2009年5月20日水曜日

株以外の価値観

今日株は下がった。一見大きな下げではない。ダウで30ドル程度だ。だが実は今日の株の下げの意味は大きい。理由はVIXである。簡単に言うとVIXとはシカゴ市場に上場されている世の中や市場の緊張度を図る指数である。例えば市場や世の中が順風の時VIXの値は小さい。だが一旦危機が発生するとこの指数は飛び跳ねる。具体的には金融危機以前の数年間この指数は平均12前後で推移していた。ところが昨年11月のパニックの頂点ではこの指数は90まで跳ね上がった。そしてこのVIXと株は通常逆相関の関係にある。即ちVIXが高いと株が下がり、株が上がる時はVIXが下がるのが常だった。ところが今日はリーマンショック以来初めてVIXが30の大台を割ったにもかかわらず株も下がってしまった。逆相関が崩れたのである。

繰り返すが、日経平均が小泉政権下でバブル崩壊後の最安値を付けた事、また大恐慌の際も株の最安値は暴落直後のパニックではなく数年後に記録したように、株は混乱の最中に安値は付けない。むしろ市場で戦う気力も失せた静寂の中その死は訪れる。即ち世捨て人の様な究極の株式ベア派が待ち望んでいるのはこの逆相関が徐々に崩れる事だ。ただしそれはゆっくりでなければならない。なぜならパニックで株が下落する時は先物売りやカラ売りが入る。それらは後の上昇要因であることは言うまでもない。だが今は空売り規制が入っている。やはり苦しまぎれの手段は逆効果。そして今回その終末に向けて決定的な要因になるのは米国では初めての反ビジネス、反大企業、親労働者への避けられない潮流である。

本日のクレジットカード新法案が示す政治の潮流は最早は変わらない。簡単に言うとこの法案は銀行やカード会社がクレジットカードの利率を変えられないようにする新法案だ。可決後はカード使う労働者は助かる一方でカード会社の収益が圧迫されるのは必定である。即ち株には悪材料である。因みに下のWEBサイトを覗いてほしい。そこには最近の州別失業率が紹介されている。それをみると民主党地盤のブルーステイトの平均が8.61%で共和党のレッドステイトの平均が7.17%である。ここまで盤石に見えたオバマ政権と民主党だが、2年後の中間選挙で議席減少の危機に見舞われているのは実は彼等である。政治家は敏感だ。この危機を受けて現状は政権と両院の完全支配権を持つ盤石与党体制の民主党が打つ手段は共和党保守派が叫ぶ市場原理の復活ではない。逆だ。実際は弱者救済の社会主義、だがそれ公式には認めないまま覚悟の無い偽りの資本主義を続ける事である。 http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_U.S._states_by_unemployment_rate

それでも市場に気力があり主流のモーメンタムトレードが機能する間はダウの10000回復は可能である。しかし長期的には株はゆっくりと究極の安値に向かい動き始めた。そして想像では米国がこのSEA CHANGEの認識と対応が一番遅れる。なぜなら中国に春節がある様に、本来世界の多くの人々にとっては株の上昇だけが幸福感ではない。だが今の米国から株(成長)への期待感をとったら何も残らない。この国には未使用の戦略核兵器やWiiの様なおもちゃ兵器がたくさんあるが、戦争がなければそれさえも誰も必要としない。だから株の価値(成長と金儲け)が世界中で後退するそんなシナリオを米国は認める事はできない。

そんな中でNHKで中国の「春節」を紹介した番組があった。印象に残ったのは「金融危機のおかげで5年ぶりに故郷に帰れる」と、不況で出稼ぎ工場が早めに閉じて何日も前から広州駅で帰省列車を待つ中国人男性が笑いながら語った言葉だ。決して豊かそうではなかった。だがあんな笑顔をこの国で見ることは稀だ。今回の金融危機は再び世界の人々に米国流以外の価値観を覚醒させたかもしれない。いずれにしても米国自身が最早世界の人々を引き付ける魅力がないと感じた場合、この国は本当のストレステストを迎える。その時が本当の株の安値となろう・・。



0 件のコメント: