2009年7月1日水曜日

桃源郷への懲りない願望

サブプライムなどの新商品を次々にぶち込んでは机上の空論で永遠の右肩上がりの成長を謳ったクレジット市場は、結局金融市場における幻の桃源郷だった。そして今、人々はその愚かさを悟り、様々なところでその反省が流行りになった(例えばNHK特集マネー資本主義など)。だが桃源郷はなにも小難しいオルタナとしてのクレジット市場だけではない。今の米国の株式市場は全く根拠のない回復説を前提にしている。いいかえればこれも新しい桃源郷である。本日はその話をしよう。

まず、3月から世界の株式市場は回復基調に入ったが、理由は二つある。一つは中国などの新興国が積極的な財政政策を打ち出した事。そしてもう一つは危機の震源地米国でも、それまで直因となった金融機関に対して厳しい態度だったオバマ政権が方針を変えた事だ。いくら金融機関が問題だったとはいえ、まずはその金融機関を助けない事には落ち込んだ実体経済にも回復のメドが立たない。その事に気付いたオバマ政権は3月中旬から金融機関への懲罰的態度を緩めたのである。

その結果世界の株式市場は回復した。だがその中でも米国の株の戻りは鈍い。そしてその戻りの鈍い米国の株式市場の戻り方を分析すると、まずは金融機関のうち政府の助けをかりながらも自発呼吸のメドが立った金融株が買い戻された。そして次に材料になったのは中国だ。ここがこれまでとは違う点。これまで米国の実体経済とその株式市場は世界経済の中心だった。しかし今はその米国の株式市場は中国という他国の成長(回復)に頼っているのが実情である。これでは世界の株式市場が戻り基調になっても米国が遅れるのは当然である。

ただそれでもここまで株が戻った事で、その効果が米国内の一般消費者の購買力に還元される期待が生まれていた。それが昨日までWSのエコノミストが掲げたストーリーだった。そして4月と5月の指標をみる限り順調に消費者の自信は回復したかに見えた。しかし本日発表された6月の消費者の自信は再び下落基調へと転じた。これはWSには衝撃的である。だが当然だ。なぜならいくら株が戻っても、米国の一般消費者の財布である住宅価格は下落のペースが鈍ったというだけで完全には下げ止まっていない。米国人は失業中でも住宅価格が上昇した事で消費を続けた。それがあのテロから金融危機発生までの米国の姿だ。それほどまでに重要で根幹である米国の住宅価格は簡単には上昇基調に戻せない。それほど住宅バブルの規模は大きかったのである。

では一体このWSのエコノミストのいい加減な予想は何だ。無論WSには株式市場の旗振り役としての使命がある。よって彼らがいつまでも悲観的では国家戦略上もプラスにならないのは事実だ。だが問題は彼らの予想が自分が政府に最初に助けられた事をいいことに、政府の救済が届かない一般庶民の懐までも簡単に回復すると錯覚している事である。

そこでちょうどいいCITIの事例がある。CITIはまだ政府からの税金による援助を受けている身。しかしその最中にもかかわらず、残った社員の給料のアップを発表した。その表向き理由は、早く救済処置の税金を返還する為には優秀な社員に会社に留まってもらう必要がある。そのためには給料の上昇が不可欠だというもの。しかし同社がタイタニック号だった事は先見性のある社員はとっくに悟って会社を辞めたのが実情である。言い換えれば、現在会社に残っている人はそれが出来なかった人々だ。その人々をして「優秀な社員に残ってもらう必要がある」とは笑い話である。

結局は米国の限界が露呈したという事だろう。限界とは寿命ともいえる。米国は、どんな時でも米国は永遠に成長すると公言してきたが、現状は矛盾している。なぜなら米国が本当にこれからも成長する若い国なら金融危機という大失敗も甘んじて受け入れたはずだからだ。受け入れる事は相当な苦痛を伴う。その痛みとは恐らく我々が昨年来経験してきた苦境などは序の口にすぎないモノだ。それが本来「100年に一回」の意味である。だが米国はバーナンケを擁してそれを回避し、残りの世界もその方針に続いた。そしてその過程で金融機関は助けられた。理由は金融システムの崩壊を絶対に回避するとの公約である。

一見この公約は正しい響きを持つ。だが見方を変えれば敗者を救い、成長への新陳代謝を妨げたともいえる。要するに皆がいい時代を享受しすぎ、自己否定ができなくなっただけではないか。そして米国は建国以来その発展の原動力だった新陳代謝の精神を捨てた。この米国の姿は復活への荒療治が不可能となり、薬に頼りながら残された時間を過ごす老後と同じである。結果愚かにも自己反省のない金融機関では、そこのエコノミストによる根拠ない予想が繰り返えされている。だがこれはサブプライムを育んだ桃源郷の再来であろう。そして運命は変えられない。起るべき事はいずれ必ず起こるだろう・・。

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