今日のニュースからは遂にバッタ同士の最終戦争が始まった事が窺える。まず全米からカナダにまたがる最大の労働組合AFL-CIOがANTI-BANK(反銀行)キャンペーンを打ち出した。AFL-CIOに加盟している労働者は900万人。キャンペーンとは「反銀行」のプラカードを掲げて大行進するという内容である。この行進にどれだけの人が参加するかは未定。だがそんな事に関係なく民主党の大統領指名選挙で常にカギを握る強大な政治力のこの団体が反銀行キャンペーンに遂に乗りだしたという事が重要なのである。
ではなぜAFL-CIOは反銀行キャンペーンに出たか。それは今回の決算で銀行が一般の預金者に対してチャージした「OVERDRAWING」(残高以上にお金を引き出す)の手数料が大手銀行の収益中$4B(4千億円)もあったという事実に噛みついたのだ。ただこれは銀行に落ち度のある話ではない。そもそも預金者が簡単に「OVERDRAWING」する実態は小切手の習慣のない日本人には不思議な話かもしれない。だが米国では千円単位の買い物にも小切手を使うのが一般的な中、預金口座には預金がある人も「小切手口座」の残高を超えて小切手を切ってしまう事はよくある。その度銀行はぺナルティーをチャージするのだが今回AFL-CIOが代弁する怒りとはどうやらそれだけではない様子だ。
彼等の真の怒りはウォール街の高給に対して抑えきれなくなった怒りである。「OVERDRAWING」はそれを代弁をしているにすぎない。そしてもう一つの話題は本日発売になった本。この本のタイトルは「TOO BIG TO FAIL(大会社は潰さない)」である。作者はNTIMESの金融記者。彼は昨年の5月から米国政府が断行した金融機関の救済劇の裏話を十分な取材ともに公開したのである。そしてその内容からイメージが上がった人とイメージが下がった人がいる。報道から察するにイメージが上がったのはモルガンスタンレーのジョンマック会長。そしてイメージが下がったのは危機の最中に財務長官だったポールソンだろう。理由は傍からは政府間の救済劇の様相だった三菱によるモルガンスタンレーへの出資はジョンマック会長が自力で切り開いた最後の賭けだった事が明らかになった事。最終局面では心配して電話を掛けていたポールソン財務長やガイトナーNYFED長官(当時)を一切無視し、会長は必死になって電話の向こうの三菱関係者を説得したという。
そしてイメージが下がったのはポールソンとその出身母体であるゴールドマンサックス。そもそもポールソンと財務省は金融危機を乗り切る為に設立された70兆円の税金を使った緊急支援(TARP)を5月の段階で財務省内ではなく証券会社に原案の立案を外注していた。そしてゴールドマンはその5月の段階で危機の際には素早く証券から銀行になる方が有利である事を認識。その為の会議を態々モスクワで開いていたという。そしてなんとその会議に財務長官という公職にあったポールソンが参加していた事実が本によって紹介されている。そもそもポールソンはバンカメとメリルの合併を巡る議会証言でも事実と違う証言した事が最近明らかになったばかりだ。聖書に手をついて宣誓をする議会証言では意図して嘘をつくと罪になるが、彼はバーナンケFED議長と共に税金による政府支援を受けたバンカメがメリル買収の際にメリルに高額のボーナスを支払う約束があった事は一切知らなかったと証言した。だが先週バンカメからNY司法局に提出された証拠書類で同社が財務省とFRBにボーナスを支払う予定である事を事前に報告していた事が明らかになったのである。そして「銀行」になった事でFEDから最低金利で資金を調達したゴールドマンは回復期に膨大な利益を享受、その利益からは今年のボーナスが史上最高を更新すると言われている。また同社は大量の税金が投入されたまま資金回収のメドが立たないAIGに関し、GSはAIGとの契約はヘッジをしていたのでAIG救済とGSは無関係であると主張してきた。だが本ではAIGが倒産した場合の連鎖倒産を避ける為、事前にAIGを買収する画策をした事が紹介されている・・。
ただ個人的にはこの本のタイトルとなった「TOO BIG TO FAIL (大会社は潰さない)」は有益と考える。だが問題は救われた人々のその後マナーだ。その点ではバブル崩壊をいち早く経験した日本人からすれば、ウォール街の強欲も信じがたいが、預金残高を超えて平気で買い物をする米国の一般労働者にも同調できない。結局金融危機後の米国経済は「デイズニー経済」であり、元々その住人である少数で頭の良いバッタ(ウォール街)と大多数の弱いバッタ(AFL-CIO等の労働者)という構図に変化はない。ただマイケルムーアの映画や本日紹介した本が刺激剤となる中、前者に対して後者の怒りが遂に爆発したという事だろう。そしてこのケンカの勃発は株式市場に必ず影響する。これが春先に触れた株が下がる三要因の一つ「政災」である。だがバッタの結末はどうでもよい。本当の懸念は弱いバッタから選挙で絶大な支持を受けた一方で強いバッタから大口献金を受けたオバマとその政権がどうするかだ。来年にも中間選挙を控えた多くの議員はこれで反銀行政策に舵を切らざるを得ない。だが最後に政権が動かなければ何も変わらない。個人的にオバマの信義が試されるので注目しているが、その前に彼等が日本と言うアリに無心に来る事は明らかである・・。
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