アメリカ新素描 4月22日作成
< 米国からみたフランス大統領選 >
米国の市場関係者もフランスの大統領選挙を注目してきましたが、その一回戦が終わりました。予想通り、サルコジ大統領とオランド氏で決選投票になりました。これで相場は面白くなりました。
昨年米国の株安はオバマ大統領に味方しました。株安のきっかけは欧州問題。それに加え、米国の財政問題が噴出しました。そして米国債発行枠の上限をめぐり議会は紛糾。二大政党と政権が三つどもえのなじり合いを展開しました。そんな中大手ではS&P社が米国債を格下げしました。
ハイベータの米国経済下、5月の株安で夏には景気低迷-雇用悪化の連鎖が始まっており、そこに共和党は雇用保険の打ち切りを迫りました。結果、株が大幅安になると、世論は財政規律重視の共和党(下院)を見限り、オバマ大統領を支持しました。
ではフランスはどうでしょう。サルコジ大統領が負ければ株は下落するとみられていますが、(ソブリンリスクなので仏国債も)もし相場が決選投票までに大崩れすれば、それはサルコジ大統領の援護射撃になるのでしょうか。サルコジ大統領はさっそく金融市場が大パニックになると警鐘したと聞きました。
ただフランスは元々社会主義政策が浸透した国です。失業率も高原状態にあり、景気も低迷しています。ならば更に株安になったところで、それがサルコジ大統領の援護になる可能性は、米国よりも低いのではないでしょうか。
< オバマ政権の株安予防策 >
一方昨年の株安を政治的に利用したオバマ大統領は、ここからの株安にナーバスになってきました。その一例を紹介すると、先週オバマ大統領はこれ以上のガソリン価格高騰を防ぐため、先物市場を使った投機筋に直々に警告を発しました。
実は昨年もこの時期にオバマ政権は同じようなことをしました。その時はガソリンの先物市場に介入してきました(証拠金引き上げ)。しかし今回は実弾よりもパブリシティへのアピールのようです。
しかし昨年の先物への介入も効果はなかったのですが、今年は管轄当局のCFTCの管理能力が更に劣化していると言われています。理由は財政削減で予算が削られた上、CFTCはドットフランク法案に忙殺されています。
そこに、CNBCのリポートでは、内部者のリークとして物悲しい話も聞こえてきました。なんと当局が使っているパソコンでは、最新鋭のパソコンを駆使するヘッジファンドの取引を調査できないというのです。つまり、パトカーがスピード違反のスーパーカーに追いつけない事態が米国の先物市場では起きているのです。
ガソリン価格が上がれば消費が落ちます。当然株は下がりますが、その場合、伝家の宝刀のFEDのQEも安易には繰り出せません(ガソリン価格が更に上がる)。そこでオバマ大統領はまずは権威でエネルギー市場を威嚇をしたのです。
< 見せしめ?イーガンジョーンズ社 >
更にオバマ政権は、株安を誘発しかねない格付け機関も威嚇しました。先週SECは独立系格付け会社のイーガンジョーンズ社に対し、なんと2008年の格付け資料に問題があるとして、今後2年間の格付け停止を警告してきたのです。
この話で筆者が感じたのは、オバマ政権の余裕のなさでした。もしかしたら共和党の候補がロムニーに決まったという報道も影響したのかもしれません。いずれにしても、ここまであからさまな権力による威嚇はこの国では珍しいと言えるでしょう。
そこでもう少しイーガンジョーンズ社の事を紹介します。同社は昔から、発行側でなく投資家から手数料を取ることで、より公正な判断ができる事を売り物にしてきた格付け会社です。筆者がこの会社の存在を知ったのは2003年頃でした。
筆者自身その頃には在庫が目立ってきたBIG3の異変に気付きました。それでも大手格付け機関は自動車メーカーにAAAを続けていました。それに対し警告を発したのがイーガンジョーンズでした。同社は単独でフォードを格下げしたのです。この時からイーガンジョーンズの名が一部では注目されるようになりました。
筆者もその頃から大手金融機関と一線を画すビジネスモデルを展開した事もあり、同社を注目してきました。そしてその後も同社の実績は続き、どこよりも早くエンロンとワールドコムを格下げし、2008年の金融危機では、S&Pが倒産する1か月前のリーマンにAAAを与える中、同社は金融機関の格下げを淡々と行いました。
そしてついにその実績を無視できなくなったSECは、2007年同社を大手3社と同じ扱いにしたのです。一方でその後も同社の遠慮ない格付けは続き、昨年はついに米国債をS&Pに先駆けて格下げしました。
こうみると、ブッシュ政権下のSECも、最後に正しい事をしたと言えます。ところがオバマ政権下、シャピーロ女史にトップが代わってからのSECは恣意的です。国益として、懲罰よりも金融救済を優先したのはしかたないとして、ここまであからさまな権力による威嚇が本当に国益につながるのか疑問です。
それもこれも、4月5日にイーガンジョーンズ社が米国債の格付けを更にAAにまで格下げしたからでしょう。この時に保守系の市場コメントには、昨年引き上げた米国債発行枠の上限が、予定の2013年ではなく、今年の10月には再び使い切ってしまうとの予想が出ました。
この予想と同社の再格下げの関係は判りません。しかしパターンが昨年と同じなら、オバマ政権は選挙直前に、同じ理由で、再び株の下げ相場を経験する可能性があります。そう考えると、それを恐れたオバマ政権がなりふり構わず強硬策に出たとしてもうなずけます。
<オバマ再選の鍵を握るアップルとフェイスブック >
ただ、政権がどんな手段で株安を避けようとしても、真の市場原理からは逃れられないでしょう。その可能性を感じたのが先週のアップル株の動きです。
アップル株は、スチィーブジョブズ氏が無くなった昨年10月5日には380ドルでした。ところが、その後の高騰で4月9日には639ドルの最高値を付けました。
アップルがiPodを出したのは2001年11月です。その時同社株は7ドルでした。そして2002年9月に6ドルの安値を付け、そこから奇跡の復活が始まりました。それでも、ジョブズ氏のもと、iPodからiPhone4sに至るまで9年間で370ドルの上昇でした。ところがジョブズ氏が亡くなってからは、僅か半年で260ドルも上がりました。
このアップル株や上場を控えたフェイスブックと、その関連銘柄のIPOの狂騒を肯定して、今米国はルネッサンス期に入ったという人がいます。
そうかもしれません。しかし今アップル株は、ジョブズ氏が9年かけて達成した370ドルの価値に、ジョブズ氏が亡くなってからの6ヶ月で280ドル価値が新たに加わった整合性が試されようとしています。
もし後者が正しいなら、市場はジョブスの価値を侮辱しているともいえます。なぜなら彼がいない方が、会社は数倍のペースで成長すると予想しているわけですから。 そして問題は、先週の米株全体の値動きが、実はアップルの株に連動していただけという衝撃です。
そもそも自分に自信があったジョブズ氏は配当をしませんでした。しかし彼の後を受けた経営陣は配当と分割を表明しました。この配当は成長への自信の無さの表れと見るファンドマネージャーもいます。彼等はこの配当を、2004年のマイクロソフトの特別配当とダブらせているのです。
マイクロソフトは2004年の特別配当を境に爆発的成長は終ったと言われました。そして今アップル株も下落を始めました。もしこのままアップルが株全体を下げてしまうなら、オバマ政権には脅威となるでしょう。
オバマ政権が株安を避けたいなら、アップル株の下落を止める事。更にフェイスブックの上場を株価全体のサポートにつなげることが重要ですしかし小手先の介入をしたところで、最後は宇宙を支配する市場原理が勝るはずです。
米国はその時々の主役がだれであれ、その真理を最も知っている国です。つまりはオバマ大統領の命運も、その一環でしかないと考えています。
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