2010年2月25日木曜日

QC(品質管理)とDC(危機対応)

フロリダの水族館での起こった事件は衝撃的だ。シャチに芸を教えるベテランの女性調教師が観客の目の前でそのシャチにかみ殺された。そしてこの事件が奇異なのは水族館の対応である。まず事件を事故として発表。彼女は高台から落ちて死んだと発表した。だが事実は観客の目の前で起こった。CNNのインタビューには答えた複数の観客は、彼女はジャンプしたシャチに腰を噛まれ、そのまま水中に引きづり込まれたと証言している。ではなぜ水族館は事件を事故とダウングレードしようとするのか。それはこの殺人シャチの過去と無関係ではないだろう。実はこのシャチは過去2人の調教師の死亡と関係していた。だがその都度事件は事故として処理されたという・・。

この話が事件なのか事故なのか。その違いはトヨタ車を巡る安全性の議論にも通じる。昨日の公聴会では豊田章男社長に質問した議員の中には明らかに人気取り優先 の下品な輩と、一方でケンタッキー出身の議員の様にトヨタに地元の雇用を支えられている事を明らかにした上でトヨタ弁護の大演説を打つ者がいて面白かった。そして一緒に議会証言を観た米国人トレーダーの章男社長の評価はまずまず。彼の顔が金正日に似ているとの評には驚いたが、概ね堂々とした受け答えで適度に面目を保った内容だった。ただ米国人の代表としての議員と、技術力を誇る日本メーカーの代表としてのトヨタのそれぞれのQC(QUALITY CONTROL)に関する常識の差は埋まらなかった。

そもそもトヨタに大企業病が生まれていた事は日本人も承知。だが当局と米国トヨタの蜜月は訴訟国家米国のロビー活動としては当然の話だ。たまたまこれがリークされたからといって章男社長に詰問しても無理がある。こちらではその様な隠し工作が露見するとそこを追求するのは常套手段。だが同じ手法を技術に命をける日本企業のトップに適用するのは日本人として違和感を覚えた。ただ今後日本企業が米国で商品を売る場合学ばなければ事例を一つ紹介する。それは82年のTYLENOLリコール事件だ。これは米国のMBAではコカコーラの失敗事例と同じ頻度で成功事例として扱われると聞く。そしてその事件は82年にシカゴで発生した。

ジョンソン&ジョンソン傘下の会社が販売していたTYLENOL(風邪薬、痛み止め)は55年の発売からどの家庭にも必ずある大ヒット商品として市場に君臨していた。ところが誰もが安心して飲んでいたこの薬を飲んだ8人がシカゴを中心に次々に死んだ。当初は因果関係は定かでなかったが、皆がTYLENOLを飲んだ事が判明すると全米は大騒ぎになったという。そして原因究明云々の前にジョンソン&ジョンソンは3100万個という膨大なリコールを断行、当然ながら同薬は完全に市場を失った。ところが数年後原因は誰かが意図的に劇薬を混入したという犯罪だった事が判明。これを切欠に言い訳をする前に膨大なリコールを断行したジョンソン&ジョンソンのスタンスが評価された。そして同薬のシェアは急回復、またジョンソン&ジョンソンは浮き沈みの激しいダウ30種の中の名門企業として盤石の地位を保っている・・。

要は日本のQCがいかに欠陥を生まないかという千日回峰行型であるのに対し、犯罪や欠陥が前提の米国社会ではD.C.(DAMAGE CONTROL)が前提だ。一番はっきりするのが商品の交換。米国では殆どの小売商品が交換の可能性を前提にしている。言い換えれば消費者は品質の完璧性を最初から諦めている。だが日本はそうはいかない。交換を前提にしない日本の消費者は厳しい。メーカーはいかに不良品ゼロの神業に近づくか。日々それにしのぎを削る。逆に言うと簡単には欠陥を認められないのが日本企業の宿命である。即ち、QC(品質管理)とDC(危機対応)の違い。どうやら米国でトヨタはその感覚の差がアダとなった。


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