2015年2月23日月曜日

無知なプライド

             Henry L. Stimson(背広の男性)
         
        (マッカーサーの前に、日本の命運を支配したのはこの人)


この週末はいろいろTVを見た。正月番組を遅れて放送するTVジャパンで、NHKの京都特集があった。そこで「日本人には二種類ある。京都人とそれ以外の日本人」というイギリス人の言葉があった。なにやら京都人のプライドの高さを言っているらしい。

また三島由紀夫を題材にした昭和の特集があった。個人的に三島は好きだ。武士の魂を説いた最後の演説。日本文化を世界に紹介した才能は誇りだ。しかし死へのナルシズム。また天皇中心の国体だけが、日本の真の姿であるとの主張には賛同できない。(最早軍国化は必須、だが日本文化を守るにしても、天皇主義だけが国益ではない・・)

それにしても今は便利だ。こちらで苦労して見つけた「MISHIMA」は、今はYOUTUBEで観れる。コッポラとルーカスが共同で製作した秀作が、当時日本では放映されなかったたのは、日本のナイーブさがでている。

ファンだった坂東三津五郎さんも、重要な役で出ている。彼が演じたのが小説「金閣寺」の主人公。吃音に悩み、実家からの期待に押しつぶされ、金閣寺の美の中で、パラノイアに陥る若い修行僧を見事に演じている。

観ていない人は、消去される前に鑑賞を薦める。(日本では公開されていないの)ストーリーは、彼の人生と、小説代表作4作をシュールレアリズムでコラボしている。





さて、確かに、金閣寺など、京都の価値は計り知れない。SP先物のピットでは、日頃イタリア人やトルコ出身のユダヤ人と、千年の都は、京都/ローマ/イスタンブールしかないと自慢しあっている。

しかし、三島が陶酔した天皇制や京都の美は、終戦間際、1945年の5月から8月の原爆投下までの、米政権の様々な駆け引きの結果である事実を受け止めなけばならない。もし予定通り、京都へ原爆投下が実行されていれば、実は今の京都の美は存在していない。ソレを知らず、京都人が京都文化を自慢しているなら、それは無知なプライドである・・・・。


そもそも原爆は、マンハッタン計画実行者達(軍人、オッペンハイマー、ノイマンら科学者)が、日本のどこに落とすかも立案していた。中でも、20世紀最大の科学者の一人とされるノイマンは、なんと京都への原爆投下を主張した。 (参考 http://www.dannen.com/decision/targets.html)

アメリカでは、ノイマンは、彼の前ではノーベル賞が小さく見えるとさえ言われる巨人。元々は数学者。だからノーベル賞の対象にはならなかったが、コンピューターやアルゴリズムなどの基礎を築き、死ぬまでアメリカでは絶大な影響力を持った。

そういえばギリシャの新財務長官は「ゲームの理論」の専門家らしい。その理論で、EUから救済を引き出したい国民の期待を受けているが、ゲームの理論もノイマンが最初に考案したものだ。いずれにしても、ノイマンは、人間離れしたその知能で、日本の最大のダメージは何かを考えた。

それは日本人の心であり、誇りでもある京都を攻撃すること。東京は既に焼け野原。新たなダメージとしては対象外。そこで原爆投下委員会が出した候補は、第一候補が京都と広島。それでも日本が降参しなければ、新潟 小倉 横浜が次のターゲットだった。

この頃、原爆投下委員会とは別に、日本をどう終戦に導くかの議論を実質支配したのが、当事の戦争(国防)大臣だったヘンリー・スティムソンだ(Henry L. Stimson 添付)

彼は共和党。NY生まれでイエール・ハーバード系のエリート。イエールではスカルズ&ボーンとして、英国との連携を重視した典型的なアングロサクソンだった。その彼を、戦争の準備が整った民主党のルーズベルトは、戦争大臣として招聘した。

因みに、「ルーズベルトは日本の先制攻撃を知っていた」の根拠は、彼がルーズベルトに招聘された際の彼の日記だ。そこには、ルーズベルトは、日本の先制攻撃は、次の月曜日という具体的な曜日まで指摘したことが証拠として残っていた。(ただし、攻撃対象はフィリピンで、パールハーバーに襲来するとは思っていなかった)

そして、原爆投下の最終決断はトルーマンだったが、直前に対象を京都から長崎に変更したのはこのスティムソンだった。また彼はマッカーサーと協力し、天皇制維持にも尽力した。

また彼の資料には、原爆を落とすならドイツと日本のどちらに落とすかの考察がある。ドイツは降参してしまった。なら日本に原爆を使った場合、戦争の早期終結という効果と、アメリカが原爆を落としたダメージの相対的判断の過程だ。

無論そこには「武力を前提にした強権主義が、平和への近道」という信念に揺らぎはない。だが、ナチスは解体すべきだが、京都には原爆を落とさず、天皇制は残した方がいいとした、現実主義もあった。

そして日本にとって残念だったのは、彼の資料には、アメリカが日本に原爆を落とし、世界が原爆の恐ろしさを知れば、誰も米国には逆らわないという発想だけではなかった形跡があること。結果論だが、もし1945年5月末の段階で日本が無条件降伏を飲めば、降伏後の内容はポツダム宣言より緩和されたものだった可能性・・、

個人的にもこのような駆け引きは、アメリカに住み10年たった頃やっと理解できた感覚。当時の日本(更に軍部なら)が理解するのは無理だったのは承知。しかし。終戦前、原爆投下前に日本にはアメリカからシグナルがあったはずだ。

そして、天皇制の重要性に気づいていたスティムソンでさえも、三島由紀夫が理想とした死に対する当事の日本人の観念(カミカゼや一億総討ち死の美学)に、対処法が浮かばなかったことが、原爆投下までの熟慮の過程で残されている。

言い換えると、沖縄でのあの抵抗が、本当は日本が望んだ無条件降伏以外の道も考慮していた米国を、逆に追い込んでしまったかもしれない日本の悲劇・・。

全て結果論だが、日本はここを知らないと、今後も何十年、何百回、終戦番組をやっても無意味だと思う。

その意味で、先の人質事件の安倍政権の対応は正しかったと思えない。安倍さんは事あるごとにテロには屈しないといったが、アメリカ「身代金は払わない」といいながらな、実は様々な可能性も否定しない。

それはずっと昔からであり、日本がアメリカを客観的に研究せず、CIAの手先のような連中に煽動されているだけなら、いずれ同じ失敗をするだろう。捨てるべきは、無知なプライドだと思う。



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