2008年12月17日水曜日

<国家の焦点>プット/コール レシオ

今日のFOMC(中央銀行の金利操作)が何を意味しているかは言うまでもない。既に始まっているが、これからは痛んだ民間のバランスシート(資産)を一時的にせよ国家(FED)が引き受けるというメッセージである。

民間で発生したリスクを国家のバランスシートで引き受ける行為は、判断の失敗の責任を問われない場合、憂いを残しながらの新型社会主義政策である。そして米国はあくまでも国家とそのバランスシートを市場参加者の一人としてカウントする事で「市場原理の旗」は降ろさないという茶番を演じている。

まあそんな経済のイデオロギーなど本当はどうでもよい。どの時代も経済は政治判断の結果であり、イデオロギーなどは一種のトレンドであって絶対性などない。その時代の国民が幸せならいいのだ。その意味もあり「視点」ではフリードマンが亡くなった数年前から彼の原理が支柱となった市場原理は冷戦以降に流行ったトレンドにすぎず、米国でもケインズが主流だった時の方が長いと主張してきた。そう、これからはその主流に戻るのである。

そして官僚統治が続く日本では困難である事を承知で言うと、今こそ日本が米国に見習うべきはこの政治判断の迅速性である。考えてみるとこのブッシュ政権は小泉/竹中ラインに市場原理の徹底をあそこまで迫った政権である。ところが一旦システムが崩壊すると、そこからの転換は早かった。大統領選挙という変節もあり、国家が最大の利益を得るためにどう動くべきかの政治的判断は迅速だった。一方で属国の日本はあまりの米国の変節の速さについていけてない様子である。

ところで米国では「コロンブスの卵」の話は聞かない。だが今回の金融機危はFED(中央銀行)の機能を一気に拡大させた効果を持つ。これだけのFEDの権限の拡大は慣例やルールの枠組みが支配する平時ではなかなか進まなかっただろう。そうだ。今回の金融危機は実はFED機能拡大の為のショック療法に使われたのだ。そしてその発想の根源はあのコロンブスの卵である。

一方で悲観的な現象面の解説と常識にとらわれた中で改善策が見つからず無駄に時間が過ぎているが日本である。言い換えると日本は潰さないで卵を立てる方法をまだみんなで探っているような認識の甘さを感じさせる。いずれにしても重要な事はこの金融危機は経済問題ではなく政治判断の問題だとの認識である。しかし日本からのNEWSを見る限り、政治家は事態をまだ経済の問題と勘違いしているか、あるいは判っていても政治判断する責務から逃避している様に見える。

ところでそんな統治の立場としての日米の違いもさることながら、国民の価値観からの救済の本質の違いも大きい。昨日NHKでは派遣労働者の苦境をセーフティーネットの不備を説く議論で代弁していた。ただこの議論は全く無意味だ。なぜなら日本はシステムを完全に米国に同化したまま救済案の向かうベクトルが定まっていない状態である。その事例はプット/コールのオプションで簡単に説明できる。

まず「コール」とは、商品が値上がりした場合、その商品を実際には買っていなくとも値上がりした分を受け取れる権利である。一方「プット」とは、商品が値下がりした場合、その商品を売り損ねても値下がりした分を補填してもらえる権利である。そしてそのオプションとは、それぞれの権利を得るため保険と考えればよい。

そして米国はこれまでコールオプションの国だった。その代表が金融機関の報酬。ヘッジファンドも銀行のトレーダーも結果に応じて報酬が天井なしに延び、一方で結果に関係なくファンドは入口で2%の手数料を徴収し、また銀行のトレーダーも失敗しても給料から引かれる事はなかった。要するに成功した場合の報酬には上限がなく、失敗した時の損失は保険料の損失だけに限定されるコールオプションの原則がこの国の成長を支えたのだ。

一方日本人の本質は元々プットオプションを持つ事であった。この保険を持つ事で成功した時に浮かれ過ぎるより困った時の社会保障の確保を重視してきたのである。ところが日本のシステムは小泉/竹中コンビが推し進めたコールオプション型社会への変革が途中で止まり、今は静止状態である。このまま進むのか戻るのか。静止状態から転換ができていない。

これは相場と同じだ。間違えたと思うなら直ちに転換が必要。一方このまま進むならそれも良し。後は天運である。問題は脳死状態が長く続く事。米国はオバマ政権がコールオプション主義を変えるだろう。そしてそのスピードも速い。一方日本は現象面の悲観とその解説に留まっている。今のサバイバルの時代にぐずぐずしている暇はない。この時間の使い方に対する政治的決断力の欠如が日本の致命傷にならない事を心から願う。そうだ。今日本の政治に必要なのはあのパフォーマンス力だ。邪道だがここは小泉元総理にもう一度登場を願おう。そして彼は叫ぶ。「みんな、俺は間違えた。急いで引き返そう・・」と。


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