2008年4月14日月曜日

メジャーリーグは米国の縮図

一時は神様として陶酔したグリーンスパンに対し最近の米国は冷たい。この様な単細胞的反応を見ると、よくない事とは思いつつもつい米国人を小バカにしてしまうのが私の悪い癖だ。ところで、そんな親愛なる米国庶民の日常会話を紹介しよう。この会話は先日ゴルフレンジの会計の順番待ちをしている時に偶然耳に入ってきたものである。そこでは典型的なカブスファンの男性数人が私の前でに会計の順番を待っていた。そして彼等はTVでカブスの試合中継を見ながら、ちょうど福留の打席でこんな話をしていた。A「福留はいいね」B「ああ。彼は間違いなく新人王をとるよ」。A「そういえばイチローもマツイもいいが、なぜ平均的に日本人選手みんないいんだろうか?」B「確かにそうだ。彼らはみんなDISCIPLINE(訓練、制御) されている・・」。

そもそもこのDISCIPLINEという言葉は相場では必須である。特にDAY TRADER(日ばかり)がまずクリアしなければならないのがこの壁である事は言うまでもない。では野球でDISCIPLINEというのはどういう意味か。メジャーリーグは練習量は問わない。よって練習熱心という意味ではない。そこで米国人同僚からの意見を参考にすると、どうやらそのイメージはホームランも打つが大事な場面で大ぶりの三振をするバッターではなく、統制されているがやるべきところではやる・・。要するに有能な組織人が持つ平均以上のスキルといった印象である。だから日本の野球人は、仮に日本で芽が出なくとも、野球組織人(野村監督が優先する考える力を持った選手)として平均以上の技術を持つ選手はイチローや松井クラスでなくともMLB(メジャーリーグ)の方が評価される可能性がある・・。

ところでステロイドで硬直した今のMLBには技能の柔軟性を売りにする選手は少ない。その日も5回まで7-0でリードしながら単純なエラーを切欠に7回には8-8の同点。そのまま延長に入って延長12回に10-8でカブスが勝つとシカゴのファンは優勝したかの様な大喜びだった。これが典型的カブスの試合。だがその試合も3安打と活躍した福留が試合後のインタビューでどこか憮然としていたのは、きめの細かい野球が全くできないカブスは実は中日より弱いと彼は発見したからだろう。要するにMLBとはいっても、今の米国野球はこんなものである。ある意味世界野球で日本が勝ったのはまぐれではなかった。ただあの時その可能性を知っていたのはイチローだけだったのである。実力の割に信じられない高額報酬、確かに市場としてはまだ世界一のだが、能力と適性報酬のバランスが崩壊したた点ではどこかでWSと同じ構造を持つMLBは米国の心とも言われる。皮肉だがホームランか三振という大味のパフォーマンスが優先の野球の試合内容は、柔軟性が劣化して二極化してしまった今の米国社会の弱点もどこかで代弁している。ここで本日のテーマにも帰結するのである・・。

ところで、これまで大衆が単純である事はスマートな少数が全体のかじ取りをするに都合がよかった。それは国家政策も市場からの収益も同じ。結果ピラミッドの様な形状のバランスが米国の強みだった。ただスプレッド(格差)が開きすぎた事で形状全体のバランスが崩れ、最近は企業のトップや政権が全体の舵取りをする事が難しくなっている。単純な国民が派手で単純な野球を好み、誰もが高額な金を払う。単純すぎる性質からのDISCIPLINEの欠落は、時の政権や金融市場の神様、グリーンスパンの想像を超えた事態を引き起こしたという事だろう。

そんな中オリバースートン監督が野球という米国の縮図をこよなく愛するブッシュの伝記映画を撮る。ブッシュは一時球団のオーナーになったが、同じ国技でもフットボールやバスケットボールではなく野球の球団オーナーになる事は白人ボーイズクラブ社会で特別な意味を持つ。例えばMジョーダン率いたブルズは90年代に6度チャンピオンになったがWソックスのオーナーも兼ねる白人資本家オーナーのレインドーフ氏は一度も泣かなかったらしい。しかしWソックスが2005年にワールドシリーズを勝つと、全米屈指の資産家の彼は夢がかなったと大泣きした。ここにブッシュがなぜ野球球団オーナーになりたかったが隠されている。そしてこの映画の脚本を担当するのが80年代のWSの狂乱と腐敗をテーマした話題作、「Wストリート」のスタンリーワイザーである事が非常に興味深い。「プラトーン」と「Wストリート」はともに米国の本質をとらえた秀作だった。期待したい・・。

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