2009年11月13日金曜日

PUBLIC ENEMY No1 (社会の敵ナンバー1)

日本のニュースは英国人女性の殺害に関わったとされる市橋容疑者の逮捕で持ちきりだ。そんな中で注目したのは1000万という報奨金。当初報奨金は被害者の親族が提供したと考えていた。ところが今回のケースでは警察当局、即ち国家がスポンサーだった。他にも凶悪殺人事件の未解決が多々ある中で1000万という最高額の報奨金の意味は大きい。そしてその政治的決断の背景もこれからは議論されるだろう。

ところで、報奨金を大きくして国民に情報提供を求めた米国内の犯罪史でも突出した存在は1930年代のジョンデリンジャーである。(現在国際手配の最高ビンラデイン等10億円)当時出来たばかりFBIは彼に何度もコケにされ、長官のフーバーは彼を初の「PUBLIC ENEMY NO1」に指名した。そして報奨金も当時としては破格の2万ドルまで上げて国民に協力を求めた。と、ここまでは今回市橋容疑者を追い込んだ状況に似ている。だが結果は違った。デリンジャーはそれでも捕まらなかった。なぜなら2万ドルでも国民は彼を売らなかったからだ。彼を売ったのは恋人。恋人は不法移民の摘発を見逃してもらう代わりに情報を警察に流した。彼女は目印になる赤いドレスを着てデリンジャーとシカゴの映画館に出かけ、出てきたところでデリンジャーは警官に包囲された。そして射殺された。これが一般的なデリンジャーの伝記。だが彼には別の話がある。遺体を引き取りに来た知人が死体を見た瞬間に本人ではないと証言。(確かに公開された遺体写真と生前のデリンジャーは別人の様相)。だが警察は一切聞き入れず、早々に事件を解決として処理した。

本当の事は判らない。だが一つだけはっきりしているのは、当時の国家当局の思惑とは違いデリンジャーは国民に人気があったという事。そうでなければ義経伝説の様な逸話も起きないだろうし彼を主役にした映画が後に何本も創られる事は無い。(去年は今米国の男優でNO1 のジョニーデップが演じた)ではなぜ彼は人気があったのか。まず国家当局が「社会の敵NO1」としてデリンジャーを指定したのは政治的判断、そしてそれは市橋容疑者への報奨金を決めた日本の政治判断と同質だろう。だが当時の一般国民にとって「社会の敵」は別にいた。デリンジャーは鼠小僧の様な義賊とも違う。ただ結果的に警官を一人殺してしまったが殺人は専門ではない。そして1930年代当時は大恐慌から戦争に向かう過程であり、金融機関は淘汰の後で保身に走った。結果今日同様のフォークロージャー等で苦境に取り残された一般国民の銀行への感情は悪化の一途だった。そう。実は当時の国民にとって「PUBLIC ENEMY NO1」 は実は「銀行」だった。そしてデリンジャーは基本的に一般人を殺さずその銀行を痛めつけた。だから彼には不思議な人気があったと考えられる。

そういえば同時期にボニー/クライドの男女のギャングが同じ銀行強盗をしている。この二人は一般人を大勢殺しているのでデリンジャーと同じ扱いは出来ないが、彼等を主役にした映画も何本もありここでも銀行は敵役だ。またその前には「明日に向かって撃て」のブッチ/サンダスがいる。彼らも銀行強盗が専門で最後はボリビアで射殺される。だがロバートレッドフォードが演じたサンダスには地元ワイオミングに義経伝説と同様の話がある。こうみると、やはり米国人は伝統的に銀行が嫌いである。

そんな中で経済が疲弊した後の国民感情が当局の思惑から外れるのは米国だけの話とは限らない。市橋容疑者が捕まった背景に報奨金とマスコミの力があった事は容易に想像できる。だが多々ある他の未解決事件の被害者達の思いはどうか。この事件に優先権を取られたという感情はないだろうか。結局国家を問わず、余裕のない国民は国家が何をしても満足しないだろう。そして民主主義はそこまで落ちぶれると危険だ。当局はその制御に追われが最終的には次のパターンが濃厚となる。①国家として更に大きな敵を必要とする ②その過程ではヒトラーの様な絶対的存在に傾くか、③そうでなければ共産への移行が待っている。そして③の選択下をとる場合、銀行のPUBLIC ENEMY No1の役割はやっと終わる・・。



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