2009年2月20日金曜日

組織論の転換点

ちょうど米系大手金融機関でシカゴのビジネスを立ち上げた10年前、当時のCME(シカゴ金融先物取引所)に小渕首相が訪れた。その日の事は覚えているが、ここからはその時小渕首相に同伴した鈴木宗男議員について元外務省職員で現在作家としても活躍中佐藤優氏が雑誌で語った内容を部分的に引用したい。

日本の首相の来場をCMEの名誉会長のマラメド氏は出迎えた。しかし形式的な小渕首相への挨拶を早々にマラメド会長は鈴木宗男議員のところへ行きしっかり手を握って熱くお礼をした。首相を差し置いてのこの歓迎ぶりには当の宗男議員が当惑したという。マラメドがそこまで鈴木宗男議員に逢いたかったのはあの「命のビザ」の杉原千畝に関係している。ご存じのように杉原氏の名誉が公式に回復されたのはこの10年の話だ。それまでは彼の話はマスコミなどでは語られてきたものの外務省としては命令違反をした杉原氏を英雄にする事は出来ず黙殺を続けた。だがこの杉原氏の名誉を回復に尽力した議員がいた。それが鈴木宗男氏だったのである。(文藝春秋、インテリジェンスの交渉術を一部参照)


ウイキペヂアの「鈴木宗男」の紹介には、彼は黒沢明の映画を一本も見た事がなくその存在さえもしらなかった。ところがある時黒沢明の偉大さを教えてもらうと今度は自分が中心となって政府に対して黒沢明への国民栄誉賞授与を働きかけた逸話が載っている。要するに鈴木宗男とはそう言う人なのだろう。そして彼の杉原千畝氏の功績に対する名誉回復運動はイスラエル大使館を通して世界中の有力ユダヤ人の知るところとなった。マラメド会長は幼少時代に杉原氏の「命のビザ」で生き延びたユダヤ人の一人だ。彼の宗男氏への感謝は本物だった。この話から外交上の逸話で思い出すもう一人の日本人はアントニオ猪木だ。彼も一時国会議員だったが90年代初頭に突然イラク戦争が勃発、イラクに残された日本人技師が人質状態にされた。そして米国との関係上外務省主導の正規の外交ルートでの解放交渉は難航した。そこで業を煮やしたアントニオ猪木は単独でフセインに面会。結果的に日本人技師は解放された・・。

恐らく組織の論理では宗男議員やアントニオ猪木の行動、そして杉原千畝氏の判断は暴挙だろう。だから結局その後表舞台から抹殺されたのは彼らの方だった。しかし一たび外国に出れば判る。外国で「組織の論理」は顔のない外交に等しい。最後は人だ。だから米国では「人」を選ぶ過程で民意が反映され、また会社経営はCEOが勝手に決める。従って優秀な人はCEOの下には残らない。自分がCEOになろうとするのである。しかし日本では組織の掟やその硬直性に対する議論がこれまで度々起きても結局は自らその殻を破る事は無かった。ただ組織の論理はこれからの日本の国益につながるのだろうか。ならばなぜ付き添いの官僚はあの状態の中川大臣をTVの前に出したのか。私からすればあの会見は中川氏の責任と同等にこれまで組織論で国益を考えて国政を影で仕切ってきた官僚の大失態である。

そもそも議員が閣僚を兼ねるは無理だ。米国の真似は玉石混合の結果になるが、大統領制の米国では国会議員が大臣を兼ねる事はない。なぜなら米国の下院(日本の衆院)議員は小選挙区制で必ず2年毎に選挙がある。そんな彼らが行政上各省庁において専門知識を顔として断行する立場の大臣など兼務できるはずがない。そして米国では大統領によって任命された大臣(長官)はその道のプロだ。プロである以上彼らが失態をすればそのまま辞任。失業である。一方で中川氏は次の選挙で苦戦するかもしれないが大臣を辞めても議員である。この差はそのまま国政における緊張感と責任感の差になる。ただこの弱点を支えたのが官僚組織だ。言い換えるならこの体制は官僚が優秀であればこそ機能するのである。だが長かった民優先の時代に官僚組織が劣化したのだろうか、中川大臣をこの組織はサポートできなかった。このままでは復活を目指す日米においても「顔」や「人」の緊張感と職業プロとしての知識、即ち個人の資質の差が剥きだしで残ってしまう。日本のマスコミはこの経緯を省略して中川氏個人の資質を攻撃している。ただそれでは片手おち。問題解決にはならないだろう。

この日米の違いは大統領制と議院内閣制の違いなどという硬直的な話ではない。やはり危機感の差か。ただここから窺われるのはいよいよ日本でもこれまでのシステムの崩壊が迫っているという事だろう。そしてその後どうするのか。実は小沢氏の民主党からも具体策が聞こえない。そこで一つだけ提案したい。まず大臣は民間の専門家から選ぶ事。それが出来ないなら参院に優秀な人材を取り込んで大臣として省庁に送り込めばよい。それを繰り返すうち頑強な組織も変化するのではないか。まあ相場的に言えば与謝野氏が3大臣を兼ねる今はまさに大底となって欲しい・・。






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