2009年10月16日金曜日

資本主義の士官学校

数年前、欧米金融機関が展開した法律のグレーの部分での攻防を見て、性善説で無防備な日本人が彼等に対抗するには既存の邦銀ではなく、経済ヤクザに変貌した山口組を合法化して彼等に立ち向かわせるしかないと考えた。そして本日録画しておいた先週のNHKクローズアップ現代「パテントトロール」を見て同じ感覚に襲われた。

番組を見逃がした人の為に簡単に概略を紹介すると、米国のALCACIAという会社は投資ファンド形態を持ち、数十人の規模の社員には法律の専門家から心理学者、更に俳優までも揃えている。そしてビジネスの形態は投資家から資金を集め、その資金で将来ヒットしそうな商品の特許に「似ている」特許を予め買っておく。そして実際にその商品が市場でヒットした頃を見計らい製造元に特許侵害の告訴上を送る。ただ「似ている」特許を根拠に「言いがかり」をしている事は承知しており、彼ら自身も資金にコストがかかる中で長期に渡る裁判を本気でする気は殆ど無い。狙いは製造元に心理的な負担を掛け、ぎりぎりのところで裁判費用よりもやや高い和解金を提示する。俳優や心理学者は示談に持ち込む道具の一つである。そして日本企業を狙う場合、周到にも一般から選ばれる陪審員が全米で最も「保守的」とされるテキサス州で裁判を起こすという。日本企業にとっては言いがかりと判っていても、不利なテキサスでの裁判には最低4年の準備と外国での裁判の特別費用が重い。番組ではセイコーエプソンがこの手口で10億円を苦々しくALCACIA社に払ってしまった経緯を取り上げていた・・。

この様なビジネスは80年代中旬に米国で発想が生まれ、2000年ごろから「金融ビジネス」として組織化されたという。まあ言ってみればこれも新しい資本主義の形態だ。面白い事にこの様な会社は米国だけでなく中国でも生まれ始めているという。ならば消費をする力を持った国が常にエッジを持っているという事だ。そしてそのエッジを持った国が法律を自由に操る事で収益が得られるという新時代の資本主義の本質が生きている事になる。ところでその資本主義に絡み一つ言葉を紹介する。

それは「WESTPOINT OF CAPITALISM」。WESTPOINTは言うまでもなく数々の大統領やマッカーサーを輩出した士官学校。ここは高校までの成績が優秀である事は当然で、国会議員の推薦が無ければ入試が受けられない。そして毎年1300人の精鋭が入学するものの卒業するのは1000人程度という真にIVリーグと同格か、それ以上に名誉を約束された名門中の名門である。そして「WESTPOINT OF CAPITALISM」を意訳するなら「資本主義の士官学校」となる。実は米国でこの称号が付けられているのがハーバードのMBAである。ただ「資本主義の士官学校」と言うのはあまりにも格好が良すぎる。なぜならここの卒業生が多数集まるWSは昨年大敗北を経験した。そして本来なら全員がそこで戦死するところを世界の金融システムの救済という名目で彼等は政府に助けられた。そして助けられた後に莫大な利益が生まれると今はその報酬の権利という保身に走っている。これが士官の姿か。

ところで日本の防衛大学は授業料を返還すれば自衛隊に行かなくてもよいと聞いた。だがWESTPOINTは卒業後に兵役の義務がありイラクでも若い卒業生が何人か戦死した。いずれにしても、グレーの部分を含めた法律の範囲でどうやって自分が利するか、或いはどうやって自分だけ助かるかを教えるのがハーバードのMBAとするなら、其処とWESTPOINTを同列にするのはあまりにも卒業生の戦死者に対して失礼ではないか。だが冒頭のパテントロールのビジネスがレーガン政権後に生まれた事からも然り、冷戦後の世界の戦場は金融のフィールドに移った事も事実だ。いずれマルクスに屈服するにせよ今は其処でどう戦うか。新政権下で「技術立国日本」の戦略が試されるだろう。




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