2010年11月10日水曜日

バナナ共和国

ウォール街のエコノミストと一線を画し、その冷静な経済分析には定評があるシカゴのビアンコリサーチ社のジムビアンコ氏が興味深いレポートを出した。彼は米国の年間の所得層をA:600万円以下 B:6000万円以下C:$6億円以下に分け、今回の中央銀行の金融政策で彼らの生活がよくなるかを試算したのである。

ビアンコ氏によると、年間所得が600万円以下の大多数の米国人は、これまで通りの住宅ローンの金利低下の恩恵は受けるものの、既に始まっている原料高(石油、綿、穀物)をメーカーが価格に転嫁するのは必定で、そうなると結果的に彼らの生活は苦しくなるという予想を出した。そして年収6000万円以下ではそこそこ恩恵が上回り、圧倒的に恩恵を受けるのは現時点で金を持っている年収6億円以下の層という結論だった。

このビアンコ氏の意見に対し、ウォール街を代表してリーマンからバークレイズに移った債券アナリストのイーサンハリス氏は反論を出した。彼は全ての層に隔たりなく恩恵があるという考えだ。ハリス氏は以前筆者がTV東京のモー二ングサテライトで米国金利のコメントをしていた頃、前のコーナーでいつも筆者とは違った意見を言っていた。当時の勝率は筆者の方が高かったと自負しているが、結果はその内判るとして、今回もビアンコ氏の方が正しいと筆者はみている。

ところで、バーナンケ議長はビアンコ氏の様な意見がある事は、仲間でありながら政策に異を唱えるホー二ング総裁を通しても既に承知している。それでも米国の総人口の2%以下のBとCの階層を救いに行くベネフィットの方が、大多数のAを犠牲にするコストよりも国益上では効果がある判断したと再三に渡り説明している。

そんな中ニューヨークタイムスのコラムには興味深い記事があった。同紙は中央銀行による救済処置の正当性を最も主張するノーベル経済学賞のクルグマン博士の牙城である。博士は中央銀行の救済も財務省による財政拡大もまだまだ足らないという意見だ。だがその一方でビアンコ氏が正しい場合、結果として最も苦しむ階層であるAの庶民の味方をするコラムを本日堂々と載せた。

支離滅裂とはいえ、オバマ政権の広告塔になってしまったワシントンポストに比べ、同紙はまだジャーナリズムの本質を守っている。そしてそのコラムで書かれたのは、米国も終にニカラグアやベネズエラと同じ「バナナリパブリック(共和国)」の仲間入りをしたという皮肉である。

そもそもバナナリパブリックとは、国家経済をバナナ等の一次産業に頼り、人口の1%未満の高所得層が国家利益の20%以上を独占する中南米の国家をさす。この表現は民主主義と資本主義が健全に働いていた頃の米国の作家が小説の中で用いた侮蔑的な表現である。

ただ米国はベネズエラのような大統領に権力が集中し、民主主義の制度において中途半端な共和国ではない。その状態で国民の財布の数をベースにした多数決では、中央銀行の政策は大多数の庶民を犠牲にし、少数の金持ちを更に金持ちにする事で経済学上の数字を上げるという矛盾を抱えている。

ならばこの矛盾が噴き出さないための条件は二つある。まず最初にベネフィットを得た1%の金持ちが、「トリクルダウン効果」と呼ばれるすそ野までその効果を下す義務を達成する事だ。中央銀行はコレが達成されると期待している。さもなくば、新たに選ばれた共和党議会が中央銀行の今の政策をひっくり返すしかない。

いずれにしても、既にバナナ共和国でありながら、一方で完全な民主主義国家でもある米国。時にその状況は政治の不安定要因になる。そんな国で矛盾を引きずると、最後は返って非民主的で悲劇的なシナリオが待っている可能性がある・・。 

NYTコラム (http://www.nytimes.com/2010/11/07/opinion/07kristof.html?_r=1&src=ISMR_HP_LO_MST_FB




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