年初の雑誌の中で、瀬戸内寂聴が、「大バカと天才は同じ魅力がある。一番つまらないのは優秀と言われる人・・」と言っていた。
彼女の感覚は作家独特のものであり、現実の社会では優秀な人が貴重であることに間違いはない。ただ社会にもバランスがある。
天才、優秀な人、大バカ者、そしてそのどれにも入らない普通の人。恐らくこのような個性がバランスよく存在することが、健全な社会には不可欠なのだろう。
通常優秀な人は努力家である。努力家は勉強であれ、スポーツであれ、結果を出せる人が多い。つまり競争社会の勝者である。
ただ受験勉強の延長にある優秀さと、社会における重要度は比例しないことも確かだ。その意味で破天荒な天才か、世間から大バカ者と言われる人たちがう少し今の日本には必要だと感じる。
その一例が年末年始のテレビ番組。どの局も「これからの日本」なる番組を組んでいた。全体の感想は、NHKはBSでは米国と豪州から一流の論客を招いて秀逸な番組を組みながら、総合では「つまらない人たち」がありきたりの話をしていた。
民放のレベルはもはやどうでもよい。ただ目立ったのは池上彰氏だった。彼はBSで、「歴史がわかればニュースがわかる」と題し、信州大学での特別講義を番組として流していた。
なるほどさすがにNHK出身、講義はわかりやすく、ためになるものだった。ただ敢えていえば、聞き手を引き込む迫力がなかった。恐らく優秀な解説と、人の心を動かすスピーチは違うことなのだろう。
池上氏の米国の近代史の解説は、記録として間違いではないが、歴史の本質として間違いだと感じた点がいくつかあった。無理もない。池上氏は世界史全体を講義をしていた。
ジャーナリストしても尊敬に値する池上氏は事前によ準備をしたあとがうかがえた。ただアメリカを専門にするものとして、間違いは正しておきたい。
まずはジョンソン大統領が2期目(実質3期目)を目指さなかったとした点。これは重要ではないが間違い。ジョンソンは最初は再再選を前提に予備選に入った。だが、やはり人気がないことが明らかになると、諦めたのである。
それよりもっと重要な点はベトナム戦争の説明。米国はベトナム戦争を負けたと認めていない。だが目的は達していなかった。池上氏はイラク戦争も同じ。歴史は繰り返すと述べた。
表面的にはその通り。異論はない。だがこれは重要な間違いである。ベトナム戦争とイラク戦争はそもそも全く異質だ。その点で歴史は繰り返していない。なぜか。
米国が国家を挙げて共産主義と対峙し、その信義に西側先進国が従った時代のベトナム戦争と、共産主義との戦いに勝ち、結果米国の一国支配が完成、そして消費経済が一定の成果を遂げた後の衰退期、その匂いを打ち消すために一部の私利私欲で強引に突き進んだイラクは同じではない。
つまり米国は、ベトナムの頃とは全く異質の米国となってイラクへ突き進んだのだ。ここを同じ輪廻で考えるべきではない。この変化を無視して日本が米国と付き合うのは、国家の過ちにつながると私は考える。
具体的には、もしイラクがベトナムと同じ輪廻なら、例えソレが間違いであっても後には同じ繁栄が待っているかもしれない。だがもし米国が過去の軌道を逸して変化してしまったなら、米国にどんな未来が待っているか判らないからだ。
池上氏の努力は尊敬に値する。ただ近代史で重要なのは生の声や経験である。それを伝えるのは知識とは異次元の経験や情熱。恐らくそれができる人は、優秀というより、愚直さや破天荒なエネルギーを持った人なのではないか。
日本人は優秀だ。だが個々が持つエネルギーを引き出すためにはどうしたらよいか。そのための感動や刺激となる天才や大バカものがもっと出てきてほしいところである・・。
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