2009年2月5日木曜日

ベスト&ブライテストの常識(CQ)と受け皿

オバマが大統領になって3週間が過ぎた。予想された事とはいえ、既に先が思いやられる展開になっている。まず政権の重要スタッフのゲイトナー財務長官とダッシェル厚生大臣の税金不払い問題が露見、オバマ自身の任命責任を含めて大きな失態となった。ゲイトナー氏は今のところ留任しているが、民主党という党派における実質オバマの後見役であり、また議会に対して顔が利くダッシェルの辞任はオバマ政権にとって大きな痛手である。そんなオバマ政権が直面している課題は90兆円の景気対策の法案化だ。法案は無事下院は通過した。しかし上院は共和党の抵抗で時間がかかりそうである。株式市場は既に法案の効果まで織り込んでいる。従ってこんなところで時間を無駄にしている場合ではないのが本音である。

その法案通過を含めて国民を代表する議員を納得させる為に一番重要な課題は既に大量の税金が救済に使われた金融機関の健全化である。実はこれが厄介だ。以前も触れたが今回世界的大混乱を引き起こした張本人の大手金融機関では、税金が投下されているにもかかわらず日本の常識では考えられないボーナスが支払われた。これには国民も怒っている。こんな事が続くようでは共和党どころか民主党でさえこれ以上の金融機関の救済案には協力できない。だとすると株は下がる。株が下がると国民もそして世界もますます困窮するのである。

ただこの問題の根は深い。なぜならこの20年間で米国の金融機関は給料に対する感覚が麻痺してしまった。そもそも米国では80年代まではGDP(国民総生産)における金融業の割合は15%未満だったが2007年にはその割合は40%にまでなった。自動車に代表される製造業が衰退する中で金融が米国の圧倒的な産業の中心になったのである。そしてイラク問題に足を取られたブッシュ政権は金融の野放図な拡大を許したのである。そして自らの自爆がこれ程の大混乱を引き起こしたこの期に及んでも、当の金融機関は過剰報酬に対する自覚が全くないのである。そんな中でついにオバマ政権は行動に出た。政権は税金による救済を受けた金融機関の重役の給料を50万ドル(5千万円)以下に強制的に抑えたのである。

当然とも思えるこの給料上限制度は既に影響を見せ始めている。これまでメリルに在籍した二人の社員はこの話が出た時点でTARP(政府の救済プログラム)とは無縁の会社を探し早速欧州系銀行へ移ったという。TARPが入っていないという意味では米国に進出した日系金融機関も同じだ。恐らく日系金融機関には報酬の上限制度を嫌った米国人金融マンから続々転職の応募があるだろう。ただそれは日系にとっても良い人材が採れるチャンスでもありまた大変なリスクでもある。

なぜならそもそも多くの米系金融マンは今の不幸は一時的な現象であり、いずれは市場も回復するし、自分達の報酬の水準は元に戻ると考えている。よって今の段階でその様な米系金融マンをどう処遇するかは難しい判断になる。判断の分かれ目は今回の金融危機を歴史感で考えるか自己の経験からの相場観で考えるかだろう。

こちらではWSの「ベスト&ブライテスト(超エリート)」をそれなり処遇するのはどんな環境下でも正しい経営であると言う意見が根強い。ただ個人的経験では米国人の現役金融マンで歴史感を持った人間に会った事はこれまで一度もない。言い換えるなら歴史感とは無縁で何十億と稼いだのが米系の金融エリートである。

いずれにしても今回の危機は自らの経験でしか未来を語れない今の米国人が初めて経験する大津波だと考えている。その自分としては彼らの運命がどうなるか、受け皿となる会社の判断力も含めて非常に興味深い・・。

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