2009年10月7日水曜日

両刀使いの演出

長年夜のトークショーを続けているデービットレターマンという人がいる。彼は丁度「タモリ」の様な存在だ。その彼が先週自分の番組で不倫を告白した。彼は番組の女性スタッフと性的関係を持った事を番組の途中唐突に話し始めたのである。いつもの軽妙な口調。表情はまるで他人の話をしているかのようだった。そして懺悔なのか、話術なのか判らないままあまりにもさらりと話し切られたので会場を埋めた観客もどう反応していいか判らない。そんな不思議な雰囲気がテレビからも伝わった・・。

この一件の裏には脅迫があった。女性の男友達が彼女との関係をばらすと彼を脅したのだ。そしてレターマンは番組で自ら先に秘密を暴露する裏技に出た。結果その男はすんなりと告発された。その後の米国の反応を見るとレターマンを非難する声はそれ程でもない。謹慎後に新聞に家族への謝罪文を掲載したレターマン氏を褒める人はさすがにいない。だが今のところ番組を降板させられる程の責任問題にはなっていない・・。

これを見て思い出したのは研修生との不適切行為を国民に告白したクリントン大統領のテレビスピーチ。あの演出は見事だった。厳粛な大統領執務室の雰囲気の中で彼は顔を強張らせながらもしっかりとした口調で反省の弁を述べた。この時のクリントンの演出はその完璧さにおいてオバマの演説に完全に匹敵する。そしてコメデイアンという職業からの天性の話術。更にテレビと言う媒介の効果を知り尽くしたレターマンの演出も今のところ彼を守っている。

さてそもそも真実をどう見せるか。或いはその事実をどう国民に感じさせるかは演出だ。そしてこの国では裁判から大統領選挙まで全てが演出で決まると言ってもよい。そんな中でテロを題材にした歪んだ剛直さを売りモノにしたブッシュ共和党の演出に振り回された米国民は今のところこの種のスキャンダルの釈明(演出)には寛容だ。そしてこの種の演出が得意な人が今は圧倒的な実力者である。

まずビルクリントンは完全に復活した。復活どころか恐らく水面下での影響力は今はオバマより上だろう。そして民主党優勢の議会でもその演出力で異彩を放っている「男」がいる。それはバーニーフランク議員。彼を「男」としたのは彼が同性愛者である事を半ば公表しているからである。オバマ政権の発足時に「宦官政治の予感」というテーマで視点書いたがそれは彼をイメージしたモノだった。そしてどうやらその予感は当たった。

そしてここまで下院の金融委員会議長として圧倒的存在感を誇ってきた彼は、本日、回収したTARP資金を今度はフォークロジャーの危機に瀕し失業中という国民の救済に使う法案の提出を示唆した。まさにこの演出は亀井大臣のソレに近いかもしれない。だが亀井氏と決定的に違うのはバーニーは「両刀使い」である点だ。彼は下院の金融委員長として金融機関の報酬規制等の金融改革法案の推進者の立場。従ってここまで彼は庶民を代表して金融の非常識な高給への非案を展開していた。だが彼はその金融機関から最も献金を受けている3人の議員の一人である。要するに彼は庶民の味方を演出しつつ実は金融機関の味方でもあるという「両刀使い」である。

ただそれは彼が金融が地盤のマサチューセッツ出身なら当然。しかし同色のコネチカット出身のクリスドット上院金融委員長が次期選挙で落選の危機にある中、バーニーは国が救済をリードしたファニーメイの重役と同性愛関係にあるとのスキャンダルにさえもビクともしない(エコノミスト誌)。そして下院の共和党勢力の反発は上手くナンシーに押し付け、また議会証言では議長としてロンポールの糾弾からバーナンナンケやガイトナーを守りながら今日も彼はTARP資金の新たな使い道で庶民の味方として自分を演出する事に成功した。

前置きが長くなったが、結局デービットレターマンやビルクリントン、更には同性愛者の有力政治家が象徴するのは冷戦後の平和である。逆に言うと冷戦が終わり出番の無くなった共和党とその信義(正義)はあまりにも単純だったブッシュと共に葬り去られた。恐らくブッシュはローラ夫人との間で浮気もせず、またキリスト教の教義を守り良い意味では純粋だったのかもしれない。だがその純粋さはネオコンに支配されると無力だった。結果今の米国には新たに刷られた大量のドルとそこからのドル安を全く気にしない真に冷戦後の平和を象徴する市場の空気だけが残された。それも然り。なぜなら今の金融市場の参加者の半分以上は恐らく冷戦後の世代。だが相場にはMAJORITY(大勢)は必ず間違うという鉄則がある。ならばいつその平和の前提も終わる。ただそれでもドル安が続いた場合一体この国はどうなるのだろう・・。



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