2009年7月24日金曜日

マネー主義のその先

NHKのマネー資本主義、全5回を見終わった。見終わった感想は、過去のNHK特集の中で、ここまで「米国的なモノ」を否定した作品はあまりなかったという印象。

この事は、米国との同盟関係は不変ながらも、価値観においては米国からの日本の独立を後押しするNHKのスタンスを明確にしたと言える。その意味でこの特集は画期的だった。

そもそもこのシリーズは、初回で雑誌に提供した自分の比喩が使われた事から注視してきた。
そしてその最終回は、ハーバード等のMBAでの教えが金融危機を招いたと自己批判を展開するハーバードの教授の紹介で始まった。

そういえばブッシュがハーバードのMBA出身だった事に関連し、MBA編重がこの国を滅ぼすだろうとの「視点」を出したのは3年前だ。背景はフラット化が加速した当時、国家間のスプレッドが消滅したの事を受け、米国は国内にそれまではなかったスプレッド(極端な格差)を創造し、市場原理の有利性を維持する政策に出たと感じたからだ。

丁度その前後から健康保険を持たない人の不満が高まり、学費高騰が真剣に議論され始めた。そして思い出すのはバフェットとビルゲイツの憂いだ。二人は当時の対談で、MIT等の優秀な学生は外国人で占められ、米国人の優秀な学生は理系でさえも学費が高騰したためにそのコストを速く回収しようと多くが基礎研究を辞めて給料の高いWSに向かっていると嘆いていた。

またその最終回では他にも面白い顔ぶれが登場していた。糸井重里氏は流石にコピーライター、彼は「人は自分の身長や体重は知っている。だが欲望を測った事はなく、また学校でもソレは教えない」と、本質を短いフレーズで現わす技は冴えていた。

また実業家の原丈人氏は「実は今ほど日本が有利な状態に置かれた事はない」と断言。理由として「先進国の中でも日本の様にお金以外の価値観とテクノロジー基盤の両方が備わった国は他にはない」と、悲観論者には目から鱗の話をしていた。

そして究極は米国人投資家のジムチャノス氏だ。彼は著名なヘッジファンドのトップでCNBCにも時より出演する。NHKでは「カラ売り王」などと紹介されていたが、彼は昨年の相場の主役のCDSと株の空売りの裁定を仕掛けるようなヘッジファンドではない。

むしろバフェットの逆。長い時間をかけ矛盾が露呈されるのを待つ本質重視の投資家である。その彼はどこまでも「市場原理は正しい」としながらも、但し、市場原理が機能するなら中途半端な救済をしてはならないとし、今の米国は問題を先送りしているにすぎないと米国人の彼が一番自国の状態に悲観していた。

そして番組は最後に「金融危機を繰り返さないためには」というテーマで締めくくった。だがそのコーナーは無駄だ。なぜなら資本主義である以上は金融危機は必ず繰り返すからだ。その意味ではNHKの試みとは別に、マネーの主義の先にはまた別のマネー主義が待っているにすぎない。

ただこの様な番組を継続する事で、今の米国から距離を置く事は可能だ。チャノス氏が危惧する様に、今の米国は市場原理と社会主義の混合状態。そしてその米国では危機の教訓さえ薄れ始めている。そんな米国をみていると次の危機は早くやってくると感じる。米国が学ばないとしたら最早その米国に付き合う必要はなく、世界が先に米国を見放すはずだ。

サマーズ/ガイトナー/バーナンケの3人は、金融システムを救う名目でまず金持ちを救くった。今のところその政策は間違ったとは言えない。ではなぜオバマがこれ程情熱を注ぐ新しい健康保険制度が成立しないのか。

それは負担増になる可能性がある富裕層が反対しているからだ。繰り返すが、今回の社会主義的救済処置で最も救われたのは彼ら富裕層。しかし彼等は自分が社会主義政策の負担をするのは今度は市場原理を持ちだして嫌だと言っている。だがそんな矛盾が続くとは思えない・・。


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