2009年9月9日水曜日

続編、主役は豚

元々「彼」は証券マンの息子として生まれ、少なくともイエールに入るまでは金融(業)の恩恵を受けた事を認めている。しかし大学を1年で休学すると、何を血迷ったかエリートは参戦しなくてもよかったベトナムに志願した。帰国後、「彼」は映画監督という天職を選ぶ。その後自身で経験したベトナム戦争を題材にしてアカデミー賞を獲得したプラトーンを皮切りに、その後の作品には一貫して国家に対して自己反省を促すボトムラインが敷かれていく。そしてあのブッシュを題材にした「W」から1年。「彼」ことオリバーストーン監督はプラトーンと並ぶ代表作の「ウォールストリート」の続編に取りかかるという。(NY TIMES)

そもそも前作の公開は紆余曲折を経て自分が証券マンになった年だった(87年)。当時株は勿論のこと金融に疎かった自分としては、新聞を朝日から日経に代えてCATCH UPを試みた。だが当時はまだ金融業に対する違和感が残っていた。そんな折、この作品を新人の研修所で観た。素直に面白いと感じ、金融市場での金儲けを前向きに考えた。その後自身もGREED IS GOOD(強欲は善)に挑んだ。そして一敗、地にまみれた。だがそこで米国赴任となり、反対の世界に放り込まれた。そこは債券の世界だった。債券は「強欲は善」の者どもが失敗するとより明かるくなる世界だ。そして在米(債券)経験が長くなるにつれ、感覚はGREED IS BAD(強欲は悪)に戻った。結果その後の米国の大繁栄は横目で眺めているだけに終わった。

ふと考えると、この様に金儲けが下手な自分の話でも聞いてくれる人がいるのはありがたい事だ。ただそれはそれとして、続編の大筋は主役のゲッコーが実刑を終えて金融市場での復活を試みる過程で若い金融マンに関わっていくという話らしい。その若い金融マンを今度はあの「トランスフォーマー」の主役、シャイアラブーフが演じる。そしてその撮影にあたり、監督とゲッコー役のマイケルダグラスは2003年の金融不祥事でマーサ スチュアートまでも巻きんだ一大インサイダー事件の中心、インクロンの創業者WAKSAL氏と接触。氏の5年に及ぶ実刑経験から様々な情報を得たという。

そして今から新作が注目される背景は、新作では脈絡がGREED IS BAD(強欲は悪)に変わるとの話だからだ。俄かには想像しがたいが、Mダグラス自身も続編モノには出演しないというポリシーを曲げてまで出演を快諾したのは金融危機を経て米国は変わる必要があると感じたからと述べている。またオリバーストーン監督自身は前作でのテーマである「強欲社会」がここまで長持ちするとは実は想定していなかったという。監督は続編の制作を検討したものの、この作品がアカデミー賞で主演男優賞と作品賞をとる決定打となったとされる有名なシーン(ゲッコーが総会でGREED  IS GOODと演説するシーン、尚このシーンはAボウスキーのUCLAでの演説がヒントとされる)を見てWストリートを目指したと若い証券マンからエールを送られる状況が続き、時節が来なかったという。

そして終に時が来たと判断、監督は辛辣な言葉でその心境を語っている。彼はここまで続編の制作を待った理由をGLORIFY  PIGSをしたくなかったと表現した。直訳すると「豚を誉める事はしない」である。強烈な言い方だ。確かに豚の社会では旺盛に貪った豚が一番商品価値が高い。もし思いやる豚がいるならそんな豚は痩せて価値が無い。まさに豚社会では「強欲は善」である。一方でWストリートの価値観をこれまでアニマルスピリットと呼ぶ事もあった。だが失敗しても大手は救済される事が証明された今のWストリートにそんな格好いい表現はおかしい。そもそも肉食動物の頂点のライオンや狼は意味のない殺しはしないし彼らにはどこか調和する本能が備わっている。(ソロモンの指環で紹介)。それからすると、自分は救済されてもスプレッド(貧富の差)を拡大する事でしか生きられないなら、その精神は豚と同じかもしれない。


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