2008年10月28日火曜日

201Kプラン

そもそもヘッジファンドが隆盛となり、それに呼応するようにサブプライムを含めた様々な高利回り?の新商品がここまで世界を席巻した背景は金融のシステムの問題ではない。一言でいえば人類が豊かになり、先進国では戦争を経験していない世代、また資産価格の上昇の恩恵を一番受けたベービーブーマーという人々が、引き続き豊かな老後に向けて過剰な流動性が醸し出した空想のリターンの水準に疑問を持たなかった事が本質である。

そして言わば人間としての防衛本能が退化した結果、本来世の中の主役になってはいけない「ヘッジファンド」という存在がここまで大きくなり、彼らと商売をするために銀行機能がSTEWARDSHIP(執事)からSALESMANSHIP(セールスマン)になった。頂点にあったグリーンスパンFEDはこの変化を見逃したのである。(一部では誘導したとの説もあるが)

その意味ではヘッジファンドはベービーブーマーの期待に応えようとしただけかもしれない。そして歴史はそれほど不公平ではなかった。ベービーブーマーが構築してきた資産は今崩壊している。ただこれは歴史的観点でみると実は「調整機能」の範疇なのかもしれない。

そういえばこちらで代表的企業年金を401kプランと呼ぶ。全く無関係だが米国のベービーブーマーが豊かな老後を迎える為の平均的必要資金も概ねこの金額である。($401000として、利回り8%で年間3万ドル前後)しかし今後は401Kは難しい。せいぜい「201Kプラン」がふさわしい時代となった。恐らく、皆がそれを観念するまで、ヘッジファンドによる解約売りは終わらないだろう。

2008年10月22日水曜日

ファイナンシャル パンデミック(金融感染爆傷)

たちの悪い風邪に気を付ける季節となった。興味本位で調べてみると、1918年~19年、地球の人口が12億だった時に5000万人が死んだ驚異的インフルエンザのスペイン風邪は、スペインではなく実は米国で発症したとの事だった。そして諸説あるが最も信頼できそうな研究者の本では発祥地はこのシカゴだったとの話には驚いた。(ボストン説もある)

第一次世界大戦で派遣された米兵からの感染で欧州で一気に拡大。スペイン王室の被害も大きくスペイン風邪となったとの説もある。いずれにしても、スペインが直因でないのに人類史上最悪のインフルエンザに自国の名前をつけられてもあまり騒がないところはいかにもスペイン人らしい。そういえば米国発のサブプライムで欧州で最初に経済が崩れたのがスペインだった印象だが、今回の金融危機は増殖したウイルスのようなマネーが世界中に影響を及ぼした点で後にはファイナンシャル パンデミック(金融感染爆傷)として伝えられるだろう。

そして、スペイン風邪が世界人口の4%を殺戮した事を踏まえると、このパンデミック(感染爆傷)の恐ろしさを侮ってはならない・・。

2008年10月18日土曜日

日本人の幸せ



米国では犬はドックフードで育つ。しかしそれはアメリカの犬にとって不幸である。なぜなら。NHKの番組によると、人間を含めた動物の味覚は、直接味を感じる舌と、匂いを感じる神経が脳内で融合して「美味さ」を感じるというからだ。

犬は人間の数千倍の嗅覚をもっている。せっかくその力を持ちながら、ドックフードしか知らないで一生を終えるとしたらそれは不幸だ。

その点で我が家の犬は幸せである。なぜなら飼い主が躾に失敗したため、彼はテーブル上の様々な食べ物の味を既に知っている・・。

そもそもラーメンや蕎麦を、音を立てながら啜る事を無作法とするナイフ/フォークの国で、舌の感覚と匂いとの微妙な調和を楽しむ日本食のテイストが本当に理解されているか疑問。

今世界中で日本食ブームが起きているとはいえ、実際に欧米人で日本食の本質を理解している人は少ないのではないか。

以前も紹介したが、著名な和食の本によれば、日本食が他国の料理と決定的に違うのは日本食の味覚は「足し算・掛け算」以外にも「引き算・割り算」で構成される事がある点だという。

確かに中華もフレンチもソースが基本。従ってナイフフォークで優雅に食べる為にふさわしい。その点日本食は素材の味を活かすために様々な「引き算・割り算」の手法がある。

旨い蕎麦の決め手は匂いだという。そしてその美味さを感じる為には豪快に啜る事が肝要であるらしい・・。(NHK)

そう言えば、世界一の金持ちのバフェットはビックマックが好物だという。NYやシカゴの金持ちには日本食も含めた美食家が多い。しかしオマハの田舎では日本食は無理。彼が自宅にビルゲイツを招待してカードを楽しむ時は、必ず共通の大好物のビックマックを用意する逸話は有名である。

世界の富の支配者の大好物が結果的に5ドルのビックマックだとの話を聞いた時、自分は幸福感を感じた。なぜなら庶民の自分でも、ビルゲイツやバフェットに優越感を感じる事が出来ると知ったからだ。

彼らへの優越感?それは自分は、彼らよりも美味しいものをより多く知っているとの確信である。

人間の一生を80年とすると、普通の人が一生に食事をする回数は6万回程度だ。この6万回の機会をどう楽しむか、実は重要である。

バフェットの様に有り余るお金はなくても、自然の中から美味しいものを日々発見しながら一生を過ごす事がどんなに幸福か。これは「知らない人」にはわからない話だ。

ところで、評論家は未だに90年代を失われた10年という表現をする。ただ失われたモノとは何だったのか。今になって考えると、それは欧米が期待した成長力ではなく、日本人の自分たちの幸福のスタンダードだったのではないか。

いずれにしても、瓦解していく金融資産の時価を見ながらこれ以上暗くなるのは健康に悪い。6万回しかない食事の機会。美味しいもを見つけきちっと楽しんで食べよう。それが自信回復への第一歩と考える・・。

2008年10月16日木曜日

<今日の視点>不思議の国アンクルサム

ヘッジファンドからの資金引き出しが話題だ。ただそれはピークに近い。一方ミューチャルファンド(投資信託)では先週の1週間だけで前代未聞の65B(6兆円)が流出した。CNBCに登場する多くのゲストはこれらの現象を受けて、「巨額の資金がサイドラインにあるという・・。」しかしこれは真っ赤なウソだ。サイドラインには金はなく、現金化した資金は次から次へと消えていく。これが金融資産6000兆円、デリバテイブの総額が5京3000兆円という新次元の世界で起きているマネーの収縮現象の現実である。

そもそもこの現実は大恐慌どころか、おそらく300年の近代経済史上で初めて起こっている大バブルの崩壊である。ひとつのヒントは1930年の大恐慌は米国民の一人一人にまだ健全性が残存していた頃の話。それはSAVINGレート(普通預金残高)で判る。SAVINGレートが大暴落の結果マイナスになった大恐慌当時と、2004年の頂点の手前でSAVINGレートがマイナスになった事を全く気にしなかった「不思議の国のアンクルサム」では全く同じ米国人でも異質な人々である。

そして、世界もまだ未来の超大国への位置づけだった1930年代の米国と、世界全体が米国化してしまった後の今の米国の挫折を同じ次元でみる事はできない。その一例は日本株。日本株はレバレッジが30倍以上だった米国と同じ比率で下落している。日本企業の低レベレッジからすれば、最初に買い直されなければならないのは日本株だ。しかし日本人が米国化してしまった事で、同じレベルで震撼しているとそのチャンスをすくってくるのは米国のプライベートEという事になろう。

日本の金融機関はサブプライムで傷が少なかった。だがその政策的持ち株は金融機関としては世界で突出している。そしてヘッジとしての巨大債券ポートフォリオ・・。これは経済が困難な時期には債券ポートが利益を出す事で効果があったかもしれない。だがキャッシュクランチに落ちた世界の狼たちがこれから円債に眠る巨大資金をめぐり動き出す。すると、どんな形にせよ円債市場から資金が流出、円金利の上昇は避けられないだろう。

その際金融当局からまだ銀行勘定では「債券先物の買い」が出来ないなどという世界的にも信じられない足かせを嵌められた日本の金融機関は実は一番苦しい事になってしまうのではないか。そして、それが日本国民の不幸として襲いかかる・・。

いずれにしても一人一人が相対評価で慣らされてしまった時代はサバイバルの時代の意味がそもそも理解されているかどうか疑問。個々の健闘をお祈りします・・。

2008年10月14日火曜日

<今日の視点>初めての冬

最近までのフリードマン(サッチャーやレーガンの経済政策を導いたノーベル経済学賞受賞者)全盛時代に異端児扱いされたクルーグマン氏がノーベル経済学賞を取った事と、金融救済案が当初ポールソンが主張した不良債権買い取りから一気に180度転換して公的資金投入へと突き進んだ背景には関連があるのか個人的には分からない。ただ、救済案が議会で可決されてから更に下げ足を速めた株を見てブッシュ政権が遂にギブアップした姿は、米国が初めて何かに敗北した象徴であった事に間違いない。よって、今の株高は未来への光ではなく、昭和20年の8月、東京大空襲から沖縄戦、更に広島、長崎に落ちた原爆を見て日本国民が味わった震撼が敗戦の事実を受け入れた事でとりあえず緩和されたあの局面である・・。

さて、そのクルーグマン氏と久しぶりにCNBCで元気な姿を見たジュリアンロバートソン(90年代にソロスと並び称されたヘッジファンドの重鎮)が同じ事を言っている。それは「問題はこれから」という事だ。そしてジュリアンロバートソンは90年代の日本の苦境を引き合いに出す愚かな米国人アナリストがこれまで誰も言わなかった事を言った。それは、当時日本には巨大なSAVING(普通預金)があったという事。よって彼は明確な表現は避けたものの、日本の90年代に比べ、米国の今後の方が厳しいとの見方をしていた。私の記憶では彼は90年代に日本の巨大円債市場に売り向かい、そして敗れた。だから彼はこの本質に最初に気づいたのかもしれない。そして巨大なSAVINGではなく、巨大なレバレッジを築いてしまった米国人は大半がその事にまだ気づいていない・・。

まだ住宅バブル真っただ中の2004年から米国の貯蓄率はマイナスとなった。これは大恐慌結果として貯蓄率がマイナスとなった30年代の当時の米国と比較しても、今の米国人の抱える根本的問題を代弁する。それは何年も異常気象が続き、生まれてから全く冬を知らないまま大人になったキリギリスが初めて冬に直面する様なものだ・・。

いずれにしても敗戦後の占領政策は苦い。今ポールソンが発表している公的資本注入に伴う銀行管理への大筋は日本の模倣。これは太平洋戦争の敗北と、そして90年代の金融自由化戦争では負け組みと言われた日本と立場が入れ替わった瞬間に今我々は直面しているという事だ。ただその事実をどう使うか。残念ながら日本でその使い方を知っている政治家や経済人の存在を私自身は知らない。むしろイソップ童話の蟻とキリギリスが日本だけ最後の終わり方が違うという現実がここで不気味な予感を呼び起こす・・。

2008年10月9日木曜日

<今日の視点>マグロの集団自殺

日本円で100万の札束の幅を仮に1CMとする。そしてそれを延々と積み上げていく。月まで到達するの必要な札束はいくらになるか。月までの距離が38万キロMらしいので、計算上は3.8京円という正に天文学規模の札束がいる。そんな中、本日のNYTIMESには興味深い記事があった。そこでは世界のデリバテイブの総額が$531Tとの解説がある。(日本円にして5.31京)内訳は$464Tが金利通貨スワップで圧倒しており、それに比べ株式関連のスワップの$11T、話題のCDSは$54Tとまだ大したことはない。そしてこのデリバテイブの総額は2002年の$100Tから2008年までのわずか6年間に5倍まで膨らんだ。恐らくこの事実は10万年の人類史上で最大のバブルではないか。

そして一旦この市場が機能しなくなると裏付けのために各国の中央銀行は一気に資金を供給しなければならない。すべての通貨で一体どれだけの札がプリントされるのか。日本円で月まで届く程の札束を印刷するのは現実的ではない。従って金融市場はルールを大幅に変えるしかない。まずは金融機関を国有化する事で市場に心理的安定を与える。ただそれでは資本ルール上金融機関はこれまでの様なリスクを取る事は出来ない。即ち民間による成長への自転エネルギーは大幅に縮小される。

金融法案を巡って揺れ動いた先週、ポールソンは金融機関への資本注入案を頑なに否定し続けた。しかし昨日その可能性を発表せざるをえない程に彼は追い込まれた。個人的にはその背景には大手の銀行があると読んでいるが、何んにせよ、米国は常に成長を前提に走り続ける事で成り立ってきた株の国。言わばマグロの大群の国である。(天然マグロは常に高速で泳いでいなければ死んでしまう)。

それで株が買えるのか。米株市場にはいずれ短期金融市場が落着く事とは全く違う次元の難問が待ち構えている。

<今日の視点>ノーベル生活学賞

そもそも米国による一極支配の終焉が他国に及ぼす影響は様々な症状を持つが、今回の金融危機で米国の権威は失墜、またドルはユーロ通貨が自滅した為通貨としての相対価値は維持されているものの、単なる消費財としての商品群からは一線を画して乖離を始めたゴールドに対しては価値を失い始めている。その本質を一口で言うならスタンダードの崩壊。即ち世界が目指したはずの権威と価値の消滅である。ただそんな中で現在もその権威と価値の存在を証明したのがノーベル賞だ。

そして今回は日本人が一挙に4人受賞するという快挙。そこで私はスエーデンに提案したい。独自の人間学からすれば、所詮は「流行り、廃り」だったかもしれないノーベル経済学賞を廃止して(そもそも経済学賞はノーベル賞の原型になかった)これからは新たにノーベル生活学賞を設けるべきである。ただ生活学賞とは何だ。ヒントは平和賞。世界平和に貢献した人にノーベル平和賞がある様に、宗教で人を殺さず、他人に迷惑をかけず、友好を貴しとして己の消費のみに固執することなく世界平和と地球環境に則した生活を実践した人や国家に送る賞である。そしてそれは市場原理に替わる価値だ。 この価値観は性悪説の国々には理解不可能だろう。しかしスエーデン人には理解されるのではないかと個人的には考える。

さて昨日の討論ではマケインは、私が大統領になれば、財務省に強制退去の危機に瀕した国民のモーゲージを買い取らせ、利率を再考し、国民が支払いの継続が出来る様にモーゲージのリセット命令を出すと言明した。本来共和党保守派のマケインも先の金融法案あたりから自分を見失なっていたが、ここまで来ると最早見苦しさを超えて頭がおかしくなったレベルである。ただ追い込まれた米国はFEDにせよ、財務省にせよ、またSECにせよ、次々にモラルという表現を超え気が触れた様な話ばかり持ち出す。SECは時価評価を辞めてMARK TO MODELなど訳のわからない事を言い出した。以前「中国の輸出食品」と「米国の金融商品」は世界に中毒症状をばらまいた点で同類だとしたが、ここにきて改善に本気の中国に比べ米国はまだごまかしの姿勢が見える。

直接金融が齎した功罪の罪の部分であるCP市場の機能停止というシステム問題はともかくとして、今回の最大の問題は、市場原理の恩恵を受けた米国が己(国家と国民)が失敗した時点でその原理によって本来は退場しなければならないにもかかわらず自己否定が出来ない点だ。そして周りもその矛盾を解決できない。また暗黙のうちに始まった社会主義への流れを公式には認めようとしない。従ってこれまで米国を模倣してきた国家群にも混乱が生じている。ただ昨日緊急救済案を発表した英国ブラウン首相が直接金融機関に資本を注入する点を強調して何度も「米国とは違う」と言っていた事はこれからの米英関係も含めて注目されるのではないか。

いずれにしても協調利下げに参加者しなかった日本は今回の危機を「回周遅れ」で免れただけではないかもしれない。本来日本はイソップが云うところの蟻だ。これまで蝉の米国に(本来イソップ童話の原型は蝉と蟻だったが、蝉がキリギリスに変わった)散々バカにされ続けたが、自ら冬を受け入れた点を評価されるべき時がきたのかもしれない。そしてその延長線にノーベル生活学賞があってもいいのではないか・・。

2008年10月8日水曜日

<今日の視点>荒涼とした空虚

レギュラーシリーズンが終わり、102年ぶりにカブスとホワイトソックスが揃ってプレーオフに出る事が決まった時のシカゴの沸き立ちを想像してほしい。金融不安は誰にも明らかだったが最早そんな暗い話はどうでもよく、シカゴ人の期待はカブスとソックスの夢のワールドシリーズ。そしてあまりの激戦で欧州サッカーの様な観客の暴動の危機?などと全くいらぬ心配をしたのは私だけではなかったはずだ。しかし早々とその夢から覚めてみると、現実の世界は荒涼とした灰色の金融不安の真っただ中。これが今日のシカゴの雰囲気である。

そういえば、カブスもソックスもバブルで貰い過ぎていたベテラン勢は全くダメだった。その点岩村率いるデビルレイズの活きの良かったこと。若い選手が多いデビルレイズには高給取りはいない。逆に、恐らく株がここまで下がると今までバブルの恩恵を受けたスポーツ選手達にもさすがに自己資産の目減りが肌で感じられるのだろう。金満のシカゴの選手は元気がなかった。元気がないというよりどこか空虚感が漂っていた。負けても空虚。そこが500ドル下がっても空虚な今日の株式市場と似ていた。

さてバブル崩壊の意味は人それぞれだが、私にとっては90年代前半に起こったNIKKEI先物に対する米系の裁定売り(途中から野村)とどう対処するかだった。その意味ではこの下落を続ける米株も比較的冷静にみているつもりだ。しかし今日のダウの下げ方と下げ幅、そしてチャートポイントで攻防の様をすべて総合して次のシナリオを描こうとしても、この状況は今までにない全く新しいパターンである。

相場には先物によるリズム感はある。だが空売り規制のためか実弾がない。よって参加者は値動きが予想できても実際の売り買いでは掴めない。その間ダウの水準は淡々と下がる。恐らくこれが流動性の収縮過程での下げ相場なのだろう。こうなると空売りの代わりにこの2週間で20%増加したミニS&Pの縦玉増加のペースで反転のタイミングを計るしかない。ただ これも過去のデータがない。あるのは荒涼とした空虚感である・・。

2008年10月2日木曜日

願望の罠、市況から

以前市況で米株のインデックスプレイは個別では「3G」だけ見ていればよいと書いた事がある。3GとはダウのGE(ジェネラルエレクトリック)、 S&P500のGS(ゴールドマンサックス)、そしてナスダックのGOOGLE(グーグル) である事は言うまでもない。その意味では本日GSに続いてGEへの投資を発表したバフェットはやはり非常に単純なPLAYに徹している。ただ彼はNET系は嫌いなはずなので、仮にGOOGLEが傾いても同じ事は起こらないだろう。

ところで、今の米国市場はこの80歳目前のバフェットに頼り切りの印象だ。これは、これまで己の経験だけで強気を継続してきたベービーブーマー以降の米国人が、グリーンスパンの言う100年に一回の事態にぶち当り困惑している。そこでバフェットの様な「神に近い存在」の初動に頼って自身の行動を正当化しようとする心理的状況に追い込まれている現象である。しかし言ってしまえばこれこそ神頼みに近い。あと何年バフェットが生きるというのだ。

相場のプロならお気づきだろう。これは勝負事としては典型的な負けパターンである。ここまで負けのパターンに陥った米国をみるのは初めての事だ。また、パニックの中の焦りから急いで答えを出そうとして今回の法案は国家としてこれも典型的な「高値買い/安値売り」の結果になる可能性が高い。

これまで日本史の観点からは、元寇と日露戦争と同じ奇蹟の再来の願望の罠に落ちた日本が米国という新時代の壁にぶち当たって敗北したのは摂理と考えてきた。だが今その時代の壁が同じ願望の罠で自壊の危機にある。

2008年10月1日水曜日

<今日の視点>プリンスパルとフーバーダムの崩壊

そういえば数年前から人気となった白洲次郎氏の事を巷では「プリンスパルの男」というらしいが、共和党の保守派にはこのプリンスパル(原理原則)を守るという気骨がまだ存在する事を証明したのが下院による救済法案の否決である。ただ否決の背景にはナンシーペローシ下院議長の声明文の内容が共和党を怒らしたと同時に、民主党下院議員の造反も予想以上に多かった事実もある。

そんな中で今日のNYタイムズには反対した下院議員の地元と米国全体の地図が対比で紹介されていた。そこで明らかだった事は、賛成に回った議員の地元はNYやシカゴといった金融都市を抱える大都会に集中し、そして地図の上では反対票を投じた議員の地元は圧倒的に全米全土に渡っていたのである。

そもそも米国の議会制は州で二人しかいない上院の名誉性と、人口毎に議席が配分される下院とでは使命が違う。そしてこの下院の反対票は議員本人の考えというより、地元の声を冷静に分析した結果である。因みにオバマの地元シカゴの民主党議員は反対票を投じたが、彼は共和党の様なプリンシパルに沿った訳でなく、寧ろ貧困黒人層の怒りを代表していたと考えるべきだろう。

さて、議会が妥協できるかどうかはともかく、現状の政策からは既に米国は市場原理を捨て、社会主義に移行する過程に移った事は最早否定できない。そして70兆円という税金が新たに金融機関に投入されようとしているが、この金額がポールソン原案のように民間の金融機関からの不良資産買い取りに使われた場合どの様な効果があるか。専門家の目を紹介しよう。

ドーバーアセットマネッジメント社によれば、現在米国の金融機関は金融資産を全体では60T(6000兆円)抱えているという。そこでこの天文学的数字をイメージするためにここからは円で表示する。仮に6000兆円という全体資産の1割がサブプライムを含めた劣化資産と仮定するとそれだけで600兆円である。70兆を全部使ったところでその1割にしか満たないではないか。

そして不良資産の割合が1割という査定はあまりにも夢物語。仮に3割とすると不良資産の金額は1800兆円。また残りの7割の優良資産も米国の家計の貯蓄率がマイナスである現実を踏まえると(ここが日本のバブル崩壊後と決定的に違う)今はまだ家や車のローンをきちんと返している律儀な米国人も、住宅の値下がりや失業の悪循環が続くといずれは米国の伝統的である安易な破産法にもほだされて一気に新サブプライムへと劣化しかねないのである。

この本質を普通の日本人にも解り易く言うなら、米国議会が喧々諤々としその成り行きを世界が見守るこの救済案は、仮に通過したとしても実はそれはフーバーダムの亀裂をガムテープで補修する様な 効果である。因みにフーバーダムの貯水量はウィキぺデイアによると400億トン。日本全国に2500あるダム全体の貯水量が250億トンである事と琵琶湖の貯水量が280億トンである事からフーバーダムの規模を想像してほしい。この事実からもこれまでの時代は終わったのである。そしてその終焉における米国の激痛を残りの世界が米国との距離に応じてシェアを強いられる。それがこれからの時代である。

ただ多くの国にとってこの痛みは市場原理のまま受け入れる事は最早不可能だ。本日全ての預金保護を発表したアイルランド然り、これから日本を含めて多くの国が非市場原理と導かれていくだろう。より社会主義に近い時代、その意味では真逆的に彼の時代に預金保護が撤廃された日本での市場原理の推進役を演じた小泉前総理はその止め時においても天才的なカンの持ち主であった事を証明したと言えよう・・。