どん底からの反転。それは本当にどん底を味わいそこから這い上がった人だけが口にできる言葉かもしれないが、ざっくり振り返ると、米国が第一次世界大戦後に世界の覇権を握ってからどん底にふさわしい状況は2回あったと考えられる。最初は言うまでもなく1929~1933までの大恐慌時。そして2度目は1980~1884年のカーター政権時代ではないか。
そんな中でオバマは大恐慌を克服したフランクリンルーズベルトを目標として暫し引き合いに出す。しかし今の政権を取り巻く環境はいくつか点でカーター政権の其れにも似ている。まずカーターもオバマも民主党の予備選挙で本命を打ち破りそのままブームに乗って共和党の候補にも圧勝して大統領になった事だ。そしてその後前共和党政権から始まっていた国難に直面した事も酷似している。
カーターが破った民主党の本命とは闘病中のエドワードケネデイー上院議員である。当時のエドワードケネデイーは暗殺された二人の兄の遺志を引き継ぎ党内地盤は盤石と思われた。しかし国民にはケネディー王朝に対する嫌悪感があったのかもしれない、予想に反して無名のカーターが予備選を勝ってしまった。この点はヒラリーが党内地盤が盤石だった点に似ている。そしてカーター政権が始まるとオイルショックとベトナムからの衰退が顕著になり、更に追い打ちをかけるようにソ連のアフガン侵攻やイラン革命と大使館人質事件などの米国の威信が根底から揺らぐ事件が相次いだ。
カーター政権に原因はなかったかもしれない。だがこの逆風に対して有効な解決策を見いだせないままカーターは4年後レーガンに敗れた。そして民主党もそのまま勢いを失いクリントンが登場するまで苦難の時代に入ったのである。そして今、クリントン政権を支えた民主党の有力者達がオバマ政権に憂いを持ち始めた。このままではオバマはルーズベルトにはななれない、むしろカーター政権の轍を踏むのではないかという心配である。この心配がオバマ政権に変化をもたらした。それが先週から始まった自信回復作戦である。ただ私から見るとこの作戦では失敗の原因を完全に取り除き、反省を込めて責任を追及するといった「米国らしい」自浄作用は不完全なままである。はたしてこれで本当に希望は実現するのだろうか。
ところで、総じて国民が自信を喪失したカーター政権時代だったが実はその時代に後に米国人が奇跡と認める出来事があった。それは80年の冬季五輪での米国のアイスホッケーの金メダルである。この物語は以前も紹介したが、通常奇跡という表現を好まない米国が本当に奇跡だったと認めるにふさわしい劇的な内容である。それを達成した大学生とカリスマコーチの軌跡を追ったHBOのドキュメンタリーは素晴らしい。ここではこの時代(カーター政権)がどん底まで落ちた米国がもがき苦しみながらも好転への転換点となる無垢のヒーローの登場を孵卵器の中で育てた時代だった事が鮮明に描かれているのである。
米国の無欲な大学生が当時実質プロ集団として圧倒的世界一の実力を誇ったソ連のナショナルチームを破る。恐らく千回に一回あるかないかの出来事。結果的にこの奇跡は来る時代を予兆した。ソ連はその後アフガン戦争で疲弊、逆に米国は冷戦勝利の劇的な瞬間に向けて歩み始めた。そういえば今丁度WBCが開催されているが、WBCは金にならない。だから米国人メジャーリーガーでもこの大会に参加するのは金だけではない誇り高き選手が中心だ。(たとえばCジョーンズやジーターなど)しかしステロイドが蔓延した大リーグに慣れてしまった多くの米国人はWBCでの米国の国旗掲揚の興奮よりも派手で大味な本シーズンが始まる事を待ち望んでいる。正直残念だ。自信を失った米国がソ連に勝った大学生に歓喜し、イランで人質となった大使館職員が解放後知った出来事で最も感動した事して挙げたアイスホッケーの金メダルの感動は今やこの国では遠い昔の話になってしまった。
今回もどん底は時に避けるべきものでなく、本当は受け入れる勇気が試されるチャンスだったかもしれない・。
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