2011年1月6日木曜日

FAITH バリューリスク (顧客レターから)

こちらではヘッジファンドによる円売りと日本国債の空売りが再びゲームになる気配がある。では迎え撃つ日本の情勢はどうだ。今の日本は、為替はともかく、老齢化と低成長が当たり前になり、個人の預貯金という限られたコップの水しかない。だが実際の債券市場では、その限られた水でこれまで何度も海外勢のショートの仕掛けを跳ねのけてきた。では円債市場は今度も海外勢を打ち破れるだろうか。個人的にはかなり苦しい局面が来る可能性は否定しない。だが最後には勝つだろう。そしてそれは坂の上の雲のもう一つの側面である。

まず、当時高橋是清が戦費工面にかけずり回った事はドラマでも紹介された。だが当時の日本の国家予算が2億円の時代、既にロシアとの戦争が視野に入る中で、第1回発行分の1億がどれほどの大金だったかを司馬遼太郎はあまり誇張していない。日本は日清戦争に勝ったとはいえ、当時の欧州は欧州以外の国に戦争で負けた事がなかった(台湾を除く)。その常識の中、一体誰が強国ロシアに立ち向かう日本の国債などを買ったのか。

半分の5000万を同盟国の英国が出資した。そして残りの半分を仕切ったのは米国人のジェイコブシフだ。まあ同盟国家として日本にコミットした英国はともかく、シフは民間人である。またルーズレルベルト大統領を配する国家としての米国は、日本が強国ロシアに勝てると思っておらず、日本に投資はしなかった。ではいったいジェイコブシフは何を考えていたのか。

その前に、ジェイコブシフはFED設立時の陰謀説を探るとその端に出てくる人である事を紹介しておく。そもそもFED設立は、欧州を支配するロスチャイルドが、子分のJPモルガンを使い、事前に米国に放っていたウォーバーグに策略を練れさせて10年がかりで達成したと言うのが通説である。そのウォーバーグを義弟に持つシフは、FED設立の中心人物ではないものの、数々の国家への貢献で最終的にFED設立を決めたウイルソン大統領への影響力は絶大だった。その点からFED設立とも無関係ではないという扱いである。

結果的に彼の力で日本は20億の資金調達が可能性になり、それで坂の上の雲のドラマの土台が出来上がった。(恐らくそれが無ければあの物語り事態が存在しない)そして世界中のユダヤ人に働きかける上でシフが重視したのは日本人の責任感だったという。確かに破産という法の逃げ道を知る前の日本人には責任を取る方法は切腹。きっと今の日本人よりも更に責任感が強かっただろう。ユダヤ人で世界にネットワークを確立していたシフは、日本人からその責任感が消えない限り、仮にロシアに負けたとしても、日本の使い道はあると考えていたはずである。

いずれにしても、FEDさえまだ存在していない当時の世界の流動性は今とは比較にならなかった。そんな中でもリスクを求める投資家は世界中にいた事に驚く。そしてゴールドを嫌ったシフが選んだ投資基準が日本の地理的妙味と日本人FAITH(矜持、信頼性、信義)だった事は注目される。

ではその時代と比べて今はどうだ。お金はあり余っている。だからギリシャもアイルランドも潰れない。だがFAITHはあるのか。そしてそんな中で日本国債のリスクとは何だ。筆者には判らない。あるとすれば日本がFAITHを失った時だろうが、その前に既にFAITHが失われかけている国はいっぱいある。しかし市場は全く気にかける様子もなく相対価値のゲームをしている。最大の原因は、この時代まで世界を牽引しスタンダードを築いてきた米国からFAITHが失われかけているからだ。

そういえば正月に子供達が人生ゲームで遊んでいた。子供達はゲームで紙のおカネを使いサイコロを振っていた。筆者にはこのゲームと米国から見た今の金融市場の違いがよく判らなくなった。そして今の株高もその中での話だ。ただ一つ言えるのは、次に待っている国債のリスク、つまり真のソブリンリスクとは、FACE VALUEをGDPで測るのではなく、その国の責任感を反映したFAITH VALUEのリスクだろう。




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