2008年11月11日火曜日

理想と現実 過大な期待感の罠

オバマ大統領の誕生。ケニアの血を引き、アジアで暮らした経験を持つ彼が米国の大統領になる。これが世界史にとって画期的な出来事である事は、世界がその誕生を祝福している事からも覗える。ただ、オバマが類稀なる優れた資質の持ち主だったとしても、2004年まで無名だった彼が僅か4年で米国の大統領になるという政治史上の奇跡は一人の立役者がいなければ起こり得なかっただろう。ではその立役者とは誰か。答えは簡単、ブッシュ大統領その人であることは言うまでもない。そんな中ブッシュ大統領は本日オバマとミッシェル夫人をホワイトハウスに招き、引き継ぎの準備に入った。

ニュースは二人がホワイトハウスの廊下を仲良く歩いている姿を映した。不思議な光景だった。そこには選挙中火花を散らした共和党と民主党の新旧の中心人物としての確執の残像はなく、水と油の二人がホワイトハウスの白い回廊に自然に調和していた。オバマはブッシュに敬意を払い、ブッシュも党の困窮を尻目にどこかで肩の荷が下りた安心からか朗らかにオバマを迎えていた。そうだ。結局この二人は米国史において南極と北極のような磁力を放っていたのかもしれない。そして歴史が大転換する節目において、その両極の磁派は反発しているようで実は引き合っていた。だからこの奇跡が起きたのである。

オバマ大統領を誕生させたエネルギーには彼の資質とその運命から発せられた正の力だけではなく、実はこれもまた米国史上類を見ないブッシュ大統領からの反発のエネルギーが加わっていた。言い換えるなら、仮にブッシュ政権が普通の退屈な政権だったらまだオバマ大統領は誕生していないだろう。なぜならこの政権がここまで米国をぶち壊さなければ、若者は大した危機感も持たず政治は退屈に流れたはずだ。そしてその場合民主党の大統領候補者はヒラリーだっただろう。その意味でヒラリーの女性初の大統領への野望はオバマに負けたというより、ブッシュに邪魔されたのである。

さてそのオバマはシカゴで著名人との経済会議を終え、今後の米国経済をどう立て直すかのスピーチをした。とっさに飛ばした冗談は頭の回転の良さを語っていたが、ただ選挙中にみせた自信漲るあのスピーチは影をひそめ終始表情は硬かった。それも仕方がない。これからの彼のスピーチは夢を語る為のものではない。現実の米国に直面し、具体策を国民に伝える為のものだ。

要するに実際に大統領になった後のスピーチには楽しいものは少ないという事だ。そしてそれは彼にとって初めての経験である。選挙中の夢を語る彼は凛凛しく、その雰囲気にサポーターは酔った。しかし今米国が直面する危機は国民に飴を与えることだけでは解決しない。むしろ苦痛を要求する事になるだろう。彼の表情が物語るものは、改めてその現実の厳しさと具体策は夢ではない事を実感した証ではなかったか。

いずれにしても、熱狂の中で実際にオバマに投票した米国人の期待感は外からこの国を分析している人に説明する事は難しい。ただ今のオバマを見る限り、以前から抱いていた「熱狂の中での期待が大きければ大きいほど結果が満足できない場合の失望感は大きい」との不安がより重く感じる。その失望が米国人に広まった場合、市場には何が待っているのだろうか。

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