2015年12月31日木曜日

勇気の代償 (真マネー原理最終号)





< 限界の予兆とthis is itの始まり >

日本では来年の相場予想でN字型が流行っているという。年初上がり、夏場に下がり、年末にかけて再び上がるという展開・・。
この平和的期待を大切にしつつ、個人的に米株指数は小文字のnを想定している。そこでは年初から利上げの影響で下がり、3月ぐらいから「緩和期待」で持ち直す。(当然追加利上げなどない)しかし大統領選で今後の米国の方向性が出る。

大統領選で米国が選ぶのは、協調 慈愛 自己犠牲のヨーダか(Light Side)、それとも、恐怖 怒り  殲滅 のダースベイダーか(Dark Side)。どちらにしても、近年のグリットロックとモラトリアムが終われば一旦米株は下落すると考える。(ただしダースベイダーなら復活は早い)


< 超長期の覇権国家のチャート >

ところで、2012年に紹介した、ダグラス・ショート氏のSP500超長期移動平均線は今どうなっているだろう。氏のサイトにアップデートはないが、紹介した頃、戦後では、70年代後半に一度あったデットクロスの危機が再来していた。






その危機を乗り切ったのは、言うまでもなくバーナンキFEDのQE。「どんな手段を使っても」は通貨安戦争の宣戦布告だったが、日本が対抗処置に出たのは政権交代後。今年バーナンキはCourage to Act という回想録を出した。

Courage to Act (行動する勇気)。グローバルなシステム危機への緊急対応だったQE1と、日本型デフレへの予防的対応だったQE2。そしてあからさまなオバマ再選への応援だったQE3を、同列で評価するのは時期尚早。なぜなら、歴史の呪縛へのFEDの対応力にはやはり限界が見えてきたからだ。この影響はこれから。バーナンキの勇気の評価は、その後でも遅くはない。

戦争を知らず、冷戦も知らず、利上げも知らなかったプレーヤーには、中央銀行神話は磐石。ただFEDのメッセージを額面どおり受け取っても、最早そこに正解はない。市場を誘導するアルゴのシステムに赤い血は通っていない。そして青い血?を持つボラの演出者たちは、どんな状況でも自分は負けないリグを考えている。(この場合のリグはイカサマという意味ではなく、もっと大掛りなグローバルマクロのストーリー)

そろそろそんな市場の内面も暴かれようとしている中、(バイバックとGAAP会計を採用しないシリコンバレー)警戒感で金融引き締めに踏み切ったなら、まずは拡大したFEDのバランスシート縮小からはじめ、その後利上げするのが順序だったはず。(やった事のリバースならこの順序)しかしイエレンには、そこまでの勇気はなかったと思う。

流動性はそのままなら、下がる資産に追い討ちをかける動きはこれからが本番。オイル、ハイイールドに特化し、逃げ遅れたヘッジファンドは死ぬことになるが、だからといってリーマン時のような、主要金融機関が連鎖的システム危機を起こすことはない。

イエレンはもう相場の女神ではないが、一方でマーケットが突然死する可能性は低い。結局ボラそのものが売買の対象で上下運動を繰り返すことになる。ただしそれだけでは添付のチャートは、来年のどこかでまたデットクロスの可能性がでてくるだろう。ではどうする?


<大統領選で何が重要か>


ブレトンウッズまでの米国。そこでは3回あったデットクロスの危機(青塗り部分)は、米西戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦と重なっている。戦後は大きな需要に繋がる世界戦争は起こらず、代わりにニクソンの時代に、出身母体の共和党を震撼させたドルショックがあった。

いまだに金本位制信奉者が多い共和党へのニクソンの裏切りは、民主党から財務長官を選んだ彼の稀有な合理性だと思う。(因みに片腕扱いのキッシンジャーも共和党だったわけではない)カーター時代、その悪影響(インフレ)を我慢した米国は、レーガンの登場と、そのタイミングでソ連が限界を迎えていためぐり合わせで米国は冷戦に勝った。

個人的にこの感激を覚えている。そして証券マンとして、その後のユーフォリアに向かう米国を、現地で目の当たり出来る人事異動を経験した(シカゴ赴任)同時期、米国で学んだ日本のエリートたちは、そのビジネスモデルや金融の仕組みを、帰国後の日本で試すことに向かった。ただ米国の成長がクリントン政権の終わりで転換を迎えた事を知らないまま帰ったはずだ。

ブッシュ政権になり、2004年から株価が復活した。最初は米国の底力のように感じたが、冷静に振り返ると、減税とイラク戦争の裏で、レギュレーションが過度に緩み、主要な金融機関にオーバーレバレッジが発生したからだった。住宅がらみのいろんな証券が信用取引で上昇し、(リーマンは60倍)1999年に買った自宅も、2006年には2倍近くになっていた。

ただし利上げが加速し、コナンドラムだった長期金利が正常なカーブを目指すと、あっという間に住宅バブルは崩壊した。この経験から断言できるのは、リーマン前と比較しても成長力が衰えている今、イエレンFEDの利上げで、いずれはイールドカーブが立ち、米国経済は健全な成長性が実証されるという強気論には整合性がない。この理論が正しければ、リーマンショックはもっと後か、あるいはFEDがQE2に踏み込む前に、成長力は回復していなければならない。

そして今回のイエレンFEDの利上げで思い浮かんだのは1937年の展開。大恐慌の後、一度株は戻った。しかしFEDが引き締めに転じた1937年を境に再び急落。そのままアーセナルデモクラシーの出番になった。それを踏まえ、QE効果の時間切れが迫る今の米国にどんな手段があるか。まずは大統領選挙。


添付は、ブラインダーなど民主党応援団の金融の重鎮が宣伝用に造ったもの。アノーマリーが好きな若いリベラルをヒラリー支持へ向かわせる効果はある。だが歴史的背景をみれば、民主党の大統領時に株が上がるのは、共和党の大統領が、市場原理を優先、その任期中に挫折していることが多く、後を受けた民主党大統領の救済政策が許される環境がこの国にあったからだ。

これがバフェットの言う米国のゴルフ理論。(米国は右と左の林へ交互に打ち込んでフェアウエイにはほとんどいない、だが着実にピンに向かって進む)では、かなり左に打ち込んだオバマの後、次に米国はどちらへ打つのか。また左でいいのか。ずっと事例にしているスターウォーズの仕分けは勿論感覚的イメージ。実際は単純ではない。

トランプがもし大統領になれば、ニクソン以来、最もリベラルな政策を打つ可能性を保守派は心配している。中には今度こそ共和党の崩壊に繋がると、トランプ暗殺論まである。一方民主党の本命のヒラリーの生まれ育ったパークリッジは、禁酒法が終わっても80年代まで頑なにレストランで酒の販売を禁じた特殊な町だ。彼女は共和党だった。(自分もこの町に15年住んだ)

この二人以外の候補者も、今は①ナショナリスト②グローバリスト③モラリストに大別されるが、③以外はイランとの戦争を否定しない。(代表例①トランプ②ヒラリーやジェブ、ルビォやクリスティ③バニー、カーソン、ランデイポール、そして①と③を掛け持つクルズ)



< AIIB とIMFは、傲慢な米国議会への欧州からの警告 >


いずれにしても、このまま冷戦後の米国一国支配は崩れていくのか。米国にとっては盟友英国がAIIBに早々に参加し、中国通貨のSDR加入までサポートしたことは衝撃だろう。ただ本気の野望をうかがわせるフランスを除けば、欧州の同盟国はまだ様子を見ている段階だろう。

1902年に英国抜いて世界一のGDPになったとされる米国は、第一次世界大戦ではその軍事力で単独で世界情勢を決める存在だった。ところが議会がウイルソンが深く関わった平和条約を認めない横暴を演じ、結果次の大戦の遠因になったことで、欧州は米国の民主主義の限界がいつか露呈することを知っていたと思う。

そして今、圧倒的な軍事力を抱えながら使う場所がなく、一方リーマン後もっと酷くなった経済格差による米国政治の二極化は、英国と大陸欧州に、大きな恩がある米国に対し、これまでにない強硬な態度を取らせた。それが2015年のAIIB設立からIMFの中国元SDR承認の背景。

この事態を受けたオバマ政権は、ライアン新下院議長と上院のトップの協力で予算を通した。2016年の予算案には遅ればせながら2010年のIMF改革案を議会が承認する法案が入っていた。(だから手間取った)

この改革案で米国はかろうじて拒否権を維持したが、最早米国がIMFを自由にする力は残っていない。なぜなら米国が横暴な態度をとれば、対抗策として加盟国と欧州は、中国を軸とした新しい枠組みへ更に傾斜する脅しを米国に発動したからだ。

ただまだ中国の実力は米国の敵ではない。だがいずれは接近する。なら今の米国はどうしたいのか。ブッシュ政権で傷を負った米国を引きついだオバマ政権は、世界との協調の道を探り、それが元々の根強い人種差別感や経済格差とあいまって、「ダークサイド」による米国弱体化のプロパギャンダを助長させてしまった。(トランプのI want to make the country great againはレーガンの受け売り)

個人的に観て、本当は米国は弱体化などしていないが、このままでは、南北戦争以来の分裂の危機になる可能性はある。だがらみんなで力を合わせ、米国が圧倒的なその力を世界に示す機会が欲しい。そこで「ダースベイダー」は直情的な軍事力でインフレとインダストリーの復活を望み、一方「ヨーダ」もリベラル化が浸透し、米国がこのまま大昔のギリシャやローマになってしまう事は望んでいないので、今のうちにソフトパワーで新しいドクトリンを創ってしまいたい。



< それで日本はどうなるのだろう、米国から見た視点 >


そんな米国にとって欠かせないのが日本の力。TPPやCOP21においても、日本の技術力や知的財産をアメリカが自由に使えることは非常にありがたい。ただ前述の様に、国内政治の内部分裂による米国の機能不全を懸念し、同盟国英国はヘッジを始めた。

八方美人のフランスは、米国衰退のチャンスをじっと待っている中国やロシアと離れず、今度は絶対に負け組みに入るわけにはいかないドイツはまだ静観中の印象。そんな中、中国の脅威を妄想的に信じる日本は、米国の分裂の可能性など微塵も想定していないのではないか。

こちらのインド人ビジネスマンと中国とインドの経済成長競争で議論したとき、インド人がこぼした母国のディスアドバンテージに、政治の民主主義があった。

彼によれば、前提となるインフラでインドは中国にかなり遅れているが、何より、経済発展より先にデモクラシーを導入してしまったので、物事が進まないリスクが高い。投資家の視点ではモデイ首相の辣腕に期待がかかる。だがその勢いが国民に伝わらない空回りになった場合の反動はどうだろう。

同じようなリスクをアベノミスクの神通力が薄れてきた日本にも感じる。安倍さんは2014年末の選挙をアベノミクスを前面に出して勝利した。しかしその勢いで強引に通したのは、選挙公約には掲げなかった安保関連法案。

アベノミクスの効果が末端に届いていればよいが、そうでないと、参院選挙ではこの矛盾とアベノミクスの失望が同時に降りかかってくるはず。

日本の軍国化のため、ここでは安倍さんの長期政権を望んできた。(米国のポチを脱却するための軍国化であり、米国一辺倒のためではない)そのため自民党には米国の民主党と共和党を併せ持つ変節を堂々と断行して欲しいと考えた。(高橋是清のような変節、あるいは強烈な硬軟同時進行)

結局は平和国家の日本が、ヨーダ的、欧州的な金融緩和継続の政策を取りながら、一方で好戦的で予防的利上げも視野に入れた英米にくっついていく矛盾。ここを安倍さんが神技でマネジメントできれば、日本は輝きを取り戻すし、失敗すると基本的にDNAと政策が矛盾する日本の実情をしらない米国の投資家の反動は大きいと思う。(選挙に負けるケース)



< 2016年、グローバルポリテイカルマクロの本当の主役は誰 >


いずれにしても分水嶺の米国の大統領選挙。選ぶのは米国民として、その米国民の感情に影響を与える影の主役は誰だろうか。ここは日本から一番観えにくい部分。簡単な答えはISIS、プーチンや習金平の野望あたり。だが個人的には、原因を冷戦終結に遡る、今だ正当なイスラエル人になりきれない旧ソ連出身の100万人ユダヤ人の存在を挙げたい。

年末、NHKの新「映像の世紀」でさらりと紹介された旧ソ連出身のユダヤ人の存在。米国は飛び切り優秀な彼らを受け入れ、その能力を国力に活かしてきた。ところが、その流れは冷戦が終結に向かう過程で終わる。

米ソ雪解けムードのなか、最早政治亡命者というわけでもない大量のユダヤ人を、そのまま米国に受け入れることをレーガンとブッシュ政権は拒んだ。米国内ユダヤ系団体も政権に同調、ソ連崩壊前後で生まれた大量のユダヤ人は、米国を諦め、イスラエルへ入植した。

ところが、長年ソ連で旧来のユダヤ教の教えを押し殺して生きてきた彼らは、豚肉も食べるし、クリスマスも祝うようになっていた。結果本流ユダヤ人からは異端に写り、疎外感の中で政治的にはタカ派集団として、ネタニヤフ政権復活の立役者となった。

米国のユダヤ人は多くが優秀で穏健。タカ派シオニストの暗躍が示唆される昨今のウクライナやシリア情勢に対して冷静。過半数はイランとの核協議妥協は支持し、米国生まれのグーグルの二人やザッカーブルグなどは、平和主義リベラルの先頭を走っている。しかし古い世代には強硬派が多く、米国の対イラン戦略では急先鋒的な役割。

結局のところ、資金力で米国政治に多大な影響を与えるユダヤ系は、ダークサイドかライトサイドか。個人的にはまわだわからない・・


< 最後に、今更ながらの自己紹介と、これまでの読者への御礼 >



さて、この最後の長文を含め、これまで長々と、勝手に、偉そうなことを、遠慮なく、それも誤字脱字を校閲しない無作法で、恥ずかしくもなく、ここまで続けたこと、ずべて読者あってのこととして御礼申し上げます。

学生時代、金融には興味がなかった自分が、バブルが縁で大手証券に入社し、赴任した地方支店では幸運にも良い上司に恵まれ、バブルが崩壊する中、限界まで自流の個人営業で突っ張り、苦肉の策で手を出したに日経225の先物とオプションでバタバタしているとシカゴ支店に配属になりました

CBOTのフロアー(現在のCME)ではアメリカ人の大男達が蠢くピットに、慣れないハンドシグナルと、日本語が混じった怒号で体当たりし、日系大手金融機関の百億、時には千億規模の想定元本の債券先物オプションを処理し、不測の事態では瞬時に起こる巨額のエラーに心臓を縮めました。

NY本社ではシカゴ店の統廃合を進め、そうこうしているうちにバブル崩壊後の荒波で東京本社が苦境になり、なぜか前線の兵隊だった自分が、会社の命運を握る本社のエリートに混じって米系大手との交渉の端役をやることになりました。

その結果米国に残り、シカゴに戻ってからは、米系のジャパンビジネスプロジェクトの責任者として没頭し、3年後その米系のスポンサーでグリーンカード届くと、プロジェクトが軌道のったのを確認した上で飛び出しました。

そして大手を離れてはじめてわかったのは、自分は駐在員時代と米系大手での経験で、この国を十分知っているつもりでいたのに、実際は殆ど何も知らなかったという現実・・。

今となってはっきりとは思い出せないのですが、このブログを始めたきっかけは、リーマン前夜に感じた不穏な感触。(2007年にスタート)それを誰かに伝えたいムズムズした動機と、二年前に亡くなった父親が、引退後始めたパソコンでインターネットで何か刺激を受ける材料になればという親不孝者の小さな償いだったと思います。

途中でマーケットの専門的な部分までのめりこんでしまっていることに気づき、本業との兼ね合いで不本意ながら一部レターを有料化し、これまで思いついたこと、感じたこと、わかったことを、歴史的な事象を参考にし、随時、書き残してきました。

恥ずかしい記述もそのままにしてありますが、米系大手を飛び出してから、12年にわたる時間の80%は、チャートを遡る延長で、世界史上の出来事の因果関係を、植えつけられた常識とは別の世界史感として、未来予想に使う手法の研鑽にあててきたと思います。

今後このブログはゴゴジャンのTakizawaレター、今日の視点 明日の視点に引き継がれます。今日の視点は、その日の米国市場の重要な観方を中心に米国の朝配信(ほぼ毎日)。そして明日の視点は、こちらの夕方から夜、翌日以降の米国から観えるグローバルポリティカルマクロの重要な話題を、考察とともに提供します。

グーグルのこのページはそのまま残し、タイトルと趣向を変え、もう少し軽いタッチで
ツイッターとブログの中間のようなモノで再開したいと思います。


http://fx-on.com/lp/detail/takizawa/


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