2010年10月8日金曜日

ミッション (大義への使命感) Government Sacksの場合

ノーベル賞を受けた根岸教授のコメントを聞いてはっとした。NHKのインタビューで、今の日本の若者に一言と請われ、教授が口にしたのがミッションという言葉。単に勉強や研究を続けるのではなく、ミッションを感じる事の重要性を根岸教授は触れた。

その後でCNBCの特集を観た。タイトルは「ゴールドマンサックスの力と厄」。金融危機後もウォール街最強の金融機関として君臨するGS、だがリポートでは、GSは今や米国では厄の代名詞となっている実態が紹介された。

選挙戦が山場を迎え、選挙資金は喉から手が出るほど欲しい議員もGSからの献金はだれも受けない。なぜならGSから献金を受けただけで庶民を敵に回す事になる。また金融危機のダメージが深刻なクリーブランドでは、行政担当者は廃墟となった地帯を紹介しながらGSの存在は社会の悪とまで言い切った。

ただそんなGSがミッションと共にあった時代がある。それは中興の祖、シドニーワインバーガー氏が君臨した30年代から69年までの40年間である。彼はブルックリンの貧しいユダヤ人家庭に生まれ、高校さえ卒業していない。家計を助けるために13歳から働き、安定した仕事を探して当時ニューヨークで一番高い24階建てのビルに上った。そして最上階から順に入居する全てのテナントに雇ってくれと飛び込みんだという。

そして22階を下り、2階にあった会社でやっと正社員の靴磨きをする用務員補佐として雇われた。それがゴールドマンサックスだった・・。

そこからの彼の出世物語は秀吉に相当する。だがここで紹介したいのは、彼が会長を務めた間、ルーズベルトからアイゼンハワーまでの歴代の大統領からウォール街で一番信頼されたのがワインバーガー氏だった事実。理由は彼にとって国家につくす事は何よりも大切だった信念を大統領が判っていたからだという。

その証拠に、今ではGSを糾弾する急先鋒のニューヨークタイムス紙が、69年にワインバーガー氏が亡くなった日の朝刊では、前日にアームストロング船長が月からアポロで帰還したという大ニュースがありながら、ワインバーガー氏の死を悼む記事をトップにしたという。

そんなGSが米国の厄にまでなってしまったのはなぜだろうか。持論だが、それはGS自身に原因があるとは思わない。GSの社員はいつの時代もウォール街のどこの会社よりも働き、そして基本的には真面目である。原因は米国のミッションが終わったからではないか。

我々が育った時代、米国にはソ連を倒し、世界に資本主義の豊かさと民主主義の明るさを広める大義があった。そしてそのミッションが完了すると、米国に次のミッションは起こらなかった。訪れたのは大義を成し遂げた褒美としての豊かさ。そうクリントンの時代である。

そのころからGSには別の名前がついた。GOVERNMENT SACKS。ルービン財務長官を初め、次々に政権中枢に人材を送り込み、国家経営そのものに連動して利益を生む体制が出来上がったのだ。ただ個人的にはそれ自身も悪だと思わない。問題は、不幸にも米国自身に新しいミッションが見つからなかった事ではないか。

そんな中で世界と米国のスプレッドは縮小、情報もフラット化した。こうなると国家の繁栄を維持するためには米国は無理やりイラクへ侵攻し、また国内には強引に貧富のスプレッドを起こし、そして、なによりも金融は顧客にリスクを転化する事で膨大な利益を維持したのである。おそらく、GSの社員はまじめで優秀であればあるほど全体像を客観的にみる事はなかったはずだ。

最後に、新しいミッションが見つからない以上米国はこのまま矛盾を抱えたままさまよう可能性がある。それは日本とて同じ。明治維新や戦後の混乱期にはミッションなどいらない。なぜならそこには危機があるから。みんなその危機を克服する事に命をかける。

だが、(不幸な事に)今は中途半端に平和で、経済が苦しくなれば簡単にお金をプリントしてしまう時代。そんな時代だからこそ、実はそれぞれがミッションを感じる事が重要なのだろう・・。






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