2009年8月19日水曜日

変わらぬ弱点

当然ながら毎年8月15日前後になると日本は反戦ムード一色になる。今年もNHKは4夜連続で今ではかなりの高齢になられた戦争経験者達の証言を取り上げていた。その中で一般の兵隊を取り上げた初回と、海軍関係者の裁判を取り上げた4回目は衝撃的だった。初回では戦後、米寿になるまで沈黙を守った元兵士が、戦時中に上官の命令で仕方なく敵兵を刺殺した状況を番組の中で告白。夫の秘密を知らされぬまま永年連れ添った妻はあまりの衝撃に涙する場面があった。そして上級海軍関係者の告白を元に総集した最終回では、恥ずかしながら個人的にその存在さえ知らなかった「三灶島(さんそうとう)」での日本海軍による住民の大量殺戮行為の告白はこれまでのこの種のドキュメンタリーでは無かった新証言であり、その内容には一人の日本人としてめまいがする衝撃を受けた。(元々その島には12000人前後の住民がいたが、秘密の基地建設を目的とした日本軍の殲滅作戦で全員が殺されるか島外へ逃避。そして生き残った証人は父と兄を殺された後で母と妹を連れて山に逃げたがそこに日本軍が迫り、泣き出した妹を仕方なく自分の手で絞殺した事を告白した・・。このシリーズは戦争を扱ったNHKドキュメンタリーとしてもこれまでとは異次元の内容を含んでいる。)

それだけこの特集は日本人が戦争を反省するには十分。だが現状からすると、日本人があの戦争を反省する事と、これから世界が平和になれるかどうかは無関係である。世界の見地からみると日本は勝手に無謀な戦争を英米に挑み、そして今は勝手に反省しているにすぎない。更に言うならもし日本が英米に勝っていたらどうなったか。人が死んだのは日露戦争も同じ。だが日露戦争は勝った。そしてその日露戦争が中心の「坂の上の雲」はNHK開局以来の総力で制作され、9月からいよいよ放送が始まる。司馬遼太郎の同作品を読んだ人なら知っているはずだ。「坂の上の雲」ほど日本人が日本に誇り感じる作品は少ないという事を・・。

この事実はNHKは昭和の時代に日本は無謀な戦争を起こしたという反省を促す一方で、明治の時代には大国ロシアに勝つほど日本人には底力があったとの結果的に正反対のメッセージを送っているのである。これは私からすれば表向き命の尊さをテーマしつつ、本質は勝ったか負けたかの話である。まあそれはそれでよい。だが整理すると、これまで明治と昭和の違いは明治の日本人が優で、昭和の日本人が劣という視点のみだった。ただこれでは片手落ち。今後は戦った相手の国にも視点を充てるべきだろう。

では米国とロシアは何が違うのか。簡単に言うと盛りを過ぎたロシアには勝ったが国家として勢いを増した米国には負けたという事である。そして前述のNHK特集で繰り返し触れられた日本の弱点は実は今も変わっていない。「神の国は負けない」と昭和の日本人は信じた。そしてその「絶対性」を米国に完膚なきまでに叩きのめされた。すると今度は「米国は絶対に正しい」と戦後の60年間信じ続けてきた。そうだ。日本は昭和天皇の絶対性を米国に置き換えただけだった。私もその一人だった。だが今は違う。今の米国は日本が負けた米国ではない・・。

この事に気づかず、或いは気付いても国家として行動に移す(米国から精神的に独立する)勇気がない間は弱点はそのままだ。それでは何のための反省だろうか。そしてそんな日本が真の意味で戦争のない世界平和に貢献する国になる事はないだろう・・。


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