2009年8月18日火曜日

ハイブリット VS 神通力

ハイブリットの威力は何も自動車だけの話ではない。昨日ゴルフの全米プロの最終日、一打差のまま最終ホールの一打目を左のラフに入れたヤン選手が持ったクラブは3番アイアン。但しソレはハイブリットだった。

深いラフからショット。更に木を超えて直線で200ヤード以上の距離を残したヤンに対し、一打差を追いかけるタイガーは完璧なティーショットの後、残り175ヤードを通常の5番アイアンを持って待っていた。そしてその瞬間までは誰もがいつも劇的なドラマを想定していたはずだ。しかしヤンの2打目は全てを変えるスーパーショット。この日、米国の繁栄のピークを象徴し、世界のスポーツ界の旗手だったタイガーは超人から人間の世界に戻り、代わってボルトが人間から超人になった・・。

ただこの勝負の本質はヤンの奇跡というよりタイガーの自滅だった。振り返ると大きな失敗(全英の予選敗退)の後、満を持して臨んだ今年最後のメジャーでタイガーは完璧に見えた。しかし土曜日、セーフティーリードを保ったまま惜しいパットを立て続けに外したタイガーは、これまではあまり人前で見せたことのないプレーをした。それはパットを外した後、片手で投げやりにタップイン処理をしたのだ。これを解説のニックファルドは見逃がさなかった。マナーとしてではなく、彼はこのタイガーらしくない精神的な乱れが勝負事において後に災いを残す可能性を示唆していた。

そして勝負が決した後の米国人による解説は白々しかった。アジアの台頭を称え韓国の国旗が映し出される演出とは裏腹に、「ハイブリット」という新しい道具の登場に疑問を投げかける雰囲気を残した。そして表彰式においては「英語を全く理解しない」というヤンに対し、「YOUR ENGLISH IS NOT GREAT、だから通訳を用意しました」と司会者としてはあるまじき表現で彼を持ち上げた。事実ヤンは英語が理解できなかった事が功を奏した事を勝利インタビューの中で認めていた。「90」を切れない自分が言うのもなんだが、同じ韓国人でも実力はKJチョイの方が上であるのは明らか。だがKJは英語は達者だ。そして米国での経験も長く、雰囲気も感じる事が出来る。皮肉だがKJには同じ奇跡は起きないだろう。

いずれにせよあの冷静なハリントンでもパー3で8をたたくのがゴルフ。彼は最終日の前半タイガーを追いかける一番手だったが8番のショートで8をたたき突然消えた。想定した競争相手がそこで消えた事もタイガーに影響を与えたかもしれない。ヤンが周りの雰囲気とは隔離された意識の中で淡淡とした時間を過ごした中で、タイガーは恐らくプロになって初めて勝つべき試合を自滅して失った。

無論この敗北でタイガーの時代が終わったというわけではない。彼はこれからも第一人者として勝利を重ねるはずだ。だが、奇跡の大逆転で全米アマ3連覇を成し遂げてから10年以上にわたり「研究対象」としてこれまで眺めてきたタイガーから、はじめて神通力が消えた事を個人的に確認した。


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