2008年4月9日水曜日

KILLING FIELD(殺戮平野)

「KILLING FIELD」(殺戮の平野)、この言葉はポルポト政権下のカンボジアの惨劇を扱った映画で有名だ。しかし、今まさにこの言葉のイメージがそのままあてはまるのは実は今のシカゴ市の南部である。この事は日本で全く報道されないし、米国内のNEWSでもシカゴ地区以外ではあまり注目されていない。その理由として景況感がこのところ急激に悪くなったとはいえ、まだ全体の凶悪犯罪の発生率は同じスピードでは悪化していない事が挙げられる。しかし、今年に入ってシカゴの南部では公立学校に通う小中高生がその地区だけで20人も凶弾で死亡した現実は深刻だ。殆どがケンカによる発砲ではなく、不良連中とと全く関係ない子供達が流れ弾に当たったり或いは意味もなく殺されるケースである。

さて、そんな中で最近日本を激震させたNEWSは、在日米軍脱走兵によるタクシー運転手惨殺事件だろう。実はこの事件は様々な米国内の時事要因を内包していると考えている。そこでここではそれを紹介したい。まず私もわからないが、なぜ米海軍にナイジェリア国籍の米兵がいたかという事。確かに米軍のWEBサイトで確認すると、米国籍(2重国籍は除く)でなくとも米軍に入隊は出来るようだ。しかし実際の戦闘局面では言語上の意思疎通を含め、思想や規律的的問題を内包する多国籍兵と米国人が共闘作戦でもない限り混在するケースはほとんどない。よって、今前線の緊張からもっとも遠い所に位置する日本という場所にいる米軍は、そのレベルがどういうモノであるか、日本人は意識する必要がある。(MAJORITYの優秀な兵隊はなんらかの形でイラクとアフガン戦争に関わっているはず)

ところで米軍と言っても概ね200万人前後と推定される(現役兵は150万)その全体像は正確には開示されていない。ただ徴兵制が廃止されてからも、これまでその規模を維持できたのは二つの要因がある。それは①ベトナム戦争以後は入隊しても第二次イラク戦争までは大規模な戦闘に従軍する可能性が低かった事と、②ブッシュ共和党政権が演出した格差政策である。平たく言えば①は平和だったという事、では②の格差政策とは何だ。

当然「格差政策」などという政策が公式にあるはずがない。これは私の勝手な造語だ。しかしブッシュ共和党政権は暗黙のうちにこの政策を続けた。そして「必要なら100年でもイラクに留まる・・」と発言しオバマとヒラリーに攻撃されているマケインが仮に大統領になればこの政策は維持されるはずだ。ではどうやってこの政策を実行するのか。それには所得格差を維持し、高所得を得るためには高学歴を必要とする仕組みを作る。ただそれだけでは不十分。一番重要な事は学費の高騰を維持する事である。学費高騰を維持する?それでは国益に反するように聞こえる。実はここに共和党と民主党の考え方の違い、またそしてその趨勢は今回のタクシー事件も含め、米国軍傘下の日本の庶民生活にも影響する重要な要素があるのである。

今イラクやアフガンで戦っている米軍の出身地を見ると、大都会で育った若者は非常に少ない。その傾向は白人に顕著で、彼等は圧倒的に地方出身者だ。一方で黒人兵はNY地区ならハーレム以北のブロンクスエリア、そしてシカゴなら前述のサウスサイドの様な場所からの若者が多い。理由は簡単、中流家庭が多いとはいっても大都市を離れた中西部から西では高卒の肩書彼らに十分な仕事はなく、また大都会の荒廃地区の黒人層にも年間5万ドルと言われる大学などは夢の世界。そこに米軍は8年の最低拘束期間の従軍を完了するば、大学の学費補助を含めたキャリア優遇プログラムの甘い話を持ちかける。これが今世界に展開する米軍の基本的な兵員充足システムである。言い換えるならば、このシステム維持のためには「格差社会」が必要となり、底辺からの脱却を目指す若者のエネルギーをそのままイラク戦争に使っているのである。

ただ個人的にこのシステムは時に有効とみる。なぜなら貧しい家庭の優秀な子供には大学もサポート体制を整えている。その意味で本当に頑張る努力家には道は閉ざされていない。しかし民主党が主張するような学費低減が実現してしまうと皆が大学に行けるようになり、軍隊に行く必要がなくなる。イラクやアフガンで死ぬ確率高い今は尚更である。すると今度は大学数の過剰が生まれ、結果的にレベルの低下や経営の危機という弊害が生まれる可能性がある。また民主党の主張の弱点は、彼らは国内の格差を攻撃する一方でイラクを非難しながら時に中国、北朝鮮、セルビア、イランなどには共和党以上に強硬策を主張する。ただこれも格差に対するアレルギーだろうか、イラク戦争の様な特定の一部を利する様な戦略戦争は情緒的に批判しても、民主党は国際戦略上の焦点は非常に広範囲だ。その発想は平和時ならいいが一旦世界全体を巻き込むような劇変が起こると大変だ。なぜなら民主党政権では兵隊がいない?などという皮肉も起こりうるのではないか。

極論では格差を無くすという事はどういう事か。皮肉だが、軍隊においては徴兵という事が起こり得るという事である。リベラルな民主党が政権を取ると徴兵制度が復活し、戦争大好きな共和党政権下では逆に志願兵隊の充足システムは機能する・・?。自分の子供を含め、次の世代はこの皮肉をしっかりと理解する事が肝要だ。そしてそれは自らの自立心の問題も含め、米軍に国防を頼りながら一方でその存在が日増しに厄介になっている今の日本にも言えるのではないか。

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