2011年2月16日水曜日

価格原理(上昇)主義 (顧客レターから)

昨日をもって米国の株式市場は2009年3月の安値から2倍なった。この間日経平均は7100円の安値が1万円をやっと超えただけ。この差は大きいが、米国ではこの間に過去の常識や原理原則にとらわれず米国の柔軟性を信じた者は、日本人がおよそ実感できない巨万の富を手に入れた。その代表はヘッジファンドのジョンポールソンという人である。

そもそも彼が注目されたのは金融危機の2008年。それまで彼は全く無名だった。ところが、金融危機では米国の住宅市場の崩壊をいち早く悟り「売り」に回った。結果、彼は多くの人が大損をした中で、個人で1000億円を荒稼ぎした。

だが驚くのは速い。2010年、彼が個人で市場から稼いだお金はなんと4000億円。この金額は、近代の金融市場が整備されてからは、会社ではなく個人が1年で稼いだ金額としては米国でも史上最高と言われている。ではどうやって彼はこの金額を稼いだのか。答えは、彼はここでも「崩壊」を予想し、的中させた事だろう。ただその崩壊とは、米国が建国以来いちばん大事してきた市場原理そのものだったのである。

ここで確認だが、市場原理とは一体何だったのか。まずそれは市場(いちば)のごとく適正価格を探る機能。そして延長で、必要の無くなったモノは消え、価値があるモノだけが生き残る新陳代謝が市場原理の本質だった。ところが、多くの日本人が知らないうちに、金融危機後、米国の金融市場ではこの市場原理が事実上終わっていた。彼は(ポールソン)はその終焉を誰よりも早く悟ったのである。

この変化を、米国は「市場原理主義」から「価格上昇(原理)主義」になったと認識している。簡単に言うと、「価格原理主義」とは値段を下げない事。つまり、フェアヴァリュー(適正価格)など関係なく、どんな時も買い注文が売り注文を常に上回る人工的な環境を整える政策を「国家が実行」する事である。

米国の株が安値から2倍になったのはこの政策の賜物だが、実践は中央銀行のFEDによって施された。その方法は量的緩和政策で国債を買い、その資金を民間の金融機関から株式市場に断続的に流す。(公式にはFEDはこのスキームの存在を認めたわけではないが、市場参加者の間では常識)多くの市場参加者は、市場原理の番人でもあったFEDが自分自身でその本質を否定し「上がるだけの市場」を作り出す事に確信を持てなかった。

ポールソンはそれ察知し、まず国家が救済しなければならない大手銀行の株を買い、また中央銀行が資金をじゃぶじゃぶにした場合の副作用でもあるゴールドを仕込み、結果的にドル安になることを見越して新興国に大量の資金を投下したのである。

恐らく、平均的な市場参加者がこの国家の方針を確信したのは昨年QE2(量的緩和)が発表され、別のヘッジファンドのDテッパー氏に触発されてからだろう。だがそこからでは4000億円を稼ぐことはできない。この様に、ポールソンとは要するに限界を見極めた人だ。彼は住宅市場の限界を見極め、それが終わると今度は米国の市場原理の終焉を見極めた。同じシナリオを頭で描いた人は彼だけではないが、相場でとことん実践したのは彼だった。

そんな中で最新のエコノミスト誌で菅総理が取り上げられていた。小池百合子議員の「日本の総理大臣はティッシュペーパーと同じ(摘まんでポイ捨)」発言が紹介され、総理大臣の権威は落ちるところまで落ちた・・としながらも、TPPへのコミットは勇気がある。と評価していた。

天下のエコノミスト誌に褒められている事を知ったら総理もさぞ喜ぶだろう。だがその日本ではGDPが縮小している。これは米国の様に、「とにかく株を上げる」目的のためには過去を否定する柔軟性とは対照に、日本が常識を打ち破れない結果だろう。だが個人的にはそれが悪いと決めつけるつもりは毛頭ない。

GDPが増えなくても、株価が2倍にならなくとも国民が幸せならいい。米国は手段を選ばず目先の目標は達成した。だがそのツケは必ずやってくる。ならば日本は他国の評価など気にするよりじっくりと国家としての方向性を見極める時。

国民は何を求めているのか、国民自身が迷っているなら、まずは世界がどうなるのかを「リスクを取って」予想し、その上で日本の総理大臣は何を目指すのかを明確にする事が重要。その上で米国に追髄するのを日本人が選択するならそれはそれで日本の運命であろう。


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