2009年7月22日水曜日

民主党の仕事

日本でも終に歴史的瞬間になるかもしれない総選挙の日程が決まった。 一方黒人大統領の誕生と議会勢力の大逆転の意味では先に歴史的選挙を経験したのが米国だ。しかし実際にオバマ政権が走り出した時米国は金融危機の真っ只中。結果その対応に追われて選挙戦を通して共和党と民主党が激突した新しいの米国の大綱は手つかずで放置された。そして金融危機が最悪期を脱したとの認識が広まる中、やっとオバマ政権と民主党議会はその本題に着手した。それが「健康保険」である。

そもそもブッシュ政権末期、大統領選挙は「健康保険を制した者」が勝つと言われた。よって健康保険制度の改革に大統領夫人だった頃から直接関わったヒラリーを中心に序盤の選挙戦は回った。だが結果は別の意味で歴史的。ただオバマにとっても健康保険が最大のテーマであった。またそれは同時に選ばれた多くの民主党議員も同じだ。言い換えればブッシュ政権にとっての「錦の御旗」が対テロ対策だったとするなら、本来この政権の御旗は「国民皆保険の実現」でなければならない。さもないと私の様な「第三者」としては歴史的だった選挙の意味が無くなるのである。

その「第三者」として資本主義が齎した消費社会の頂点ともいえた米国で暮らしながら5000万人の米国人が健康保険を持たずに困窮する様を見るのは不思議な気がした。高齢者と低所得者には不完全ながらも政府による保険制度が存在した中、世帯年収が400万円から1000万円の中間層にとっても保険は高額だった。その実体を眺め、表向きは「自分の事は自分で責任を持つ」との開拓者精神を標榜してこの問題に手をつけなかったブッシュ政権の本当の狙いが在米期間が長くなるにつれて次第に理解できた。それは高騰した学費も同じ背景だった。まず保険が最も必要な子供を抱える中間層が保険を十分に持つと、当然保険会社は儲からない。これは市場原理で資本家優遇策を取ったブッシュ政権には受け入れられなかった。そして学費に関しては徴兵制が廃止された今の米国でも十分に若い兵員を補充するためには大学のコストが安すぎると実は困る。なぜなら若者の多くは年間の学費が300万円を超えた大学にはいけない。その欠陥を補ったのが軍隊である。米軍には8年の強制兵役を終えれば学費補助制度が適用される。実はこの制度が200万人の米軍の補充を支えていたのである。

この様な市場原理と右傾化の極致だったブッシュ時代の論理を敢えて例えるなら、政府は中間層に対し、保険料が高すぎて給料からでは払えないなら代わりに保険会社の株でも買えと促していた様なモノだった。だがやはりソレは行き過ぎた。結果限界に達した中間層の多くが民主党支持に回った。そして先週、終に民主党議会は新しい国民皆保険の草案を提出、その予算として130兆円を提示した。内容は国民は現行の民間保険と政府保険のどちらでも選択できるモノ。そして民間から政府保険に大移動が発生した場合、国家予算の超過分は年収3000万円以上の富裕者層が負担する内容となっていた。これはオバマが選挙戦で主張した案に近い。

ただ年収1億円超の層の負担が5%まで上昇するのに対し、3000万円以下の負担増がないのは極端すぎた。この案では高所得の民主党支持者から反発が予想されるため、本日民主党議会は修正案も提出した。ただ一方で本日オバマは別件で面白い声明を出している。そこで彼は金融機関が再び過剰利益を追い求める事は許さないと強調していた。実は今回の救済劇で最も助かった個人層は前述の年収1億以上でどちらかというと民主党支持が多い都会の金融関係者である。私にはこのオバマの声明は変則ながら彼等に対しての警告にも感じられた。そして警告とは次の様なモノだ。「確かに貴方の負担は大きいかもしれない。だが救済で最初に助かったのは貴方のはずだ。ここは同じ米国人としてこの程度の負担は当然ではないか」と。そう、オバマの取り巻きにはブッシュが残したスプレッドをそのままに、一方で民主党主導で始まった救済の恩恵も十分に受けたいと願うクリントン政権から引き継いだ輩がまだまだ多い。この矛盾がオバマ政権の限界をいずれ露呈すると感じる中スプレッドを適正水準に戻したい彼の覚悟が試される。

いずれにしてもこの保険制度法案がどんな妥協点を見出すかが米国の残りの夏のテーマである。そしてその顛末は秋口の金融市場にも影響を及ぼすだろう。繰り返すが、民主党政権が誕生したのそれなりの歴史的転換を促進するエネルギーがあっての事である。従って結果米国の行く末がどんなものになるかとは別に、傍観者としては民主党には「民主党らしい仕事」をしてもらいたい。そしてそれは日本の民主党にも言えるのではないか。





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