2008年9月3日水曜日

<今日の視点>新ノア伝説、天候と国力地図。

緊急寄稿 OPEN WATER

さて世界的見地からみて3連休の最大のNEWSはグスタフでも、共和党の副大統領候補の長女が妊娠していた事でも、ましてや福田首相の辞任でもない。恐らくは土曜日にINDEPENDENT紙が報じたブレーメン大学の調査では、先週衛星から撮影された写真から判断して人類史上を超え地球史でも12万5千年ぶりとなる北極点の東西の氷海の溶解「OPEN WATER」が確認されたという話である。早速ドイツの海運会社は調査船を出す事を決めたらしいが、同大学の分析では既に北極圏の氷解は自滅サイクルに入っており、これまでの予想を50年早め2013年ごろからは夏季において北極圏新航路が生まれると予想している。

これが事実になると早急に新しい国際条約が必要になる。北極は誰のものでもないが、両政府はまだ公式には何も認めていないにもかかわらず、ロシアとカナダの間では既に権益についてのつばぜり合いが始まっている。そしてこれは国際政治の表裏を認識する上で象徴的な話だが、話題のペイリン女史も「科学者が警告する地球温暖化は根拠がない」という共和党保守派の立場を継承している様に、共和党政権は年初に「白熊を助ける」と公約するまでは全く温暖化リスクを無視していた。それにもかかわらず、北極圏航路の新しい利権、ビジネスの話になると早速カナダとロシアの主導権には横やりをいれたのである。要するに究極的には災害も温暖化もそして戦争もビジネス即ち利権である。この発想の弱い人と強い人の分かれ道が債券と株の分かれ道だが、国際政治もヘッドラインの把握だけで終わってしまと金融市場での勝者になる事は難しいだろう。

さてこのOPEN WATERを踏まえると、温暖化が100年前でなくて日本は助かった。なぜなら仮に100年前に始まっていたら日本はロシア領になっていたかもしれないからだ。理由は司馬遼太郎に言わせれば明確。当時の大日本帝国海軍とロシア帝国の所有艦船数には2倍の格差があった。そして三井物産のロシア支店による世紀の第一報でバルチック艦隊がインド洋に向けて出向した事を知った日本はまずロシアの別働艦隊である旅順艦隊の撲滅を図った。まずはこれを殲滅し、戦艦数で五分の戦いに持ち込まなければ挟み撃ちにされるのは必定。その為に陸軍が旅順を砲撃できる2百3高地を落とすという大作戦だった。その日本海大戦までの軌跡は最早説明するまでもない。ただバルチック艦隊がインド洋航路ではなく北極回りで日本海に現れたらどうなっていただろう。前述のブレーメンの海運会社の試算では、ドイツがBMWを日本に輸出する際に「未来の新航路」とインド洋航路では4000マイルの違いが出るという。短縮された日数では東郷元帥と秋山真之は万全の体制で敵を迎え撃つ事は出来なかっただろう・・。

さて其の当時のロシア帝国はあの気候にもかかわらず世界最大の穀物輸出国だった事を週末のNYTIMESの特集で知った。しかしその後ロシアは革命を経てソ連の集団農場に転換されていったのはご承知の通り。そしてここからは記事の要約だが、コルホーズ体制はエリツン時代に崩壊して多くの集団農場は郷愁を引きずりながら資源や工業分野と同じく資本の原理の中で人も土地も興廃した。そして資源や工業の分野ではオルガリッチが民営化で譲渡された株券の意味がわからない工場労働者にジャガイモ袋を渡し、ジャガイモと彼らの株を交換する事で巨万の富に換えた事と同様に、崩壊した集団農場では数年前まで1ヘクタール100USドルという値段で農地所有権が売買されていた。これに目をつけたのがロシア系米国人でカーライルのロシア支店代表だった人物。彼は現在オルガリッチやヘッジファンドを巻き込み興廃した旧集団農地跡を買い漁っているという。そして、1ヘクタール100ドルだった農地が2年で1000ドルを超えてきた事実に、100ドルで所有権を手放し、其の金でズボンを買ったという農夫は憤慨しているが、今ではなす術もない・・。(NYTEIMSから)

ところで記事によるとロシアの農地の生産性はまだ低い。米国が1ヘクタール当たり6.8トンの穀物生産力を誇るのに対し、カナダは3.8トン。そして現在のロシアは1.6トンに留まる。ただ前述のカーライル出身の投資家は西側の生産システムを取り入れる事で一部の農場では1へクターの小麦収穫を3トンまで増やす事に成功しており、今後に自信を持っている。そして最大の魅力はロシアの広さである。世界最強といわれる米国のグレートプレーンズでさえ8割が既に農地化された。そして今残された世界全体の耕作可能地の7%がロシアに存在し、其の1/6に当たる3500万へクタールが荒れたままだという。英国全体の農地が600万へクタールである事と比較してもこのロシアの農地の可能性の大きさには驚かされる。だがこの数値には一旦汚れたチェルノブイリ一帯とこれまでは雪に閉ざされた広大なツンドラ地帯は含まれていない。仮にチェルノブイリがクリーンになりまた地球温暖化で耕作可能地が北へ拡大すればどうなるか。ロシアは資源だけ出なく穀物生産でも圧倒的な世界最強になる可能性が出てくる。

この体制をプーチンが目指さないはずがない。資源産業同様に、途中まで市場原理や資本の力を使い、形が出来たら強制的に謙譲させればよい。ある程度の富を残してやれば大概は黙って差し出す。例外はユーコスのコゾロコフスキーだったが、ロシア人の歴史からして彼が生きてシベリアを抜け出せる可能性は低い。そういえば最近一部欧州諸国が彼の救済を求めている。だがプーチンが健在な限り無駄だ。そもそも市場原理もご都合主義だった訳でロシアにとってはコソボ独立を容認しておきながら南オセチアの独立は認めない欧米の矛盾と同じ。ロシアは絶対に譲らないしイランなどの反米国家は益々ロシアの味方につくだろう。そしてあのソ連を瓦解させたアフガン戦争で米国がタリバーンを援助した事をロシア人は今も忘れてはいない。今度はロシアが水面下でタリバーンを応援する番である。

いずれにしても世界が国家利益を求めて策謀の時代に入った事と相反する金融市場のあまりにも単純な値動は一体何だ。ただこれは自然だ。表面的な情報に格差がない今、市場に徘徊する流動性はハリケーンの進路などというギャンブル性の高いBETに支配されている。そしていつしか人間は天候などの自然まで弄ぶようになったらしい。中国が五輪開催中に打ち続けたミサイルと日本の豪雨の関連はしらないが、自然の力や歴史の積み重ねと比べたら現代人の知識や経験などは取るに足らない。にもかかわらず、自然現象まで遊びや金儲けの対象とした人間の軽々しい不遜な態度は旧約聖書でノアの箱舟に乗らなかった愚か者たちを髣髴させる・・。

0 件のコメント: