2010年4月8日木曜日

日本人の相場感

政府が国税を使ってこれ以上ニューヨークとカリフォルニアだけを救済する事を我々は許さない・・。レスキューボンドど言われる特別復興債を巡り、アイオア出身の共和党上院の重鎮、グラムシー議員が再び噛みついた。彼は2008年の金融危機の際に「ウォール街は腹を切れ」と米国人なら誰でも知っている「ハラキリ」で金融機関を恫喝した人物だ。そして彼の意見は今「TEA PARTY」と言われる新独立運動を支える中西部の共和党支持者の多くに共通する。

一方この種の非難に対抗すべく、政権は救済行為が儲かった事をメディアで誇張。その「表」メディアはウォール街から返還された資金の実現益を大々的に報道し、政府の判断の正当性を強調している。だがその数倍になるAIGやGSE(住宅公庫)に投入された巨額の税金の「含み損」は、一部のメディアを除いては殆ど取り上げられない。

そもそも構造としては返還された資金の実現益は、FEDによる国家ポンジーの賜物である。皮肉にも今CNBCではあのエンロンの特集をやっている。この番組を見ると、エンロンも、かのマードフも、資金を無限に提供する中央銀行がバックにいれば彼等のポンジーも永遠だった。

要は「一人殺せば犯罪。だが10000人殺せば英雄、そして殲滅すれば神」と同じ理屈だ。言い換えると、米国の市場原理とは、失敗者が少数なら容赦なく追いつめたが、失敗者が絶対的多数だと「システム救済」と言い換えて救済したという事だ。だがソレ自身は衰退期を迎えた超大国の使命であるともいえる。

そしてこの政権の有能さを持ってして今はなんとか取り繕っているが、この状況をモラルの低下で国民に不満が蔓延している程度に考えるのは勉強不足である。仮にこの状況が日本に伝わらないなら、それは日本のメディアに自分で考える力がないか、米国の情報をニューヨークとワシントンが発信する一方的な情報で済ましてきた弊害と言わざるを得ない。

ただ自分で相場感を持たず、米国の言われるままにする事が国益に繋がったたなら、それはそれで結果的に正しかった。だがその幸運が終わったならどうする。

今の米国を見ると、成長力が弱まり、企業もTOO BIG TO FAILを受け入れる過程に入ったと言われても仕方がない。ならば日本と同じ非成長平和主義の入り口という形容詞が相応しい。だが米国は政府に救済されながらその利益を還元しない「東」と、甘えた構造の中で個人主義を堪能する「西」。その中間に時に狂信的な原理主義者「中西部」が対立している。

この米国をして最新号の雑誌「選択」は「米国は衰退などしていない、相対的になっただけ・・」とのおかしな論文を掲載していた。だがこれはレトリック。「絶対的」から「相対的」になる事を衰退というのだ。仮にこんな論文に代弁されるように、日本の指導者が米国の力を頼りきり今後も世界に対して自分自身の相場観を持たないとしたら日本の悲劇はこれから始まるだろう。

何度も言うが民主主義と平和主義は違う。単一民族で考え方も大差ない日本人は、民主主義=平和主義と勘違いしているかもしれない。だが米国の民主主義が平和的だったのは、大戦から冷戦までこの国には共通の敵がいた事。更にその後のクリントン時代の大繁栄が国内の元々存在する根源的な対立を隠していただけだ。だがその時代が2000年前後に終わり、ブッシュはテロを対抗軸に国民をまとめた。そしてそんな単純な構図に乗る愚か過ぎた米国には救世主のオバマが登場した。しかしそのオバマを悪魔だと考える米国人が存在する。

そしてオバマ自身が限界を知り、理想から現実路線に変化した過程では多くの支持者の失望を誘った。この手負いの米国を助けるのは誰か。日本が助けるのは良い。だが指導者には危機感だけでなく相場感を持ってほしい。それが戦略の本質である。





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