2010年2月5日金曜日

草食国家

先週末のニューヨークタイムスには中曽根元総理の特集があった。90歳を超えなお矍鑠とした姿を写した写真と共に、現在の日本の政治、自民党、そして今後の日米関係のあり方について、元総理の意見が掲載されていた。

彼はまず自分が総理になった82年と比べれば、今の日米関係は非常に優しい関係であるとの見解を示した。確かに80年代の日米貿易摩擦は激しかった。ただ当時の日本は米国という超大国にそれなりに立ち向かっていた。そして米国は円高という強硬手段に出た。結果日本経済は困窮したが、その苦境が内需拡大とその後のバブルを生む切欠になった。中曽根氏が総理だったのはまさにそんな82年から87年である。そしてこの日本のバブルはブラックマンディ後の世界経済のクッションとなった。その役回りは一昨年の金融危機後いち早く立ち直った中国の実需や南米の株式市場と同じである。

続いて中曽根氏はレーガン大統領との関係を振り返った。ロン・ヤス関係と言われたこの関係は日本では有名だ。ただマスコミと中曽根氏の自己陶酔とも思えたこの話も、あのラムズフェルド長官がブッシュとの関係が親密に見えた小泉首相を前にしても「自分の中で日本の政治家といえばナカソネ以外には思い当たらない。」と断言した事からもまんざらではない事が窺える。そして中曽根氏はレーガンとそこまでの関係になれたのは、冷戦という国際情勢もあったがむしろレーガンの個性と自分の個性がマッチした偶然性を強く主張していた。

確かに中曽根氏は風見鶏と言われながらもタカ派としては筋金入りだった。その証拠にあの時代に「日本は不沈空母である」と発言した彼には、米国の顔を窺うだけの今の日本の政治家からは感じない信念を感じる。そして敗戦後、海軍将校から政治家に転身した直後、まだ日本に駐在していたマッカーサーに単独で意見書を提出し、マッカーサーはそれを一瞥して捨てた逸話を交えながら、レーガン大統領とはお互いの信念が通じたと回顧していた。

さて、今の日本を眺めると、そこには冷戦もなければ政治家の胆力も昔とは違う。ただそんな中でも米国は淡々と戦略的に動く。そして一見ケンカばかりの政権と議会も必要があると外交案件では団結する。例えばトヨタ騒動だ。共和党のボブコーカー上院議員は殆ど案件でオバマ政権とは対決している。だが昨日彼はこの問題に関し「政治的色彩が強い」と警告つつも、いつまでも国家がGMの経営に関わる事はできないとの共和党の主義主張から政府の方針に賛成した。(トヨタの売り上げが落ちても厳しく処断する事)

この様に日米関係はロン・ヤスを頂点として低下の一途辿っているのは事実だ。だがそれも宿命。日本はその流れに憶してはならない。憶さず立ち向かえば、仮に摩擦が生じてもそれが次の時代のエネルギーになる事を学んだ。それが中曽根時代の内需拡大とバブル誕生のメカニズムであり、また古くは明治維新の発端となった攘夷である。(ここではバブルを敢えて否定的な表現はしない)そして今のデフレ社会の本当の恐怖は価格の下落ではない。それは独立国家として最低限必要な精神的な野生を国民から奪う事である・・。


0 件のコメント: