2009年1月22日木曜日

新しいページ

昔から長野は「教育県」と言われる。だが実態は大きな産業が育たない地形のため、本を読む以外にする事がなかっただけというのが出身者としての持論である。その長野では私が知る限り地元の地上波TV局を通してテレビ東京の番組が全く見れなかった。理由は経済番組が多かった同局の番組は長野では視聴率が取れなかったからだ。今は知らない。だが少なくとも5年前までは見れなかったはずだ。なぜなら5年前まで同局の朝の番組で米国の金利市場についてのコメントをシカゴから提供していたが、中継のない長野で暮らす両親には自分の姿を見せてやる事が出来なかったのである。

そのテレビ東京は米国の経済番組で圧倒的な影響力を持つCNBCの日本の代理店でもある。だが本家のCNBCと比べその影響力はまだ限られている様子だ。その米国CNBCは元々の市場・経済専門番組から飛躍し、政治が専門の弟分のMSNBC、また3大ネットワークの一つであり兄貴分のNBCでさえたじろぐ圧倒的影響力を米国内で誇示してきた。その背景にはこの5年間で米国はモノ造りが退化し、株や債券などの金融市場が経済の中心となった現状がある。その市場動向を詳細に報道する専門番組のCNBCは、我々金融市場の専門家だけでなく茶の間の奥様、また2000年前後のハイテク不況で職を失いそれ以後自己トレーダーに転身した中高年男性にとってもバイブルのような存在となっていたのである。

さて、オバマの大統領就任で盛り上がった昨日、そのCNBCの番組であるコメントを聞いた。常連の評論家が「CNBCの時代は終わった。これからはCNN(生で全世界の動向を中継する番組)の時代になる」と発言したのである。CNBCの常連として出演料をもらっている立場でそのCNBCに対して「貴方の時代は終わった」と発言するのは勇気がいる。だが私の意見も同じだ。ではその意味するところはなんだろうか。

オバマが大統領に就任した昨日株は暴落し、あのCITIグループは3ドルを割ってしまった。他の銀行株もそれに続いた。この暴落を見てCNBCを見ている金融の世界の人々は真っ青だった。だが個人的にはその暴落を見ながら遂に「その時」が来たと感じた。「その時」とは米国の本質が変わる時、そう、米国の主役が下落相場を眺め呆然とする金融マン、即ちCNBCの世界から、CNNが中継したオバマの就任に熱狂した200万人に代表される実体経済に戻る時だ。そしてこの本質の変化はオバマ政権がこれから始めるであろう米国の新しいページの余白である。これで株が戻せる。今の金融銘柄中心の下落局面が終われば株は本格的に一旦戻るだろう(ダウで10000~11000)。そしてその道筋は以下の通りである。

考えてみると、一昨年まで米国の大手証券5社のボーナスの総額が数兆円という水準に到達した過剰流動性の顛末が中途半端で終わるはずがない。ピーク時の金融派生商品の総額が6京円、そしてサブプライム等の証券化商品の総額が6000兆円と言われた金融の世界で仮に20%の損失が生まれれば既存の資本金など吹っ飛ぶ。それどころか、元金、あるいは純資産を上回る損失が世界中の金融機関のあちこちで発生する。すると金融機関が相手を信用しなくなりお金の流れはが止まる。そしてその「出血」を止めようと中央銀行が大量にマネーを創造しても、市場機能が存続する限りは一旦始まったネガテイブスパイラル(負の連鎖)は止まらない。それがここまでの展開である。

金融危機以降、米政権はまず金融機関に資金を提供し、銀行からその公的資金を民間に流す事を試みた。しかし保身に懸命な金融機関はその資金を民間に流す事はせずに自分でため込んでしまった。これでは政府の意図はいつまでたっても機能しない。なぜなら金融が産業の中心だった一昨年まで年収が数十億円だった強欲金融マンがまだまだごろごろしている。彼らは政府の救済資金をまずは己の将来の巨額報酬の再現の布石にするため簡単には貸し出さないのである。この状態が3か月続き、ついに新政権の発足と同時に米国は動きだした。ここからは民間に市場経済を任せる時代が終わり、政府が実質銀行を支配する。そして銀行の利益を犠牲にしても実体経済をまず復活させる。そんな絵図を描き始めたと考えてよい。

そもそも昨年末の金融危機での金融機関の責任の取り方はあまりにも中途半端だった。中途半端な状況ではどんなプログラムで金を流そうとしても死に切れない民間金融機関は新たな損失を恐れ資金など回せるはずがない。その中途半端がどの位続くのか。実はそれが株式市場にとって最大の難関だった。しかしオバマ政権は80年代までのフランスと同じ状態(全ての銀行が国有化)をついに覚悟した様子である。結果的に民間企業として自由を死刑宣告された金融機関の株は下落する。(配当が出せない)。しかしこれで金が周りそしてモノが動く。後は皆が新しい時代に慣れる事である。

そして暴利を貪った上、己が倒れると実体経済まで奈落の底に引きずり込んだ銀行の粛清が終了すれば時代が元に戻る。この輪廻が完成してやっと次が始まるのである。ただ気の早い株式関係者は理想とするレーガン政権はスタートして3週間株が下がり続け、その後ゆっくりと米国が復活する道程を歩み始めた事例を既に言い始めている。能天気の繰り返しではだめだ。しかし金融機関の自己否定(金融株の暴落)が完成する事で、米国経済と株式市場の新しいページが始まるだろう。






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