2010年5月29日土曜日

皮肉な法則

今日の米国市場の主役は欧州問題ではなく北朝鮮だった。韓国のETF(バスケット型株式ファンド)が急落、金利は緊急事態に備えてか、短期債券が長期債券よりも大きく買われるという平時とは逆の動きとなった。ではなぜこんな事になったのか。

実は6月4日にも朝鮮半島で開戦との物騒な噂が昨日からあるのだ。これまでなら本気にしなくてもよいのだが、今回は既に先制攻撃は起こっている。まず基本から言うと、南北の朝鮮は60年前の戦争がまだ終了していはいない。なぜなら平和協定が結ばれた上での終結宣言が完了していない。そして今回はあのデノミが全てを狂わせたらしい。個人資産を失った軍部の不満が高まり、先の見えている金正日が最優先事項にしていた次男への禅譲が軍部の不満で危うくなってきたという。そこで金正日は元々軍部内に存在した強硬派に便乗し、まず国内の統率を最優先に、あの様な強硬手段に出たという。ならば今回は今までの核協定や拉致事件の際に金正日がとった事前の脅しとは異なる話だ。つまり、今回はいつもの外交上の駆け引きではなく、国内の統率が目的。そしてその目的のためには北朝鮮は本当に戦争をしたいのかもしれないという事である。

ここでは韓国の公式声明を受け、世の中に存在する「皮肉の法則」から、普天間に決着がつく時は、日本国内の議論をよそに沖縄から米軍機が出撃するという圧倒的事実で決着を余儀なくされる可能性を指摘した。更に言うなら、平和の象徴である「鳩」という珍しい名前を持ち、戦争の緊張から一番遠い存在であるはずの今の首相が首相である事実が実は一番危ない「皮肉」である・・。



2010年5月25日火曜日

国家のプライド

子供と一緒にケーブルTVでスペインとイタリア、そして英国のサッカーを見始めて10年。また毎年トマトの出来を競争する旧ユーゴ出身でセルビア人の隣人とオシム論で盛り上がってから3年(彼はオシム前監督の現役時代を知っている)再びワールドカップがやってきた。

そしてオシムの後を受けた岡田監督に対する賛否両論は知っている。まあ何はともあれ、どうやら日本の目指すサッカーのテンポはイタリアに近いようだ。ただ近年殆どのセリエAのチームはプレミアリーグのスピードについていけない。ただ今年の欧州チャンピオンズリーグはそのイタリアリーグを制したインテルが、英国のチェルシーとスペインのバルセロナというライバルリーグの王者を倒しての堂々の優勝だった。 だから万が一日本が理想的テンポの試合が出来れば、予選リーグを突破する可能性はゼロではないだろう。だが韓国選手との一対一の競り合いで勝てないこの現実は、結局米国の理論に押し切られた普天間と同質の屈辱感を感じる。

そして岡田批判同様に、普天間の顛末は鳩山首相の個人の資質が原因とする論調が多い。だがソレは見方を変えれば今の日本人の弱体化に起因する話だ。またその一因には、本州に住む現代の日本人は沖縄の歴史をしらなすぎるのではないかと感じる。

そんな中で米国では好評だったスピルバーグとトムハンクスの共作の太平洋戦争のドラマ「PACIFIC」が先週で終わった。ガダルカナルから沖縄戦線まで、実在した3人の主人公が織りなすドラマはナチスドイツを相手にした欧州戦線の無情な戦争シーンよりも、どこかエキゾチックな太平洋で、初めて対峙した異文化日本人にたじろぐ米国の若者の心理を良く現わしていた。そして印象残ったのは初戦のガダルカナルの大活躍で最高の勲章であるmedal of honor を受けた主人公の一人だ。

まず彼はガダルカナルの制圧後、自分だけ本国に返される事に抵抗、だがそれが彼を国民的ヒーローにする事で、国威高揚と戦費調達、更には景気まで回復させる米国の重要な国策である事を知り承諾する。そして帰国した彼を待っていたのは芸能人とのツアーやラジオ出演などの任務だった。そんな生活に耐えられなくなった彼は再び前線への出動を願い出た。やがて現役の英雄として徴兵されたばかりの若者を中心に編成された師団の訓練を任された彼が、既に米国の有利が明らかになった太平洋戦線に出て行く浮かれた新兵を一喝するシーンがある。「俺の知っている日本兵はお前達がオムツをしている頃から日本兵だ。なめていたら死ぬのはお前たちだ・・」

同番組は日本でも放送が決まった。よってここから先はネタばれになるが、この後彼は3人の主人公の中で唯一人戦死する。硫黄島だった。日本人は殆どが知らないだろうが、米兵が最も多く一番死んだのは、この太平洋戦争の終盤、硫黄島から沖縄の本土決戦にかけてである。それだけ沖縄が抵抗したという事。またそれだけ米国も沖縄にはコストを払ったのだ。そんな事も知らない沖縄県民意外の日本人が、本質とは無関係の鳩山首相の資質の議論の影でこの顛末を傍観するのはどこか腹が立つ。日本人のプライドはどこに行ったのか。


まあそれはさておき平和な時代サッカーの試合には「国家のプライド」がかかる。チャンピンズリーグ優勝のインテルでも選手は各々の国旗をはおって閉会式を迎えた。いずれにしても普天間からワールドカップまで、恐らく今の日本に一番必要なのは一人一人が持つべき国家のプライドであろう・・。

2010年5月21日金曜日

経験則との戦い

株が下がっている。よって顧客向けレターから、市場の現象面の話を紹介する。

まず大恐慌では1929年から1933年までと、1937年から1938年にかけての二つの谷があった。言い換えれば34~36年は一旦回復基調になったという事。そして二度目の下落は致命的だった。結局戦争による実需でしか回復はできなかった。そして87年のブラックマンデイ。記憶に新しいブラックマンデイは、87年の10月19日に起こった。一日で20%の株式の大暴落だった。実は、あまり知られていないがその一カ月程前、堅調だった米国市場は突然4%の下落を演じた。そしてその原因が当時としては新しい手法だったコンピュータによるプログラム売買である事は翌日には判明していた。前震だった。だが市場関係者はこの前震に十分な注意を払わなかった。そして19日に本震が襲ってきた・・。

今の米国当局はこの経験を知っている。だから2週間前の1000ドル安の原因究明に必死になった。だが明確な原因究明が完了しないまま、どうやら株式市場には30年代の大恐慌の2番底の恐怖がもたげてきた・・。


この苦境をどう乗り切るのか。明日5月21日は米国にとって大変重要な日となる。バベルの塔の崩壊が始まるのか、あるいはここで踏ん張るのか。明日は転換点だろう・・。

2010年5月14日金曜日

虚業人の市場原理

三大ネットワークのNBCチャンネルとウォールストリートジャーナル紙が共同で行った調査で非常に面白い結果が出た。それは現在の米国人の大手企業に対するイメージ評価だ。悪い代表は証券会社のゴールドマンサックス。GS(ゴールドマンサックス)は僅か4%の支持しか得られなかった。銀行のCITIも低い。未だに政府の厄介になっているCITIは10%の評価だ。また原油流出事故を起こしたBPは11%。そして注目の日本企業、トヨタは38%だった。ここでは詳細は書かないが、BPの評価がGSより高いのはBPの本性をまだ普通の米国人は知らない証拠。そんな中で一般の米国人からのトヨタの評価は鳩山政権の国民評価よりも高いのは注目である。

さて、自業自得とはいえ証券会社や銀行といった金融機関はここまで憎まれている。これは、ここで昨秋公開された映画に因んで金融機関をPUBLIC ENEMY NO1とした事が違っていなかった事を示している。(11/13/2009、PUBLIC ENEMY NO1参照)そして金融関係者はこの状況を甘く考えるべきではない。

ではなぜここまで嫌われるのか、まずは税金で救済されながら高給を貪ったという大衆心理だ。ただ大衆心理は変化する。彼等の怒りは自分が同じ様に救済されたと感じれば終わる。だが本質は別だ。それは神の意志であり、簡単に言うと市場原理である。

そもそも金融関係者は自分では市場原理に詳しいと思っている。だが金融はその原理から実は一番かけ離れた位置にいる。別の言い方をするとそれがTOO BIG TO FAILだ。具体的には大手金融機関に勤めるトレーダーは最悪がクビ、一方で最高は青天井の報酬である。これを専門用語ではただ貰ったコールオプションと言う。そして彼らが投資に失敗して会社が傾けばその会社(銀行・証券)は税金で救済しなければならない。

それに比べ、世の中には真面目に働いても一回の天候不順で作物が全滅する農家や、報われない新商品の開発に命を掛ける技術者が大勢いる。彼等の方がよほどリスクを取っている。だがそのリスク・リターンは割に合わない。ならばだれもが虚業である金融で働いた方が安全だと考えるだろう。

ただ農家や技術者の様な実業でリスクを取る人々があまりにも報われないと何が起こるか。当然ながらその分野を支える人が減る。するといずれは技術が廃れ、もしかしたら食べモノがなくなる。一方でリーマンショックで一旦は流動化した金融の人材は今は結局どこかに納まっている。要するに減っていないのだ。ここが市場原理とかけ離れているというい所以。だが金融は本当にそこまで必要か。個人的にはそうは思わない。市場原理を宇宙物理の範囲と信じるならば、この矛盾はいずれ必ず調整されるだろう。

そしてその過程に入った今、誰がなんと言おうと先進国と言われた国々は次々に社会主義化している。この米国とて同じだ。その昔マルクスの欠陥は、彼は資本主義の仕組みをそのままに、経営を国家に引き継がせた事という意見があった。個人的にはそのマルクス論には同意しない。だが今起こっている現象はまぎれもないソレだ。つまり失敗した民間に変わり、市場やビジネスに国家が関わった。結果、不公平感や矛盾が生まれた。中国の園児殺害もギリシャの暴動も自己中心的被害者意識は同じである。そしてその感情はこの構造の中で生まれた。

この本質的な問題が世界の金融市場に牙をむくのはもう少し先か。だが必ずそれはやってくるだろう・・。











2010年5月12日水曜日

飛び去った黒鳥

人間はやはり愚かだ。なぜなら、ユーロ通貨発足に関しては、一つの中央銀行に対し、16の財務省と、全く違う税制が乱立する形態がそもそも無理であったと今になっての悲観論が出ている。ただこの愚かさが人間の証拠である。

ところで右肩下がりの時代の欧州の纏まりの無さは、米国発の金融危機と比べても異質性が浮き彫りになる。今日のNYTIMESには日曜夜のドキュメントが紹介されている。結論からすれば欧州はこの段に及んでも自分達では団結する力を持ち得ていなかった。記事ではガイトナー財務長官とオバマの強制的な力で何とか救済案をあの形に持って行った事が鮮明になった。(オバマのメルケルへの電話はかなりの内容だったとの事)。

そしてこの事は救済案発表後もユーロ通貨売りを継続する欧州系ヘッジファンドには自明の理であり、彼等を金融危機で米国のダウが6000台に突っ込む中、自国の株式市場で空売りを仕掛けながらもどこかでの米国の復活を疑わなかった米国人ヘッジファンドと比較すると、、国ではない、つまり愛国心を前提しない形態を背景とする通貨の脆さが際立つ。

恐らく今オバマとガイトナー財務長官が一番恐れているのは、この欧州という形態の無責任さが連鎖として米国を襲う事。米国政権は米国は仕切れる。実績としてここまでの回復は見事だ。だが国家でもなく、そもそも当事者の欧州人自信が最後までコミットするかどうか判らない形態の崩壊による余波をどうするか。まだソノ策はこの二人も持ち得ていない様子である。

そしてこの新しい危険を察知し、先週シカゴの先物市場を使ってすばやく逃げたのが「米国の黒鳥」である。黒鳥は英語でブラックスワン。WSJ紙によると、逃げたのは「黒鳥理論」で有名なナシームニコラス氏をアドバイザーに持つヘッジファンドのUNIVERSAだった。そして彼らのオプション注文を切欠に、自己のポジションを守るためにバークレイズ銀行が続いて大量売りを出したという。1000ドルの急落はこの直後に起こった。

実はナシームと彼の著書ブラックスワンの事は以前ここで触れている。(6/12/2009の「10年に一冊の本」参照)そして究極的な問題は、今の米国には彼らの様な株を下げる切欠をつくる存在を、その本質的な原因とは無関係に否定しかねない雰囲気がある事だ。

嘗ての米国では考えられないが、事実としてこの国は2008年の金融危機で空売りを規制、そして今は金融改革法案の審議で様々な金融取引に規制がかかろうとしている。その上で株を下げる要因ならなどれも規制してもよい風潮は議員からは十分感じられる。本質的な問題に解決策が見いだせない時、人間社会は誰かに責任を負わせるのは常だ。ナシーム氏がリーマンの元社員から脅迫された事実があるように、自己中心になった国民はなにも欧州だけの問題ではない・・。

(参考)

http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704879704575236771699461084.html?mod=WSJ_hp_mostpop_read



2010年5月9日日曜日

キリギリス国家の連鎖

ちょうど日本で公開中の映画「タイタンの戦い」を観たなら、次はレンタルビデオでブラッドピット主演の「トロイ」を観ると良い。共に主神ゼウスが関わる。そしてここまでは神話の世界。そのあとは史料として公認されているヘロドトスの「歴史」から「300」がある。これは紀元前400年代、国王レオ二ダスに率いられた勇猛な300人のスパルタ人(スパルタ教育などの語源)が、20万のペルシャ兵を迎え撃った逸話の劇画化だ。そして最後はオリバーストーン監督がコリンファレルを主演に据えて撮った「アレキサンダー」で極まる。紀元前300年代、ついにアレキサンダー大王が宿敵ペルシャを打ち破った事でローマ帝国へと続く西欧の白人文化が世界を統治する正当性が開花した様が実感できる。 

そして今、ギリシャでは40代でリタイアしそのままエーゲ海での釣りざんまいが庶民の権利になった。だがそのギリシャでの暴動をみると、民主主義が行き詰まる瞬間とは、政府に問題があるわけではなく、劣化した国民を政府が制御できなく瞬間だという事がよくわかる。暴動を取材した米国人リポーターに怒りをあらわにした民衆が叫ぶ。「オレたちは絶対に国の緊縮法案には従わない。そんなものは絶対に阻止してみせる・・」続いてリポーターがたずねる。「ならどうやって国の借金を返済するのか・・」それを聞いた民衆は怒鳴り返した。「そんなもん知るか、俺たちには関係ない・・」

数々の英雄銀河伝説の果てに、今我々が観ているのはギリシャという国家物語のエピローグ(終局)だろう。ただそれはアジアより先に発展した西洋文明社会が抱える共通の未来図かもしれない。そんな中で欧州共同体の存続はドイツの健全性だけが頼りになった。嘗てヒトラーはゲルマン民族(ジャーマンの語源)の優秀さを前提にしていたの有名だが、2度の敗戦とその賠償金の苦難を乗り切った今のドイツ人の健全性をみる限り、彼(ヒトラー)は正しかったと言わざるを得ない。

ところで、この様な欧州の状況を見て世界の株式市場が再び揺らぎ始めた。米国の金融関係者は当初この問題を軽視していた。なぜなら米国のギリシャへの投資は限定的で、何よりもギリシャのGDP(国民総生産)はコネチカット州と同じレベルだからだ。だが先週の金融市場はそんな米国さえも揺さぶった。ダウが瞬間1000ドルも下がったのだ。1000ドルという値幅に関してはいろいろ言われている。だがその本質は米国はあまりの衝撃にその背景を人為的ミスやコンピュータによるシステム事故として逃げようとしているだけだ。

そしてこの米国の誤算は今後の世界の混乱の予兆のように感じられる。まず今問われているのは一昨年の金融危機の原因としての民間の負債(金融機関のサブプライム)の問題ではなく、国家財政の問題である事。そしてそれはギリシャの様な過度な福祉と怠け者の国民性という合併でなくとも、様々な原因で先進国全体に拡大している。

そもそも米国には健康保険制度がなかった様に、これまで過剰な福祉制度はなかった。だがオバマ政権では大きな政府が肯定され、何よりも金融危機脱却のために民間の膨大な負債を政府が肩代わりした事実が課題として残されたままだ。この点についてこれまで回収した救済資金で利益が出たと政府は言うがこれはまやかし。確かにウォール街の金融金融機関は救済資金を金利をつけて返したものの、その数倍の救済資金がAIGとファニー・フレディーの(巨大住宅公庫)に投入されたまま回収の見込みが全く立っていない。そして何よりも米国は単独超大国の強みで中央銀行に紙幣をばらまかせた。結果FEDの総資産(通貨量)は肥大化したままである。

本来ならこの処置でその国の通貨は暴落する。だが米国は単独超大国の実績と先進国全体が弱体化する中での相対的強さでドルの暴落を免れている。この間FEDは口先では元の姿に戻すと言いながら全く実行する気配はない。当然だ。今元に戻したら再び奈落の底に落ちるからだ。つまり米国の最大の問題は、再び成長するための手段を結局は「借金と消費」の組み合わせという金融危機を引き起こした体質に頼らざるを得ない事であり、またそれを支えているのは嘗ての様な住宅の値上がり益を使った民間の活力ではなく、今は国家(中央銀行の政策)による直接のサポートである。

今のところ米国がその体質を維持するために発行する米国債を世界は買っている。特にギリシャ危機などがあると、行き場のなくなった過剰資金が一気に相対的に安全な国の債券に流れる。だがいつまでの相対的な有利だけに頼る事は出来ない。金価格(ゴールド)が高止まりしているのは、いつか米国の紙幣や国債の信頼も揺らぐと思われているからだ。これも当然。なぜならギリシャも米国も種が違うだけで共にキリギリス国家だからだ。いずれにしても、ギリシャ問題は、近未来のこのクライマックスに向けて時計の針が動き出した瞬間と考えている。



2010年5月5日水曜日

小作人国家の騒動

首相が沖縄を訪問し、日本ではこれだけの大ニュースである普天間問題の今を米国のマスコミは殆ど取りあげていない。それは首相個人の資質を攻撃するという外交上異例の手段にでていたワシントンポストも同様だ。要は米国にとって重要なのは、基地がどこかではなく、鳩山首相の退陣である。

だがこの責任はやはり首相にある。なぜなら沖縄にせよ、他の基地にせよ、日本の政権が米軍基地の問題を喚起するという事は、日本国民に憲法9条の問題、即ち日本人が本気で国防を考える前提があるかどうかの見極めが必要だ。だが誰が見ても今の日本にそんな機は熟していない。

そして、もし不可能な事を選挙公約にしてしまったなら、いかに触れないか、政権を安定させるためにはその逃げ道も必要だった。オバマ政権は選挙での最大の公約だった健康保険法案を通したが、最初はこの公約を敢えて触れなかった。なぜなら金融危機の暴風雨で政権を引き継いだ以上、下手な公約の扱いは命取りになるからだ。そして共和党は金融危機救済の結果としての財政悪化と健康保険をうまく結び付け、途中までは政権と民主党を苦しめた。だが最後政権は絶妙のタイミングで一気に押し切った。

まあこれも実力。ここではなんども米国は戦争当事国であり、政権内の足並みの乱れを外に晒すような愚かな事はしないと何度言ってきたが、閣僚が好き勝手を言いい、ソレが民主主義だなどと寝とぼけた事を言っている日本ではそもそも無理な芸当だったのかもしれない。

そして緊張がない日本では国防とは所詮米軍の話。心配と言えば「いざとなったら米軍が助けてくれるのか」などという声が聞こえる。こんな国では本土の人が沖縄の存在意義を本当に理解する事など不可能。そして、鳩山首相は「米軍は海外へでも戦争はいけません・・」などという矛盾を抱える政党と連立を組んでいる覚悟の無い状態で、米軍基地の問題に触れてはいけなかったという事だ。

最後に、普天間問題については、これだけの大騒ぎの脇で、日本人が本質である「自分で国防をする」という基本をいつまでも避けている事が最大の問題である。中国や韓国には十分な説明が必要だろう。だが究極的には国民が自分で自国を守る意志を示さない小作人国家に秀逸な政治など生まれるはずがない・・。



2010年5月1日土曜日

旧約聖書の教え

スイスのバーセルにある国際決済銀行は毎年デリバテイブの想定元本の総額を発表する。その数値は2007年の6月末には天文学的な6.7京円という規模になっていた。しかし2008年の6月時点では数値は5京円まで下がっていた。結局ソレが脱水症状を引きおこし、世界経済は麻痺した。そして注目の2009年6月末の数値が最近発表された。数値は再び6京円の大台になっていた。ここで注目すべきはその数値は2009年の6月末時点である事。即ち、今の金融市場を見ても明らかな通り、その後のデリバテイブの規模は再び増加の一途をたどっている可能性が高く、もしかしたら現時点では金融危機前のピークを超えているのではないか・・。

だが、これだけデリバテイブや金融市場には流動性があっても、実物経済には資金が行きわたらない。だから日本ではデフレが止まらず、米国では証券会社などの市場関係者のみが再びわが世の春を謳歌している。そんな中で起こったのが今回のゴールドマンサックスの詐欺疑惑だ。そしてこの事件への反応は様々。そもそも法律的に白黒つけるのが難しい中でコレが議会での金融改革法案成立に拍車をかけたのは確かだ。従って政権による謀略説も筋は通る。ただ法律的な話ではなく、ゴールドマンサックスを初めとする金融市場関係者が人間として重要な何かが欠けていたのは事実である。

そこで思い出したのは旧約聖書だ。その創世記、ノアの警告を無視し、酒池肉林に溺れた民衆は大洪水で一掃された(ノアの箱舟)。そして時が経ち、再び平和になると、大洪水を生き残ったノアの子孫は大洪水を起こした神を侮る様になった。すると今度は人間が神になれば大洪水の様な天罰は二度と起きないと考えた。そこで天まで昇る塔を建てようとする。それがバベルの塔だ。だが神が人間に複数の言葉を与えると、そのバベルの塔では混乱が起きた。そして言葉によって逆に意思の疎通ができなくなると、塔は崩壊してしまった。

個人的に、過剰流動性という大洪水に溺れたはずの金融市場は、助けてもらうと今度はバベルの塔を立て始めたとずっと感じてきた。株高に浮かれた市場関係者の発言には、株さえ戻れば全てうまくいくとの驕りがあった。そんな中でゴールドマンの話が出てきた。旧約聖書が教えが正しいなら、いずれ何らかの形でその塔が崩壊すると、その時金融は地域ごとの細分化が進むと考える。なぜなら、複数の言葉を与えられた人間がバベルの塔の崩壊後、世界に散らばって国々を構成した様に、たとえ不便になってもリスク分散のためには離れた方が良い時がある。(それがデリバテイブ規制の本質だろう)北欧などの一部の人々が実践している地域通貨はその延長だと考えるが、実は建国直後の米国でも安易な金融に頼らないスピリットがあった。(注1)

ただそんな話は死に物狂いで金融市場で儲けるためにポジションを張る我々にとっては非現実的だ。だが、皆が金融市場で儲けようとする事が、そのまま世界の発展に繋がる時代が永遠である保証はない。そんな時、神の意志ではなくとも人間の歴史は不思議な調整機能を見せた。だから曲がりなりにも人間社会はここまで来れた。そして、デリバテイブを原子爆弾として悪玉扱いしてきたあのバフェットが、自分の会社のためにそのデリバテイブ取引を規制から外すように議会に意見するようなった。

私には彼の変節はソノ期が熟し始めている予兆にしか見えない。バフェットは金融危機の最中にゴールドマンに特別契約の投資をした。これは一般の投資家にはできない優遇された内容だ。この時点で彼の投資スタイルは以前とは違うものになっていたが、仮にこのGSへの投資が失敗に終わるなら、それは彼もそろそろ市場から引退する時が来たという神のアドバイスであろう・・。


注1 (独立後の最初の戦争である米英戦争で米国が苦戦したのは、欧州に確立していた金融カルテルの米国への介入を拒んだ事による資金不足が原因とされる。だがその英軍を天王山で撃退したのが20ドル札の顔、軍人アンドリュージャクソンである。そしてジャクソンは大統領になると、彼は10ドル札の顔であるアレキサンダーハミルトンが創った初期の中央銀行を廃止した・・)