2009年2月11日水曜日

脆い患者への告知

本日の米国株式市場の下落は休日の日本の朝のニュースでもトップニュースで伝えられている。そして下げの理由としてはガイトナー財務長官が発表した金融安定政策の中身が具体策に乏しいと、こちらで言われている理由がそのまま使われている。ただこのサイトの読者には本当の理由を教えてあげよう。下がった理由が具体策に乏しかったからという表現は間違いだ。本当は内容が市場が期待した飴玉ではなかったからである。ではなぜ長官は飴玉をあげられなかったのか。

まず長官が発表した内容はFED(中央銀行)が街金融と同等のサービスを提供する「TALF」プログラムの拡大以外にはこれまで噂になってきた「バットバンク制度」や金融機関の給料制度改革(ボーナス重視から固定給重視へ)、更には「時価会計の緩和」等の話を全く含んでいなかった。そもそもこれらの話はCNBCやWSJなどマスコミが事前に勝手に流したモノだ。ただそれではあまりにもバツが悪い。CNBCのリポーターは長官から具体性を引き出そうとしたがガイトナーは明確に意図してそれを遮った。彼は功をあせるマスコミがこれ以上先走りして市場をぬか喜びさせる事を恐れたのである。実はここにここが今回の危機の本質が隠されている。

本来景気を回復させるためには国民に元気を出してもらわねばならないのは当然。だが危機の本質が今回ほど深刻な場合は国民をどう導くかは非常に難しい。そんな中で本日長官は「銀行はこれからSTRESS TESTをしなければならないと明言した。実がこの言葉が市場にはショックだったのである。このSTRESS TESTとは苦難や我慢の意味だ。だが多くの米国民や市場関係者は既に昨年で苦難のピークは過ぎたと考えている。言いかえればそのためにオバマ大統領やガイトナー長官という優秀な指導者が選ばれたのだ。ところが、その長官が待ちに待った改善策を発表したと思ったら、彼に今よりももっと苦しい状況になると言われた。それがショックだったのである。ただそれでも私からすれば長官は優しい。そしてその理由は以下の通りだ。

仮に前ブッシュ政権を前のホームドクターとたとえるならこのドクターは自らの怠慢で患者(米国と国民)が過度な栄養過多から糖尿病になるのを見過ごしてしまった。そしてなぜ糖尿病になったかの明確な原因を告げず、症状が重くなった時点で場当たり的な処方箋を出して「新しい医者」に交代してしまった。しかしそもそも糖尿病は最終的には合併症で死ぬ事も多い難病だ。また遺伝のケースを除けばその原因は大半が自己管理の失敗にある。ただその原因を曖昧にすると自己管理に失敗した患者はどこまでも甘えるものだ。本当は減量などの苦しい治療をしなければならないはずなのに「新しい医者」には簡単に病気が治りそして苦くない魔法の薬を求めている。だがそんなものがあるはずがない。ただ新しい医者にとって難問は精神的に脆い患者に本当の事を告げると患者はあまりのショックでさらに症状を悪化させてしまう可能性がある事。本日が然り、本日この新しいドクターの患者への説明ははなはだ中途半端なものになってしまったのである。


結局本日株は下がり一気に「ガイトナー株」も急落である。ただ一言でいうとこんな愚かな患者を立ち直らせる大役を負ってオバマもガイトナーも気の毒だ。私が再三触れるリンカーンやルーズベルトが背負わなかった事でオバマが背負っている最大の負担は米国人自身の精神的な劣化であるという意味はこの事である。米国はアレックスロドリゲス(ステロイド使用が判明した野球選手)を批判しながら自分ではまだ麻薬を欲している。だが今の政権はそれを承知で立ち上がった人々だ。巻き返しがどんなものか興味深い。

ところで明日はWSのトップが雁首そろえて議会証言に立つ。昨年自動車のBIG3のトップは議会で公開リンチに近い辛らつな質問攻めにあった。明日WSの彼等にはボーナス問題等でそれ以上の拷問が待っている。またそれを恐れたCITIのPANDIT会長は中国出張を理由に議会証言の欠席を企んだがソレはかなわなかったとCNBCで報道された。

最後に本日議会証言に立ったガイトナー財務長官とバーナンケ中央銀行総裁は議会に対して金融機関に資金を入れる事と引き換えに今後金融機関には更に厳しい態度で臨む事を明言した。しかしこの二人はこれまで銀行の国有化は望ましくないと理想論も掲げてきた。この矛盾が昨日までの金融株の戻しを誘発した訳だが、今日の相場と改めて議会の圧力の狭間に立ってさすがに彼等も矛盾を続ける事の限界を感じたはず。いずれにしても銀行株に投資した人々が諦める事で新しい時代が始まる。その意味で今日の銀行株の大幅下落は正しい過程である。








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