2010年10月16日土曜日

ミスタープレジデントの院政

中間選挙戦が佳境に入り、苦戦の民主党議員はワラをもつかむ思いだ。中でも注目はネバタ州の上院選。ここでは民主党上院のトップであるハリーリードがティーパーティー(共和党の新保守グループ)の女性と激闘を演じている。そして、先週はリード議員の要請である大物が応援にかけつた。

2006年の中間選挙では、大統領になる前の上院議員だったオバマが、民主党の救世主として応援演説で全米を飛び回った。その効果もあり、2006年、民主党は2004年の大敗北から盛り返した。

そして今回は大統領として忙しいせいもあるが、オバマにはあまり声がかからない。代わりに苦戦の議員から引っ張りだこなのは誰か。それはビルクリントンである。彼は今年70回の応援演説に立ったという(CBS)。これは本来の役割からしてもその数でトップでなければおかしいバイデン副大統領の40回と比べても異常な多さである。

そしてクリントンが壇上に立つ時、必ず叫ばれる呼称が「ミスタープレジデント」現役のオバマが横にいれば絶対に使えないが、今の民主党内にはオバマに対する配慮は少ない。繁栄したクリントン時代を前面に出し、単純な米国民を動かそうとしているのである。

これではっきりした。オバマ政権の残りの2年はビルクリントンの院政時代となる。そして、万が一にもヒラリー時代が始まったら、この国を仕切るのは彼と言う事になる。日本にとってそれはどういう時代か。

気付いている人もいるはず、この30年を振り返っても、大統領の資質や人気に関係なく、米国の大統領が共和党だった時代は日本は元気になる瞬間があった。さほど株価にも関係ない。ただ世界の中で日本存在感が実感できる瞬間があった。ところが、クリントン時代とソノの「お下がり」である今のオバマ政権時代はどうだ。日本は国際情勢で迷子ではないか。

ここで米国在住の視点で日本人に教えなければならない事がある。それはこちらのニュースに毎日触れている立場から見て、今の米国には対日外交の意識が感じられないとう事。つまり、米国にとって日本は特別な外交政策が要らない国になっている事実である。

世界で2番か3番の経済力を持ち、いざとなれば単独で世界で4位クラス(米露中の次)の軍事力を持つ国に対し米国はさほど気を使わなくていい。この状況がいかに米国を助けているか、日本人は知らない。

日本でも著名なオランダ人のカレンウオルフレン氏は3月に中央公論への寄稿の中で、「日本がアメリカを必要としている以上に、アメリカが日本を必要としているという事実に気づいている日本人がほとんどいないことに常に驚かされる。」と述べている。

簡単に言うと、レーガンとブッシュ親子は日本にその重要性を自覚させ、だから一緒に行動しようという圧力をかけてきた。逆に、クリントン政権とオバマ政権は、複雑化する国際情勢の中、日本に己の重要性を気付かせない事で日本を利用して来たと言える。

最後に日本人が知らないオバマ大統領の側面を紹介しよう。彼は毎週土曜日の朝、定例のラジオメッセージを国民に向けて発している。内容は1分程度。今の時代、メディアとしてラジオの牧歌的役割を承知した上で難しい話はしない。だからこそ簡略化されたそのコメントの中に政権の本音が感じられる。

そこでオバマは理数教育の重要性など、民主党の政策に合致し、また国民自身にも前向きな努力を促す話題を選ぶ。そして米国が目標とすべき引き合いに出される国はいつも決まっている。それはドイツ シンガポール 韓国などである。日本の名前は出た事がない

国際競争力で日本は欧米の勝手な尺度で持ち上げらた時代もあれば、今のようにずいぶん低評価になる事もある。だが日本の教育水準はまだ高い。またノーベル賞の話を持ち出すまでもなく、日本の理数系教育の熱意はまだまだ捨てたものではないはずだ。

ではオバマ大統領やスピーチライターは日本の事を知らないのか。そんなことはない。彼らは日本の実体を良く知っている。要は、今の米国の民主党政権は日本を外交政策を必要とする「独立した外国」とは考えていないだけの事である。これはオバマ大統領の個人の問題ではなく、彼を取り巻く民主党の政策の結果とソレを許す日本の外交の問題である。

この日本の外交を最近では「柳腰」と言うらしい。この表現に怒り狂っていた自民党議員がいたが、表現などどうでもよい。感情を露骨にして立場を訴える手法は共和党には効果があるが、老獪な民主党政権に対しては無意味。そんなことより、大事なのは来るビルクリントンが院政時代に日本がどう準備するかである・・。


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