2010年4月21日水曜日

上を向いて歩こう

先週から今週にかけてのエコノミスト誌は、継続して米国の体質改善を提言している。その中で30年前、トヨタを訪れたGM関係者は、GMの真似で成長したと思っていたトヨタが、実は自分達が出来ない事まで達成していた事実に驚愕した話を例に、先進国全体にとって今のアジアの成長は、単にコストの優位性だけでなく、30年前のトヨタの可能性があるとの記述があった。トヨタを例にとる一方、日本そのものは成長のうねりから離れた処にある事を微妙に表現した解説だった。

確かに今の日本は地球儀上で目立つ存在ではない。だがその地球を見下ろす位置を確保できたらどうだ。日本は地球儀上の競争から少し目を離し、上を向いて歩く時が来たと考える。そんな中でちょうどそのテーマを日本人宇宙飛行士が地球に帰還する昨日、NHKの「クローズアップ現代」が取り上げていた。

そもそも日本人がライバルのロシアと米国の両方のシャトルで宇宙に行った事実は重要だ。背景に日本の技術力がある事はまちがいないだろうが、この影響力を国際政治の舞台では発揮できないのが歯がゆい。だが見方を変えれば、だから安心してロシアも日本人を受け入れたのかもしれない。そして番組では気になる事が言及された。米国の宇宙開発が今回のシャトルで事実上中断するのを受け、日本の宇宙開発の現場ではそれをチャンスと考える若手と、米国という目標を失い困惑する人とで意見の相違があるという。ならば躊躇している時ではない。米国の背中を観るのは止め、日本は宇宙を見る時が来た。

ところでシャトルが最初に飛んだのは81年だ。当時米国はインフレと不況に苦しんでいた。そしてボルカーFRB議長によるインフレ退治の強硬手段が行われた(短期金利が20%になった)。そんな中シャトルは飛んだ。ただその後の豊かな時代にも同じシャトルが飛び続けた。番組に出演した「毛利さん」によれば、それだけシャトルは優れた乗りモノだったらしい。だが優秀な人々が何事も先へ先へと準備する事で発展した米国の歴史で、シャトルに代わる次の乗りモノがこれだけ長い間開発されなかったのは異例である。あくまでも結果論だが、この国の歴史でこんな怠慢の事例は他に知らない。まあ理由は様々だろう。だが金融に関わる人なら誰でも知っている話がある。それは、ソ連との間で磋琢磨射した米国の宇宙開発は、シャトルと冷戦勝利でソ連を突き放した後予算が削られ、人材が金融に流れた事だ。

結果モーゲージ債などの新商品が生まれ、米国は更に豊かになった。ここまでは良かった。だがもしかしたら歴史家はここを米国の転換点とするかもしれない。今は現存するシャトルは老朽化が進み、一回の飛行で100億円のメンテナンス費用がかかる以上は安全上も引退が避けられない。そこでまだ余裕があった2004年、ブッシュ政権は新しいロケットを使った新計画を立てた。だがそれはオバマ政権の予算では完全に実行不可能となった。新しいロケットがいつできるか、その見通しが立たない中、シャトルは今年引退する。

そういえば数年前、米国の未来についての懸念材料として、バフェットとビルゲイツが優秀な科学者が給料の高い金融に行ってしまう実態を挙げていた。実はGSの一件で起訴された担当者の上司は元々はロケット工学者である(NYTIMES)。優秀な科学者が金融商品の開発で米国に貢献したのは事実。だが皮肉な事にその金融商品が原因で混乱に陥ると、国はその防衛で予算を使い果たした。結果、米国は地球を見下ろす宇宙開発という近未来の主戦場での戦略を中断するという建国以来の危機に見舞われている。

先日オバマ大統領は「2025年には火星に行く」とぶち上げた。だがその表情は有名なケネデイーのスピーチと比べても覇気がなかった。「毛利さん」によれば、シャトルの引退で米国の宇宙開発は寸断されるという。そしてこれからはロシアの時代。地球儀ではアジア勢や南米の勢いに押さ気味のロシアだが、これから地球を抑えられる位置で優位に立たつのはロシアという事だ。この事態と比べればGSの命運などはどうでもいい話。だがそんな危機感もなく、ギャンブル経済の行くへに一喜一憂する今の米国人の姿はあのアポロ13号のラベル船長にはどう映るのだろうか・・。



0 件のコメント: