニーは何も答えずにそのエピソードは終わる。一般的西欧人はその文明の起源から現代までの発展の流れを「ギリシャ」「ローマ」「大航海時代」「大英帝国」「米国」と考えているとみている。途中発生したイスラムの台頭や一時的だったモンゴルの脅威は禍だったとして無視し、キリスト教の優位性を観念的に信じ込んでいる。

その意味で中国の存在は「トニーのバカ息子」に代表される大半の西欧人にとっては未知だったといえよう。しかし経済的と軍事力の台頭や将来は、地球環境の破壊者として場合によっては西欧文明にとっては必然の禍、悪者に変化していくリスクを感じ始めている。

しかし、西欧が優越感を覚える一方、羅針盤等の航海技術を発明したのは中国だ。実際ガマやコロンブスが航路や新大陸を発見する100年前に明の鄭和は大船団を率いてインドやアフリカまで既に到達している。鄭和はそこで漢民族の文明の優位性を暴力や宗教で押し付ける事なく、現地の文明を尊重し友好関係を結んで帰国した。

NBCは競技の中継の傍ら、食文化の紹介などの興味本位の中継に力を入れている。ならばせっかくなので米国は中国の歴史にもう少し時間を割いて中継した方がよい。それが世界平和と米国の未来の為にも有益であろう・・。

2008年8月8日金曜日

オリンピックの正しい見方

表面的には世界はまだ平和で、WTOの破綻は暗雲だが、様々な金融取引上のルールは機能している。よって通貨の価値は経済指標や中央銀行の政策次第で左右されている。そんな中でこのところのドルの優位は米国内の理由というより、それ以外のグローバルスローダウンが原因である事は誰もが知っている。ではこのドル高がそのまま米国の国力優位性を証明するかどうか、経済指標や中央銀行を注視するのもいいが、せっかくなのでオリンピックのメダルで占ってみたい。

報道からは、オリンピックにはそれ程は入れ込んでいない標準的米国人も、静かに金メダルとメダル総数という「国威」には少なからず興味を持っている。ズバリ、彼等の関心は今回はメダル総数で米国が中国に負けるかどうかである。

そもそも近代オリンピックの歴史は1896年のアテネに始まるが、初期の頃は開催国と米国がメダルを競っていた。だが、ヒトラーによる国威向上政策が今回の北京に似ている36年のベルリンでドイツがメダル総数で優勝したのを最後に、戦後のメダル争いは米ソの冷戦をそのまま反映する時代になった。

そして冷戦終結後のバルセロナを境にその時代も終わった。96年 2000年 2004年の3大会は、米国がメダル総数でも優勝を重ねてきた。しかし前回のアテネでは、金メダル数では中国が米国との差を4まで肉薄し、今回は復活したロシアと共に米国を打ち倒す事を狙っている。

米国が勝てばまだまだドルの時代は続き、ドイツが頑張ってしまうとユーロへの流れが戻る。そしてロシアが勝てば、OILに代表される資源本位性がまだまだ大暴れする事を覚悟しなければならないだろう。ただ中国が勝てば個人的にはどうなる解らない。(強いて言えば環境破壊が進む?)ただ解らないという事はより混乱する時代になると考えている・・。

不祥事とプライド

昔在籍した日系大手証券では2回の不祥事を経験した。会社は大打撃、社長は交代した。2回目の不祥事の際は既に米国法人への駐在員だったが、同時に起こっていた金融再編の大波の中、国内畑ではない新社長は迷わず外資との提携を選択した。

2度目の不祥事で、本流である国内営業出身に社長候補がいなくなった事がその後の自分の人生にも多大な影響を及ぼした。なぜなら、この時点で国内営業出身が再び新社長になっていれば、親密な財閥グループとの関係を無視して外資との提携に突っ走る事はなかったと考えるからだ。

その場合は自分は駐在任期の5年前後で普通に帰任してはずだ。そして今頃はどこかの証券会社の営業店で働きながら、米国の政治経済とは無関係な静かな人生を送っていた想像する。

さて米国でもウォール街は2002年の不祥事に続いて2度目の不祥事に揺れている。これはサブプライムによる資産悪化とは別の角度からの打撃だ。十分な商品説明を怠って販売した債券の買い戻しを余儀なくされたCITI株は下落。また本日は途中まで頑張っていたダウ平均もAIG社(米国の大手保険会社)の格下げ伝わると底が割れた。そして引け後にはメリルが債券の買い戻しを決定。CITIに続いたのである。

CITIとAIGそしてメリル。この3社は米国のサブプライム問題のビッグ3だ。以前ここではなぜこの3社のサブプライムの金額が突出したか、その持論を述べた。復習になるが、この3社は2002年の不祥事で永く君臨した中興の祖ともいえる会長が全員あのスピッザー(元NY州司法長官)によって辞任に追い込まれた。そして混乱の中で急遽後継者を選ばなければならないというパニックに落ちた点が共通していたのである。不祥事では他の金融機関でもトップの交代はあった。ただ長期に渡り絶対的権限を持っていた「老人」が後継者を指名しないままフォースアウトされたのはこの3社だった。

ところで、今回の不祥事が一番響くのは個人的経験からはメリルだとみる。なぜなら本日メリルはCITIに遅れて顧客からの債権買い取りに応じる事を決定したが、CNBCによればその理由はサイン会長の判断ではなく、支店のブロカーによる突き上げが本社に向けてあったからだという。

当然だ。CITIは買い取り応じたが、メリルは応じない・・と言う事態は歩合セールスのメリルのブロカー群には許されない。今回の不祥事がメリルに一番影響与えると考えた背景は、再建の手腕を期待されたサイン会長はどうやらメリルの強さの泥臭いリテールビジネスへの感度が鈍いからだ。

一方サイン氏は40億円を前金で払いGSから大物を雇った。大物はメリルでの職務が自分のイメージと違う場合、支度金の返還なしにいつでも辞められるオプションを貰ったという。こが力を発揮すればよいが、そうならなかった場合の会社の求心力はどうなるのだろうか。

2008年8月6日水曜日

インベスターの胆力

元々この仕事をする上で顧客には自分の考える「インベストター」と「トレーダー」の違いを整理してから接するようにしている。ただ顧客側は期間中のパフォーマンスという競争の中にあり、殆どケースでWバフェットの逸話の様な長期のインベスターの観点は役に立たない。

そして、インベスターとして重要な要素と考える「信念」と「平常心」の維持の心の力において、「この人には絶対に勝てない」と感じた日本人がいる。ただその人は相場の関係者ではない。あの松本サリン事件の河野義行氏だ。そして昨日、彼が看護した奥さんが亡くなった。

重要な要素とは、マスコミも含めて周りが全員敵と言う中で、慌てず、焦らず、淡々と信念を貫く胆力である。無実だったとはいえ、河野さんは冤罪疑惑や愚かな群集心理に取り乱すこともなく、冷静に対処していた。彼が顧客だったら一緒にいい仕事ができるだろう。

ウォール街のヒロイン

朝からCNBCに例のオッぺンハマーの金融アナリスト、メレデイスホイットニー女史が出演している。そして彼女は、「誰もが想像していないペースでこれから米国の住宅価格は下がる」と、いつもの歯切れのいい分析をしている。

ところで彼女はフォーブスの最新号の表紙になった。理由は、多くのアナリストが楽観論を言っていた昨年、彼女の分析、特にCITIに関しての悲観論が現実になってしまったからだ。そしてこの光景と同じモノが6年前にもあった。

当時はメリルとCITIを中心に、アナリストとインベストバンキング部門の不正/癒着がスピッザー前司法長官によって糾弾されていた。その時、民間アナリストで事前に、WSの巨人と言われたCITIのワイル会長を批判したのがサリークライチェフ女史だ。

当時の彼女は大手に属さす、独立系アナリストとして中立の立場でウォール街を見ていたのである。結果、今のメレデイス女史と同じ様に、フォーブスで正義のヒロインとして特集となった。

その後の展開は有名。ワイル会長は自分を批判した彼女を重役でCITIに迎え入れた。彼女を迎える事で、CITIのクリーンさアピールする戦略に出たのだ。そしてサリーはそのままCITIに入った。だが同社は立ち直るどころか凋落を続けている。

要するに批判する事は簡単、だが傾き始めたタイタニック号を戻す事は至難の業であるという事。当然そんな事はワイル氏が一番知っていたはず。しかしピンチにそんな見せかけの人事で切り抜けようとしたなら、あの時にワイル氏と同時にCITIの命運も終わっていたのかもしれない。

ところで、今タイタニックは米国自身である。ただ3等船室の庶民は本当は何が起こっているのか知らされていない。よって事態が彼等にも明らかになると、船内ではパニックが始まるだろう。そしてそのパニックになった米国人は救済者としてオバマとマケインのどちらかを選ぶ事になる。

その際のマグニチュードがマケインとオバマのどちらに味方するかまだ解らない。だが、どちらがなっても米国は歴史的なコストを払う事なく立ち直る事はないだろう。

2008年8月2日土曜日

マヤの黙示録

本日は「皆既日食」だった。「皆既日食」で思い出すのはメルギブソンが2年前に製作した映画APOCALYPTOである。お勧めする程の秀作ではない。だが、それなりに話題にはなった。

映画は「マヤ文明」を模した中南米の一大文明が、欧米人の襲来で終局を迎える事を暗示して終わる。その暗示が「黙示録」即ちAPOCALYPTOというタイトルだ。

この映画では、マヤ族?に捕らわれた主人公の部族の男達が儀式で次々に首を切り落とされる場面がある。その順番が主人公の青年になった時、突然「皆既日食」が起こる。神秘的な現象を「暗示」と受け止めたマヤの王は、その瞬間に生贄を殺す事を止め、主人公は助かる・・。

この映画が公開された頃からだろうか、欧州の一部や米国では改めてマヤ文明に興味持つ人が増えたという。同時に、マヤが繁栄したとさえる5~10世紀に、彼らが天文学に通じ1年を365.2422日として計算した暦が残っていて、その事実から彼等の特殊な才能に興味を持つ人が増えた。

暦はシーザーがそれまでの太陰暦を、1年が365日の太陽暦に変えた。そして彼の名前を冠したユリウス暦が現行のグレゴリオ暦になったのは1582年の事だ。1582年前後のヨーロッパはまだガリレオが天と地球のどっちが周っているかの議論をしていた時代。

それを考えると、それよりも何百年も前に現行暦と同じに1年を365.2422日と正確に割り出していたとされるマヤ文明は確かに神秘的というより不気味でもある。そしてその不気味なマヤが残した暦が2012年の12月22日前後に終わるという衝撃の事実で、一部の人は人類の未来にも不気味な事を言うようになった。

いずれにしても、2012年まで何とか生きて確かめたい・・。

2008年8月1日金曜日

ブルーンバーグの僕(しもべ)

NYのブルーンバーグ本社からチャートの専門家がプロモーションにやってきた。ブルーンバーグに登録して15年経つが、実はこの端末を殆ど使っていない。従ってブルーンバーグではメールも打てない。チャートは10年以上CQGを使ってきた。その専門家が真にその人だが、2年前にCQGから優秀な大勢がブルーンバーグに引き抜かれ、チャートを描く多機能も今では完全にCQGを凌駕している事が本日確認された。

ブルーンバーグが保有するデータは膨大だ。このデータを自由に端から端までチャートに変えていければ非常に便利である。そこで興味があって彼等に聞いた。指標と同時に同社の端末から自動的に発注するシステムをNYではどの程度の人は使っているか?彼らでは解らないという。だがそのシステムを開発したのは顧客の要望に応えての事との話には驚いた。

そもそもブルーンバーグは最新のナビゲーションシステムの様なモノだ。前回の東京出張でも全てのタクシーがナビを備えていた。ナビの利便性は誰も疑わないし、コレがあれば東京の道を知らない自分でも明日からタクシーの運転手ができる。しかし自分は今の仕事を続ける限りこ、れからもブルーンバーグの愛好家にはならないだろう。なぜな、ら益々機能を充実させ世界を制覇していく同社の端末はあまりにも便利な為にその端末だけの世界で大体の事が済んでしまう。しかしそれはリスクだ。

今市場参加者はブルーンバーグを通して膨大なヘッドラインは瞬時に入手できる。ただあまりにも膨大な情報が手に入るためか、無意識のうちに我々は情報の本質を見抜く力を失ってきた。表面的には感じない寧ろ充実感さえ感じる錯覚と知識のスプレッドの拡大。真の情報は思考力を経て真の知識に変わるはずだが、この過程を省く利便性は実は静かに人間の思考力の退化につながると私自身は考える。

そして今は指標の数値次第で発注まで機械に任せる時代。これでは最新のナビを備えた車に自動運転装置がついた様なモノ。最早運転中も起きている必要がない時代になった。気の小さい自分にはそんな事は出来ない。もし可能だとしたらそれはトレードが命がけの勝負ではなくゲームである瞬間だけだ。ただもしかしたら市場はいつしか命がけの真剣勝負の場所から実はゲームの場所になっていたのかもしれない。いずれにしてもそんな時代にはブルーンバーグを使っているつもりが、実は「使われているかもしれない人」が世界にはかなりいるはずである・・。