2009年8月26日水曜日

男の仕事、西部劇3:10 to YUMAより

余程の西部劇ファンでなければ日本人にはあまり知られていない1957年制作の「3:10 TO YUMA」(グレンフォード主演)が昨年リメークされた。実はこのオリジナル版は米国人が選ぶ名作西部劇の上位に必ず入る作品である。そこで休日にオリジナルとリメークを見比べた。オリジナルはハッピーエンドであるのに対し、リメークは主人公が最後に死んでしまう点が若干違うが、両方ともエルモアの原作の意図した骨子は伝えていた。

話は1880年代のアリゾナが舞台。干ばつで不作が続き、生活が困窮した主人公のエバンスは偶然有名なWANTED(おたずね者)のウェイドに出くわす。そしてそのウェイドが酒場で油断しているところを保安官と協力して見事捕縛した。そこで治安担当者はウェイドの護送に保安官に加えて市民から二人の協力者を募る。その報奨金は200ドル。1880年代の200ドルがどの程度の価値かは想像力の世界である。だが一家4人、干ばつで苦境が続くエバンスにはリスクを取るに十分な金額だった。

この後話はウェイドの逃亡やインデイアンの急襲など、西部劇独特のドンパチが続く。そして何といっても原作が意図したこの作品の妙は200ドルというお金に対するエバンスのコミットの姿である。それはオリジナルでは極悪人のウェイドを誰かが護送しなければ住民が安心して暮らせないという正義感として現わされ、リメークでは不敵な笑いで200ドル以上の賄賂でエバンスの買収を試みるウェイドに対し、知らぬ間に息子が付いてきてしまったエバンスは「男の仕事」は金だけではなく、約束に対する信義も試される事を教えようとする父親の姿で描かれる。

そしてリメークでは最後エバンスはウェイドの手下に撃たれて死ぬ事になるが、護送の間にエバンスに対して不思議な友情が芽生えたウェイドは敢えてエバンスの息子に捉えられ、そのまま絞首刑が待っている予定の3:10発のユマ行きの護送列車に乗る・・。(因みにリメークではエバンスはバットマンなどの主演が続くクリチャンベレが演じ、ウェイドはラッセルクロウが演じている)

さて本日この話題を出したのは1880年代の米国には現在はFEDとして君臨する中央銀行が存在しなかった事を今一度触れたいからである。金貨を持ち歩くシーンがふんだんにある西部劇から当時の米国を想像する事には異論が出よう。だが当時既に英国やフランスでは紙幣を発行する権限を持つ中央銀行の支配は強まり、日銀でさえも1883年には発足していた中で、米国は意図して中央銀行機能を持たなかった。従って結果的に慢性的な流動性が不足する状態に置かれていた事は間違いないだろう。だが不足していたからこそ本来の貨幣の価値が保たれ、またそこに信義が宿っていたと考えるのは間違っているだろうか。

そして本日正式にオバマからバーナンケの再任が発表された今の米国はこの時代とは似ても似つかぬ世界に変貌している・・。


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