2009年4月30日木曜日

オバマの100日、もっと大きな政府へ

今日でオバマは大統領就任100日目を迎えた。専門家の間では、戦後の大統領としては就任から100日までの業績は歴代トップの評価である。また統計からは国民の人気も衰えていない。ところでその統計で意外に感じた事がある。それはのはアメリカ人の客観性の変化だ。

まずオバマの政策に反対する多くの共和党支持者も、彼の政策には反対、だがオバマ個人は好きだと言う人が大統領選挙前に比べて統計からは明らかに増えているのである。一方でオバマの政策の恩恵を受ける弱者層も、オバマ政権は多くの事を一度にやりすぎている危険性を感じ、野放図な政府の役割増大への一定の歯止めを受け入れる覚悟もできている様子。どうやらアメリカ人も大人になった。

そんな中本日はGDP(国内総生産)が発表された。数値は予想を大幅に上回るマイナス成長だった。先の国民調査では景況観に対しての統計もあり、興味深いのは政府やエコノミストが最悪期は脱しつつあると言い始めているのに対して、7割以上国民は逆に最悪期はこれから迎えると政府よりも慎重であること。この態度はこれまでのアメリカ人の能天気さとも違う。

そのGDP(国内総生産)では輸出の減少は当然としても、オバマの「大きな政府」になっても政府支出が落ち込んでいる現実は違和感だ。だが逆にこの弱いGDPの数値は「もっと大きな政府」への免罪符となろう。そんな中で党内ランク5位のベテラン共和党上院議員が民主党に鞍替えした。実はこの意味は大きい。

そもそも米国政治を眺めて10年以上がたつが、現役上院議員の鞍替えは記憶では初めてだ。彼は次の選挙に大きな政府の役割を否定する共和党では勝てないとのコメントを出した。だが実際は次の選挙で共和党内の予備選を勝てないと判断したのが実情らしい(ワシントンポスト)。ただ彼の寝返りで上院はフィルバスター(牛歩)阻止体制が完成する。これでオバマ政権は政治力学上はあのF.ルーズベルトにまた一歩近づいた事になる。そしてそれは今のオバマの減税発言とは裏腹に、将来大きな政府を維持するための増税の可能性を感じさせる。

1920年代の大恐慌直前の繁栄は、当時の財務長管アンドリューメロンの減税政策で金持ちの層への所得税が70%から20%に引き下がった効果が大きかった。だがニューディール政策が始まるとルーズベルトはソレを再び90%以上に引き上げた。オバマはどこまでルーズベルトに近づくのか興味深い。


2009年4月28日火曜日

提灯アンコウ

ざっくり言ってこれだけの要因が重なれば今日の株は500ポイント安(ダウで)でも驚かなかった。ところが今日はあまりにも突発的材料が多すぎた。豚インフルエンザはともかく、ニューヨーク上空を不審な旅客機が飛び(後に大統領専用機と判明)、空軍機が並走飛行している映像はあのテロを覚えている人ならだれでも緊張しただろう。結局はそんな情報に振り回され株は寧ろ救われた一日だった。

では本日それ以外の重要な話とはなんだったのか。まずは金曜日発売のエコノミスト誌だ。その表紙は衝撃的だった。「GLIMMER HOPE?」とタイトルがついた表紙絵は、真っ暗な深海で微かな光に引き寄せられた魚の群れを待っていたものは大きな口を開けた提燈アンコウ。そして記事の内容は以前紹介した大暴落直前の高値から再安値をつけるまでの経緯だ。高値から安値までの1929年~1932年の期間、米株は今回同様に20%以上の回復場面が4回あったがその全てが本物ではなかった。だから今回も強気論を信じて無防備になるとアンコウが口をあけてまっているかもしれないと同誌は警告しているのである。 果たして今回はどうなるか。それを見極めるまではアンコウに食べられるわけにはいかない・・。



2009年4月25日土曜日

三国志の終り(A.F.からA.C.へ)

本日フォードが決算を発表した。赤字幅はアナリストの予想を下回ったが、まだまだ大幅赤字だ。しかしゴールドマンが同社株を推奨した様に、国内の自動車販売には改善の兆しが見えない中でフォードは勝ち組として投資家の注目を集めている。その理由は簡単、競争相手が消えるから。市場支配は衰えたとはいえまだ全米で走る車の半数はBIG3の車。フォード車の性能が格段上というわけではないが、クライスラーとGMは破産が控えている。要するに米国の自動車三国志が遂に終焉を迎える発想である。

ただこの発想の後ろに控えるのは自動車の耐久消費財の王様として普遍性である。昨日のコメントで究極のグリーンは車にのらない事としたが、本当に皆がそのグリーンになれば世界の産業は崩壊する。そこで一つの本を紹介したい。題名はBrave New World この本が書かれたのは1931年。大恐慌初期である。作者はALDOUS HUXLEYというオックスフォード大出身の英国人。西暦2540年の未来の人間社会を描き、当時その物質批判的内容から世界中で発禁になったというこの本の注目は、作者が紀元後を表す年号をA.D.を使わずA.F.という興味深い独自の年号を使用した事。このA.F.とはAFTER FORDの意味である。

元来車はヨーロッパで高級消費財として生まれた。そう言えば今でも英国のメーカーは高級志向を崩していない。その車という商品を一般人でも購入できる大衆消費財に変えた発明はT型フォードからという話は有名だ。即ち車には二つの誕生日があると言う事だろう。一つはヨーロッパで貴族の特権として生まれた日。そしてもう一つは車が大衆に降臨した日。それはヘンリーフォードから始まり、米国人の価値観と生活習慣を「消費が豊さの証明」という現在までの経済発展に繋がるロジックが確立された起源だったと考えられる。そしてこの英国人作者はその本質を当時すでに見抜いていた。それをA.F.なる独自の視点で表現した先見性には驚嘆せざるを得ない。

いずれにしても米国は現政権の特徴の理想主義の結果として多くの面で矛盾を抱えたまま走る。グリーンはその典型だ。私には消費とグリーンの両立はまだ机上の空論。消費へのインセンテイブなしにどうやって米国は立ち直るのか全く想像できない。ただA.F.の時代に先進国にモノは溢れた。今は本当に必要なモノは殆どの人が持っている。買い換え需要のコントロールで企業は時間を稼いだが、それにも限界があって金融桃源郷へ走った結果が今の姿だ。ただ一つはっきりしているのはこれからも消費が世界経済を牽引するなら、その時代は中国の時代という事。ALDOUS HUXLEY氏ならそれをA.C. (AFTER CHINA RAISE)とでもするのだろうか。

最後に、魏呉蜀の「三国志」は結局は短命の晋を経て「五胡十六国時代」の混迷に繋がっていく。個人的にはフォードの未来はゴールマンの予想ほど楽観してはいない・・。




2009年4月21日火曜日

制御不能 理想の限界

10年前の4月20、コロラド州のコロンバインで自動小銃で武装した二人の男子高校生が教師を含む12人の生徒を無差別に殺した。昨日はその記念日だった。

ところで結果的にこの1年で殆ど値下がりしていない銘柄が一つある。ズバリその銘柄はスミス&ウェッソン(SWHC)だ。私自身も景気後退が鮮明になった2001年の9月、生まれて初めて確か300ドル程度でこのメーカーの拳銃を購入した。当時初めて足を踏み入れた銃ショップは閑散として不気味な雰囲気、射撃場も兼ねたその店には数人が射撃の練習に来ている程度だった。そして拳銃許可証が届いた翌週、早速自分も練習の為に再び訪れた。ところが情景は全く違っていた。店は大勢でごった返し、練習場も満杯で早々に引き返した。そう、この間に9.11のテロが起こったのだ。

そして昨日のニュースで今全米の銃ショップと練習場は恐らくこの時以来の盛況である事を知った。理由は二つ。まずは既に始まった景気悪化による世情不安だ。そしてより直接的な理由して挙げられているのはオバマ政権が打ち出した銃規制である。

バージニア工科大学の事件の際にも紹介したが、ATF (Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms)に正規登録された銃は優に2億丁を超える。これに不正に出回っている銃を考慮すると、人口3億の米国に一体どのくらいの銃が出回っているのか全く想像できない。政権はこの現実の中で銃規制を画策しており、今後は銃の保持が厳しくなると言われている。ただ既にこれだけの銃が出回った後で世情不安が更に加速したらどうなるか。再び乱射事件が頻発する中で不安を感じたのだろう、個人的経験からこの現実はこれまで銃に否定的だった層まで銃に向かわせている可能性を感じる。

この様にこの政権が掲げる銃規制ポリシーは真逆の現象を引き起こしている。ここに理想主義の限界を見た。オバマの責任ではないが善人の弱さかもしれない。いずれにしても、一度野放図に拡大したモノを再び適正量に戻す事がいかに難しいか、今我々は他の側面でも経験している。強引に閉じ込めると社会不安が一層加速する点では米国においてマネーの量と銃の数は最早制御不能になった。この様にオバマの理想主義の限界はまず米国内においてこれから様々な面で綻びをみせるだろう・・。




北朝鮮が日本を無視する理由

先週予告したNHKの「マネー資本主義、暴走はなぜ止められなかったか」を見た。そしてまず感じたのは、通常の視聴者には理解不能の商品、CDOまで持ち出しNHKは金融は本来の役割に戻るべきという踏み込みをしていた事。そして5回に渡るシリーズの予告からもNHKの気合いが伝わった。また最早老人とはいえ、日本のMEDIAの取材という事であのグッドフレンド元ソロモン会長も警戒を解いたのだろう、こちらのTVでは見せない自己や国家への反省を素直に出していた事が興味深かった。ただ問題はこの番組は何のために作ったのかという点だ。これまでも金融以外で米国の問題を追及したNHKの力作はあった。だが結局はあらゆる面で政治は「米国の言いなり」を許容している。結果から言うとそれでは日本のMEDIAは「ガス抜き」の力しかなく変化への起爆剤にはなれないという事だ。それはMEDIAと国民のどちらのレベル問題なのか判らないが、北朝鮮が日本を相手にしないのは全く持って当然である・・。

2009年4月18日土曜日

「SEA CHANGE」を認めるか

NHKの朝のニュースでは、今週末にNHKスペシャルとして「マネー資本主義、暴走はなぜ止められなかった」という番組を放送する事を紹介していた。最近のNHK特集は秀逸なモノが増えてきた印象だが、このドキュメントの完成度が今から注目される。一方その主人公の米国市場には今不思議な浮揚感が漂っている。 ただ市場に浮揚感はあっても経済の回復は程遠い状態だ。昨日も来客があり、何十年に渡りシカゴでトップクラスの人気を誇るレストランに行った。シカゴ在住13年でここで食事をする機会は30回はあったはず、だが昨日はどんな時でも混んでいたこのレストランの空席の多さに驚いた。いずれにしても市場と経済の乖離は今に始まった事ではない。しかし、この乖離を錯覚とするなら、この錯覚の扱いが今の政権の最大の課題になっている。それはこの錯覚をそのままにするのか、あるいはバブル再構成という失敗をしないために国民に覚醒を促すのかである。その場合はデレバレッジは再び加速し、SAVINGレートは一層改善する事になる。

そもそも今回の市場の好転は暗黒ムードが漂った3月初旬にサマーズが中心となり、政権のモードを粛清から楽観へ切り替えたところから始まった。しかし一方で一昨日のスピーチでもオバマは繰り返し「この危機を乗り切った後も米国は以前の金融が経済の4割りを占め、その金融が無謀な賭けをする事で株価を維持する経済には絶対に戻らない」と明言している。しかし現実はGDPの4割を占めた金融が回復しないと何も始まらなかった。だからサマーズが微調整を進言したのだろう。そしてその成果は出た。ただ今の政権は矛盾を抱えたまま。この後その加減をどちらに持って行くのか。それを見極める一つがストレステストだ。そもそもストレステストはその具体性が明らかにされないまま市場はこの話を材料にしてきた。そして課題が明らかにされなかった以上結果がさじ加減でも不思議はない。即ちストレステストとは合否の話ではなく政権の方向性の話である。ただその方性性を決める政権は一枚岩だろうか。ここまでの観察からは、景気回復を実現するためにはもう一度金融中心のバブル復活も止むを得ずと考えるサマーズ一派と、目先の株がどうなろうとも一旦は金融の役割を正す事に重点を置きたいガイトナーとオバマには隔たりを感じる。

さて2006年3月に米国はM3の発表を止めた事は当時その3カ月後に視点で指摘した。今ではここがバブル頂点への最後のシグナルだったの事は多くの人が指摘している。そもそも米国のM3 はFEDが発表を止めた時点で$10 trillion 強だった。そして民間のデータによれば今の想定M3は約$15trillion 。しかしその中身は金融危機を境にFEDの紙幣印刷による部分の寄与が圧倒的となり、逆に資産効果の原動力としてのM3-M2の割合は減少の一途のままである。逆に言えばここまで増えたM2に金融危機以前のリスクアペタイトが復活したらどうなるか。繰り返すが、バブル崩壊を更なる規模のバブルで復活させるシナリオとオバマ自身が主張する「以前の姿には戻らない」という理想は共存できない。よってこの後はTEA PARTYに代表される保守派の反政府運動と本来オバマ支持者の市民が金融至上経済の歪の実態を知る事による金融への反発など、国内の民衆運動の盛り上がりや、既にSEA CHANGEを認めて後戻りするつもりはない海外勢のプレッシャーが米政権がどちらの決断を促すか。その見極めが最大の課題である。

(参考)

http://www.shadowstats.com/charts_republish#m3

• M0: The total of all physical currency, plus accounts at the central bank that can be exchanged for physical currency.
• M1: The total of all physical currency part of bank reserves + the amount in demand accounts ("checking" or "current" accounts).
• M2: M1 + most savings accounts, money market accounts, retail money market mutual funds,and small denomination time deposits (certificates of deposit of under $100,000).
• M3: M2 + all other CDs (large time deposits, institutional money market mutual fund balances), deposits of eurodollars and repurchase agreements




2009年4月15日水曜日

CNBC VS CNN

タリバーンが駆け落ちした男女を公開銃殺したとのニュースも衝撃的なら、以前は不倫をした女性は石打での公開処刑を覚悟しなければならなかったイランからの女性留学生が日本語で若者の純愛物語を書き、それが文学賞を受賞したというニュースは人間の可能性を広げる話として素晴らしい。しかし一方で昨晩だけで3件のソマリア人海賊による乗っ取りが新たに発生したというCNNのトップニュースも今の慌ただしさを物語る。こうなると第一次イラク戦争時の様な「多国籍海軍部隊」を派遣して海賊を一掃するのが有効と察する。ただそれを誰が主導するかが明確でない点と、事実上無政府状態のソマリアではフセインの様な倒す目標がない事がその実現を否定している。

いずれにしても米国でも金融関係者はこれまでの様にCNBCなどの市場MEDIAの論調だけを頼っていると流れを見失うだろう。例えば本日CNBCは朝からGSの話しかしていないが、CNNは上記の話題の他、明日の税金の日を現政権への抗議として米国各地で「TEA PARTY」を開く市民運動の盛り上がりがトップニュースである。このTEA PARTYを企画している人達の怒りは言うまでもなく政府と議会が行った金融機関への(事実上)無条件の救済に向けられているわけで、そのどさくさの救済で銀行としての特権を得たGSがこれからも以前の様なビジネスモデルが道義的に許されるかのかどうかの判断が市場のテーマになれば株は後半に力尽きるだろう。



2009年4月14日火曜日

週末のショット

今年のマスターズは色々な味わいがあり、近年では一番面白いマスターズとなった。まずは日ノ丸を背負った片山が立派に結果を出した事を称賛したい。そして放映権を持つCBSにしてみれば、タイガーが初日から逃げる展開では視聴率はあがらない。よって最終日のタイガーチャージが一番望ましかったわけだが今年はまさにその展開。それもミケルソンとの死闘ともなれば日曜の午後の予定を変更してテレビに見ってしまった中年男性も多かったはずだ。

そしてその二人が力尽きると今度は中年の星のケニーペリーが頑張った。また解説を担当したニックファルドもさすが3回勝っているだけあり、ポイントでは常連のジョニーミラーとは違う指摘が斬新だった。そのケニーペリーが16番でエッジからバーディパットを決めたところでCBSは彼の優勝を前提に動き始めた。私自身が自分より年長の彼がマスターズを勝つ事に興奮を感じ応援したが、40台半ばになってから活躍をはじめたこの異色の中年をどう飾るか。勝利インタビューのCBSの準備が出来上がりつつあったところでその運命は変わった。結局勝利の女神は米国人選手には微笑まなかったのである。

話を片山に戻す。彼が初日から帽子に日の丸をつけていた事は気づいた。そして最終日は背中にも日の丸を背負っていた。CBSの解説はその事には全く触れなかったが、片山から石川へと日本人ゴルファーのレベルは受け継がれていくだろうと好意的な表現をしていた。片山の好成績も然り、やはりこのレベルの戦いでは勝負はパットだ。選手がパットを打つ瞬間の集中力がテレビ画面からでも伝わるのがメジャー中継の面白さだが、昔聞いた「ショットは見せるため、パットは稼ぐため」という表現は道具が進歩した現在のプロの戦いではますます顕著になっている。

ところで週末に見事なシュートを見せたのは米海軍の3人の特殊部隊も同じだ。彼らは米国人船長がで監禁状態になった屋根付きの小型ボートの窓の奥で銃を構える3人のソマリア人海賊を、それぞれが暗闇の中で100ヤード先の米国艦船の甲板から一発で仕留めた。こちらのニュースではその時の解説がグラフィックで紹介された。艦船は大型なので揺れなかったとしても人質が乗ったボートは小型、あのサイズでは海の上ではそれなり揺れたはずだ。その揺れの中で一発で仕留めなければ人質が殺される可能性があったが彼らはそのショットを決めた。

そもそも海軍の特殊部隊のSEALSは陸軍の特殊部隊のグリーンベレーよりも給料が高い事をアフガニスタンで戦死しした将校の解説で知った。そして、彼らの集中力は時にプロゴルファー置かれる重圧以上の状況で試される。そして今回作戦は成功し米国も喜んだ。たが仕留めた的は生身の人間である。これをどう考えるか。この最大課題がこの後に残された。


2009年4月9日木曜日

視察団は東京へ

国際オリンピック委員会の視察団はシカゴから東京に移動した。彼らがシカゴに滞在した数日間のシカゴの天候は最悪。季節外れの雪の影響もあり、氷雨のミシガン湖は灰色だった。また紹介した市内の穴ボコ道は最早どうしようもなく、シカゴへのオリンピック招致の命運は尽きた様に思われた。ところが視察団はシカゴを褒めていた。社交辞令もあろうが、この状態のシカゴが本当に指名されるなら、それは候補地は最初からシカゴに決まっていたと判断せざるを得ない。そして視察のプロセスは公平をきすための行事という事になる。

元々の国民性と景気悪化の影響で膨大な資金援助を伴うオリンピック招致への国民の関心は米国が最も低い事は明らかだ。それをシカゴ出身のオバマの力ででなんとかしたいというのが地元の招致委員会の思惑だった。逆にみるなら、最高傑作の「東京」を擁しても日本が負けるなら、それは国連等国際会議での日本の位置づけも含めての世界に対する日本の影響力、存在力、政治力を本当に見直す時が来たという事である・・。





2009年4月7日火曜日

金持ちの肖像

わざとボロボロの96年型のマツダに乗って登城するのは変だと感じた。なぜなら彼が大手ファンドにいた事は周知の事実、そこで5億円稼いだとしても何の不思議もない。むしろ当時の金融バブルからすれば、「サマーズ」のネームバリューからはもっと稼いでいてもおかしくないくらいだ。だが結局はこの白々しいさが彼のイメージを悪くした。第三次クリントン政権の弱点がそろそろ炙り出されるのではないか。万が一、UBSの隠し口座に政権関係者の名前でもあったものなら大事の途中でこの政権は崩壊するだろう。

ところでその昔は「英国にフランス風の家を建て日本人の妻をもち。」と続く金持ちを表現する有名なアナロジーがあった。だが最近は金持ちを表すアナロジーは以下の様になるという。「フランスで生まれ、英国で金融関係の仕事をする。そして銀行口座はスイスに持ち、本社はケイマンにある。・・」

今聞くと前者からは牧歌的な古臭さを感じるが、だが同時にどこかに本来金持ちが世の中で果たしてきた情緒感を残す。しかし後者は大器でもない人間が金融バブルの中でいかにはびこったかを感じさせる。ただ自分もそのおこぼれでここまできた事を考えればそろそろ潮時が近いという事か。今はその前にダウが10000まで戻る事を願わん。



2009年4月4日土曜日

深まる溝

本日一番驚いた事は何か。それは認識している限りCNBCではニューヨーク州内で起こった乱射事件を一度も触れなかった事だ。同局の外からの中継は反Wストリートのデモ行進の取材のみ。勿論NBC本局とMSNBCでは乱射事件をカバーしていたが、市場専門チャンネルとしてCNBCは別世界を報道していた。そして乱射の犯人は15人を殺して自殺した。

一方毎朝チェックする保守系のニュースサイトでは、欧州に留まるオバマがアラブ国王と面会した折に頭を深く下げている写真を衝撃的に取り上げていた。そしてサイトは米国の大統領が他国の国家元首に頭を下げるのは米国の恥だとして、保守系サイトとしていつにも増してオバマ個人への攻撃のトーンを強めていた。

そもそもマーケット専門のCNBCが乱射ニュースを取り上げなかった事に不自然さはない。またこの国では9.11のテロにも屈っせずNYSE(NY証券取引所)は数日で再開した。当時は其れが米国の強さだという言葉に感動した。だが乱射事件を無視した今日のCNBCには違和感を覚えた。そしてソレは株の上昇に一喜一憂する市場関係者のみで構成されるCNBCの世界と、今の米国社会が抱える歪に抑えようがない不満を抱き始めたそれ以外の人々が暮らす社会との乖離であった。だが企業業績や経済指標またチャートの世界に浸っている多くの市場関係者この社会の乖離に興味を示していない。ただ今市場の外の社会で何が起きているか、或いは何が起きようとしているか、それを無視して株式市場は大丈夫なのか個人的には疑問だ。

そう言えばオバマも欧州での歓迎で顔つきが緩んでいる印象。就任早々金融危機に忙殺されたオバマにとって今回の欧州外交は束の間の休息かもしれない。だが乱射事件が示す通り、米国内では金融危機の第二ステージが始まりつつある。早々に帰国して準備した方がいいだろう・・。



2009年4月3日金曜日

未体験ゾーン

G20は何もかも予定通りだった。そして主催国首相のブラウンではなく、オバマが記者を集めた締めくくりの演壇に立った。そこで彼はいつも様に流眺なスピーチを披露。インド、中国、豪州の記者による飛び入り質問もジョークを交えながら無難にこなしていた。そしてこの演出は結局世界はまだ米国を中心に回っている事を再確認させる意味で効果があった。しかしそこで「世界経済は今日から回復に向かう」と宣言したオバマ発言とは裏腹に世界は全く未経験の世界に突入した。では何が未体験なのか。

それは、ロンドンの街を埋め尽くしたデモが示す様に、「完全なる社会主義体制」を宣言しない限りは必ず発生する救済上の不公平感との軋轢である。特にこの軋轢は既に社会主義政策を行いながら表面上それを認める事が出来ない矛盾を抱える米国でますます過激になるだろう。そんな中で一昨日のNYTIMESの社説に「オバマ政権の救済は社会主義よりも始末が悪い」との論文が載った。筆者のノーベル賞学者の趣旨は、直近の官民共同の不良債権買い取りの仕組みを含め、市場はWIN/ WINと評価する一方でここまでの一連の救済案は実際はWIN/WIN/LOSE(投資家/株主/納税者)であると糾弾する内容となっている。

だがそもそもどの敗戦処理例をみても、その復興過程で完全な平等などあり得ない。そしてこの政権が始まる際に視点では、ブッシュ政権はハリバートン等の民間の特定企業に便宜を図ったが、大統領が誰であっても民主党政権下では民間(企業)が国家そのもの(納税者)を食い物にする可能性が高いとした。ここまでの展開はその通りになっている。ただここからが未体験だ。AIG然り、現代社会においては緊急処置として行った処遇はネットなどの新しいMEDIAの影響で後から暴露される時代になった。こうなるとその事実関係はともかく、事が進まない可能性がある。政権が中央突破を図ろうにもポピュリズムに踊らさた議員による抵抗が予想されるのだ。

今後はこの様な筋書きが待っている。ではそんな中でも経済は順当に回復するだろうか。そもそも混乱期が大チャンスであった代表例は三菱。三井と住友が江戸時代から長い時間を経て財閥になったのに対し三菱は混乱に乗じて一気に躍り出たのは有名だ。特に藩札の買占め、また西南の役に慌てた新政権が三菱に物資の輸送で巨万の利益を落とした逸話は堺屋太一氏の小説やウイキディアに詳しく書かれている。そして三菱は日銀総裁を立て続けに出してその後の日本を牛耳っていくが、三菱の利益が日本の国益にもかなっていた事は今は誰も否定できない。しかしこの様な混乱期の利益独占が仮に今起きたらどうか。恐らく反資本主義テロの標的になるなるだろう



2009年4月1日水曜日

魂か、薬か。

物事では各論に対応する専門家の意見と世の中の流れを達観視する人の視点との間には明確な違いが生ずる。勿論日々のマーケットは前者の視点が重要になるが、最終的に自分の立ち位置の地殻変動は後者の視点がなければ確認できないと考える。そんな中でバーナンケは学者として長く研究してきた大恐慌時のFEDの失敗のテーマを今は自分がFED議長として活かす立場にある。金融危機は誰にとっても災難だった。だが研究者としてはこの機会は研究の成果を試すチャンスでもある。そして市場参加者はここまでのバーナンケの行動を評価している。ただ彼を批判する勢力もある事実だ。私にはこの違いは、核爆弾開発に関わった研究者チームを後からどう見るかに等しい。

研究者にとって自分の研究の成果を試すチャンスが得られるという事は幸福だろう。そして研究者はいろんなモノや状況を作り出す。だがそれが政治や戦争の道具である事に後で気づくケースもある。そういえば今のバーナンケに比べると前任のグリーンスパンは、研究者というより歴史感や哲学をその判断に含んでいる事が感じられた。しかしその彼でも全てを的確に判断し、的確に行動に移す事はできなかった。それが人間だ。ではFED議長としてバーナンケの方が良いのか。そんな事はわからないが、今バーナンケが正しいと信じて生み出しているドル札を想像しながら一つ疑念がよぎる。それは米国にとって大恐慌の経験は本当に悪だったのかという事だ。

バーナンケはソレを避けようと最後の手段でもあるドル札の印刷を開始した。だが少なくとも私にはあの大恐慌の経験で米国は強くなったと感じる。ただその条件だったのが当時の米国人には失敗の痛みを受け入れる魂があった事だ。繰り返すと、研究者としてのバーナンケにとって大恐慌はFEDの失敗のサンプルにすぎない。しかし歴史では失敗も必要悪である事がある。この点についてオバマもガイトナーも同じセリフを言う。「我々はこの金融危機から学び、もっと強い米国となり立ち直る」と。だが豊かさが頂点を極めた後の米国のデモクラシーの中で揉まれる政権がここに至るまでに取った救済、またバーナンケFEDによる無限大のドル札の印刷は失敗による痛みの回避ではないのか。魂のないデモクラシーとは恐ろしく醜い。4回に渡ってNHKが取り組んだ特集を見る限り、正直これならプーチンロシアの方が強くなると確信した。(プーチンのロシアシリーズ)

そう言えば最近友人が珍しい癌になってしまった(耳下癌)。彼はまだ若い。今彼は果敢にも最も強い化学療法でガン細胞を断ち切ろうとしている。そばで見ている知人によると、治療からは想像を絶する苦しさが伝わるという。いずれにしても、人は己の失敗よる痛みさえも避けてしまうようになっては、強くなって再び戻ってくる事は絶対にないと私の歴史感は語る。だとするとバーナンケの実験は実はモルヒネ、終末ケアの始まりという事になる。