2008年10月1日水曜日

<今日の視点>プリンスパルとフーバーダムの崩壊

そういえば数年前から人気となった白洲次郎氏の事を巷では「プリンスパルの男」というらしいが、共和党の保守派にはこのプリンスパル(原理原則)を守るという気骨がまだ存在する事を証明したのが下院による救済法案の否決である。ただ否決の背景にはナンシーペローシ下院議長の声明文の内容が共和党を怒らしたと同時に、民主党下院議員の造反も予想以上に多かった事実もある。

そんな中で今日のNYタイムズには反対した下院議員の地元と米国全体の地図が対比で紹介されていた。そこで明らかだった事は、賛成に回った議員の地元はNYやシカゴといった金融都市を抱える大都会に集中し、そして地図の上では反対票を投じた議員の地元は圧倒的に全米全土に渡っていたのである。

そもそも米国の議会制は州で二人しかいない上院の名誉性と、人口毎に議席が配分される下院とでは使命が違う。そしてこの下院の反対票は議員本人の考えというより、地元の声を冷静に分析した結果である。因みにオバマの地元シカゴの民主党議員は反対票を投じたが、彼は共和党の様なプリンシパルに沿った訳でなく、寧ろ貧困黒人層の怒りを代表していたと考えるべきだろう。

さて、議会が妥協できるかどうかはともかく、現状の政策からは既に米国は市場原理を捨て、社会主義に移行する過程に移った事は最早否定できない。そして70兆円という税金が新たに金融機関に投入されようとしているが、この金額がポールソン原案のように民間の金融機関からの不良資産買い取りに使われた場合どの様な効果があるか。専門家の目を紹介しよう。

ドーバーアセットマネッジメント社によれば、現在米国の金融機関は金融資産を全体では60T(6000兆円)抱えているという。そこでこの天文学的数字をイメージするためにここからは円で表示する。仮に6000兆円という全体資産の1割がサブプライムを含めた劣化資産と仮定するとそれだけで600兆円である。70兆を全部使ったところでその1割にしか満たないではないか。

そして不良資産の割合が1割という査定はあまりにも夢物語。仮に3割とすると不良資産の金額は1800兆円。また残りの7割の優良資産も米国の家計の貯蓄率がマイナスである現実を踏まえると(ここが日本のバブル崩壊後と決定的に違う)今はまだ家や車のローンをきちんと返している律儀な米国人も、住宅の値下がりや失業の悪循環が続くといずれは米国の伝統的である安易な破産法にもほだされて一気に新サブプライムへと劣化しかねないのである。

この本質を普通の日本人にも解り易く言うなら、米国議会が喧々諤々としその成り行きを世界が見守るこの救済案は、仮に通過したとしても実はそれはフーバーダムの亀裂をガムテープで補修する様な 効果である。因みにフーバーダムの貯水量はウィキぺデイアによると400億トン。日本全国に2500あるダム全体の貯水量が250億トンである事と琵琶湖の貯水量が280億トンである事からフーバーダムの規模を想像してほしい。この事実からもこれまでの時代は終わったのである。そしてその終焉における米国の激痛を残りの世界が米国との距離に応じてシェアを強いられる。それがこれからの時代である。

ただ多くの国にとってこの痛みは市場原理のまま受け入れる事は最早不可能だ。本日全ての預金保護を発表したアイルランド然り、これから日本を含めて多くの国が非市場原理と導かれていくだろう。より社会主義に近い時代、その意味では真逆的に彼の時代に預金保護が撤廃された日本での市場原理の推進役を演じた小泉前総理はその止め時においても天才的なカンの持ち主であった事を証明したと言えよう・・。

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